「メルカリ」も「ベネッセ」も実はラテン語だった! 明日誰かに話したくなる「あの名前」の由来

3/26 15:02 配信

東洋経済オンライン

ラテン語は、古代ローマで使われた言葉です。ラティウム地方という現在のイタリアの一地域のローカル言語に過ぎなかったこの言葉は、古代ローマがヨーロッパ世界の覇権を握ったことで、今も欧米を中心とした世界中にその痕跡を残しています。本稿では、『世界はラテン語でできている』より一部抜粋・再構成のうえ、ラテン語由来の固有名詞の例を紹介していきます。

■商品名や社名の元になっているラテン語

 世の中を見渡してみると、実は社名や商品名にラテン語があふれていることが分かります。たとえばフリマアプリの「メルカリ」はラテン語で「取引する(mercari)」という意味です。サービスの内容にぴったり合ったネーミングです。

 また、海外のPCメーカーのAcer(エイサー)は、ラテン語で「鋭い」という意味です。つまり、日本の家電メーカーのSHARPと意味が共通しています。

 ここまでの例はラテン語をそのまま使ったものですが、少し変えている例もあります。たとえば教育事業を展開しているベネッセ(Benesse)の名前は、ラテン語のbene「良く、適切に」とesse「ある、~である」を組み合わせたものです(ベネッセの公式の発信では、esseの意味を「生きる」としています)。

 Benesseの場合は元の要素がある程度残っていますが、由来からかなり離れた例もあります。スポーツメーカーのASICS(アシックス)も元はラテン語です。ただASICSという単語があるわけではなく、anima sana in corpore sano「健全な肉体に健全な魂」の各単語の頭文字をつなげたものです。

 これは古代ローマの詩人ユウェナーリスが書いたorandum est ut sit mens sana in corpore sano「健全な精神が健全な肉体にあれと願うべきである」という文を参考にしたものだと考えられます。

■自動車業界とラテン語

 一風変わった由来があるのは、自動車メーカーのAudi(アウディ)です。audiは、ラテン語で「聞け」という意味です。英語のaudio「オーディオ」、auditorium「講堂」、audition「オーディション」などの語源にもなったラテン語です。

 では、どうして自動車メーカーの名前が「聞け」なのでしょうか? 

 これは、創業者のアウグスト・ホルヒ(August Horch)の姓(Horch)が、ドイツ語で「聞け」という意味のhorchと同じ綴りであることが元になっているのです。

 「ボルボ」も、ラテン語由来の社名です。volvoは「私は転がす」という意味で、こちらはアウディよりも自動車メーカーの名前としてしっくりくるラテン語です。

 次は車名を見てみましょう。こちらもラテン語由来のものが数多くあります。

 たとえばトヨタの「プリウス」はラテン語で「より前面の、より優れた」という意味を持つpriusが元になっており、その他にも「イプサム」は「それ自身(ipsum)」、「スープラ」は「上に(supra)」という意味です。supraは、英語のsuper-「超」の語源になっています。

■ミシュランのマスコットにもラテン語の影響が

 車関係でもう一つ付け加えたいのが、タイヤメーカーのミシュランのマスコットである「ビバンダム(Bibendum)」です。よく知られる「ミシュランマン」の呼び名は通称です。

 ビバンダムの名前の由来は、ミシュランの初期のポスターに、タイヤのキャラクターともにラテン語でnunc est bibendum「今こそ飲むべし」と書かれていたことです。

 加えてポスターにはフランス語で「乾杯! ミシュランタイヤは路上の障害物を飲み込みます」とも書かれています。つまり、タイヤが路上にある障害物を踏んでも衝撃を吸収するという広告訴求に、「飲む」から連想してnunc est bibendum「今こそ飲むべし」というラテン語のフレーズをつけているのです。

 nunc est bibendumは、ホラーティウスの詩集『カルミナ』の第1巻37歌にあります。これはクレオパトラの敗北とローマの勝利を祝っている内容の詩です。タイヤの広告にもラテン文学からの引用が使われている背景には、当時のフランスではホラーティウスなどの作品が学校で広く使われていた事情があったと考えられます。

