上司と部下の1on1では、どんな話をすればいいのか。組織人事コンサルタントの世古詞一さんは「仕事の進捗状況を尋ねるのでは時間がもったいない。業務そのものの話ではなく、業務から何を感じ取っているかを聞き取ってほしい」という――。
※本稿は、世古詞一『マンガでよくわかる1on1大全』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■「情報交換」と「人間の対話」
組織におけるコミュニケーションは2つあります。
ひとつは、業務の話などの「情報交換」です。短い時間の中で成果を挙げていくためには、生産性を高めるしかありません。これにより、職場でのコミュニケーションは、目先の業務をいかに効率的に行っていくのかという話に焦点が当たるようになっています。
もうひとつは「人間の対話」です。人間の対話とは、個人の考えや気持ちに焦点を当てた対話のことです。その人にとっての意味、考え、想いについて話をしていくことです。
「最近仕事についてこう思っているんですよ」「将来的にはこういう方向に進みたいです」という対話を通して、自分なりの意味を創出することで、すべてが自分ごと化していきます。
では、具体的にはこの2つのコミュニケーションはどのように異なるのでしょうか?
■1on1は上司が部下の業務の進捗を聞く場ではない
まず、業務に焦点を当てた情報交換では、いわゆる業務進捗の確認などをします。上司が、
「あの件はどう進んでいるの?」
というように、業務の状況や「業務そのもの」の話をします。このとき上司は、相手を人間としてではなく、その情報を知る機能や役割、リソースとして見ています。
一方で、業務に関する人間の対話では、上司は、「あの件進めてて(あなたが)何か気になることはありますか?」というように、業務を通じて相手が考えていることや感じていることに焦点を当てます。
1on1では業務の話をもちろんしてよいのですが、上司が知りたい「業務そのもの」の話ではなく、部下が「業務を通じて」考えていることや感じていることを話す場だと思ってください。
そうすることで、業務と部下の考えや想いがつながってきて、発見があったり、やりがいや当事者意識が生まれてくるのです。
■1on1が「ただの雑談」で終わらないために
1on1がうまく進まない理由のひとつに、「1on1の正解や終わりがわからない」ということがあります。
1on1の終わりは「用件が済むこと」ではなく、「(30分なら30分という)時間」にあります。ですから、話の途中で時間が来て中途半端な状態で終わりを迎えて「これで良かったのだろうか?」とモヤモヤすることがあります。
そうならないために、1on1の終わり方と1回の1on1の成果について認識しておくことは非常に重要です。終わり方が中途半端だと、せっかく途中で良い話ができていても「何か雑談して終わった」という印象を持たれることがあるからです。
そこで、部下の1回の1on1の成果を5つご紹介します。
➀有益な情報の獲得
30分上司と話をしたならば、最低ひとつくらいは自分が知らなかった新しい情報や有益な情報が得られるのではないでしょうか。
たとえば、単なる雑談からお互いの趣味の理解をするなども知らなかった情報の獲得です。このように、偶然の対話から得られる知識や情報は多々あるでしょう。
さらに、部下にとって「有益な」情報にしていくためには、自ら積極的に上司に質問をするなどして自分が知りたい情報を取りに行く行動が不可欠になるでしょう。
■顕在化していない問題・課題を発見する
②問題/課題の発見・解決
上司と部下の対話で一番多いケースが、この問題解決のコミュニケーションでしょう。より1on1の場を有効に活用するためには、2つの側面を意識するとよいと思います。
まず、問題解決の部分について、上司にしてもらうものではなく、部下自身で解決する意識を持ちながら上司と対話することです。上司との対話の内容をヒントとしながら、まだ考え尽くせていないことを十分に考えて解決策を模索することです。そうすることで、より充実した場になります。
次に、問題や課題の「発見」に力点を置くことです。まだ顕在化していない「問題」を見つけようとすることは、中長期の視点や本質をつかみ取る深い洞察が必要なため、部下にとって成長促進の時間になります。さらに、部下の「課題」について上司からフィードバックを受けることは、部下自身の課題発見・認識の場になります。
③考えの整理・明確化・気づき
主に自分の考え方について、何らかの変化があることは1on1の立派な成果だといえます。2つ目のように、問題や課題の発見、解決などの明確なアウトプットがなくても、自分の考えが整理できたり、気づきが生まれたことで十分に成果と捉えることです。なぜなら、時間が限定されている1on1の場においては、話が中途半端に終わることも多くアウトプットもままなりません。しかし、話が途中であっても、対話の中からどんな気づきがあったか、どんな思いつきやアイデアが生まれたか、といったことは抽出できるはずです。
■終わりがけに「今日の話で印象に残ったことは?」と尋ねる
実際私は1on1の終わりに、次のような問いを投げかけてまとめることが多いので、参考にしてみてください。
「時間が来たので一旦ここで終えたいんだけど、今日ここまで話をしてみて一番印象に残ったことは何ですか? /一番覚えておきたいことはどんなことがありますか?」
④気持ち・モチベーションの変化
やはり1on1が終わって明確にモチベーションが上がった、前向きな気持ちになったという状態になれれば、部下にとって良い時間だったと言えます。
たとえば、部下が抱えている問題が解決したり、これから進むべき方向性が見えてすっきりするなどは、わかりやすい例と言えます。
一方、必ずしも何かが解決していなくても、人は話を聞いてもらえるだけで気持ちがすっきりしたり、上司だからこそわかってもらえたことで安心できるということもあります。
ですから、気持ちに変化をもたらすには、部下側は自分の思っていることを極力話してみること。そして上司側は、部下の話を聞いて正確に理解することに努めることが大切です。
■1on1をアクションプランで終える
⑤新たな行動の決意
1on1での対話の末、話された内容が行動に還元されることは非常に理想的な流れと言えます。よくあるケースは、やろうやろうと思ってできていなかったことについて話す機会が持てたことで、着手するきっかけになることです。
また、対話によって思いついた新たなアイデアを試してみようとすることもあります。
さらに、頭ではやるべきだと思っていても進まない業務の愚痴をたくさんこぼすことで、「まぁ、そうは言ってもやるしかないですね」と、一周回って行動への決意やコミットメントが生まれることもあります。
このように、可能であれば1on1の最後にアクションプラン(行動計画)で終えられるとよいでしょう。そうすることで、次の1on1において、「実施してみてどうだったか?」という振り返りから始めることができて、対話に連続性が生まれて、1on1を継続的に行う意味も出てきます。しかし、毎回アクションプランで終えようとすると負担も増しますので、部下の意思を尊重しながら無理なくできるよう注意しましょう。
これら5つの成果について、1on1の最後にどれが該当するかを上司と部下双方ですり合わせを行うまとめの時間を取ることをおすすめします。そうすることで、1on1を行っている成果を実感し、意味も理解でき、現実にも違いをもたらすことができます。
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世古 詞一(せこ・のりかず)
組織人事コンサルタント
早稲田大学政治経済学部卒。一般社団法人1on1コミュニケーション協会代表理事。 株式会社サーバントコーチ代表取締役。VOYAGE GROUP(現 株式会社CARTA HOLDINGS)の創業期より参画。2008年独立し、コーチ・コンサルタントとして様々な人の人生とキャリアの充実、目標実現をサポート。コーチング、エニアグラム、NLPなど、10以上の心理メソッドのマスタリー。著書に『シリコンバレー式 最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング』(かんき出版)などがある。
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プレジデントオンライン
最終更新:11/21(火) 17:17
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