二期連続赤字に沈むワコール「2つのジレンマ」、希望退職150人程度の募集に対して215人が応募

3/6 5:32 配信

東洋経済オンライン

 日本の大手老舗下着メーカーが危機に瀕している。ワコールホールディングス(HD)は2月26日、中核会社ワコールで公表していた希望退職の募集結果を発表した。150人程度の募集に対し、215人が応募。希望者は4月30日付で同社を去る。

 「何よりも会社を軌道に乗せて、社員を幸せにしたいというのが一番の思い」。ワコールHDの矢島昌明社長は、構造改革の狙いをそう語る。

 ワコールHDは前2023年3月期、1946年の創業以来初となる最終赤字を計上。今2024年3月期も売上高は前期比3.9%増の1960億円となる一方、営業利益は120億円の赤字(前期は34億9000万円の赤字)と損失が拡大する見込み。希望退職などに係る構造改革費用、 アメリカの買収会社でブランドの事業撤退にかかる減損損失が重荷となった。

 女性の社会進出とともに成長し、揺るぎないシェアを持っていた大手下着メーカーが業績不振に陥ったのはなぜか。そこには、旧来からの卸売りを主体とするメーカーの苦悩があった。

■老舗メーカーが背負った「2つのジレンマ」

 2023年11月、ワコールHDは今回の希望退職などの構造改革を含む、中期経営計画を発表した。2026年3月期に売上高2030億円、営業利益130億円を目指すうえで、改革のメスをワコールの中枢とも言える開発・生産にまで及ぶという内容だった。

 矢島社長は、「ここ数年で在庫が膨れ上がり、回転率も悪化した。それは決してコロナ禍のためではなく、根本的な原因は当社のモノづくりの仕方にある」と説明する。

 ワコールの強みは研究開発、商品企画、生産・品質管理、販売に至るまでの一連の機能を自社で備えていることだが、近年はその強みが逆にあだとなっていた。ワコールでは商品企画が、販売の14カ月前から始まる。ただ「消費者の好みが多様化して流行の移り変わりも早い中で、1年2カ月後を予測しながら作るのはリスクが高すぎる」(矢島社長)という問題を抱えていた。

 昔はメーカー主導でトレンドを生み出し、大量生産しても売れ残りをセールでさばくことができた。だが近年、アパレル業界の大量生産・大量消費の悪しき習慣を見直す動きの中で、セールは縮小傾向にある。在庫消化のサイクルは崩れてしまった。

■ユニクロが急速に台頭

 メーカー主導のサイクルは、ファーストリテイリングのユニクロやしまむらといった、競合他社の台頭によっても大きな影響を受けた。ユニクロは2008年、ブラジャーの下着機能とトップスの役割を併せ持った「ブラトップ」を発売。その後も下着の締め付け感が少ないワイヤレスブラジャーなど、インナーウェア市場に新たな価値観を打ち出した。

 英調査会社ユーロモニターによると、女性用下着の国内市場シェア(2022年)は首位がファストリの21%(キャミソールやヒートテックインナーも含む)、2位がワコールHDの19%で、3位にしまむらの14%が続いている。

 「今中計で、14カ月スパンを6カ月まで短縮したい。そのためには継続品の比率を上げることが焦点になる」(矢島社長)。継続品とはシーズンごとの新商品ではなく、定番品を指している。現在、ワコールHDは継続品が約4割・残る約6割が新商品となっているが、この比率の逆転を目指すという。

 アパレルを筆頭にトレンド商品を扱う企業の場合、一般的に新商品の比率が高いが、その分だけ売上高予測が難しくなる。一方で買い替え需要が多い作業用品などの場合は定番品比率が高く、例えばアウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」では「継続品が3分の2以上を占める」(業界関係者)といわれる。

 インナーウェアを主戦場とするワコールHDで新商品が6割も占めてきたのは、同社が抱える「卸売りへの依存」というもう1つのジレンマがある。矢島社長は「当社ではほぼ毎月、新商品が出ている。作る側や売る側としては新商品がないと不安になるからだが、消費者は下着売り場に年何回行くのだろうか」と疑問視する。

 国内の販路別売上高を見ると、 量販店(GMSなど)がもっとも高い29.4%、百貨店が21.6%となっている。専門店や外部ECなどを含めると、卸売りが7割弱(いずれも2023年3月期実績)を占める。ワコールHDでは、販路ごとにブランドを設けてマーケティングしてきた。

 【2024年3月6日10時50分追記】データの一部に誤りがありました。上記の通り修正いたします。

 「だが販路に合わせたブランドを作っているだけで、同じような機能、同じようなテイストの商品が各所で生まれていた」(矢島社長)

 この問題はワコールHDグループDXマーケティング担当の篠塚厚子執行役員も「ワコールが展開する複数ブランドの商品を並べたときに、それぞれの違いが伝わってこなかった」と指摘する。

■不採算店の撤退にも着手

 今後は自社競合を極力なくす方向でブランドを集約する。継続品の比率を6割まで増やし、素材の共通化も進める。4割に厳選した新商品は、企画開発にかけるリソースを集中することで、より革新的な商品開発を目指す。

 並行して不採算店舗の撤退に着手し、今2024年3月期中に直営店22店、百貨店内の10店を撤退予定。それ以外の150店程度についても条件交渉を進めている。

 前出の篠塚氏は2023年4月からマーケティング本部長を務めるが、管理職や現場社員など70人以上と対話する中で、改善点を探していったという。

 たとえば新製品企画書では、商品の機能性を説明する項目が多かった。「でも顧客は機能よりも、どんな悩みを解消できるかという視点で商品を選ぶのではないか」(篠塚氏)と、顧客起点を徹底するよう企画書フォーマットを見直した。

■下着に価値を感じない層が増えている

 課題は山積しているが、成果を上げている事業もある。篠塚氏が開発を率いた3D計測サービス「スキャンビー(SCANBE)」では、専用試着室で全身を3Dスキャンすると、全身18カ所のサイズなどを瞬時に知ることができる。

 販売員による採寸に抵抗感がある人などを想定して開発したが、20代を中心に全身サイズを定期的に計測するリピーターが増えるなど、新たな需要を生み出している。

 利用者数は2019年のローンチから20万人を超えており、「下着に対する価値や期待を感じていない層が増えていることこそ危機。無料でスキャンビーのサイズ診断を提供することで、実際に商品を試着してフィット感や価値を知ってもらいたい」と矢島社長は力を込める。

 一連の改革を経て開発された商品は、今秋から商品売り場に並ぶ予定だ。消費者の支持を増やすことができるのか。ワコールHDの挑戦が始まる。

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最終更新:3/6(水) 14:02

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