今の日本では「結婚=不幸」という風潮の大問題、漫画にも一因?東村アキコ×植草美幸対談

3/31 9:21 配信

東洋経済オンライン

 結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ恋愛・婚活アドバイザーの植草美幸氏と、人気漫画家として男女の心理を描いてきた東村アキコ氏。人はなぜ結婚したいのか。結婚は幸せなものなのか。植草氏と東村氏が自らの経験を通して結婚観を語り合った。さらに東村氏は、現代の結婚難は「漫画家としても責任がある」と言う。その理由は⋯⋯。

■人生について考える機会がないまま社会に

 東村アキコ(以下、東村):前回は、現代の結婚が平等なパートナーシップの要素が強くなってきているというお話でしたが、相談所に来る若い女の子の中には、専業主婦になりたい子もたくさんいますよね。

 植草美幸(以下、植草):コロナ禍で増えましたね。リモートワークになって愛社精神が生まれない、そばにお手本となる憧れの先輩がいない、だから組織で働く楽しさや出世に対する意欲がわかない。それで「仕事より専業主婦がいいかな」と考えるようになったんです。

 東村:受験勉強があるから、高学歴の人ほど、どういう人生を歩みたいかじっくり考える機会が少ない。でも、コロナ禍のようにポカッと時間が空いて、改めて人生について考えることもあるのかもしれません。

 私の知り合いは、コロナではないけれど留学して考え方がガラッと変わりました。いい大学を卒業した才女ですが、留学先で、マルシェでリンゴを買っている幸せな家族なんかを見て、「私はキャリアよりも家族が欲しい。たくさん子どもを産んで、その子たちのために毎日料理して生きたい」と気づいたそうです。

 植草:男性も女性も、下手すると中学受験を控えた小学生のころから「勉強だけしていればいい」と言われて、いい大学に入って、いい会社に入る以外の価値観について考える時間がない。だから料理が作れなかったり家事もほとんどしたことがなく、急に「結婚したい」と思ってもできない。

 東村:それでいざ婚活を始めたら、家事を習得するというハードルが課せられるわけじゃないですか。結婚相談所のように教えてくれたり、応援してくれる人がいないとつらいですよね。

 植草:誰かに引っ張ってもらわないと、一人で走れない人は多いですね。お見合いをしても待ち男と待ち子。次にいつ会うかすら決められない。当相談所では、ハウツー動画を作って見てもらったり、細かく教えています。

 東村:マニュアルがないとだめなんですね。

■「結婚は今より楽になるため」にするもの

 東村:私は2回結婚し離婚したけど、結婚してよかったと思っています。

 植草:会員さんにも再婚、再々婚の方が少なからずいます。聞いてみると意外とドロドロの離婚をしてるんですよ。それでもまた「結婚したい」とご相談にいらっしゃいます。

 東村:メディアでは不倫など結婚の悪い例ばかりクローズアップされるけど、世の中、うまくいってる夫婦だっていっぱいいますよね。私は宮崎出身ですが、地元の同級生には20代で結婚して、そのまま時が止まったみたいに今も2人のムードが変わらない幸せなカップルがたくさんいます。

 植草:「結婚すると大変」と愚痴を言う人がいるから、結婚は不幸なものと思われがちなんです。そのうえ、アラフォーになると「今さら誰かと共同生活をするのは無理。我慢するのは嫌だ」と考える人も多い。でも、結婚は我慢じゃないですよ。結婚は今よりも楽になるためにするもの。

 植草:「楽」というのは、2人の収入を合わせて経済的に楽になるかもしれないし、2人で家事を分担して楽になるかもしれない。悲しいことは半分になり、嬉しいことは2倍に、子どもが生まれればさらに何倍にもなる。そういう意味で、結婚は今よりも楽に、幸せになるためにすることなんです。

 東村:私もそう思います。好きな人が家にいて、子どもやペットがいて、イチゴジャムを煮たりする。幸せ感じんのってそういう時だと思うんですよ。こう言う考え方を押し付けるのはよくないですが、あのいちごジャムを煮る香りって、幸せの象徴な気がします。

