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不動産の「来店不要取引」がいま俄然注目の訳

2/24 8:01 配信

東洋経済オンライン

 「例年なら年末から年明けに、賃貸物件を探すお客さんで店舗がにぎわうのに閑散としている。心配して社員に聞いたら、最近のお客さんはスマホで調べて店舗には来ないと言うので驚いたよ」

 千葉県・市川駅前の地元不動産会社アービックグループの加藤敏夫会長がそう言うのも無理はない。同社は1962年に創業し、リクルートに先駆けて物件情報誌を刊行するなど先進的な営業を展開してきたが、「街の不動産屋」と言えば、駅前に店舗を出し、お客さんの要望に応じて物件を案内して契約に持ち込むのが不動の営業スタイルだった。

 この1年ほどで、その様子が徐々に変化してきた。賃貸物件選びは「スマホ」、物件の室内を見学する内見も「ネット予約」、不動産会社の立ち合いなしにスマートロックで鍵を開けて見学する「セルフ内見」が普及し始めたからだ。昨年10月からは、国土交通省が重要事項説明に続いて賃貸取引をネット契約で行う実証実験を始めた。駅前の店舗に行かなくても物件選びができる環境が整いつつある。

■VRやスマートロックなどの技術革新

 スマホやネットだけで営業活動を行う「インサイドセールス」は、アメリカのセールスフォース・ドットコムなどのマーケティングシステムが普及して、日本でも3、4年前から注目されるようになった。不動産分野では実際の物件を見学する内見が必要なので導入が難しいと考えられていたが、VR(バーチャルリアリティー:仮想現実)やスマートロックなどの導入で実現可能になってきた。

 3月末にかけて新入社員や学生を中心に不動産物件選びがピークを迎えるが、タイミング悪く「新型コロナウイルス」問題が発生した。企業などでは感染拡大を防ぐためにテレワークを移行させる動きが活発化してきた。リスク回避の観点から人と接触せずに営業活動でき、利用者側も移動を避けられるインサイドセールスが、不動産取引で拡大する契機になるかもしれない。

 VRはコンピューターグラフィックス(CG)やパノラマ写真などを使って3次元(3D)空間を作り出し、人があたかもその中にいるような疑似体験をさせる技術。2007年にグーグルが提供開始した道路の風景をパノラマ画像で見せる「ストリートビュー」で注目されるようになった。

 2013年にリコーイメージングが360度パノラマ写真を簡単かつ安価に撮影できるコンパクトな全天球カメラ「シータ」を発売。2015年頃からクラウドサーバー上にVRコンテンツを登録して、ネットを通じて手軽に閲覧できるサービスが始まり、2018年には不動産分野に特化したスタートアップ企業のナーブやスペースリーなどが参入。賃貸物件のパノラマ写真を撮影する代行サービスなども登場して普及し始めている。

 不動産仲介会社にとってVR内見のメリットは、実際に現地までお客さんを案内して物件を見てもらう内見業務の負担軽減だ。ナーブによると、契約までの内見件数は導入前3.1件だったのが、導入後は1.3~1.4件と、半分以下に削減できているという。

■スケジュール調整はネット予約で

 面倒だった内見スケジュールの調整も、GAテクノロジーズ子会社のイタンジが2017年に内見の「ネット予約」システムを開発。お客が自分の都合のいい時間を選んで予約できるようになった。さらにスマホで鍵の開閉ができるスマートロックを提供するライナフやビットキーなどが賃貸物件に取り付けて立ち合いなしに内見できる「セルフ内見」のサービス提供を開始し、昨年から普及が始まった。

 国交省でも、宅地建物取引業法(宅建業法)により対面で行うことを義務付けていた重要事項説明(重説)を賃貸取引ではネットでも認める「IT重説」を2017年10月に解禁。賃貸契約の書面交付を郵送で行えば、対面なしに賃貸契約できるようになったが、VRやスマートロックなどのIT活用で、インサイドセールスを本格導入できる環境が整ってきたと言える。

 昨年10月からは賃貸取引の電子契約と、個人の不動産売買取引時のIT重説の解禁に向けた実証実験がスタート。書面なしの電子契約に移行するためには宅建業法改正が必要となるため、実証結果を踏まえて具体的な検討を開始するところだ。

