つくたべやワタサバ「NHK夜ドラ」ヒットの背景 平日「夜の15分ドラマ」製作の狙いを聞いた

3/27 9:02 配信

東洋経済オンライン

 女性層から厚い支持を受けて話題になったNHKの「夜ドラ」、『作りたい女と食べたい女』シーズン2。

 「夜ドラ」では初の続編となり、終了後には早くもシーズン3への期待の声が高まる人気ぶりを示した。月曜~木曜まで毎日15分の帯枠放送の「夜ドラ」は、認知度を徐々に高めながらファンが育っていることがうかがえる。

 録画や配信など視聴スタイルが多様化するなか、夜15分の視聴習慣の定着を目指してきた同枠の現在地を掘り下げる。

■前身まで遡ると55年の歴史

 平日毎朝15分の「朝ドラ」は1961年にスタートし、時代ごとに数々の名作を生み出してきた。朝の忙しい時間のなかでも、朝ドラを見ることは、年配層を中心にした固定ファン層の生活の一部になっている。

 “夜ドラ”は、2022年4月から放送枠が設けられたが、前身まで遡ると、なんと55年の歴史がある。1969年に月曜~金曜の夜の30分枠でスタートした「銀河ドラマ」に始まり、「銀河テレビ小説」、「ドラマ新銀河」など、NHKは放送時間や時間帯の変更を経ながら夜帯のドラマ放送を続けてきた。

 そして2018年4月から週1の30分枠で「よるドラ」がスタートし、2022年4月からは月曜~木曜の15分帯枠「夜ドラ」へと形を変え、現在に至っている。

 「夜ドラ」の狙いを、NHKメディア総局・メディア編成センターの小西智仁氏は「NHKのマインドとして、夜にコンパクトなサイズのドラマを放送するモチベーションはずっと昔からありました。そうしたなか、現役世代の女性に楽しんでいただけるドラマをコンセプトにして始まったのが、現在の『夜ドラ』です」と語る。

 仕事に疲れて帰宅した平日の1日の終わりに、難しいことを考えずに気楽に楽しんでもらえるドラマを目指した「夜ドラ」。基本的に1作品を8週とし、この2年間は、オリジナルまたは原作のドラマ化を問わず、サスペンスやミステリー、SF、コメディ、日常系ドラマなどバラエティに富んだジャンル、作風の作品を手探りで投入してきた。

■「ミワさん」「ワタサバ」「つくたべ」のヒット

 そんななかで反響のあったドラマの1つとして、小西氏と同じくNHKメディア総局・メディア編成センターに所属する手塚有紀氏が挙げるのが、松本穂香が家政婦を演じた『ミワさんなりすます』だ。

 「制作サイドによると、夜ドラは前日の内容をなぞりながら始まることが多いのですが、『ミワさん』はそれをしなくても、どこからでも気楽に楽しめる作りを意識していました。そういう1つひとつの取り組みで、あまり難解ではなく、リラックスして見れるというイメージの枠になっているのかなと思います」(手塚氏)

 また、お笑いタレントの丸山礼が自己中心的で破天荒な主人公を演じる『ワタシってサバサバしてるから』は、当初は「夜ドラ」枠と親和性があるのか、編成部内で議論になったというが、結果的には幅広い年代の視聴者に見られるヒット作となった。

 民放ドラマと比べても、夜の15分帯ドラマは珍しい。国民的ドラマである「朝ドラ」とは対象年齢層が異なるが、そこで培ってきた帯枠ならではのリズムやテンポといった知見は、NHKの強みとして「夜ドラ」にも活かされているようだ。

 特に「夜ドラ」に関しては、1時間や2時間ドラマとは異なる、15分ドラマの“ゆるい楽しさ”が現代人の感性やライフスタイルにマッチしているのかもしれない。

 そんななかで、女性の厚い支持を長く受けるヒット作になったのが、冒頭でも紹介した、『作りたい女と食べたい女』(2022年11~12月)だ。好評を得て、2024年1~2月にシーズン2が放送され、「夜ドラ」初の続編作品となった。

 続編が生まれたことは、2022年の「夜ドラ」開始から少しずつ認知と関心が高まり、視聴者に定着してきていることの1つの証しになるだろう。

 本作は国内だけでなく、海外からの反響も大きいという。フランス・カンヌで毎年開催される世界最大の国際テレビ見本市MIPCOMでは、LGBTQIA+部門のファイナリストに選出された。

 同作シーズン1は、料理を作って食べることがメインであり、女性2人の半径5メートルの生活を映し出し、2人の世界観にふわっと入っていけるストーリーだった。

 シーズン2では、その空気感をそのままに、性的マイノリティが社会で直面するセクシャリティ問題や、家族、友人関係にも踏み込んだ、社会性の高い物語になった。シーズン2では、“気楽に見られる”「夜ドラ」の中でも、視聴者が考えさせられるような場面もあったが、いまの時代を切り取った女性たちの生き方に共感が集まり、シーズン2は、総合視聴率、NHKプラス、いずれも「夜ドラ」枠で最高の数字になったという。