■「寂しい」と素直に言える社会になってほしい

 植草:人によっては結婚相手の親族とのコミュニケーションが面倒くさいからと、相手に求める条件として「親がすでに亡くなっている人」を挙げる人もいます。自分の言うことを何でも聞いてくれる実母は好きだけど、相手の親は面倒だから避ける。面倒くさがりが増えていますよね。生きていくうえで面倒なことも乗り越えていこうという情熱が感じられない。

 東村:私は独身だけど息子がいて、アシスタントも4、5人、いつもそばにいて、いつもにぎやかにワイワイした中で生きています。そういうことが苦手な人もいるとは思うけど、一生ずっと1人で生きていける人は少ない。「寂しい」と素直に言える社会になってほしい。そうしたら、「この子は結婚願望があるんだな」と思った上司がいい相手を紹介してくれるかもしれない。

 植草:昔は「キミもそろそろ結婚しないとね。~課の~君を紹介するよ」という親切な上司がいましたね。今はパワハラ、セクハラと言われちゃう。

 東村:私は田舎育ちだから、20代はそういう話がたくさんありました。「うちの息子のお嫁さんに」とか「あそこの店が嫁を探してるから行ってこい」とか。私は漫画家になりたくて東京に出てきたけど。

 植草:私がこの業界に入った15、16年前からすでに昔ながらの仲人の先生たちが、「最近のお嬢ちゃんたち、お坊ちゃんたちは結婚しないわね」とぼやいていました。

 東村:少女漫画家の立場から言わせていただくと、今の30代ぐらいの子たちが読んできた少女漫画のヒロインは無愛想でツンツンしていて、そういう女の子のことを「おもしろい」と思って飛び越えてきてくれる男こそが本物の男だ、という思想があるんですよ。

 可愛くぶりっこしている女を好きになる男は、虚像の女が好きな浅はかな男。ツンツンしているけど仕事はがんばっている女を好きになった男こそ、女の本質をわかっているという理論。

 植草:現実には無理ですね、それは(笑)。

 東村:無理なんですよ。韓国ドラマもそう。ツンツンして暴言ばかり吐いているけど、お酒を飲んで酔っ払うと泣き始めるヒロインばかり。この現象を私は「韓ドラヒロイン症候群」と呼んでいます(笑)。

■現実的で幸せな結婚をする漫画を描きたい

 東村:そういうツンツンした女が素敵な恋に落ちるのは、ドラマや少女漫画の中だけ。それなのに、幼少期に洗脳されたせいで現実に起こると勘違いしているんです。それは私ども漫画家にも責任があると思っています。だから私は、もっと現実的で幸せな結婚をする漫画を描きたいんですよね。

 植草:バンバン描いてほしいですね。

 東村:誰でも手に入るはずの幸せに、みんなこんなに苦労するのは悲しい状況だと思うんです。

 植草:そう思います。結婚は強制されるものではないし、しなければいけないものでもない。長い人生ですから、「今は結婚よりも仕事」という時もあるでしょう。でも、結婚したいと思ったら、その時にはぜひしてほしい。40代でも50代でも、何歳でも。結婚は「したい」と思ったときが、その方の適齢期ですから。

 東村:それはすごい言葉ですね。本人が望めばいつでも結婚できる。

 植草:そうです。当相談所で結婚された方も、最初に相談所に来たときは「結婚できません。友だちはみんな結婚してる。親も悲しんでる。何とかなりますか」と、声を上げて泣いたりします。その方が夫婦2人の写真付きの年賀状を送ってくださって、次の年はお子さんがいて、また何年か経つとお子さんが増えていて、それを見ると私も嬉しいし、幸せな気持ちになります。

 東村:「結婚したい」と思ったら、まずは植草先生のYouTubeを見て、本も読んでほしいですね。それから、政府は少子化対策の委員会に植草先生を呼ぶべきですよ、マジで! 

前編:「1人では人生の“間”がもたない!」40代女性の切実

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最終更新:4/1(月) 8:41

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