インボイス導入で高まる免税事業者の不満、岸田内閣支持率に低下圧力

11/21 17:00 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 10月に導入されたインボイス(適格請求書)制度により、収入が減少する恐れのある漫画家や個人タクシー運転手などフリーランスや小規模事業者らの不満が高まっている。岸田文雄内閣の支持率が過去最低に落ち込むことにもつながった。

内閣官房のウェブサイトによると、同制度の導入により、消費税の納付が免除されていた約460万者が影響を受ける。フリーランスや小規模事業者などの免税事業者(課税売上高が年1000万円以下)がインボイス発行登録を受けると納税義務が発生。免税事業者のままでいることも可能だが、その場合は取引先の税負担が増すため、顧客を失う恐れがあるほか、取引価格の引き下げを迫られる可能性がある。

岸田政権は家計支援を柱とする17兆円規模の経済対策を策定したが、税制を巡る政府の方針に対する不満が支持率を押し下げる一因となっている。最新の世論調査で内閣支持率は20%台前半に低下した。

大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは、支持率低下の大きな理由ではないにしろ、同制度に「不公平感を感じる対象者は少なくない」と述べた。

インボイス制度の導入は、政府にとって税収の増加につながる可能性があるほか、事業者が消費税を標準税率(10%)あるいは軽減税率(8%)で納付したのかが明確になる。

所得の低いフリーランスや小規模事業者にとって、インボイス制度の導入は収入減につながる恐れがあるとの危惧もある。9月には同制度の中止を求めて首相官邸前で抗議集会を開催。「STOP!インボイス」運動にはこれまでに56万を超えるオンライン署名が集まった。

漫画家の由高れおんさんは抗議集会で、同制度の影響について、「一番本当に問題なのは、これをやってしまうとアシスタントさんがいなくなってしまうところ」と指摘。「アシスタントさんというのは基本的にすごく年収が低い。消費税を払うことになったら、本当に何のために仕事をしてるんだろうということになりかねない」と語った。

帝国データバンクが10月に実施したインターネット調査(有効回答企業数約1500社)によると、インボイス制度の導入で現在または今後に「懸念事項あり」と回答した企業は9割を超えた。その理由に7割が「業務負担の増加」を挙げ、最も高かった。

岸田政権は、特に軽減税率の対象品の取引において、税務の透明性向上のためにインボイス制度が必要だと説明する。複数のエコノミストは、日本の制度は海外での導入例とおおむね同じ仕組みで、全ての事業者から消費税を確実に徴収するのに役立つとみている。

政府は事業者の負担を軽減するため、税額控除に関する経過措置や、小規模事業者・中小企業向けのIT導入補助金を拡充するなど、さまざまな支援策を講じている。それでもインボイス制度は岸田内閣の支持率を押し下げる税を巡る問題の一つだ。

政府は経済対策に所得税減税を盛り込んだが、来年半ばまでその恩恵を実感できないことに不満を持つ有権者から想定外の批判を浴びた。長期の課題である防衛力強化や少子化対策の財源が確保されていない中、減税による財政への影響も懸念されている。

財務省の2019年の資料によると、インボイス制度の導入で2480億円程度の税収増が見込まれる。岸田首相は先月の参院本会議で、「インボイス制度は複数税率の下で課税の適正性を確保するために必要な制度であり、これを中止することは考えておりません」と言明した。

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原題:Manga Artists, Taxi Drivers Hit as Japan Tax Frustrations Mount(抜粋)

--取材協力:Isabel Reynolds.

(c)2023 Bloomberg L.P.

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最終更新:11/21(火) 17:00

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