 不動産分野でインサイドセールスが注目され始めた背景には、消費者行動の変化がある。スマホで手軽に不動産情報を入手できるようになり、ネットからの問い合わせが増えているのだが「反響が薄くなって成約につなげるのが難しくなった」――そんな悩みを語るのは、リクルート出身でアメリカネット不動産大手、MOVOTO社の市川紘副社長だ。

 ネットからの問い合わせは気軽にできるので、その内容も千差万別。来店客であれば、具体的な引っ越しなどの予定が決まっている人がほとんどだが、ネットの場合はすぐに引っ越したい人もいれば、「気に入った物件が出てくれば検討したい」という人や、情報収集を始めたばかりの人などさまざまだ。

 ネットからの問い合わせに対応しなければ顧客を逃がし、ほかの企業に奪われてしまうことになる。とは言え、すべての問い合わせに対応するのは効率が悪い。アメリカでも不動産取引は有資格者であるエージェントが行っているが、そうした悩みを抱える事業者が増えていた。

 「数年前からネットからの問い合わせから顧客ニーズを分析し、すぐ契約に持ち込めそうな顧客だけをエージェントに紹介するサービスが登場して業績を伸ばしている。今後、アメリカでも日本でも成長が期待できるビジネスモデルだろう」と市川氏は分析する。

■宅建士と営業マンの生産性向上が課題

 日本でも不動産取引は有資格者の宅地建物取引士(宅建士)が行わなければならないが、顧客からの問い合わせや内見の案内などは店舗に常駐する営業マンが対応してきた。しかし、ネットからの問い合わせが増えるなかで、宅建士と営業マンの生産性向上を図る必要性が高まっている。

 日本でもスタートアップ企業のEQONが、消費者向けに実績のある宅建士を紹介するサービス「EGENT」を昨年6月から開始した。消費者のニーズに合った宅建士を180社200人から紹介するサービスだが、宅建士にとっても消費者の問い合わせにEQONのスタッフが事前対応して有望顧客を効率的に紹介してもらえるメリットがある。

 VRサービスのナーブでも、VRコンテンツを見た消費者からの問い合わせに対応する遠隔接客システム「どこでもストア」の提供を2018年から開始した。消費者からの問い合わせにはナーブのスタッフが対応する仕組みで、2019年からは成約見込みがほぼ確実な顧客だけを宅建業者に送客するサービスも始めている。

 不動産取引の無人店舗には思わぬ落とし穴もある。ナーブの「どこでもストア」を、2年前に最初に導入しようとしたのは大和ハウス工業だった。テレビ電話システムを搭載して無人店舗として全国展開する計画だったが、現在は実施を見送っている。

 宅建業法では、宅建業者の店舗には宅建士の常駐が義務付けられており、宅建免許を持つ大和ハウスが無人店舗を展開するのは宅建業法違反になる可能性が指摘されたからだ。

 しかし、宅建免許を持っていなければ法律の適用を受けない。宅建業者だけに認められている不動産取引の営業行為を行わずに、VRコンテンツとして掲載されている物件情報に関して消費者の質問に答えるだけなら問題ない。EQONもナーブも、宅建業者ではないのでサービス提供が可能なのだ。

 ナーブでは、大和ハウスが展開を見送ったあと「どこでもストア」をイオンなどの大型ショッピングモールへの導入に取り組んでいる。イオンでは、約10年前に「イオンハウジング」のブランドで不動産流通店舗のフランチャイズチェーン(FC)展開を開始したが、直営店数店舗を出店しただけでストップしていた。

 しかし、2年ほど前に不動産業向けIT企業のギガプライズが、イオンモールと提携し、子会社の「フォーメンバーズ」を通じてイオンハウジングのFC展開を開始。昨年末でイオンハウジングは27店舗までに拡大したが、同時にナーブと提携し「どこでも住宅展示場」の名称で無人店舗の出店を加速している。

■無資格の担当者が営業行為をしていないか

 不動産取引のインサイドセールスでは、無資格の担当者が営業行為を行っていないかを証明するという課題もある。最近ではスタートアップ事業のRevComm(レブコム)が電話での会話をAI(人工知能)分析してアラートを出しながら記録するサービスを提供するなど、インサイドセールスのためのツールも充実してきた。

 今年7月には東京オリンピック・パラリンピックが始まり、テロ対策などで外出などが制限されることも予想される。テレワークとともにインサイドセールスの活用を検討する企業が増えることになりそうだ。

東洋経済オンライン

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最終更新:2/24(月) 8:01

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