湘南美容クリニックがナスダックに上場、急拡大する美容医療市場

5:51 配信

東洋経済オンライン

日本各地で深刻化している医師不足。しかし、日本国内の医師数は増え続けている。いったい何が起きているのか。『週刊東洋経済』11月30日号の第1特集は「医者・医学部 崖っぷち」だ。医師不足をはじめとした診療現場を取り巻く現実、その一方で盛り上がりを見せる美容医療、さらに医学部の最新事情を取り上げる。

 9月、湘南美容クリニックを展開するSBCメディカルグループホールディングス(SBC・HD)がアメリカのナスダック市場に上場した。

 美容医療グループとしては日本最大で、売上高は1億9354万ドル、純利益は3900万ドル(2023年12月期)。日本の株式市場では医療法人の上場が認められておらず、アメリカ上場でさらなる拡大を図る。

 代表の相川佳之氏は日大医学部卒の54歳。2000年に美容クリニックを開業し、1代で現在の地位を築いた。2000年代初頭までの美容整形市場を開拓した大塚美容形成外科や高須クリニックなどの経営者より1世代若い。

 2000年代以降、美容医療の主流は、皮膚疾患用の治療機器を用いたシミ・たるみ治療や、ボトックスなどの注射による治療にシフトしていく。つまり「切らない施術」が広がっていった。

 折しも2009年には品川美容外科で脂肪吸引手術を受けた女性が死亡する事故もあり、メスを使わない施術の人気が高まった。日本美容外科学会(JSAPS)の調査によると、美容医療では非外科的な手技が施術のメインになっており、今では約9割を占める。

 現在、こうした「切らない施術」を安価に提供することを武器に、美容クリニックやエステティックサロンが全国展開している。その先駆けといえるのが相川氏のSBCである。

■急拡大の市場

 美容医療、エステ市場においてコロナ禍は大きな転換点になった。

 医療行為ではないが、コロナ禍以前に美容領域で頭角を現していた業態の1つに脱毛サロンがある。初めに前受金を新規客から取り運転資金に充てる仕組みだが、コロナ禍で利用者数が激減し、資金繰りが悪化。脱毛サロン「銀座カラー」の運営会社であるエム・シーネットワークスジャパンは債務超過に陥り、2023年12月に破綻した。

 他方、人と会う機会が減ったことで「今ならダウンタイム(術後に起きる痛みや内出血などが回復し、日常生活に戻るまでの期間)を気にせずに済む」と美容医療の施術を受ける人は増加した。

 JSAPSの調査によると、2022年の施術数は2年前の2.2倍。繁華街や駅前など立地のよい店舗スペースがコロナ禍で空き、美容クリニックは出店攻勢をかけることができた。そうして店舗数を増やしたのが冒頭で紹介したSBC・HDや、業界2位のTCB東京中央美容外科である。

 出店が増えても、医師がいなければ美容クリニックは開業できない。客の大半が「切らない施術」であり、医療行為としては簡単な部類であることから、大手美容クリニックによる若手医師の青田買いが目立つようになり、医療界では「直美(ちょくび)」が問題視されている。

 消費者トラブルも増えている。傷痕が残ったり、高額な割に施術効果が低かったりするなど、苦情が多発。国民生活センターによると、2023年度の美容医療サービスに関する相談件数は6264件で、2年前の約2.3倍になった。

 急成長の必然か、ゴタゴタが伝えられる大手グループがある。コロナ禍で躍進したTCB東京中央美容外科は、『週刊文春』によると今年9月以降、大幅な人員減を実施した。

 課題を抱えながらも市場が拡大する美容医療。これからどこに向かうのだろうか。

■厚労省が規制に動く? 

 まず挙げられるのがオンライン診療の拡大だ。かつては初診でのオンライン診療は認められていなかったが、2020年4月、コロナ禍を機に解禁になった。美容医療やダイエット診療などの自由診療分野は来院のハードルが高かったが、これが追い風になっている。

 企業もこうした動きに追随する。楽天グループは、NEXYZ.Group(ネクシィーズグループ)とSBCメディカルグループが設立した医療検索・オンライン診療サイト運営会社のアイメッドと手を結び、薬の直販に乗り出している。

 もう1つの流れが、美容クリニックのM&A(合併・買収)だ。脱毛クリニック大手の「ゴリラクリニック」「リゼクリニック」は、親会社が事業整理をするタイミングで、SBC・HDの相川氏が個人マネーで買収した。コロナ禍後に業績が落ち着いたクリニックの合従連衡は今後も続くだろう。

 今後のカギを握るのは国の動きだ。これまでは消費者トラブル以外は静観していたが、ついに重い腰を上げた。

 6月、厚生労働省は美容医療分野にメスを入れるべく、「美容医療の適切な実施に関する検討会」を設置した。美容を目的とした医行為について、診療行為・契約行為を洗い出し、年内に議論をまとめる。何らかの法的規制にまで踏み込むのか、注目される。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:11/29(金) 5:51

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング