「株価暴落」引き起こしてしまう意外な“きっかけ”

5/18 6:41 配信

東洋経済オンライン

 株価暴落の可能性を示唆する報道が、最近は目立つようになった。アメリカ経済の減速懸念がくすぶっており、「Sell in May」(株は5月に売れ)というアノマリーとあいまって、株価は平行線をたどっているように見える。とりわけ、最近は株価高騰を演出した半導体銘柄の割高感が目立っており、業績が良くても、営業利益や業績予想の一部が市場予想を下回ると、時間外取引や翌日の取引で10%を超える「急落」を経験するケースが多い。

 その一方で、5月16日には「S&P500」と「ナスダック総合指数」、「ニューヨークダウ平均株価」が揃って史上最高値を更新するなど、株式市場は相変わらず高値圏に張り付いている。株価が大きく上昇して高値止まりしているときには、「適温相場」とか「ゴルディロックス市場」と言われるが、そんな状況が長く続いた後には、何らかの形でバブル崩壊が起こることが多い。

 言い換えれば、市場が大きく方向転換するときには、必ずその原因やきっかけがあるはずだ。そこでこれまでのバブル崩壊や株価暴落のきっかけとなった原因に注目し、これからの市場変動に対応する方法を模索してみたい。市場価格急落のメカニズムについて考える。

■過去のケースに学ぶ「市場崩壊のきっかけ」とは? 

 これまでにも株価や為替、貴金属といったマーケットが大きく下落をしたときには、さまざまなきっかけがあった。有名なところでは、1927年(昭和2年)の昭和金融恐慌の原因と言われる、時の片岡大蔵大臣の「失言」がある。まだ公にされていなかった東京渡辺銀行の経営破綻を国会で明かしてしまい、株価が暴落して昭和金融恐慌を招いてしまった。

 株価などが暴落する金融危機には、数年にわたって続くものから、わずか数分で終わる瞬間的な市場変動もある。これまでの主な金融危機のきっかけとなった市場急落のケースを年代順に並べてみよう。

 <新型コロナショック>

 2020年2月24日から約1カ月の間に、世界中の株式がずるずると約3割下落。原油価格は大きく6割下落、世界のリート(上場不動産投信)も4割を超えるマイナスとなった。中国武漢を震源地とするパンデミックが金融危機に直接結びついたわけだ。株価の暴落に拍車をかけたのは、3月9日の「OPECクラッシュ」だったと言われる。

 OPECでの減産合意が不調に終わり、原油価格が一気に4割も下落したために、追随して株価や債券も急落。その3日後の12日には、アメリカが欧州からの入国拒否を発表している。株式だけではなく、他の市場価格が下落することで市場全体が暴落したケースと言っていい。

 <フラッシュ・クラッシュ>

 わずか数分で市場価格が大きく変動する現象。原因は、ヘッジファンドなど機関投資家のプログラム売買と言われているが、2010年5月に起きた株式市場でのフラッシュ・クラッシュも瞬間的なものだった。わずか数分でニューヨークダウ平均が1000ドルも下落。しかし、他の市場に波及することがなかったために、市場は急速に回復した。

 同様に、2016年10月7日にはイギリスの為替市場で瞬間的にポンドドル相場が6%急落している。ポンド円相場でも、1ポンド=131円から124円に急落。為替介入のような人為的なものではなく、コンピューターのプログラムによるアルゴリズム取引や高頻度取引が原因と言われている。最近も、AIによる売買取引が普及する中でフラッシュ・クラッシュはしばしば起きており、新しい時代の金融危機と言っていい。

■リーマンショックの最初の兆候

 <リーマンショック>

 2008年9月、アメリカで低所得者向けの住宅ローン「サブプライムローン」が破綻し、大手投資銀行の1つであった「リーマン・ブラザーズ」が経営破綻した金融危機。グリーンスパン前FRB議長が「100年に1度の金融危機」と発言したことも大きなインパクトとなった。

 世界中に大きな影響を与えたこの金融危機の最初の兆候は、サブプライム住宅ローン証券を大量に購入していたアメリカの大手金融「ベアー・スターンズ」傘下のヘッジファンド2本の破綻であったと言われている。これが2007年7月31日、きっかけをいち早く察知した投資家はその後大きな利益を上げたと言われている。

