不動産の含み益は4500億、アクティビストに狙われた「東京ガス」の今《楽待新聞》

12/14 19:00 配信

不動産投資の楽待

企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは「東京ガス株式会社」です。

社名の通り、ガス事業を主力とする企業です。首都圏を中心に展開しており、都市ガスの顧客数は878万9000件、国内販売シェアは32%と、都市ガスでトップの企業となっています。

一方、東京ガスは「不動産」の面でも注目したい企業です。メインのエネルギー関連に加え、不動産の開発や賃貸業を行っています。

また日本経済新聞やブルームバーグなどの直近の報道によると、高級ホテル「パークハイアット東京」が入居する「新宿パークタワー」をはじめとする同社所有の不動産の含み益は、合計で約4500億円にのぼるとされています。同社の時価総額の約4分の1に相当する、巨額の含み益が出ていることになります。

というわけで今回は、そんな東京ガスの事業全体の状況と、不動産事業について見て行きましょう。

■進む資産の売却

まずは東京ガスの事業内容について詳しく見ていきます。事業セグメントは以下の4つがあります。

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1.エネルギーソリューション
都市ガスの製造・販売、LNG販売、トレーディングなど

2.ネットワーク
都市ガスの託送供給など

3.海外
海外資源開発、エネルギー供給

4.都市ビジネス
不動産の開発、賃貸など
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海外での資源開発から、ガスの製造販売、ガスの送配網の整備まで一貫して行っており、それらに加えて不動産事業も展開しています。

2024年3月期時点でのセグメント別の売上構成とセグメント利益(カッコ内)の額は、以下の通りとなっています。

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セグメント別の売上
・エネルギーソリューション 81.8%(2008億円)
・ネットワーク 11.0%(▲39億円)
・海外 4.1%(308億円)
・都市ビジネス 3.1%(229億円)
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売上の大半を占める主力事業はエネルギーソリューションですが、利益面では、海外事業のほか、不動産関連の都市ビジネス事業も一定の規模を持っていることがわかります。

そんな中でいま、東京ガスは、不動産や政策保有株といった資産の圧縮・売却を進めようとしています。

アクティビスト投資家として知られる「エリオット・インベストメント・マネジメント」が11月に提出した大量保有報告書で、エリオットが東京ガスの株式を5%保有していることが明らかになり、話題となりました。

歴史の古い日本の大企業は東京ガスと同様、多額の不動産や政策保有株を抱えています。

近年は、「モノ言う株主」の存在もあって、資本コストを重視した経営が求められるほか、株式市場からの圧力も強まりつつあります。東京ガスについても、こうした背景から資産の売却を進めていて、より収益性の高い不動産だけを残していく方向にある、ということです。

こうしたことから、2024年時点では、都市ビジネス事業のROAが7.0%と、エネルギーソリューション事業の6.8%を上回るような収益性となることを見込んでいます。

■原料費の影響で業績が大幅に変動

以降では、主力のガス事業の状況に加えて、売却が進む不動産事業が、全体の業績にどのような影響を与えているのかについて見ていきましょう。

まずはガス事業の特徴を知るために、ここ10年ほどの業績の推移を見ていきます。

(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)

経常利益の推移を見ていくと、増減はあるもののたいていは数百億~1000億円台で推移していることがわかります。

中でも2023年3月期は絶好調で、4088億円と大幅増益となっていました。2024年の3月期は2282億円で、それ以前と比べると好調ではあるものの、前期比では大幅減益となりました。

このように、東京ガスの事業は業績が大きく変動しやすく、ここ2年ほどは特に大きく動いていた、ということが分かります。

このように変動が大きいのは、原料価格の変動を自動で料金に反映する仕組みである「原料費調整制度」によるタイムラグがあるからです。

インフラを提供するガス会社が、その独占的な地位を活用し値段を上げて、利益を出し過ぎてしまうと国民生活に悪影響が出てしまいます。

その一方、原料費が上がっても値上げできず、利益を出せずにつぶれてしまったり、低収益で投資ができなくなってしまっても、ガスの安定供給に問題が出てしまいます。

そこで、原料費の変動に関わらず、安定した利幅が取れるように自動で価格に反映する仕組みが設けられているのです。ただ、その反映の方法に特徴があって、3カ月以上の遅れが出ます。

