10年、20年先の社会の変化を見据えて、子どもの教育を考え始める親が増えている。幼児から高校生まで教える人気学習塾「VAMOS」の富永雄輔代表が、教育の新潮流から、子どもの学力の伸ばし方のヒントなどを解説する本連載。
今回からは3回に分けて、2026年の中学入試を振り返り、全体の総括、レベル別・地域別の傾向、試験問題のトレンドと対策について語ってもらった。今回は全体の概況とトレンドについてお届けする。(進学塾VAMOS代表 富永雄輔、 構成/ライター 奥田由意)
● 受験者数は微減も、実態は「増加」と読む
今回は、2026年の中学受験について、全体のマクロな傾向と受験校選びのトレンドを解説します。
今年の受験者数は前年比でわずかに減少したともいわれていますが、ほぼ横ばいというのが正確なところだと思います。少子化が進む中、特に東京23区の中学受験率は依然として高く、むしろ率でみれば増えているという見方もあります。少子化の影響を踏まえれば、実態としては中学受験の人気はむしろ底堅い、と捉えるべきでしょう。
また、受験者数がある特定の難易度の学校に一極集中するのではなく、偏差値帯にかかわらず人気校が分散しているのも今年の特徴です。これはとてもいい傾向だと思います。
● 全般的に高まる「共学人気」
今年の大きなトレンドとして、共学校への人気がさらに高まったことが挙げられます。男子校・女子校に比べ、共学校の絶対数がもともと少ないということもあって、どの偏差値帯においても共学校への人気が上がっています。
具体的に名前を挙げると、東京農業大学第一、東京都市大学等々力、北里大学附属順天、日本大学第一、芝国際、かえつ有明、安田学園、成蹊、青稜などの共学校が軒並み志願者を増やしています。
これは単純に「共学ブーム」と表現することもできますが、男子校・女子校の競争が激化したことへの反動として、共学に流れた受験生が増えたという面もあるでしょう。
男子校・女子校が第一志望だった層の一部が「入りにくい」と感じて共学に志望を変える動きは確かに起きています。ただし「共学ならどこでもいい」という姿勢ではなく、自分や子どもにとって何が合うかを真剣に検討した上で共学を選んでいる保護者が大半です。
● 「名前を変えた学校」が躍進
今年もう一つ顕著だったのが、学校改革を打ち出した学校や、名称変更・共学化を行った学校に対する注目度の高さです。
北里大附属順天は、順天中学校が26年4月から医学部をはじめ理系の学部を多数擁する北里大学の付属校となることで新たなスタートを切ります。かえつ有明は2006年に共学化。サイエンス科を設立して探求型学習に力を入れるなど、変革を進めています。
こうした近年新しいブランドイメージを打ち出した学校に保護者の関心が集まりました。「新しくなろうとしている」姿勢そのものが保護者に評価されているのだと思います。
一方、伝統校がしっかりと教育内容を充実させることで人気を高めているケースももちろんあります。
女子校の山脇学園は、名前を変えたわけでも派手なリブランディングをしたわけでもないのに、今年も非常に大きな人気を集めました。いろいろなバックグラウンドの人が「山脇がいい」と言い、気づけばみんなが「山脇はいい」ということになっていた――そんな口コミ的な広がりで人気に火がついた感もあります。男子校では攻玉社が同様に、教育内容の充実によって人気を保っています。
改革型の学校と伝統校が同時に評価されているということは、保護者の学校選びの目が多様化しているということでもあります。学校のタイプよりも、「この学校が何をしているか」を見て選んでいる保護者が増えているのです。
● 進学実績より「教育内容」で選ぶ時代へ
前述したように、保護者の学校評価の軸が変わってきていることも、今年の大きなトレンドです。
東京農大第一などの人気を見ると、大学の進学実績に加えて、学校の教育内容に強く興味を持つ保護者が増えていることがわかります。
特に、AI時代を前提とした学校教育への関心は高まっています。体験型の学習、その学校ならではの取り組み、施設や人的環境といった「学校という場所でしかできないこと」が評価されているのです。
理数系教育に力を入れる学校、実験・実習を重視する学校、国際教育を前面に出す学校――それぞれの方向性に、それぞれのニーズを持つ家庭が集まっています。
この変化の背景には、保護者世代自身の意識の変化があると感じています。今この社会の最前線にいるお父さん・お母さんが、「わかりやすい進学実績以外の部分でも人間が評価される」ということを身をもって感じているのでしょう。その感覚が、学校選びにも反映されているのだと思います。
● 「サンデーショック」の影響は?
