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パナソニックの中国傾注がどうにも心配な理由

3/27 7:40 配信

東洋経済オンライン

 日本の対中国輸出入総額(2018年)は、2位であるアメリカの14.9%を抜き、21.4%と断トツ首位にある(財務省貿易統計)。今や、日中の経済関係は切り離せなくなっている。この現象を、多くの日本企業は世界経済の潮流として、楽観的に受け入れてきた。

 ところが、コロナウイルス感染問題を機に、全日本来訪者のうち、約30%を占める中国人旅行客が激減したインバウンドの落ち込み、自動車メーカーに見られるサプライチェーンの断絶など、「中国依存型経済」によるチャイナリスクが改めて問われている。

 この変化を目前にして、筆者は大手食品スーパー「ライフコーポレーション」の創業者である清水信次氏にインタビューしたときに聞いた言葉を思い出した。

 「私の目の黒いうちは中国進出を許さない。大東亜戦争に負け、満州・朝鮮の日本人資産はことごとく失ってしまった。その怖さを肌身で感じているので進出しない」

 清水氏は、日中、日韓友好を切望し関係団体の長を務めた経済人であり、円満な国際交流を望んでいるが、ことビジネスとなると、発言のとおり慎重である。学校を卒業した翌年の1944年(昭和19年)の陸軍入隊を機に中国へ出征し、戦中戦後の動乱を自身の目で見てきた。天変地異のごとく起こる想定外の「チャイナリスク」の怖さを熟知しているからこそ、中国への投資に敏感になるのだろう。

■「戦争を知らない子どもたち」世代が経営層に

 今や、清水氏の世代は経営の第一線から退き、戦中戦後の中国での動乱を経験していない「戦争を知らない子どもたち(世代)」がCEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)を務めている。その中でも、グローバル企業をつかさどっているトップは横並びと思えるほど、中国での成長=成功と疑いもなく確信しているようだ。

 筆者は、彼らの見方を否定しているわけではないが、チャイナリスクをどれほど計算しているのか問いたい。リスクヘッジの度合いは各社各様である。ただし、中国と関わっている企業はどこも、今回のコロナウイルス感染問題を機に再考を迫られたことだろう。

 コロナウイルス感染が発生する前から、米中貿易摩擦をきっかけに、生産活動をはじめ中国との関係が深い企業は、戦略転換を強いられていた。そのような中にあっても、中国に賭けると表明していた企業がある。そのうちの1社がパナソニックだ。

 日中国交正常化が実現した6年後の1978年10月、鄧小平副首相が日中平和友好条約批准のために訪日。その際、松下電器産業(現・パナソニック)のテレビ工場を視察し、松下幸之助氏に中国への協力を要望したのだった。鄧氏が最高指導者となり社会主義市場経済を打ち出す14年も前のことである。

 資本主義陣営と社会主義陣営が対立していた冷戦の真っただ中、多くの日本企業は、日本と政治体制を異にする社会主義国の中華人民共和国への進出に躊躇していた。

 ところが、パナソニックは勇気ある選択をする。日本企業の中で「中国進出第1号」となったのだ。まずは、対中輸出を開始し、1987年には北京にカラーブラウン管の製造合弁会社を設立した。第2次世界大戦後、中国ではじめての外資系工場である。

 しかし、同社の中国での歩みは必ずしも順調とは言えなかった。これまで何度かチャイナリスクに直面している。1989年に天安門事件が起こった最中でもブラウン管工場の操業を続けた。そして2012年、尖閣諸島の国有化に抗議する反日デモが活発化した際、山東省と江蘇省の工場が反日派に攻撃されるが耐え続けた。

■ブランド認知されていてもシェアは高くない

 では、こうした長い間の経験と苦労が報われたのだろうか。その答えはノーである。「松下(ソンシャー)」ブランドの認知度こそ高いが、それがシェアアップに結び付いていないのが現状である。BtoB事業でも、断トツトップシェアの事業は見られない。

 それでも、パナソニックは、これまでにも増して中国に賭けようとしている。その動きを端的に表しているのが、コロナウイルス感染が問題化する直前の2019年12月に発表した「中国・浙江省における調理家電工場新設」である。

 中間層が拡大する中国は今後も需要の伸びが期待できる市場と判断し、約45億円を投じた。電子レンジや炊飯器、ジャーポットなどを2021年9月から生産する。広域アジア市場への輸出も含めて年20億元(約309億円)の売り上げを見込んでいる。