■ラテン語由来の施設名

 施設名がラテン語由来、というものもたくさんあります。

 最初に紹介したいのは、東京の大井町駅近くにある、品川区立総合区民会館の愛称「きゅりあん」です。

 この語源はラテン語で「会堂」を意味するcuriaです。「人が集まり、ふれあうように」との願いを込めて「きゅりあん」と名付けられたとのことです。curiaという名前は特に「元老院議事堂」という意味もあります。

 ローマの政治関連の語彙が由来になっている施設名としては、他に東京駅近くの「東京国際フォーラム」もあります。「フォーラム」は英語forum「広場、討論の場」が元になっていると思いますが、その英語のforumはラテン語forum「公共広場、市場、裁判」の綴りを変えずに英語に取り入れたものです。

 ちなみに古代ローマにあったForum Romanum(フォルム・ローマーヌム)という大きな広場は、その跡地が現在でも残っており、イタリア語でForo Romano(フォロ・ロマーノ)として一大観光地になっています。

 また古代ローマのforum「公共広場」では裁判も行われていたためラテン語のforumに「裁判」という意味があり、さらにはforumが語源になっている英語のforensicは「犯罪科学の、法廷の」という意味になっています。

 興味深い由来はまだまだあります。施設名ではないですが同人誌の展示即売会「コミティア」も、古代ローマの民会を指すcomitiaが元になっています。「コミック」が元ではないのです! 

■施設名にぴったりなネーミング

 東京国際フォーラムと同じ山手線沿線では、港区立男女平等参画センターの愛称「リーブラ」は、ラテン語の「天秤(libra)」が元になっており、男女平等を目指す施設名にぴったりなネーミングになっています。

 施設の役割つながりでいうと、福岡市男女共同参画推進センターの愛称「アミカス」は、ラテン語の「友達(amicus)」が元になっています。

 公共施設では、他にも東京の新宿中央公園内にあるSHUKNOVA(シュクノバ)が挙げられます。シュクの部分は新宿の「宿」、NOVAの部分はラテン語で「新しい」という意味で、新宿の「新」とかけています。

 ところで、ラテン語の-iaという接尾辞は、地名によく用いられています。英語のMongolia「モンゴル」、India「インド」、Slovenia「スロベニア」などが例として挙げられます。

 この語尾を使って名付けられた施設名があります。

 東京の有楽町にある、マルイが入っている商業施設「有楽町イトシア」(YURAKUCHO ITOCiA)は「愛しい」と-iaを合わせたもの、そして埼玉県にある川口総合文化センターの愛称「リリア」は、川口市の花であるテッポウユリの英語名lilyと-iaを合わせたものです。

 また、埼玉県の埼玉スタジアムに近いところにあるウニクス浦和美園の名前は、ラテン語で「唯一の(unicus)」という意味です。

 unicusは英語のunique「唯一の」や日本語の「ユニーク」の語源になっています。uni-は「1」を指し、unicycle「一輪車」など、広く使われています。

■まだまだあるラテン語由来の施設名

 他にも、北海道の新千歳空港にあるホール「ポルトムホール」はラテン語のPortus Omnibus(ポルトゥス・オムニブス)が元になっており、これは「全ての人たちのための港」という意味です。

 omnibusというラテン語は、現代語においてもそのまま「全ての人たちのための」という意味で使われています。乗り物の「バス」もフランスで用いられはじめたvoiture omnibus「全ての人たちのための車」という表現が元になっています。そしてこれがbusと略されたのです。

 omnibus「全ての人たちのための」という単語は、もう少し詳しく解説するとomnes「全ての人たち」に語尾がついて「全ての人たちのための」という意味になったものです。つまり、bus「バス」は元々は格変化語尾であり、単語の主要な意味には関係がないのです。

 ここで紹介した以外にも、そして私が把握している以外にも、日本中にラテン語由来の施設名があります。お近くで気になった洋風の名前があれば、ぜひ成り立ちを調べてみてください。

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最終更新:3/26(火) 15:02

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