今年は「サンデーショック」(2月1日が日曜日に当たることで、キリスト教系の学校が入試日をずらすことによる受験スケジュールの変化)の影響を受けた年でした。2015年の前回のサンデーショックのときは、「桜蔭を受ける子は女子学院へ」といった形で、比較的わかりやすくパターン化された受験生の動きがありました。
しかし、今年は違いました。
併願パターンが多様化しているため、同じサンデーショックでも受験生の動きが一方向に流れるのではなく、矢印が複数方向に向かっていたのです。桜蔭の受験生が女子学院のみならず、豊島岡女子学園や渋谷教育学園渋谷を併願する例も増えています。
併願校の組み合わせが従来のセオリーから大きく外れるケースが増えたことも、今年の大きな特徴です。
従来は男子校、女子校の受験者は男子校、女子校だけを併願する傾向にありましたが、共学も受けるケースが増えてきています。逆もまた然りです。渋渋の併願が広尾学園だけではありませんし、開成の受験者が渋渋を受けることもあります。
● 併願校選びはより一層複雑に
偏差値帯の面からも多様化がうかがえます。
以前であれば「この偏差値帯ならこの学校を受ける層は来ないだろう」と予測できていたのですが、それが通用しなくなっているのです。山脇学園や東京農大第一には、塾のデータでも想定していた以上に高い偏差値層が受験に訪れており、倍率以上に「実質的な難しさ」が増した側面があります。
「桜蔭の受験生が1日の午後に山脇を受ける」というケースもあります。一昔前であれば「あり得ない」と言われていた組み合わせです。
開成と渋渋を併願、桜蔭と渋渋を併願という受験生が現れているように、男子校・女子校・共学を混在させた併願の受験計画も珍しくなくなっています。
「自分に合った学校を自分で探す」という主体的な姿勢の表れであり、よいことだと思っていますが、こうした状況では、受験計画が複雑にならざるを得ません。従来は見なくてよかった学校まで併願校として見ておく必要があるという意味で手間が増えている、という現実も確かにあります。
● 「午後受験」の一般化が意味すること
受験日程で今年顕著だったのは、午後受験の広がりです。2月1日の午前に1校受けてそのまま午後も別の学校を受験する、さらに2日も同様にこなして2日間で4校受けるというケースが中堅校受験生を中心に増えています。
「入試前半で1校は確保したい」という心理からでしょう。こうなると、中学受験は学力だけでなく体力・精神力の勝負であるという側面が強まります。
受験生は、午前の試験結果を引きずりながら、午後は別の学校で全く異なる傾向の問題に向き合わなければなりません。
受験スケジュールの組み方が合否を左右する場面も出てきており、戦略的な日程設計がこれまで以上に重要になっています。
● ネット情報より「一次情報」を
サンデーショックもあったことで、今年の細かい志願者数や倍率のデータは、来年の受験においてそのまま参考にはしにくくなっています。ただし、「共学人気が高まっている」「面倒見のいい学校が人気」「記述量の多い問題が増えている」(問題については別の回で詳しくお話しします)といった大きなトレンドは来年も続くものとみてよいと思います。
こうしたトレンドを踏まえ、受験校選びにあたって、ぜひ心がけていただきたいことがあります。それは、インターネット上の情報だけで「わかった気」にならないことです。
ネットには玉石混交の情報があふれています。学校について「解像度が上がった」ように感じても、そのイメージが実態とかけ離れていることも少なくありません。
6年間通わせる学校を選ぶのですから、必ず学校説明会や文化祭に足を運び、自分の目で確かめてください。どの学校も今はオープンに情報発信をしていますが、その情報が自分の子どもに(いい意味で)「引っかかる」かどうかは、実際に見てみなければわかりません。
東京農大第一のように実践的で手を動かす学習に魅力を感じる人もいれば、開成のように400人規模のマンモス男子校に惹かれる人もいる。豊島岡や洗足学園、鴎友学園のような面倒見のよさを求める人もいる。
麻布が「面倒見が悪い」と言われて人気が下がっているという声もありますが、あの自由な校風にはなにものにも代えがたい魅力があります。
渋渋や渋幕(渋谷教育学園幕張)のように伝統校に比べて卒業生の人数も少なく、「詳しいことはまだわからないけれど何かがある」という魅力を感じる人もいるでしょう。
なお、保護者が自分自身の中高時代のイメージで学校を判断するのは危険です。
現在40代の保護者にとって、中高時代の記憶は20年以上前のものです。今の教育現場は、40代の大人が日々感じる社会変化のスピードよりも早いスピードで変わっています。まっさらな目で見に行くことが大切です。
世間の評価に惑わされず、自分と子どもがその校風をいいと思えるか、ここに行きたいと感じられるかどうかを基準に選ぶことが、結局は一番大切なことだと思っています。
*出願者数のデータは、各学校発表および四谷大塚中学案内サイトを参照しました。
富永雄輔
最終更新:4/9(木) 17:00