首都圏マンションの住民を食い物に!大規模修繕工事で巧妙化する「談合の手口」とは?【公取委が約20社立ち入り検査】
マンション業界に激震が走っている。マンションの大規模修繕工事を行う会社約20社に談合の疑いがあるとして、公正取引委員会の調査が入ったのだ。大規模修繕について談合やリベートが横行していたのは業界内では知られていたが、この問題がついに明るみに出たといえる。長年、業界の談合・リベート問題に取り組んできた筆者の視点で、今回の件を考えてみたい。(株式会社シーアイピー代表取締役・一級建築士 須藤桂一)
● マンションの大規模修繕工事で持ちあがった 複数の工事会社による「談合」疑惑
3月4日、複数の報道機関が一斉に「首都圏の分譲マンションの大規模修繕工事で、工事会社約20社が談合を繰り返していた疑いがあるとして、公正取引委員会が独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で立ち入り検査を始めた」と報じた。
マンションは建物や設備の劣化を防ぎ、長期にわたって維持するために、一般的には十数年程度の周期で大規模修繕工事を実施する。その際、多くのマンション管理組合では管理会社や設計コンサルタント会社に委託し、大規模修繕工事を発注するのだが、その工事をめぐり、業者選定時の見積もり合わせや入札で、事前に話し合って受注業者や工事額を決めていた疑いがあるということだ。
公正取引委員会は、工事会社らが受注価格の低下を防ぐことや、各社が分担して利益を得ることを目的に、数十年前からこうした受注調整を繰り返しており、それによって工事費が割高になり、管理組合側の過剰な負担につながった可能性があると見ている。
公正取引委員会がマンションの大規模修繕工事について調査を行うのは初めてのことで、一部報道では、工事会社だけでなく、工事会社の選定に関わった一部の設計コンサルタント会社についても、受注調整に関係していた可能性を視野に調査を進めるという。
● 独占禁止法違反となれば どういう処分を受けることになるのか
独占禁止法は、自由経済社会において、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に経済活動を営める状態を創出し、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の健全な発展を促進することを目的として、企業が守るべきルールを定めている法律である。
今回、公正取引委員会が疑っているのは、独占禁止法第3条で禁止されている「不当な取引制限」に対する違反で、「カルテル」に当たる行為だと思われる。カルテルは、事業者や業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合って、本来各事業者が自主的に決めるべき商品の価格、生産・販売数量などを共同で取り決める行為を指す。簡単にいうならば、企業同士が競争をせずに、価格を引き上げたり、リベートや割り戻しなどの密約を交わすこと、いわゆる“談合”があったのではないかと疑っているのだ※。
※なお、本来、談合(入札談合)はカルテルとは対象とする行為が違うものだが、今回の記事では、企業が不当に相談して価格を調整している行為を指すものとして、便宜上「談合」という言葉を用いている。
今回の調査により、工事会社らの行為が独占禁止法違反に該当する場合、違反行為を速やかに排除するように命ずる「排除措置命令」や、違反行為の売り上げに応じて国庫に課徴金を納める「課徴金納付命令」といった行政処分の対象になる。
刑事処分としては、ケースや違反行為によって異なるが、私的独占や不当な取引制限などに対して、法人は「5億円以下の罰金」(独占禁止法第95条)、個人は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」(独占禁止法第89条1項1号)が科せられる可能性がある。加えて、建設業は許認可事業でもあるため、国土交通省からは営業停止命令や公共工事入札の制限などの処分を受けることもあるだろう。
● マンション業界に蔓延している 談合・リベートのからくり
長年にわたり見聞きした話から、大規模修繕工事をめぐる談合やリベートの授受は、おおむね次のような形で行われる。
まず、工事を希望する管理組合に対して、設計コンサルタント会社が、時には異常とも思えるほどの安い金額でコンサルタント費用の見積もりを提出し、大規模修繕工事のコンサルタント業務を受託する。
次に、最終的に工事を発注する工事会社を1社決定し、この「チャンピオン会社」と設計コンサルタント会社が結託して、工事見積もりのコントロールと工事費のつり上げ、厳しい公募条件をつけた上での見せかけの入札を行い、結果としてチャンピオン会社が工事を受注する。こうして工事をチャンピオン会社が受注したあかつきには、設計コンサルタント会社に工事費の何パーセントかをリベートとして支払うシナリオとなる。この場合、リベートは紹介手数料、コンサルティング料、マーケティング料など、名目はさまざまだ。
しかも、それらはすべて管理組合が負担する工事費に含まれている。管理組合は知らぬ間に大きな負担(損害)を被っている、というからくりになっているわけだ。
● 公正取引委員会だけでなく 国土交通省も動き出す?
