株価がここにきて大きく上昇している背景事情・・・東証市場改革は日本企業を変える大きなキッカケ

7/15 7:02 配信

東洋経済オンライン

 ここにきて株式市場が再び上値を目指す場面になっています。7月11日の日経平均株価は4万2224円となり史上最高値を更新しました。株価が好調な背景には良好な投資環境があります。足元で調査機関がマスコミなどを通じて公表している上場企業の業績の集計値は、来年度にかけて5期連続で最高利益の更新が見込まれます。業績の集計が好調なら、株価を集計して平均している日経平均株価も好調なトレンドが期待できます。

 ただ、株高の背後にある重要なポイントは東京証券取引所(東証)が現在行っている市場改革です。「投資家にとっての市場の魅力を向上させる」という観点でさまざまな改革が行われています。この市場改革は日本企業の将来にとって、とても大切なことです。日本経済の先行きを大きく改善させるキッカケと期待することなので、広く一般の読者の方にも知ってもらいたい内容です。

■「東証1部」がなくなり「プライム」になった経緯

 昔から市場をどのように改革したほうがよいのか、さまざまな議論がされてきました。改革の本格スタートは2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書と見られます。これを受けて、東証は2022年4月から上場市場をプライム市場、スタンダード市場とグロース市場の3つに再編成しました。

 第2次大戦後の1949年から続いてきた東証1部市場、1961年からスタートした東証2部市場といった、歴史ある市場が廃止されたことは、東証の市場改革への意気込みを感じさせます。また新興企業が上場していたマザーズ市場や、JASDAQのスタンダード市場とグロース市場も廃止されました。その結果、下表の5市場が現在の3市場に移行しました。

 移行理由は大きく2つあります。第1の理由は、昔の5区分は、細かすぎてわかりにくかったということです。読者の皆さんも東証1部は日本を代表する企業が上場しているというイメージを持っていたとは思います。

 それ以外で言えば、例えば「JASDAQグロース市場」と「マザーズ市場」は、共に成長が期待される新興企業の市場区分ですし、類似の市場です。JASDAQグロース市場に上場するためには、200人以上の株主がいなければいけないのに対して、マザーズは150人以上など、上場するための基準は異なりますが、一般の人にはこうした細かい違いはわかりません。

 この点、新しい3つの市場区分の趣旨はわかりやすくなっています。まず、プライム市場はグローバル基準のガバナンスを備えた企業が対象とされます。ガバナンスとは「組織的に不正や不祥事を未然に防いで、企業価値を高めるための取り組みがされていること」を指します。

 なかなか企業の不祥事のニュースは後を絶ちませんが、防ぐための組織的な取り組みが国際基準を満たしている企業が対象ということです。スタンダード市場も、もちろんガバナンスは重要ですが「一定の範囲を満たすこと」が条件となります。そして、グロース市場は新興企業などの成長企業のための市場となります。

■企業価値を向上させる動機付けにならなかった

 3市場区分の移行への2つ目の理由は、昔の区分は、一旦、上場したら、その上場を続けていくための基準が緩かったという問題への対応です。例えば、昔の東証1部に新規上場するには会社の収益面でのハードルとして「過去1年間の利益額が4億円以上、あるいは売上高が100億円以上」が必要でした。しかし上場の維持には「利益の大きさ」のハードルはなくなり「連続して3年連続赤字になっていない」に変わります。

 これでは企業は利益を高めなくても、東証1部に上場しているという一定の信用が得られてしまうので経営者側の危機感が高められません。企業価値を向上させる動機付けにならなかったという問題がありました。現在のプライム市場の「過去2年間の利益の合計が25億円以上、あるいは売上高が100億円以上」という条件は新規上場でも上場維持でも同じに設定されています。

 こうした市場区分の変更からも影響を受けた東証の改革の2つ目の柱と見られているのは、TOPIX(東証株価指数)の見直しです。昔の区分の時代、TOPIXは東証1部に上場している全企業を対象に、その株価の変動を反映する株価指数でした。ところで、株価指数で最もよく知られるのが日経平均株価です。しかし、日本株の投資信託で使われているパフォーマンス目標の基準の多くはTOPIXが用いられます。

