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水素がここへ来て一段と有望になってきた理由

2/22 8:01 配信

東洋経済オンライン

CO2
(二酸化炭素)を排出しない次世代のクリーンエネルギーとして、先進国が「水素エネルギー」の実用化に向けて動いている。2030年には4000億円超の市場規模になるとの試算もあり、日本でも新たな産業に育てようとする取り組みが進んでいる。

その水素エネルギーに早くから目をつけていたのが大阪に本社を置く岩谷産業だ。プロパンガスやカセットこんろに使うLPガスの輸入・販売で国内最大シェアを持つ同社は、80年以上前から産業用ガス精製のときに出る水素に目をつけたことをきっかけに販売を開始。水素を低温で液体化させる「液化水素」の製造・運搬を国内で唯一行っている。

NHK大阪放送局が制作する「ルソンの壺」は、2月23日(日)の最新放送回(関西地域で7時45分~8時25分放送)で岩谷産業の牧野明次会長兼CEOを招いて話を聞いた。岩谷産業は最終的に、一般家庭への水素の供給を目指すが、課題は安全性と膨大なコスト。その壁をどう乗り越え、商機を見いだしていくのか、小説家で番組コメンテーターの真山仁氏、司会の渡邊佐和子アナウンサーによる牧野会長へのインタビューを、番組本編に収まりきれなかった部分も含めてお届けする。

■LPガス大手の岩谷産業が水素に挑む理由

 渡邊 佐和子(以下、渡邊):LPガスを得意とする岩谷産業が、なぜ今、水素事業に取り組んでいるんでしょうか。

 牧野 明次(以下、牧野):当社の創業は1930年ですが、1941年から産業用に水素を販売してきました。酸素をつくる過程で水素も生成されるのですが、それを活用しないのはもったいなかったからです。

 併せて創業者は、将来的に石炭から石油へ、そして液化天然ガスへといったように炭素の少ないものへと変わっていく流れの中で、「炭素のない水素はエネルギーになっていく」と予測しており、私たちもその考え方を継承してきました。私が入社した1965年当時、「そのうち水素で飛行機が飛ぶぞ」という話があったのを覚えています。

 1978年には初めてH-Iロケット用の液化水素をつくり、燃料として供給しました。その後、2006年には関西電力さんと共同で、日本で初の液化天然ガスの冷熱を利用した液化水素のプラントを大阪・堺につくりました。

 真山 仁(以下、真山):創業者が予測し、描いた夢を、伝承されてきた過程で、現実にビジネスとして成り立つと見極めて、一歩前に踏み出すと決断されたときがあったと思います。夢が夢でなくなったターニングポイントは? 

 牧野:製造コストの大幅な低下です。水素はマイナス253℃で冷やすと液体になり、体積が800分の1まで小さくなって貯蔵や輸送がしやすくなりますが、そこまでの温度に冷やすのには莫大な電気代がかかってしまうことから商用化は難しいと言われていました。

 私は1988年に、ユニオンカーバイドというアメリカの老舗化学会社に1年ほど在籍した経験があるのですが、そこで学んだ低コストで水素をつくる方法を応用しました。液化窒素でマイナス196℃まで冷やし、そこから液化するマイナス253℃までを電気で冷やすという方法を開発したのです。電気代を大幅に抑え、液化水素の製造コストを下げることに成功しました。

 それでも商売として成り立つのかという反発もありましたが、「私たちがやらなければ誰がやるんだ」という使命感から、液化水素プラント建設は私が決断して進めました。

 渡邊:まずガスで冷やし、さらに電気で冷やすという2段階方式でコストを抑えるんですね。

■水に例えてみると…

 真山:イメージするのが難しいですが、水に例えるとわかりやすいです。水は氷点下で凍りますが、その環境を人工的につくるためには、冷凍庫が必要です。

 同様にしてマイナス250℃台まで温度を下げるには大量の電気が必要で、コストがかかりすぎます。代わりにもともと低温の液化天然ガスの冷熱を使うことで、圧倒的にコストが下がります。岩谷産業にとっては既存事業とのつながりもあるからこそ、ほかとは差別化された独自性が生まれますね。

 渡邊:水素の製造コストは徐々に下がってきている一方で、一般への普及のハードルはまだまだ高いのが現状です。水素をエネルギーとして一般的に広げるとすれば、水素を燃料として走る燃料電池自動車の普及が有力な流れとなります。ただ、ガソリンスタンドの設置費用が約1億円なのに対し、水素ステーションは約5億円もかかると言われます。設備に特殊な素材や安全装置が必要なのが高コストの理由でしょうか。