 シーズン2の最終回放送時には、シーズン3への待望の声がSNSなどに湧き上がっていたが、いまのところシーズン3は計画されていないと言う。

 「3があるかどうかは制作サイドともこれから検討すると思いますが、続編を求める声が上がるのは、NHKとして大変嬉しいです」(手塚氏)

■視聴スタイルが多様化する

 こうした名作と呼べる人気作を重ねていくことで、「夜ドラ」というブランドは確固たるものに育ちつつある。

 手塚氏は、「『夜ドラ』のインスタグラムのアカウントには、ドラマが変わってもずっとフォローしていただけるファンの方が少しずつ増えています。枠として楽しみにしてくださる方が一定数いて、期待を感じています」と笑顔を見せる。

 そんな「夜ドラ」の現在地を聞くと、知名度が徐々に上がりつつあるとはいえ、小西氏は「まだまだ認知が十分とは思っていません」と分析する。

 「NHKプラスなどで朝の通勤中にご覧になる方も多くいらっしゃいますし、いろいろな視聴スタイルがあると思います。『夜ドラ』という枠の浸透が成功なのかという考え方も含めて、そのあり方を探っているところです」(小西氏)

 映像メディアがあふれかえり、視聴スタイルが多様化する現在。Z世代をはじめ若い層においては、リアルタイムでドラマを視聴する人は少数派になるだろう。また、「夜ドラ」は月曜~木曜の回を金曜にまとめて放送しており、ふつうのサイズのドラマとしても見ることができる。

 であれば、夜の帯枠という意義はどこにあるのか。

 「過去を振り返れば、枠で視聴習慣を持っていただくことはテレビの特性としてはありがたいことでしたが、この数年で視聴習慣は多様化しています。リアルタイムで視聴してほしい一方で、NHKプラスの配信でも見てほしい思いもあります」(小西氏)。

 看板の帯枠は持っているものの、現実ではNHKプラスの見逃し配信視聴が増えている。そんな時代の「夜ドラ」を小西氏は、「視聴者それぞれの時間のなかで楽しんでいただけるコンテンツとして、15分で気楽に触れられるテーマのドラマを、どのような形でもお楽しみいただけるということが大事だと思います」と語る。

■番組のつなぎとしても存在感発揮

 こうした視聴習慣の変化がある一方で、「夜ドラ」は、前後の番組のつなぎとしても存在感を高めている。

 たとえば「夜ドラ」の視聴者が、放送が終わった直後の23時から始まる、星野源と松重豊がMCの音楽番組『おげんさんのサブスク堂』や、所ジョージが社会の片隅で起きる不思議な事件や事象を取り上げる情報番組『所さん! 事件ですよ』を続けて見ることで、これらの番組の新たなファンになるかもしれない。そういうテレビの流れのなかでの帯枠としての「夜ドラ」の役割もある。

 「平日の夜にリアルタイムでのんびりドラマを見ていただいて、前後の番組を含めてNHKの魅力的なコンテンツをより楽しんでいただくのが夜ドラの挑戦の1つです」(手塚氏)

 視聴者の選択肢が爆発的に広がっている時代だからこそ、リアルタイム視聴はテレビならではの楽しみになっている。ドラマファンにとっては、ドラマを見ながらSNSで考察を発信する考察視聴スタイルが一般的になるなか、リアルタイムで見ないとSNSやネットニュースでネタバレを食らってしまうリスクが生じている。若者のテレビ離れがあるとはいえ、リアルタイム視聴のニーズはまだまだ根強くあるのだ。

 着々とファンを増やしながら、テレビドラマとしての役割も担う「夜ドラ」は、この先また新たなジャンルに踏み込む。挑戦を続ける「夜ドラ」のこれからの方向性と目指すべき道を聞くと、2人はこう答えた。

 「刺激的なものも含めて挑戦していきます。視聴者の意見を聞きながら、どういうコンテンツが『夜ドラ』にふさわしいか、実験的なこともしながら見ていきたいです」(手塚氏)

 「気負わないで気軽な気持ちで見られるドラマです。コンセプトベースはあるものの、次はどんなテーマや、ジャンルの作品性をぶつけてくるのかというセレンディピティ(偶然がもたらす幸運)の楽しみを持っていただける枠です。これからも“縛らない枠”になると思います」(小西氏)

■VRおじさんの初恋がスタート

 今年4月からスタートする『VRおじさんの初恋』は、孤独な中年男性がリアルとバーチャル世界を行き来し、ふたつの世界がそれぞれに影響しあいながら、これまでとは違う人生を見つけようとする主人公を描くヒューマンドラマだ。

 「夜ドラ」はこれからも挑戦的で、さまざまなジャンルのドラマを楽しませてくれるだろう。

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最終更新:3/27(水) 9:02

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