 液晶パネル、半導体と次々に撤退を決めた後、復活の牽引車として中国の家電事業に賭けた。そのため、中国人による中国人(市場)のための家電事業に転換しようとしている。かつての、単なる生産拠点として活用するだけではなく、優れた中国人技術者を多く採用し、IoT(モノのインターネット)関連製品の開発に注力する。家電事業の本社機能を事実上、中国に移す案も浮上している。

 だが、乗り越えなくてはならないハードルは高い。松下幸之助氏が鄧小平氏と約束した時代とは状況が一変し、家電メーカーのシェアは逆転した。今やパナソニックは、冷蔵庫やエアコンでは、中国や韓国の大手に後塵を拝している。

 パナソニックは、故クレイトン・M・クリステンセン氏(アメリカの元・ハーバード・ビジネススクールの教授)が提唱した既存事業の秩序を破壊し、業界構造を劇的に変化させる「破壊的イノベーション」を仕掛けられる側から仕掛ける側に転じてしまったのである。

 だが、IoT(モノのインターネット)技術を活用した家電製品の商品化をめぐっては、中国、韓国メーカーも力を入れており、パナソニック製品の強い差別化要因となり成功できるという保証はない。中国人消費者のニーズを先取りし商品開発に反映するという従来どおりのマーケティング戦略で、破壊的イノベーションは可能なのか。

 40年強、中国へ投資し続け構築した経営資源と蓄積した実践知、経験則を生かそうとしているパナソニックの経営陣に、今さら中国と距離を置くという心理は働かないだろう。ましてや、歴代社長も創業者の理念を死守してきただけに、現経営陣も松下幸之助氏が中国に刻んだ歴史を反故にすることはできない。

 とはいえ、中国は中国共産党の方針により、突然の規制変更も起こりうる国である。このような心配は、パナソニックの経営陣にとって釈迦に説法となるかもしれない。だが、「中国で必ず成功しなくてはならない」という大義名分がある限り、それに逆らう発言は許されないだろう。その結果、中国ビジネスを楽観視するというスタンスが同社における暗黙の了解になっているのではないか。

■楽観論を後押しする「巨大市場の誘惑」

 その楽観論を後押ししているのは、これから中間層の需要が伸びるという「巨大市場の誘惑」である。この論理は、対中進出している日本企業に共通する常識である。少なくとも、パナソニックが中国の新工場建設を発表した「コロナショック前」までは、この常識が絶対視されていた。

 ところが、コロナショック後は、見方が変わってきた。巨大市場が目の前にあるから大きな投資をし、市場を積極的に開拓する経営戦略は一見、非常に合理的意思決定であるように見える。

 しかし、「巨大市場の誘惑」は中国の政治的カードであり、中国共産党の鶴の一声で、日本企業の経営が左右されることも忘れてはならない。今こそ、日本企業の経営者は、この現実を再考、洞察すべきではないか。その意味で、コロナウイルス騒動をきっかけに、「戦争を知らない社長」は、前述した清水氏の言葉を参考にしていただきたいと思う。

 新型コロナウイルスの感染拡大のような天変地異は予想できたことではないだろう。ただ、パナソニックはこれまで、「大きな賭け」に出たが、ことごとく「大きな負け」を経験している。今も大きな賭けは続いている。ここでパナソニックにおける意思決定の歴史を振り返ってみたい。

 谷井昭雄(4代目)社長時代には、1990年にアメリカの映画メジャーのMCAを7800億円で買収したものの統治できず、5年後に株を売却して約1600億円の損失を出した。

 森下洋一(5代目)社長は、薄型テレビが台頭してくるのには時間がかかる。まだまだブラウン管テレビの時代が続くと判断し、成熟製品に賭けた。この結果、液晶テレビ競争に乗り遅れてしまった。

 中村邦夫社長(6代目)は、「打倒液晶」を掲げ、プラズマディスプレイパネル(PDP)事業に6000億円を投資する。ところが、液晶の台頭が読めなかった結果、撤退を余儀なくされた。