例えば6月のガス料金は、その年の1~3月の原料費から算定されます。つまり、反映までタイムラグがあるので、損益に影響が出るというわけです。

1~3月の原料価格が200円で、それが下落を続け6月に100円になっているとすると、100円で原料を仕入れて、200円の時の価格で販売することになるので、一時的に業績は良化します。

一方で上昇相場になればその逆で、高く仕入れて安く売ることになるので業績に悪影響があります。相場変動が大きいと、タイムラグで業績が変動しやすい事業だということです。

もちろん、タイムラグがあるだけですから、売値と仕入れ値の反映時期がズレているだけで、トータルで見てみると業績への影響は小さいです。

実際、2025年3月期の原油相場の変動による利益への影響を見てみると、1Qに上昇した場合は1Qや2Qではマイナスの影響が出るものの、3~4Qでプラスの影響が出ることで通期では影響がなくなります。このタイミングでタイムラグが解消した、ということです。

一方で、2~4Qで上昇した場合はマイナスの影響が大きくなり、業績への悪影響が出ます。特に大きいのは3Qの上昇です。

為替相場の影響も受けますが、円安に動いた四半期は原料の仕入れ価格の上昇に繋がるのでマイナスの影響が出ます。ただ、その影響は原料費調整制度でタイムラグを経て解消することになります。

そして東京ガスは海外で資源開発も行っていますから、円安の状況下では海外事業などでは好影響が出ます。

そういった事もあり、1Qや2Qに円安になれば通気では好影響が残り、3Qの場合は横ばい、4Qはマイナスとなります。東京ガスは、為替の動向も業績に影響を与える企業なのです。

■不動産の販売益で「都市ビジネス事業」が増益

このように、ガス関連の事業は業績の変動が大きく増減を繰り返しています。その一方で、安定して増益を続けているのが不動産関連の「都市ビジネス事業」です。

都市ビジネス事業が増益を続けている要因は、不動産の販売益です。

ガス事業の変動が大きく、その影に隠れてしまっていますが、東京ガスでは資産の圧縮を進めており、都市ビジネス事業では資産売却による利益が期待できる状況となっていることが分かります。

東京ガスのような歴史の古い大企業は以前から不動産を保有していた事もあり、事業として展開するには低収益でも含み益を抱えている物件も多いですから、売却益による好調が期待される状況だということです。

企業全体としては、ガス事業の規模が大きいため影響は小さいですが、多額の不動産を保有する歴史ある大企業の強さが分かります。

■直近の業績は苦しいが…

最後に、直近の2025年3月期の2Qまでの業績を見ていきましょう。

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・売上高
1兆215億円(▲4.0%)

・営業利益
382億円(▲70.5%)

・経常利益
287億円(▲80.6%)

・純利益
172億円(▲83.5%)
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減収で大幅減益と、大きく苦戦しています。その要因はやはり、原料費調整制度によるタイムラグの影響で、単価減少を受けての減益となっています。業績の変動が大きな事業だということがわかります。


通期予想を見ても、売上が▲0.4%、営業利益が▲43.3%、純利益は▲52.3%と減収で大幅減益を見込んでいます。通期でもタイムラグによる悪影響が出る見通しです。

ここ2期ほどは好調でしたから、その反動が出てくる期だということです。ちなみに、これまで好調だった都市ビジネス事業でも減益を期見込んでいます。



不動産の売却益は今期もある一方で、「パークタワーホテル」のリノベーションによる一時休業の影響でホテル事業の利益減少の影響が出るようです。収益性改善のために、今後が期待できる不動産に対しては投資を進めているということですね。

不動産事業の収益性改善が進むかにも注目です。

妄想する決算/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待

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最終更新:12/14(土) 19:00

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