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「満員電車は死ぬぞ」コロナでロンドン市長訴え

3/27 5:31 配信

東洋経済オンライン

 新型コロナウイルスの感染拡大が欧州で止まらない。イギリスのボリス・ジョンソン首相は3月23日夜、感染拡大を食い止めるため、テレビ演説で国民に対し罰則を伴う厳しい外出制限を指示した。一方で、都市機能を維持するため、依然、地下鉄やバスは減便しながらも走り続けている。

■交通機関の運行停止は考えず

 イギリス政府は目下、ウイルス疾患による重症者の同時発生をできるだけ食い止めるため、ウイルスの拡散防止を目指した施策を次々と打ち出している。人工呼吸器で生命をつなぎとめられる患者数の対応に限界があるためだ。

 そんな中、ジョンソン首相は3月19日、「ロンドンの交通機関の運行停止はまったく考えていない」とウイルスの封じ込め手段には「逆張り」と思える政策を打ち出した。これは、さまざまな事情で職場などに向かわなくてはならない人々に対し、通常と同様の出退勤ができる交通インフラの維持を最優先課題としているためで、医療機関に向かう医師や看護士らの利用も少なくない。地方に行く「ナショナルレール」の列車や、長距離バスの運行も減便しながらも続いている。

 イギリスでは23日の首相演説の前までに「可能な人は全員、在宅勤務で」「集会に加え、パブやクラブ、劇場は閉鎖」「レストランやカフェも着席での飲食は不可、テイクアウトのみ」といった方針を決め、外出者削減のための措置を徐々に強めてきた。

 一方で「休むとお金がなくなる」と心配する人が無理に働いてウイルスをばらまくという懸念から、財務省は「賃金の8割は職場が閉まって働けなくなっても、基本的に保障する」という驚愕の政策を打ち出した。これが出た途端、急速に客足が遠のいた飲食店の多くが「政府保障があるなら閉めよう」と一気に店舗閉鎖に踏み切った。

 欧州連合(EU)からの脱退「ブレグジット」を経て、新たな国づくりを始めたばかりのイギリスだが、他国と足並みをそろえる必要がないからなのか、大胆な国民支援の政策を掲げたことに多くの喝采の声があがった。

 ロンドン交通局は、最低限の交通インフラを供給するため、普段より運転間隔を大きく空けながらも、基本的に地下鉄全線の運行を維持している。270あまりある市内の地下鉄駅のうち、約40カ所を当分の間閉鎖すると決めたが、利用者には大きな影響はないだろう。

 ロンドン自慢の地下鉄の週末深夜運転「Night Tube」こそ止めるが、バスは24時間運行を続け、深夜・早朝シフトの医療従事者の足を確保している。

■「ソーシャル・ディスタンス」が重要

 ただ、政府が国民に対し「とにかく家から出るな」と外出禁止を強く指示している中での乗り物の運行継続は、ウイルスの拡散防止という観点とは矛盾が生じる。

 そこでジョンソン首相をはじめ、政府や交通局は国民に対し「他人との間に”ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)”を取れ」と力強く訴えている。日本でもコロナ禍をめぐっては、「スーパースプレッダー」「クラスター」「オーバーシュート」など次々と新たなカタカナ言葉が生まれているが、英語圏では「ロックダウン(街の封鎖)」と並び、この「ソーシャル・ディスタンシング」が急激に多用されるようになっている。

 この「ソーシャル・ディスタンシング」は、日本で言われる「濃厚接触」のように「これだけ近づくと危険」という表現ではなく、「この距離を取るとより安全」というものだ。当初、イギリスでは感染防止で取るべき距離は1m間隔だったが、欧州での感染が急激に進んだ20日過ぎから、その倍の2m間隔へと広がった。

 これを受け、電車内では座席を少なくとも1席ごとに空けて座らなければならないし、スーパーのレジの列でも前の人との間隔を大きく空けて待つことになる(食料品店など生活に必須の店舗や、銀行や郵便局といった公共性の高い機関は営業を続けている)。

 ところで、3月23日のジョンソン首相によるコロナ禍に関する演説をめぐっては、多くの報道機関が「外出禁止令」と報道した。外出は「食料品を買う、医療機関に行くなど最低限の目的」に限られ、街での行動は「同居人とのみ2人以内で」などと極めて制限が大きく、違反者は警察による取り締まりの対象となる。国民にかなりの不自由を強いる首相の「指示」は、演説を聞いた報道各社が「禁止令」と書くのも無理もない。