 大坪文雄(7代目)社長は、2009年に4000億円以上を投じて三洋電機を買収。完全子会社化するための追加投資も含めて、最終的に8100億円以上も投じたが、円高ウォン安を背景に、韓国メーカーが猛攻勢をかけてきたことで三洋の主力製品だった民生用リチウムイオン電池の市場価格が2年で3割も下落した。その結果、2013年3月期決算で6000億円以上の評価損を計上した。

 PDP撤退の判断を下した津賀一宏(8代目)現社長は、社長就任後に発表した中期戦略で「創業100周年となる2018年度までに、自動車関連事業で2兆円、家電を除く住宅関連事業で2兆円の売上高を目標とする」と表明したが、うまくいかず、戦略転換による再挑戦を強いられている。家電事業の中国への本格シフトはその目玉となる。

■そのリスクは「計算できるか」

 経営にはリスクがつきもの。言うまでもなく、リスクには2種類ある。カリキュレイテッド(計算できる)リスクとノン・カリキュレイテッド(計算できない)リスクである。経営者は、前者、後者ともに最大限の情報を収集して経営計画を立てるが、現実的には、リスクを極力計算できたと思っていても失敗することがある。ましてや、後者については、神のみぞ知る、と言っても過言ではない。

 なぜか近年、「賢い(と言われている)経営者」の計算の誤りによる失敗が目立つ。その原因は、「賢い(と言われている)経営者」も「人」であるからだ。当たり前のことを言うようだが、次の真理がある。「人」は、自分が明日生きているか、死んでいるかさえも予測できない。

 日本電産の創業者で会長兼CEOの永守重信氏にインタビューしたとき、「私は小心者だ。経営者は臆病であったほうがいい」と話していた。一見、歯に衣を着せぬ大胆な物言いと行動で注目される永守氏にして、こういった経営哲学を持っている。

 日本電産も中国に入れ込んでいるが、永守氏はひやひやしながらリスクを計算しているのだろう。パナソニックも「中国における家電事業の成功」に賭けているが、再びPDPと同様、賭けが負けになってはいけない。中国に賭けていいのかどうか、戦略を練り直すという選択肢はないのか。津賀社長も社長である限り、強いリーダーシップを演じなくてはならないだろう。

 だが、ときには、こっそりと臆病になっても悪くはない。臆病であることを自認し意思決定することは、「人は弱い存在である」という悟りであると同時に、リスクヘッジという論理的思考でもある。

 多額の内部留保があっても投資しない企業は、株主重視経営からすれば劣等生とされているが、「賭場」に大金を投じる経営者が立派なのか。ギャンブルに賭ける人は、いつも勝ちを想定している。その点、経営者も似ている。経営計画を発表するとき、「たぶん、向こう3年間もだめでしょう」と口にする経営者は誰もいない。皆、前向きな発言をするが、結果的に負けギャンブラーとなっている経営者も少なくない。

 パナソニックの幹部と中国事業に関して話をすると、必ず、松下幸之助氏と鄧小平氏の約束が出てくる。創業者が大切にした中国に入れ込んだ結果、勝てなかったでは話にならない。創業者の偉業といえども時代により評価は変わる。織田信長は戦国の世に生きたからこそ、刀を振り回し天下を取れたが、今、新幹線の中で同じ行動をすると、凶悪犯罪者として逮捕されるだけである。

■津賀社長の腹は決まったのかもしれないが

 津賀社長は2020年6月以降も続投することになり就任9年目を迎える。1977年から9年間社長を務めた山下俊彦氏と並び、創業者の松下幸之助氏ら創業家を除けば最長となる長期政権を担う。最近「失うものは何もない」と口にするようになった。この発言からは、腹が決まったとも受け取れるが、一方では、一か八かの賭けに出る「大胆な経営者」になるのではないかと心配になってくる。

 アナリストたちは、「ビジョンがない」、「具体的戦略がない」と津賀社長を吊るし上げている。もちろん、明確なビジョンと具体的な経営戦略を打ち出し実現するに越したことはない。最近、「比喩が分からない人が増えた」という声をよく聞くようになったので、そのような方々に誤解されては困るが、(いい意味で)臆病な面が見えてくれば、その点も高く評価したい。

 コロナウイルス感染問題が落ち着けば、同市場で売り上げが回復し、津賀社長在任中に業績は好転するかもしれない。しかし、社長はその後の持続的経営も考えておかなくてはならない。今こそ、「日に新た」な姿勢を見せてほしい。

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最終更新:3/27(金) 7:40

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