国もこうした動きにまったく気づいていないわけではない。国土交通省は「マンションの大規模修繕工事の発注などにおいて、工事会社の選定に際して、発注者である管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントが存在する」ことを問題視し、2017年1月に不適切な設計コンサルタントについての注意喚起の通知(国住マ第41号 国土建労第1021号 平成29年1月27日)を発出している。
メディアでも多く取り上げられたこともあり、それ以降は特に目立った動きは見られなくなったが、そうした談合やリベートの行為がなくなったわけではなく、むしろアンダーグラウンドに潜って、さらに手口が巧妙化、エスカレートしただけのことだった。
たとえば、これまでは前述のように、元請け工事会社から紹介手数料やコンサルティング料として受け取っていたリベートを、その下請けや孫請け工事会社から迂回して受け取るようにしたり、あるいは下請け工事会社を指定したり、資材や塗料を指定し、それらの工事会社からリベート分を吸い上げる形に切り替えたりという情報も聞こえてきている。
今回の公正取引委員会による調査は、冒頭で触れたように、工事会社だけでなく、設計コンサルタント会社や管理会社にも及ぶことが予想される。なぜなら、彼らはワンセットで談合の温床となっているからだ。もちろん建設業の許認可を出している国土交通省も黙っていないだろう。公正取引委員会からの調査結果にもよるが、これまで談合で「甘い汁」を吸っていた多くの関連会社に、さまざまなペナルティが科される可能性が高い。
余談となるが、国土交通省の2017年の通知を受けて、談合をしていた設計コンサルタント会社との契約を解除した工事会社もちらほら現れてはいた。もちろん、どの会社も公に「談合から足を洗いました」と言えるものではない。しかし、談合の和から離脱する行為は、大変な英断であったと推察する。
実はマンション業界では、どの工事会社、設計コンサルタント、管理会社が談合やリベートに関係していたという情報は知れ渡っており、公然の秘密ともいえることだった(参考記事)。それが、今回の公正取引委員会の調査によって、ようやく白日の下にさらされることになったのである。
● 業界の膿を出し切って マンション業界の正常化につなげたい
筆者は30年ほど前から、この談合・リベート問題と業界改革に取り組んできた。また、この談合・リベートモデルの始まりも見てきた。そうした立場にいる者として、今回調査が入った工事会社約20社には、独占禁止法違反を始め、今後さまざまな形でそれなりのペナルティが科され、これまでの流れが大きく変わり、管理組合にとって最善の発注体制が整うことを強く願う。
今回の報道を受けて、すでに業界は大騒ぎになっている。いろいろな立場からさまざまな話が聞こえてくる中で、「公正取引委員会へ誰がリークしたのか」という、犯人さがしのような声も出ているようだ。筆者はこれまで談合・リベート問題について声高に指摘してきた一人ではあるが、今回の公正取引委員会の動きは筆者の及び知るところではない。大きな力が働いたのかもしれないし、あるいは複数の管理組合からの陳情や情報がもたらされた結果かもしれない。
筆者としては、ただ一筋に今回の調査がきっかけとなり、真にマンション業界が正常化していくこと、つまり管理組合が不当に高い工事費を支払わされることなく、適正な競争原理が働くようになることを願っている。
もちろん、数十年かけてここまで複雑で深刻化してしまったこの談合・リベート問題を解決するためには、少なからず痛みが伴うことも覚悟しなければならないだろう。業界の商慣習の最中において談合・リベートに応じていた工事会社の立場も理解できないことはない。彼らが生き残っていくためには、必要悪の行為だったともいえるからだ。談合・リベートモデルで寡占化されていた業界にあっては、その流れに乗らなければ、工事の見積もりに参加することすらできなかったのだろう。
業界ぐるみの談合による管理組合への影響は、間違いなく「割高な大規模修繕工事を発注せざるを得ないことによる、修繕積立金の値上げ」に結びつく。確かに、昨今のインフレによる建材費や人件費の高騰が原因で、工事見積もり金額が上昇している側面もあるが、それに乗じて、不当に工事費がつり上げられてきたことは間違いない。
正直に言えば、今回の件を受けても、業界にはびこる談合・リベート問題が完全に撲滅され、膿を出し切るというところまではいかないかもしれない。それほど、この闇は深くて暗いのだ(参考記事)。それでも、今回の報道は業界に大きなインパクトを与えたことは確かである。
まずは公正取引委員会や国土交通省の今後の動きを注視していくとともに、今回の件をきっかけにマンション業界がクリーンな業界に生まれ変わり、それが管理組合とマンション住民の利益と幸せにつながることを大いに期待したい。
ダイヤモンド・オンライン
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最終更新:3/14(金) 9:02