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コロナ対応のテレワークに「格差」が生じている

4/4 5:40 配信

東洋経済オンライン

 各メディアで報道されている通り、新型コロナウイルスによって日本の働き方に大きな変化が起きている。通勤混雑の回避や、休校による子どもの対応、外出自粛要請などを契機として、テレワーク・在宅勤務が一気に広がりだした。

 パーソル総合研究所では、テレワークの実態について2万人を超える規模の緊急調査を実施した。安倍首相の要請により全国の多くの公立小・中・高で休校が開始されたのが3月2日。それから約1週間がたった3月9~15日に調査を実施した。サンプル数は2万1448人で、性別と年代の歪みを補正するために、国勢調査の数値を基にしたウエイトバック集計を行った。

■推奨・命令されている人は2割強、実施割合は13.2%

 テレワーク(在宅勤務)が企業から推奨されているのは18.9%、命令・指示されている割合は3.2%という数字になった。そして実際に従業員がテレワークを実施している割合は13.2%にすぎない。ただ、この実施率は47都道府県を均した数字であり、東京都だけでみると23.1%、東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)でみると19.6%となる。

 東京圏の朝夕の通勤電車の混み具合を思い出すと、実感と乖離しない数値ではないだろうか。テレワークを実施している人の中で、今回の新型コロナウイルス対策で初めてテレワークを経験した人は47.8%で、およそ半数となった。

 異なる調査なので単純に比較できないが、総務省が2018年に行った通信利用動向調査(n=3353)におけるテレワークの年間経験率が全国平均で8.5%だったので、大幅に上昇している。簡易的に推計すれば、全国でおよそ170万人の正社員が現在勤めている会社で初めてのテレワークを経験したということになる。

 これはあくまで調査時点(3月9~15日)の数字での推計であり、感染拡大が当時よりも進んでいる現在ではより増加していることが予想される。ちなみに世界のテレワーク普及率はアメリカが圧倒的に高く80%を超えている。イギリスやフランスは20%前後、EU加盟国平均は13%程度と言われている。今回の新型コロナウイルスで、日本は少なくともコロナ騒動以前のEU諸国並みにはなったとも言える。

■地域の感染者数とテレワーク実施率に一定の相関

 表は、テレワークの実施率と推奨/命令率を都道府県別に見たものだ。上位には、関東、関西圏が並ぶ結果となったが。これと当時の新型コロナウイルスの感染患者数を比較してみると、やはり患者数の多い県が比較的上位に来ていることがわかる。テレワークの実施率と患者数の相関係数は約0.45 。1に近いほど正の相関があるといわれているので、一定の関係性があると見てよいだろう。

 つまり、今後もクラスターなどの発生で患者数が局地的に増えていく地域ほど、テレワークへの移行が一気に進んでいくことが推測される。また、業界別には情報通信業が実施率26.1%と高く、学術研究・専門・技術サービス業が20.3%と続く。逆に低い業界は、運輸業・郵便業(5.8%)、医療・介護・福祉業(4.6%)だ。こうした業種の地域分布の違いもランキングの結果には反映されている。

 こうした急ごしらえのテレワークが急増する中で、各企業・各職場では、テレワークによって生まれる「格差」がすでに表面化している。ここでは「企業間格差」「職業間格差」「個人間格差」の3つの格差を整理して取り上げたい。

 まず、企業間格差。以前からテレワークは企業規模別での普及格差が大きい働き方だ。上述したパーソル総合研究所の調査でも、テレワーク実施率は100人未満の企業で7.7%、1万人以上で22.0%と大きな差が出ている。

■「調整が大変で導入せず」という企業は少なくない

 テレワークを実施していない会社の社員にその理由を聞くと、「テレワーク制度が整備されていない」が41.1%で、「テレワークのためのICT環境(機器、システム)が整備されていない」の17.5%よりもはるかに多い。つまり、そもそもテレワークできない業務であることを除けば、PCやネットワークなどの「技術環境」よりも、人事制度・就業規則の整備が遅れている企業が多いことがわかる。

 「ICTツールへの予算がない」といった経済的な要因のみならず、こうした緊急事態にフレキシブルに対応できる企業かどうか――。いってみれば各社の経営・人事の「反射神経」や「以前からの準備」の差が如実に表れたということだ。こうした企業間格差は今後もテレワークが進めば進むほど、大きくなっていくだろう。

 一方で新しい形の格差も起こっている。それが「職業間格差」だ。当然のことながらテレワークにはできる職種とできない職種がある。飲食・小売店舗・エンターテインメントなど、業務そのものがストップしてしまう仕事も多く、それに紐付いているさまざまな案件が中止・キャンセルを余儀なくされているのは周知の通りだ。

 また、職業間格差には、雇用形態も関連する。派遣社員など就業場所が契約時に定められている人は、テレワークへの移行がスムーズにいかない場合もある。これから決算作業が立て込む、管理部門の事務職はオフィスに誰かしらいないと業務処理が事実上できないことも多い。

 こうした職種の格差を、可能な部分から速やかに解消しつつ、事後的な補填や、補償のあり方も検討したい。特別対応によってオンラインや遠隔での処理可能な体制構築、賃金補填の方針を提示し、テレワークが職種間の不平等感を生まないよう、各所で対応が求められる。「調整が大変だから」といった後ろ向きの意識も一部で見られるが、現在の先の見えない脅威に対しては緊張感が足りないと言わざるをえない。

 最後に、「個人間格差」だ。テレワークによって「パフォーマンスの格差」がクローズアップされる恐れがある。多くの日本の企業で採用されているのは、総合的な能力評価とパフォーマンス評価という「両面評価」の仕組みだ。この仕組みは、日々の業務プロセスの中に見えるその人の「やる気」や「貢献意識」といった総合的要素を評価対象に含む。

 この評価制度に慣れ親しんできた日本の従業員は「成果はともかく、毎日頑張った分も評価してほしい」というプロセス面への意識が強い。これが、20年ほど前に起こった「成果主義」の運動が頓挫した背景にもあった。

しかし、テレワークが主な働き方になると、オフィスにいないことによって「働いているプロセス」が可視化されにくく、当然ながら「パフォーマンス」に偏った評価になる。これは、評価制度としては片翼を失った状態で、上司も部下も共に困惑し、マネジメントが機能不全に陥る。急ごしらえテレワークは、意図しない形で「成果原理主義」を生み出しつつある。

■ITリテラシーがパフォーマンスに直結

 またこの個人間のパフォーマンス格差には、ITリテラシーの差も絡む。例えばチャットやメールの返信が早い人と遅い人、オンライン会議で発言する人としない人など、これまではオフィスの中で誤魔化されてきた能力の格差が、テレワークでは如実に表れる。機器や通信ツールを揃えたとしても、こうしたリテラシーが急につくわけではない。新たなツールへの順応能力や学習姿勢の差も顕著に表れ、それが「パフォーマンスの格差」に直結しはじめる。

 4月以降こうした問題にどのように対応するべきだろうか。まずは、ITリテラシー格差においては、今こそ従業員全体のスキルのベースアップを図るべきだ。大規模な遠隔会議をするたびに、「映像がつながらない」「聞こえない」などの(多くは個人側に原因がある)トラブルが発生する状況は好ましくない。

 チャットツールへの慣れや文字でのコミュニケーションの得意不得意など、これまで「特別なときだけ」に求められていたITリテラシーが、この緊急時には、「毎日の」業務を阻害する要因として表れてくる。これらを職場全体で底上げしていく育成機会や、ノウハウの見える化と共有が、今こそ求められる。それらはウイルス収束後も大きな資産になるはずであり、個人も企業も、一定のコストを割くべきタイミングだろう。

 またより大きい流れとして、職務=ジョブと働き方との紐付きを強化する方向がある。それぞれの従業員に割り当てられた職務をできるだけ明確化し、会社が求める成果基準をより強固に紐付けていく方向だ。そうすれば、プロセスを可視化する必要性そのものが減る。一方で計画的なジョブ・アサインも必須になるが、パフォーマンスの差はよりシンプルな指標で測定できる。

 等級制度や評価制度の改定など、人事制度そのものの変更には数年かかるため、企業もしばらくは表面的な対策に追われていることになる。だが、この新型コロナウイルスとの戦いが長期化すればするほど、そうした雇用のあり方の構造的な変化についても議論されてくるはずだ。そうした意味でも、日本の働き方はまさに岐路に立っている。

東洋経済オンライン

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最終更新:4/4(土) 5:40

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