建て替え計画凍結の名古屋栄三越、原因はオフィス需要低迷と建設費高騰《楽待新聞》

4/15 19:00 配信

不動産投資の楽待

名古屋市の中区にある栄交差点。その象徴的存在である「名古屋栄三越」のビルに建て替え計画が持ち上がっていたことをご存じだろうか。

2019年、同ビルを運営するオリエンタルビルは、この名古屋栄三越を180メートルの高層ビルに建て替える計画を発表した。

当初、低層階には三越などの商業施設、高層階はホテルとなるような複合ビルの建設が検討されていた。しかし、建設費の高騰やオフィス需要の不透明感から2023年7月に建て替え計画は凍結された。

とはいえ別の計画を模索するなどし、再開発は継続する模様。今回は、名古屋栄三越の周辺状況や当初の計画、想定される新たな計画案についてまとめた。

■名古屋の中心地・栄

栄は名古屋市で最大の繁華街かつビジネス街である。

市内の交通面においては、東海道新幹線やJR各線のほか、名古屋鉄道(名鉄)、近畿日本鉄道(近鉄)、名古屋市営地下鉄などが乗り入れる「名古屋駅」が中心だが、街で言えば栄が中心地と言えよう。

栄の中心は名古屋駅から東に約2.4キロメートルに位置する。

「栄駅」には市営地下鉄の東山線と名城線が乗り入れ、両線は直角に交差するように走る。

東山線は名古屋市を東西に横切る路線であり、名古屋―栄間は同路線で2駅・5分である。名城線は名古屋の環状線であり、栄駅は環状の西端側に位置する。

栄では最近の再開発により高層ビルも見かけるようになったが、主に高さ50メートル程度の中層ビルが並び、ビルには店舗やオフィスなどが入居している。

建物の高さも似ていることから大阪・御堂筋のような雰囲気に近い。今回の「三越」や「松坂屋」といった百貨店のほか、「ラシック」や「パルコ」などの大型商業施設が複数あり、常に人で賑わう地区である。

ちなみに、栄の地下街は国内有数の盛況ぶりで、遊びとショッピングの場所でもある。

再開発に関しては、高さ200メートル超の「ミッドランドスクエア」や「JRセントラルタワーズ」などの高層ビルが並ぶ名古屋駅周辺が先行しているが、栄でも近年は高層ビルの建設が進められている。

例えば、2023年7月に竣工した高さ約158メートル・33階建ての新「中日ビル」は2024年春の全面開業を予定している。

■当初の建て替え計画は

名古屋栄三越が入居する現在のビルは、1954年の建設、地下2階・地上9階建ての構造だ。実に70年前のビルである。

2010年から2012年にかけて耐震補強工事が実施され、2016年と2022年には改装工事が行われている。高経年の建物ということもあって、メンテナンスには力を注いできた。

しかし、無駄な構造や高い維持費など古いビル特有の問題も多く、こうした状況を見て、オリエンタルビルは2019年9月に再開発構想を発表した。

本計画は、社長の会合で発表された形だ。公式サイトなどに掲載されたものではないが、当時の報道によって再開発の中身は明らかになっていた。

それによれば、現存するビルは取り壊され、高さ180メートル・地上34階建ての新しいビルが建設されるとされていた。

報道機関に提供されたパース図や動画によると、低層階までは現在の三越ビルと同じような規模で、中層階以上は一回り狭くなるような構造だ。現在の三越の上に高層階が建てられるようなイメージである。

新ビルの低層階には三越などの商業施設が入り、中層階以上にはコンベンションホールやホテルを誘致するとしていた。店舗、オフィス、ホテルから成る複合高層ビルとなる計画であった。

■オフィス需要に懸念で建て替え計画凍結

現在の三越ビルは栄の中心に位置し、建て替え後のビルは街の新たなランドマークとなるはずだった。

当初は2029年の完成を目指して、2024年までに計画を固める予定だったが、2023年7月に計画の凍結が発表された。

主な要因はオフィス需要の不透明さと建設費の高騰のようだ。オフィス需要に関しては、栄で相次ぐ再開発ビルとの奪い合いを懸念しているという。

確かに名古屋のオフィス需要は軟調である。シンクタンクのニッセイ基礎研究所によると、名古屋における2022年のオフィス賃料を100とした場合、2026年には92に低下すると推測されている。

2012年以降、賃料は上昇し続けてきたが、今後はオフィスワーカーの多い情報通信業や金融・保険業などで就業者数が減少され、需要減少が見込まれる。テレワークの普及もあり、状況は厳しいようだ。

これまで増加を続けていた名古屋市の人口も2021年から減少に転じている。こうした状況で新たなビルを建設しても採算が取れるのか、かなり危険なラインにあるとオリエンタルビルは判断したのだろう。

先述した新「中日ビル」は、久屋大通を挟んで三越の向かいにあり、高級ホテルも入居するなど、当初計画されていた三越の建て替えビルの構想と近い。

他にも、三越の目の前にある県道60号の向かい側では、2026年3月竣工を目標に高さ約211メートルの高層ビル建設が進められており(仮称:錦三丁目25番街区計画)、こちらもホテル、オフィス、商業施設が入居する予定だ。

■規模を縮小して再開発か

2024年2月現在、再開発の凍結解除または別案に関する具体的な情報は出ていない。しかし、現状ビルの老朽化という問題があるほか、名古屋の一等地というポテンシャルを生かさない手はない。

少なくとも規模縮小など、方針を変更した上で新たな再開発が進められることになるだろう。当初の計画を踏襲し、高度を下げつつも、オフィスや商業施設が入居する新ビルが建てられる可能性も捨てきれない。

もしくはさらに規模を縮小し、商業施設「ラシック」が入居する地上12階建ての「栄三丁目ビルディング」のような建物になるかもしれない。同ビルは8階までがラシックで、上部階はオフィスという構造をしている。

名古屋の中心地に位置し、その象徴的な存在である「名古屋栄三越」ビルがどのように姿を変えるのか。再開発の内容によっては周辺地域の人流にも影響を及ぼすかもしれない。

今後どのような計画が発表されるのか、注目しておきたい。

山口伸/楽待新聞編集部

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最終更新:4/15(月) 19:00

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