 <ドットコム(IT)バブル崩壊>

 2000年前後の株価高騰は、インターネットなどのIT産業が、今後世界の産業界を牽引していくとして株価が急騰した。ちょうど、現在の「AIブーム」や「半導体ブーム」に似た状況だったと言っていい。そのITバブルはいくつかの段階を経て終焉を迎える。2001年2月に発表された、ITブームを代表する企業のひとつであった「シスコシステムズ」の決算発表も、そのきっかけの1つと言われる。

 同社の2000年第4半期の業績が市場予想をわずかに下回ったためだが、同社の株価は1週間で23%下落し、ナスダック市場全体も、1週間で7%を超えて下落。ドットコム・バブル崩壊に拍車をかけた。

 1996年には1000前後で推移していたナスダック総合指数は、ドットコム・バブルの絶頂期には「5048」にも達した。シスコシステムズなどの株価暴落で、最終的には2002年には1000台まで下落。当時、イェール大学ロバート・シラー氏が書いた『根拠なき熱狂』が注目を集めたが、2001年に入ってからは光ファイバー大手の「グローバル・クロッシング」、電気通信大手の「ワールドコム」などが相次いで経営破綻。ドットコム・バブル崩壊は2000年4月に平均株価が1割下落したあたりから始まり、その後2002年まで3年間も続くことになる。

 ちなみに、日本ではITバブルが起きて光通信、ソフトバンク、ヤフー、サイバーエージェントといったIT企業の株価が急騰したものの、2000年3月に月刊文藝春秋が光通信の不正を報道したあたりから、日本のネットバブルも崩壊を始める。その後、2006年には「ライブドアショック」も起こり、日本のIT産業の株価は長期的に低迷期に入っていく。ライブドアショックは、リアルタイムで同社に家宅捜査が入る映像が流れ、株式市場はIT企業を中心に暴落する。

■日本のバブルが崩壊したとき

 <バブル崩壊>

 1985年のプラザ合意によって急速な円高が進んだため、財務省が必要以上の金融緩和を実施して、日本の1980年代後半は空前の株価ブーム、不動産ブームに沸いた。しかし、1989年の大納会でつけた日経平均株価の史上最高値は、1990年の大発会以後、継続的に下落を続け、バブルが崩壊した。

 その最大の要因は財務省が出した、不動産投資の融資に関する銀行宛の通達「総量規制」だと言われているが、海外の投資銀行が意図的に株価を吊り上げ、空売りによって莫大な利益を手にしていたことはよく知られている。株価が34年ぶりに戻ったのはつい最近のことだ。

 <世界大恐慌>

 1929年10月24日、ニューヨーク証券取引所で、株式市場は歴史的な暴落を記録する。1920年代は株価が10年で300%も上昇し、熱狂的な株式投資ブームが続いていた。そんなところに起きたのが、10月24日の「暗黒の木曜日」だ。その日は、当時としては破格の1290万株の売りが出され、投資家を慌てさせた。それでも、当時の主要銀行の頭取などが集まって、市場価格よりもかなり高い価格でUSスチールなど優良(ブルーチップ)銘柄に買い注文を出して乗り切ったとされる。

 しかし、週明けの10月28日、10月29日には、それぞれダウ平均で12.82%、11.73%ずつ下落し、とりわけ10月29日の下げは壊滅的で、1600万株が売られている。約40年間、その記録は破られることがなかったとされる。29日は火曜日だったため「悲劇の火曜日」と呼ばれている。

 ニューヨーク市場は1週間で300億ドルを失ったとされるが、その金額は当時の連邦政府の予算の10年分に相当し、第1次世界大戦でアメリカが失った金額よりもはるかに多い数字だったと言われている。この世界恐慌で下落した平均株価は、第2次世界大戦を終えるまで戻ることはなかった。原因は熱狂的な株式への投機であり、ファンダメンタルズを大きく乖離する割高感だったとされている。市場は、株価の崩壊を待っていたともいえる。

■株価暴落、金融危機のメカニズムとは? 