 牧野:2つあります。まずは、特別な仕様の機器やパイプの材料に高額な費用がかかります。規定された特別な材料を使用するという規制があって、日本の場合はドイツやアメリカよりも基準が厳しいのです。ガソリンスタンドぐらいの設置費用にするには、技術を磨いて使用する材料などの耐用性を国にも示し、規制緩和をしてもらう必要があります。

 もう1つの理由は、水素ステーションには資格を持った人を常駐させる規制があって、これも費用がかかる要因です。

 日本での規制改革はこれから行われると思いますが、そうなると建設費や運営費なども下がってくると思います。乗用車やバスだけじゃなく、今後はトラックや船舶にも水素エネルギーが使用されるようになってくると思います。

 渡邊:水素をつくること自体にコストがかかりますが、それを供給することにも設備や人件費がかかってきてしまうということですね。

 牧野:燃料電池自動車向けの水素の価格はガソリンハイブリッド車と同程度にしているので、燃料電池自動車とガソリンハイブリッド車の1キロメートルを走る燃料コストは実はほぼ同じなんです。

■国は補助金を出していない

 真山:それは意外です。水素自動車の利用促進のため、国が補助金を出しているのですか? 

 牧野:いえ、水素そのものの価格には補助金をもらっておりません。JXTGホールディングスや弊社が普及することを主眼にして、水素の価格を戦略的に下げています。それぞれの企業の心意気でやっています。

 真山:水素エネルギーを用いた宇宙ロケットは、液化水素と液化酸素を注入し続けて着火します。何百トンもある宇宙ロケットを打ち上げるためには、莫大なエネルギーが使われます。

 ロケットの打ち上げを見たときに、「すごい」と思う人と、「怖い」と思う人がいます。後者は、あれほどのエネルギーを生む水素燃料を、家や町の近くに置いて危なくないのかと思います。これはよくも悪くも日本人の慎重なところです。

 とはいえ、成果を求めるあまり一足飛びにやると、事故のリスクが伴います。拙速に進めたことで、小さな事故で抑えられずに大事故が発生すれば、途端にせっかくのプロジェクトが止まってしまうのです。

 つくっている側が「大丈夫」といっても、3.11の原発事故を経験した日本人の多くは、「よくわからないけれど莫大なエネルギーを生む設備は、危険ではないか」という不安と、新エネルギーへの期待とのせめぎ合いがあるのです。

 ところが、アメリカや恐らく中国やヨーロッパでは、「化石燃料の限界が近いことは明らかなので、次世代のエネルギーを育てていかなくてはいけない」という考え方が支持される文化です。日本の慎重さは、非常に歯がゆいです。高コストの問題もありますが、私たちは水素エネルギーを選択肢として認めてこなかったため、まだスタートラインに立てていない印象です。まずはもっと水素と仲良くなる、理解する必要がありますね。

 牧野:そうですね。「危険は100%絶対ない」とは言い切れません。ただ、正しいルールに従って使っていただければ、水素も油も都市ガスも安全性はみんな同じです。

 とくに今は水素のエネルギーとしての創成期になりますから、絶対に事故を起こすようなことがあってはいけません。ステーションにしても工場にしても、水素での事故を起こさないように、いろんな手段を講じてやらせていただいています。

 真山:ベンチャー企業のように試行錯誤しながら、でも先駆者としては失敗できない、とても大変なミッションだと思います。次のビジョンはありますか。

■一般家庭で活用する実証実験も進む

 牧野:水素をそれぞれのご家庭で使っていただき、身近に感じていただくビジョンを描いています。今のところはトヨタ自動車さんが初めて市販した燃料電池自動車の「MIRAI」(ミライ)が2014年に登場して5年余りですが、これが一般の人たちが水素を身近に感じていることだと思います。

 北九州市では、水素を各ご家庭に都市ガスのように配管で供給して、それぞれ個々に水素で電気を起こす実証実験を行っています。この実験が安全にできれば、将来的にはシリンダーに入れた水素をプロパンのように各ご家庭へ持っていき、家庭用の燃料電池を使って電気を起こし、それで電灯や給湯、暖房に利用できるようになると考えております。

 渡邊:水素が、電気やガスのような働きをするわけですね。

 牧野:はい。安全性をきちんと立証し、一般の方たちに水素を身近なエネルギーとして安心して使ってもらえるようになるための実験をしているのです。

 水素は、空気より非常に軽いので、すぐ空中に拡散します。水素に限らず、100%絶対に安全だというエネルギーはありませんが、正しい使い方を徹底し、あわせてガスが漏れないようなシステムや万が一に備えるシステムなどで安全性を強化していくことが、普及のためにも非常に重要だと考えています。

 (構成:二宮 未央/ライター、コラムニスト)

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最終更新:3/13(金) 13:35

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