 しかし、現状のルールでは「必要な職場などへの勤務」は認め、職場の証明書なしに公共交通機関で移動することもできるなどの柔軟性を維持している。そのうえ、実は首相は演説全編を通じて「命令」とか「禁止」の類いの言葉は一度も口にしていない。現状では「首相によるウイルス拡散防止を強く求めるための国民に対する協力の強いお願い」であるといえる。

■ラッシュ時に乗れば「もっと人が死ぬ」

 言い換えると、本当の意味での完全な「外出禁止令」――買い物に行く距離は制限、どこかへ行く場合は許可証が必要、違反すると高額の罰金、ジョギングの距離も限定といったより厳しいもの――が出てしまうと、ついには社会の動きが止まってしまう。そうならないためにも、政府や自治体は「電車も動く、買い物もある程度行ける」といったギリギリで緩めた現状ルールを使って社会の安定を維持したいと考えているわけだ。

 しかし、必要以上に通勤をしてしまっている人々、とくにブルーカラー層が依然として多いというのが実情だ。

 テレビ演説の翌24日も、朝方のベッドタウンから都心に向かう地下鉄各線は、間引き運転の影響もあって普段同様の混雑を呈していた。「2mのソーシャル・ディスタンシング」どころか、「これでは、私の健康に大きなリスクがかかる」(市内中心部の病院に通勤途中の看護師)という苦情を口にする人もいる。

 マット・ハンコック保健相は、ロンドン交通局に対し「混雑解消のために地下鉄の本数をもっと増やすべきだ」と訴えている。

 だが、ロンドンのサディク・カーン市長は「本当に出かけなければいけない仕事でなければ家から出るな」「どうしても必要であればラッシュ時には乗るな」「こうしたルールを守らない限り、さらに多くの命が失われることになる」と強調。イギリスBBCは、市長が「地下鉄移動をやめなければもっと多くが死ぬ(stop Tube travel or more will die)」と警告したと、ショッキングな見出しで報じている。

 カーン市長は、パキスタン系移民でイスラム教徒という欧米の大都市の市長としては珍しい経歴を持つが、交通政策については絶大な信頼を勝ち得ている。なぜなら実父が市内バスの運転手だった、という経緯があるからだ。

 増便が難しいのは、公共交通機関の職員に体調不良者が増えていることも理由だ。地下鉄の運転士をはじめとするロンドン交通局の職員のうち、およそ3分の1が自己隔離、または体調を崩して職場を離れているという。この先の混雑緩和は、市民の外出機会減少に委ねるしかなさそうだ。

■鉄道網も非常態勢に

 さらにイギリス政府は、通勤者の減少や外出の自粛などで鉄道の需要が急速に落ち込むことを予想し、全国の鉄道運行オペレーターに対して「フランチャイズ(運営権)契約」を6カ月間停止し、実質的に一時国有化するという政策を打ち出した。

 イギリスの鉄道は上下分離方式で民営化され、大半の路線は線路などのインフラを国有の「ネットワーク・レール」社が保有し、地域や路線網ごとに運営権を得た民間企業がオペレーターとして列車を運行する方式をとっている。今回の措置は、政府が「このままオペレーターが運行を続けると、急激な利用者不足による収益の悪化とコスト増大で会社が破綻する可能性が高い」と判断したことによる。

 医療従事者をはじめ、外出制限中でも鉄道サービスを必要とする利用者は一定の数がある。これらの人々の足を確保するため、政府が先回りして「起こりうるマイナスへの補填」を行う政策をいち早く打ち出した、と言えよう。ただ、今回のコロナ禍が起こる前からフランチャイズ契約には問題をきたしており、最近では2路線が暫定的に国の財源で運行されている。

 わずか数週間前にブレグジットを実現したイギリスだが、貿易交渉など山積みの課題に対峙する前にコロナ問題に巻き込まれる格好となった。経済への影響を最小限にし、国民の健康を維持しようという難問に挟まれながら走り続けるイギリスの公共交通機関。はたしてこの施策がどう転ぶか、大きな挑戦はしばらく続くことだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/27(金) 5:31

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