異次元円安「予想超える変化」、輸出企業も戸惑い-業績プラスも

5/2 11:00 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 外国為替市場で4月29日に一時1ドル=160円台となり約34年ぶりの安値を更新後、2日早朝には突如大幅上昇して同153円台を付けるなど円の荒い値動きが続いでいる。「異次元」の円安進行にピークを迎えている国内上場企業の決算会見では経営者から戸惑いの声が相次いだ。

キーエンスの中田有社長は4月25日の大阪市内での会見で足元の急速な円安について、「われわれの予想のところを超えてしまう変化」が起きていると表現した。キヤノンの浅田稔専務も同月24日のオンラインでの会見で、為替水準について「極めてレアな状況」とコメント。海外展開や海外から輸入する原材料費の影響などで「昔ほどは円安のメリットは出にくくなっている」という。

円安はドルなど外貨建てでの稼ぎが多い企業の円換算の利益を押し上げる効果があるが、国内中心の事業展開で輸入が多い企業などにとってはマイナスだ。日本はエネルギーや食料の多くを輸入に頼っており、家計へも打撃となる。

急激な為替変動が続く中で円安のプラスとマイナス要因を見極めるのは難しい。企業トップから相次ぐ、過度な円安は望ましくないとする意見は、企業経営のかじ取りの難易度が上がっていることを示す。

訪日外国人でインバウンドが活況を呈する一方、日本からの海外旅行の回復が遅れている航空業界は円安の利点と欠点に翻弄(ほんろう)される業種のひとつだ。

心理的にネガティブ

ANAホールディングスの芝田浩二社長は国際線の貨物や旅客でかなりの外貨収入が入る事業構造になっているとした上で、燃油サーチャージを含めた航空券の値上がりや円安による購買力低下で日本からの旅行者には不利と指摘、「心理的にネガティブなインパクトは大きいと思っている」と述べた。

芝田氏によると、心地よいドル円相場の水準は1ドル=125円ぐらいという。日本航空の鳥取三津子社長も日本の若い世代の海外旅行離れの可能性を含め現状を「かなり懸念」しているという。

同社の斎藤祐二副社長兼グループ最高財務責任者(CFO)は2日の決算会見で今の円安ではどんな対策を取っても海外旅行の回復は望めないとし、現在の円安水準がもう少し是正されるとありがたいと述べた。

決算シーズンに合わせてブルームバーグが国内主要企業を対象に実施したアンケートでは、輸出型企業からも現在の円安への懸念の声が聞かれた。

海外売上比率が90%を超える村田製作所は、同社にとって円安は「短期的な収益面ではプラス効果」があるとしながらも、過度な円安進行はサプライチェーン(供給網)全体に影響する懸念があると考えており、急激な円安の進行は望んでいないとした。

連結売上高の75%近くをインドなどの海外で稼ぐスズキは150円を上回る円安水準は経営にプラスとしたものの、経営において望ましい為替レートとは言いづらくなる水準として155円超と回答。TDKは同じ質問に160円超と答えた。

リスクヘッジ

急激な為替変動のリスクを最小限に抑えるための取り組みも進められている。

資生堂は為替変動に対するリスクヘッジの比率については相場を見ながら調整して変動に備えているとした上で、「直近の円安相場では標準よりはヘッジ比率を増やすことで対応」しているとした。

JTは短期的には外貨建ての債権や債務については原則100%ヘッジし、将来キャッシュフローについても25-90%のレンジでヘッジしているという。また、現地通貨での原材料調達や現地製造などを行い、収入通貨と支払通貨を合致させて相殺させることを企図した「ナチュラルヘッジ」も進めている。

キヤノンは海外グループ会社からの外貨建て借入金について、円安によって生じた為替差損を「営業外費用」として計上しており、昨年はその影響が大きくなったが、1年間かけて外貨建て債務の削減に努めた結果、今期(2024年12月期)は改善したという。

中国電力は、従来から為替予約取引を使っているが、変動リスクの影響を抑制するため、取引期間を長く確保し分散取引を図るほか、リスクポジションの定期的な見直しを行うことで、適正なヘッジ量となるよう調整しているという。

アンケートでは、円安進行が想定外だったという声も聞かれた。三菱重工業は日銀の政策変更で一時的に円高に動くのではないかと想定していたという。円安は短期的な財務数値にはプラスに働く一方、過度な円安は日本経済の相対的な低下を示すもので必ずしもプラスとは言えないとした。

海外M&Aにも影響

商船三井の橋本剛社長は30日の会見で円安は円換算の利益を押し上げる効果がある一方、過度に円安が進めば海外など成長領域での企業の合併・買収(M&A)がやりにくくなり、「ほどほどの円高への回帰」が望ましい面があると語った。

三菱商事の中西勝也社長も2日の決算会見で、海外でのM&Aの際に円安は「ボディーブロー」のように効くとコメント。為替要因だけで急に10-20%値上がりすることもあり、「投資を行う上で慎重にさせてしまうところがある」という。円安は国力が弱まることにつながる側面もあり、「われわれにとっては利益にプラスになるが、よろしくない」と述べた。

丸紅の柿木真澄社長は現在の円安は投機的な側面もあり、長続きしないのではないかとの考えを示した。その一方で、人口減少や将来を支える新産業が育たないなど日本が抱える問題を反映して通貨の価値が下がっている可能性もあり、懸念していると述べた。

「世界の中での日本で、円安になることになることを喜ぶ人はおかしいんじゃないかと思うし、そうあってはならないと考えている」。4月の都内での決算会見でこう話したのはファーストリテイリングの柳井正会長兼社長だ。

8月期決算の同社は2月末の為替レートが期首より円安方向に振れたことで上期に為替差益165億円を得るなどメリットも享受しているが、柳井氏は円安は「当社に対してだけでなしに、日本にとっていいわけないというのが基本的な考え方」だと述べた。

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--取材協力:Supriya Singh.

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最終更新:5/2(木) 17:08

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