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“日本人女性”も巡礼する「チベット仏教聖地」、敏腕TVディレクターが見た驚きの世界 標高4000m「天空の村」で、たくましくも心豊かに暮らす人々、そして花開いた“独自の芸術”とは?

3/17 5:11 配信

東洋経済オンライン

世界36カ国を約5年間放浪した体験記『花嫁を探しに、世界一周の旅に出た』が話題を呼んでいるTVディレクター・後藤隆一郎氏。

 その後藤氏が旅の途中で訪れた、ヒマラヤ山脈にある辺境の地、チベット仏教の聖地「スピティバレー」で出会った「標高4000mに暮らす人々」の実態をお届けします。

*この記事の前半:標高4000m! TVマンが単独で目指した「天空の村」

■チベットの定番料理、モモに舌鼓

 「ごっつさん」

 遠くのほうから、日本人女性の声が聞こえてきた。

 「カナさん!」

 そこには、ラフなタイパンツに黒い洋服、首にはベージュ色の大きなマフラーを巻いたカナさんの姿があった。マフラーの上からヒマラヤ山脈の雪のような白い布を纏っている。その出立ちは、山の女神さまの化身のように思えた。

 その後、二人で近くの食堂に入り、野菜のモモを注文した。モモは小籠包のような形をした蒸し餃子で、辛いタレをつけて食べる定番のチベット料理。

 「俺、バシストのフジ食堂で分けてもらった醤油を持ってきてるんだよね」 

 「え、本当ですか?  酢は持ってきました?」

 「酢もくださいって、さすがに言えなかった。醤油だけでも十分でしょ」

 チベットの村ではモモが続く可能性があるため、他の情報はほとんど調べてこなかったが、醤油だけはペットボトルに入れて持ってきたのだ。醤油さえあれば、どんな料理も美味しくなる。

 「あぶね~、ペットボトルがパンパンに膨らんで破裂しそうになってる」

 標高2000mのバシストと3650mここでは高低差が1600m近くある。

 「ここに来るまでの道、4500m超えの山がいくつかあったから、破裂していてもおかしくなかったですね」

 「荷物が醤油まみれになったら、完全に終わってたわ」

 インドの旅人の間で有名な「世界一危険な道」には、道路状況だけでなく、こんな危険も孕んでいたようだ。

 膨れ上がったペットボトルを見ながら、二人で軽く笑った。そして、醤油に辛いタレを少し混ぜ、美味しいモモを堪能した。

■カザの暮らしを目撃し、旅の醍醐味を実感する

 翌朝、二人でカザの街を散策した。

 薄暗い時刻に到着した昨日に比べると、街は若干の活気を帯びている。街の中心に人だかりができており、その中心でマジックをする男性の姿を見かけた。

 他にも、サイコロを振り、出目によってお金を賭けているおじさんたちもいた。

 厳しい自然環境の中、人々は質素な暮らしだけをしていると思っていたが、こうやって日常を楽しむ姿を見ると少しだけ温かい気持ちになる。

 よくよく考えてみれば、人間はどんな環境下でも、「遊び、楽しむ」ということを忘れないはず。ネットでスピティを調べたときに出てくる情報は、勤勉なチベット僧侶や厳しい大自然などの写真ばかりだった。

 しかし、自分の足でここまできてみると、そこにはごくごく普通の生活がある。

 そんな些細なことを知るのが、旅をする醍醐味の一つでもあるのだ。

 それから二人で、街を見下ろす崖の上に聳えるチベット寺院に向かった。急勾配の道を登るのは思った以上に大変で、遠くから見ると物凄く近くに見えた寺院は、歩くと、数キロもの距離がある。

 GPSアプリを見ると、すでに標高4000mを超えていた。全身が鉛のように重い。1週間以上スピティにいるカナさんは、すでに酸素の少なさに適応しているようで、ぴょんぴょんと子鹿のように猛スピードで崖の道を進む。

 ちなみに、彼女は世界中の山に登った「山ガール」でもある。俺は、46歳の老体に鞭を打ち、強い男を装いながら、何とか頂上の寺院にたどり着いた。

 「派手な寺院だねー」

 初めて見たチベットの寺院は、かつて、テレビ番組で台湾を取材したときに見た寺院に色使いが似ていた。赤・朱色・水色などのパステルカラーで装飾された建物は、日本のお寺に比べると随分とカラフルな装いだ。

■悠然とたたずむ龍と鳳凰

 屋根のてっぺんには2匹の黄金鹿に挟まれ、釈迦の説いた教え(法)を車輪に例えた「輪宝」が掲げられている。

 寺の扉の上には大きな牙を持った5体のカラフルな龍がこちらを待ち構えていた。ドアの取っ手は黄金の龍の形だ。

 本堂に入ると、真ん中に仏像があり、その周りには多彩な色使いの装飾が施されていた。

 天井にもオレンジで塗られた輪の中に龍と鳳凰が優雅に泳いでいる。

 お寺全体から醸し出される雰囲気には、民族独自の美意識があり、その空間には、自身の内面と繋がっていくような、神秘的で、精神世界を想起させる不思議な魅力があった。

■崖の上から「カザ」の街を眺める

 二人は崖の上に腰をおろし、カザの街を眺めた。広大なヒマラヤの山々のふもとに横たわるスピティ川。

 その手前に広がるわずかな平地に、小さな家が連なっている。

 川岸には緑豊かな田畑が広がり、その中で人々が労働している様子がうかがえた。

 このような人里離れた厳しい自然環境の下で生活する人々に、「人間という生き物」の力強さや逞しさを感じる。

 頭上には、チベットの五色幕であるタルチョが風に揺れていた。青、白、赤、緑、黄の5色が、ブッダの教えを象徴している。

 青は落ち着いた心、黄は何事にも動じない心、赤は常に精進する心、白は清らかな心、黒は堪え忍ぶ心を意味するという。

 タルチョは寺院や山の頂上に設置され、風に乗って教えが広がることを祈っている。カザの街にも、この風がチベット仏教の教えを運んでいるのだろう。

■「最果ての村」ピンバレーへ

 「ごっつさん、これからどこに行くか決めてます?」

 カナさんが静かに問いかけた。

 「いや、特に考えていないわ。おすすめの場所ある?」

 「じゃあ、ピンバレーに行ってみませんか?  スピティで最も奥深くにある村です」

 「最果ての村か。面白そう」

 こうして、二人はスピティバレーの最奥地にあるピンバレーへ向かうことになった。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/17(日) 7:21

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