 株式市場をはじめとして金融マーケットに暴落はつきものだが、何らかの原因と兆候があることがわかる。最近の決算発表後の株価の神経質な動きも、かつてこんなことがあったというデジャブを思わせ、現在の株価はバブルなのかもしれないという気になる。

 実際に、ちょっと前までは新型コロナによるパンデミックで、世界経済は停滞し、世界中の政府や中央銀行は莫大な資金を市中に流出。過剰流動性を演出し、意図的にバブルを作ってきたことは明らかだ。

 実際に、株価だけではなく、金などの貴金属や暗号通貨といった代替商品も急騰してきた。最近、株価暴落説や金融危機説を唱える専門家が多くなったのも、現在のこうした状況がバブルではないかと心配する人が増えているからだ。現在のアメリカ経済は、景気が悪化しつつあるのにインフレが進む「スタグフレーション」に陥っているのではないか、と心配する人も多い。にもかかわらず、株価は史上最高値圏に張り付いたままだ。

 そもそも、株価暴落などの金融危機やバブル崩壊が起こる背景には、過去のケースから見てもさまざまなことがきっかけで起こることがわかる。たとえば、市場の投資家のマインドも重要なポイントになる。いくつか紹介すると、次のような要因が考えられる。

■バブル崩壊が起こるきっかけ

 ①割高感……投資家が現在の株価などに割高感を感じてくると、投資家の多くが疑心暗鬼になり、我先に売り抜けようとする。決算内容は良いのに、ちょっとしたマイナス材料を見つけて、売り抜けようとする。世界大恐慌でも、きっかけは暗黒の木曜日の大量の売り注文が投資家の不安心理に火をつけたからだった。

 ②景気指標……アメリカ株やFXの世界では、毎月第一金曜日に発表される「雇用統計」が、大きな影響力を持っている。市場予想を大きく外れる予想が出ると、市場は大きく反応する。大暴落というほどではないが、最近のアメリカ株は金利の動向に影響のある指標によって、大きく変動する。

 ③報道(情報)……インターネットが普及して、世界中がリアルタイムで情報を共有できる時代になったことで、最近は財務大臣や中央銀行総裁の失言などで株価が大きく動く時代になった。昭和金融恐慌の「片岡失言」などが簡単に起こりやすくなっている、ともいえる。2023年12月7日に、植田日銀総裁が語った「一段とチャレンジングに」発言も、その真意を無視して、金融引き締めに積極的なタカ派発言ととらえた投資家が、1ドル=144円台まで円を買い、株価も日経平均株価を550円も下げた。

 ④突発的出来事……地震、天候不順、パンデミックなどなど、突発的な出来事による金融危機。新型コロナによる株価下落などはその典型的なものだろう。日本では、東日本大震災をはじめとして、今年の元旦に起きた能登半島地震など、いつの時代でも大きな転換点になる。

 ⑤政策変更……政策変更などが株式市場や為替市場などに大きな変動を与えることがよくある。つい最近のドル円相場への為替介入も、市場には大きなボラティリティ(変動幅)をもたらした。日銀の金利引き上げが間近に迫っていると予想する専門家が多いが、金利引き上げによって、本当に円安は止まるのか。円安が止まらなければ、再び財務省は為替介入を行うことになり、日本の外貨準備は徐々に減少していくことになる。

 ⑥投機筋……かつて英国のポンド危機を演出したジョージソロスはヘッジファンドを舞台にして、ポンド下落を仕掛けた。政府がやれば為替介入だが、ヘッジファンドがやればまた違った呼び方になる。現在のドル円相場も、政府が為替介入に入る前は、史上最大規模のドル買い円売りの先物ポジションが積み重ねられていた、と報道されている。暴落に至るかどうかはともかく、ヘッジファンドなどの投機筋は、常に市場の大きな変動を仕掛けていると思ったほうがいい。

■現在の割高な株価は暴落するのか? 

 さて、問題はいまの株式市場をはじめとして、ドル円相場、金相場、暗号通貨市場などなど、いずれも史上最高値圏に近い状況が続いている。言い換えれば、「暴落する環境は整っている」と言ってもいいかもしれない。

 未来のことは誰にもわからないが、株式市場であれ、債券、ドル、金、暗号通貨であれ、それぞれ影響しあって、成立している微妙な「高値圏相場」が続いている。さすがに暗号通貨が暴落しても、株式市場まではその影響はないかもしれないが、市場規模の大きさにかかわらず、こういう状況では投資家に不安心理を抱かせる動きがあったときに、金融危機がやってくる。

 金融危機の中で「ショック」という名がついているモノがいくつかあるが、これまで、さまざまなショックを見てきたことでわかるのは、誰も予想してなかった事態が金融危機を招くことがよくあると言うことだ。最近は、需給が改善したということで、プラチナ相場まで上昇をし始めている。市場の暴落は、ごく一部の投資家だけが願うところだが、常に警戒を続けるしか方法はなさそうだ。

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最終更新:5/18(土) 6:41

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