 これにはさまざまな理由がありますが、大きな理由として日経平均株価には時価総額(株価×株式数)の観点が入っていないということです。TOPIXは日本を代表する企業の時価総額合計の推移が反映されています。投信のパフォーマンスがTOPIXを上回ることを目標とされる趣旨は、日本を代表する企業全体の時価総額の変動よりも、パフォーマンスが勝ってほしいということです。

 東証1部企業を用いて算出されていたTOPIXですが、新しい市場区分ではルールが変更となりました。新ルールは①東証1部に代わりプライム市場に上場した銘柄が追加されるようになりました。ただし②すでにTOPIXに入っていた昔の東証1部銘柄のうち、プライム市場以外(スタンダード市場など)の区分に移行した銘柄は除外されず、そのまま組み入れられました。現在は、プライム上場企業でも、時価総額が一定以上に満たない銘柄は徐々に組み入れから外されています。

■公表されたTOPIXの新しい改革案

 そして、今年の6月に東証からTOPIXの新しい改革案が公表されました。TOPIXに組み入れる新たな銘柄をプライム市場から選ぶのではなく、プライム、スタンダードとグロースの3つの市場に上場している銘柄のなかで、時価総額と売買代金が共に高い方から選んでいくというものです。

 いずれの市場に上場しているかに関係せずに、企業価値が市場から評価されている銘柄を選ぶという考え方は、従来のプライム、あるいは東証1部のみから銘柄を選ぶという視点から離れて斬新なものです。2026年10月から適用開始予定とのことで、まだ2年以上先となります。

 ですが、東証ではスタンダードやグロースからそれぞれ50銘柄ずつがTOPIXに組み入れられる可能性との試算も公表しており、これらの市場で時価総額や売買代金が高い企業は思惑がらみで買われる可能性が考えられます。

 TOPIXに組み入れられると、日本を代表する企業の1つと東証から認められることなので、企業にとってステータスになります。企業経営者はTOPIXに選ばれることが1つの経営目標となります。こうした企業は、企業価値を高めて、投資家から評価され株価や時価総額が大きくなり、市場での売買も活発になることが期待されます。

■市場改革で注目される3つ目

 このように東証の市場改革の大きな目的は経営者に企業価値を高める努力を促すことです。そして市場改革で注目される3つ目は、2023年3月に東証が公表したプライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象とした「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」になります。

内容の詳細については『「PBR1倍割れ」でも稼げる企業を探す簡単な方法』で解説したので、そちらを読んでほしいのですが、企業に対して収益性を高めて企業の価値を向上させ株高を目指す取り組みを投資家に向けて「開示」してほしいというものです。

東証からは今年の1月15日から実際に開示を始めた企業を調べてそのリストを公表しました。リストは毎月15日をメドに開示企業を追加して、東証のウェブサイトを通じて発表されています。

 このように実際の取り組みを投資家向けに開示した企業の株価パフォーマンスはよいのでしょうか。最初にリストが発表された1月から半年程度が経過したので、プライム上場企業を対象に1月15日公表時点のリストでプライム企業の開示企業と非開示企業の株価パフォーマンスの平均推移を調べてみました。

 青線のグラフは開示企業の累積株価パフォーマンスです。直近の7月5日にかけて緩やかに上昇しており、赤線の非開示企業と比べても上昇が大きくなっています。これは、取り組みを投資家向けに開示した企業の株価パフォーマンスが非開示企業を上回っていることを示しています。開示することは、企業が株主のために株価を意識した経営をしていることの表れで、それが株価のパフォーマンスに表れたと考えられます。

 投資の候補となる銘柄を探す際に、開示しているかを東証のウェブサイトでチェックすることは効果的な株式投資をするうえで重要になるでしょう。

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最終更新:7/15(月) 7:02

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