円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=植田日銀総裁

4/26 16:31 配信

ロイター

Takahiko Wada Kentaro Sugiyama

[東京 26日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は26日、金融政策決定会合後の記者会見で、円安が物価上昇を通じて賃金上昇率に波及する展開に警戒感を示し、来年の春闘での賃上げ率に波及しそうになれば、春闘より前の段階で利上げを判断することもできると述べた。その一方で、日銀が展望リポートで示した予想通りに推移していけば、それだけで利上げの可能性があるとも語った。

<円安、基調的な物価上昇率への影響を注視>

記者会見では円安の物価への影響や政策対応に質問が集中した。植田総裁は、足元の円安が今年度の物価見通しを上方修正した要因に含まれると説明する一方、今のところ基調的物価上昇率に大きな影響を与えているものではない、との認識を示した。

その上で、円安により仮に基調的な物価上昇率に無視できない影響が発生する場合は金融政策上の判断材料となると述べた。通常であれば円安のインフレ率への影響は一時的にとどまるが、円安が期待インフレ率の上昇を通じて今年のインフレ率に影響し「25年の春闘の賃金上昇率に跳ねるということになれば、影響が長期化する」と指摘。「そういう動きが予想できるような状況になれば、その手前で(利上げが)判断できる」と語った。

半面で、円安が続けば輸入物価が上昇し「程度によっては、実質所得に対する下押し圧力を通じて消費に悪影響が及ぶ可能性もゼロではない」と指摘。現時点では、名目賃金が伸び率を高める一方で輸入物価上昇の影響が減衰していくことが実質所得の改善につながり、消費は強いと期待しているが、そうしたシナリオが本当に実現していくか「政策運営上、重大なチェックポイントだ」と述べた。

<見通し期間後半のシナリオ実現なら、政策金利「ほぼ中立金利近辺に」>

日銀は26日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、より基調的な動きを示す生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)の前年度比上昇率について、24年度と25年度を1.9%、26年度は2.1%とした。

植田総裁は、基調的な物価上昇率が現在はまだ2%を下回っており「当面、金融環境が継続すると考えている」と語った。その上で、今後、日銀が描いた見通しが実現していけば、持続的・安定的な2%物価上昇の実現に「かなり限りなく近づく」と指摘。特に見通し期間後半について「この通りの姿になっていけば、政策金利もほぼ中立金利の近辺にある」との見通しを示した。

中立金利は論者によって推計式が異なり、推計値も幅があるが「もう少し知見を深めていきたい」と話し、今後、日銀として中立金利の水準を絞り込んでいく考えを示した。

一方で、展望リポートの見通しに沿って「現実が動いていけば、それだけで金融緩和度合いの調整の理由になる」とも述べた。ただ、いつの時点でその判断ができるかは「非常に難しいところだ」として明確に答えなかった。見通しが上振れる可能性が「無視できない確率」で出てくれば、政策調整の理由になるとも話した。

植田総裁は「過去20―30年間、持続的に金利が上がった経験が日本経済はない」と指摘。データの蓄積が不十分で段階的な利上げがもたらす影響には不確実性があり、利上げの決断には慎重さが求められる半面で、「あまりゆっくりやっているとどこかで急激に(利上げを)進めないといけない。それに伴うショックが発生するリスクもある」と述べ、双方のバランスを取ることが非常に重要だと話した。

<国債買い入れ、6兆円継続に「反対出ず」>

日銀は25─26日の金融政策決定会合で、政策金利である無担保コールレート翌日物の誘導目標を0―0.1%で据え置くことを決定。長期国債についても、3月の決定会合で決定された方針に従って実施するとした。

日銀が国債購入額の減額や保有残高の縮小方針を示すのではないかとの思惑が一部で浮上する中で政策据え置きが伝わり、外為市場では円安が進行。155円半ばで推移していたドルは156円台に上昇した。

植田総裁は同日の会合で国債買い入れを6兆円で続けるということに特に反対は出なかったと説明。国債買い入れの減額について「具体的にいつの時点と言える段階にない」とした。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、ドル高/円安に政府が苦慮する中、植田総裁から円安けん制色を帯びたコメントは聞かれなかったと指摘。「政府と協調しての円安けん制という観点から言えば、今回の日銀の対応は非常に冷淡なものになった印象だ」と述べた。日銀の決定内容公表後にドル/円が156円台に乗せたのは自然な反応であり「為替介入の有無が引き続き注目される」とした。

ドル/円は総裁会見後、156円後半から154円後半まで約2円急落。その後、急速に値を戻すなど振幅の大きな展開となった。

(和田崇彦、杉山健太郎)

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最終更新:4/26(金) 19:18

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