モノ言う株主が狙う銘柄を探せ!
(文 大川 智宏) 3月を期末とする企業の決算発表が続いているが、その後の株主総会の焦点となるのが、モノ言う株主であるアクティビストの動向だ。
前編「「日本株」のヒントは「オリエンタルランド」にあった…! 個人投資家の命運を握る「モノ言う株主が買った銘柄」を徹底的に分析してみた!」で詳しく説明したが、アクティビストは、自身の保有する株価が効率よく上昇するように株主の利益にかなう様々な提案を行う。なかなか難しいが、この動きに便乗できれば、株価の上昇が期待できるはずだ。
特に、彼らが提案を公表した直後がもっとも株価が強く上昇する傾向にあるため、もしそれを事前にざっくりとでも把握できれば、なおさら大きな恩恵を得られる可能性が高い。
そこで、今回は、直近のアクティビストによる企業への株主提案の事例を踏まえて、どのような銘柄が彼らに選ばれやすいのかについて考えている。
もちろん、アクティビストの運用方針や投資哲学はファンドによって千差万別であり、それを一般化するのは困難だろう。また、彼らは独自の分析に基づいて厳選したごく少数の銘柄に投資資金を注ぎ込むため、それを事前に予想するのは砂の中から金を見つけるようなものである。
しかし、その根底にある共通要素を定量化してみれば、確率は上がるだろう。
まずは、アクティビストがどのような銘柄に投資しているかを見ていこう。
アクティビストが買った株
前編では、オアシス・マネジメントの保有銘柄を紹介したが、業種に偏りはなく、外需製造業や内需企業など、バランスよく投資をしている印象だった。
また、企業の規模としては、一部例外はあるものの、おおね1000億円~3000億円程度の中型株をメインターゲットにしているようだ。数字には表れにくい独自の切り口で投資先を選定しているのだろう。
つづけて、欧州系証券会社出身の若者が創業し、近年頭角を現し始めている日本のアクティビスト(会社はシンガポール)であるブラック・クローバーの保有銘柄の一覧を紹介しよう。
図:ブラック・クローバーの保有銘柄の例
こちらは、業種が卸売や建設、金属製品に偏っているように感じられる。
このファンドの得意分野なのだろうか。時価総額については、上限でも400億円、下は数十億円とかなりの小型銘柄にまで食指を伸ばしているようだ。前述のように投資資金の規模の問題もあるかもしれないが、100億円に満たないようなマイクロキャップの銘柄は分析情報に乏しいため、それらを徹底的に調べ上げて投資を決断するという自信が垣間見える。
そして一番の特徴は、これらの企業のバリュエーションだ。特にPBRについては、すべての銘柄が1倍を大きく下回っており、多くの銘柄が0.5倍前後となっている。
ほぼ間違いなく、PBR1倍割れ是正の流れに乗る形で、狙いを絞って銘柄選択をする運用哲学があるのだろう。
加えて、割安な銘柄は、本来であれば株価が下落した結果としてバリュエーションが低下しているために配当利回りは高くなる傾向にあるのだが、これらの銘柄は総じて3%を割り込んでいるのが特徴だ。
おそらく、増配などの還元強化への株主提案などを視野に入れて、割安ながらも配当利回りが低いような銘柄を選んでいるのかもしれない。なんともユニークで、方針は明確ながらも、しっかりと投資リスクを取っていく運用方針のようだ。
アクティビストの「狙い」を分析せよ!
このように、バランスよく独自の運用ルールに従って投資をするファンドや、ひたすらに割安な小型株を選ぶファンドなど、その形態は様々である。そのため、ひとくくりにアクティビストはどんな銘柄を保有しているのかを定量化し、その適正値を見ていくことにそれほど有用性はないだろう。
では、結局彼らが選びそうな銘柄を数字で絞り込んでいくことは不可能なのかというと、そうではない。
冒頭述べたように、パリサー・キャピタルが京成電鉄にオリエンタルランドの保有比率の引き下げを提案しているのは、売却益によって株主還元の強化を求めていることにある。
また、年初に話題になった米国のエリオット・マネジメントによる三井不動産株の取得も、偶然か否かは不明だが、オリエンタルランド株の持ち分の減少と自社株買いの実施を求めていた。実際に、三井不動産はこれに応える形で、4月に自社株買いの実施と新たな長期の成長戦略を公表することとなっている。
アクティビストに関するこう言った具体的な例は、最近だけでも事欠かないほど多い。
つまり、豊富な現金や有価証券、不動産などの換金性の高い資産を保有しているにもかかわらず、株主還元に積極的ではないために株価が低迷している企業は、自分たちが株を取得して株主提案をすれば解決できるから割安である、というのが彼らに共通する基本的な考え方なのだろう。
特に、近年槍玉に挙げられている政策保有株などは、投資家としても解消に向けた提案をしやすいため、その金額が大きいほど魅力的な投資対象として映るだろう。
アクティビストを惹きつける「銘柄の特徴」
そこで、最終的にこれらを踏まえて、定量的にアクティビストが好みそうな銘柄を抽出してみたい。まず、現金性資産については、現預金、売買目的の短期有価証券、投資不動産、政策保有株(特定投資株式+みなし保有株式)の時価の合計額を見ればいいだろう。そして、その額に対して時価総額が小さい企業が魅力的(割安)ということになるので、PBRのように時価総額を現金性資産で除して数字の低い銘柄を選定すればいい。企業買収の際にしばしば用いられる、ネットキャッシュ比率のようなものだ。
これが、アクティビストを惹きつける指数となる。これを「アクティビスト誘引指数」と呼ぼう。
そして、これに加えて、これまでの株主還元の姿勢として、過去5年分の総還元性向(配当+自社株買いの総額を純利益で除したもの)を観察し、その値が市場水準を大きく下回る場合に、株主還元の改善余地が大きく、アクティビストにとって資金を投じて改革したいと思える銘柄として映るだろう。
また、大型株は一部の大手アクティビストを除いて運用規模の点から投資が困難になると思われるので、時価総額5000億円以下の中小型株から選定した方が無難かもしれない。
参考までに、この条件を満たす銘柄をアクティビストの「次なる一手」の候補を抽出している。
一挙公開!「アクティビストが狙う珠玉の28銘柄」
図:アクティビストの「次なる一手」候補銘柄の例
さらに連載記事「まだある「日本の割安株」…! 絶好調の東証「‟割安”企業一覧」入りを目指す、プロ厳選「珠玉の15銘柄」を一挙公開する!」でも、これから上昇が期待できる銘柄を紹介しているので、ぜひ参考としてほしい。
マネー現代
最終更新:5/15(水) 6:02
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