あおぞら銀行と大和証券グループ「土壇場提携」の真意、旧村上ファンドの横やりで提携交渉が本格化

5/15 5:21 配信

東洋経済オンライン

 あおぞら銀行は5月13日、大和証券グループ本社と資本業務提携を結んだと発表した。第三者割当増資によって519億円を調達し、大和証券グループは15.54%を保有する筆頭株主となる。あおぞら銀行は大和証券グループの持ち分法適用会社となり、社外取締役1名を受け入れる。

 あおぞら銀行は2024年3月期決算で、有価証券含み損の損失処理やアメリカ商業用不動産向け融資で多額の貸倒引当金を積み増し、499億円の最終赤字に陥った。増資によって財務体質を強化しつつ、大手証券グループとの連携で再出発を図る。

■赤字転落で提携交渉が加速

 「われわれに足りない部分を持っている」。同日に都内で開かれた決算会見で、あおぞら銀行の大見秀人社長は提携の意義をこう説いた。

 あおぞら銀行は近年、LBO融資(買収対象企業の資産や収益力を担保にした融資)や海外不動産向け融資など高利回りの貸出案件を深耕してきた。他行との差別化を意識し、「小さな規模で選択と集中を進めてきた。足りないパーツを何とかしたかった」(大見社長)。

 あおぞら銀関係者によれば、他社との提携を模索し始めたのは、谷川啓前社長時代の2023年からだ。大和証券グループに加えて、野村ホールディングス(HD)や地方銀行大手のコンコルディア・フィナンシャルグループなど複数の候補が浮上していたが、交渉の進捗は緩やかだったようだ。

 それが2024年に入ると事態が急変する。海外金利の急騰を受けて、あおぞら銀行はアメリカ商業用不動産向け融資で巨額の引当金を積み増し、有価証券の損切りも余儀なくされた。その結果、1月末に業績の下方修正と15年ぶりの赤字転落を発表。自己資本比率は同行が規律とする9%(国内基準)を割り込み、資本増強が焦眉の急となった。

 あおぞら銀行は以前から大和証券グループとも接触を図っていたが、前述の下方修正を発表した頃から資本提携の交渉が加速する。大和証券グループはあおぞら銀行の主幹事証券を務めるほか、過去にはM&Aファイナンスで合弁会社を設立した縁もあった。大見社長が大和証券グループの荻野明彦社長と10年以上前から面識があることも、後押しとなった。

 交渉の過程では「横やり」も入った。赤字決算を受けた株価急落に目をつけた旧村上ファンド系のアクティビストが、2月2日からあおぞら銀行の株式を買い始めたことだ。2月27日時点での保有比率は計8.9%に達し、筆頭株主に躍り出た。

 複数の関係者によれば、旧村上ファンド系の念頭には、SBIHD傘下のSBI新生銀行との統合があった。SBIHD会長兼社長の北尾吉孝氏に対して保有株の売却を持ちかける場面もあったという。北尾氏は「興味がないと言えば噓になる。買収先として内外の金融機関を見ているが、あおぞらはワンオブゼム」の構えだった。

■現時点では不透明な提携効果

 あおぞら銀行の大見社長は「(旧村上ファンド系の動きは)資本提携とはまったく関係がない」と強調するが、背中を押したことは確かだろう。この頃のあおぞら銀行は、同じ銀行ではなく他業種をパートナーとして見据え、銀行と証券の連携が見込める大和証券グループに対して正式に資本提携を申し入れた。結果的に大和が「ホワイトナイト」となった形だ。

 赤字転落やアクティビストの襲来を経て、土壇場で結ばれた資本業務提携。あおぞら銀行と大和証券グループは富裕層ビジネスや不動産、M&Aなどでの協業を掲げるものの、詳細はこれから両社で立ち上げる委員会で詰める。提携がもたらす利益も「現場を踏まえた数字は出していない」(大見社長)と話す。

 提携発表の翌14日の株価は対照的だった。あおぞら銀行の株価は上昇で始まった反面、500億円超を出資した大和証券グループは下落した。あおぞら銀行の財務を救っただけで、両社の相乗効果が空手形に終わらないか、市場は厳しい視線を注いでいる。

 今回の提携劇は、あおぞら銀行の古くて新しい課題を改めて浮き彫りにした。同行はメガバンクのような規模や人員も、地銀のような営業基盤も持たない。そのため、仕組み金融や外国証券運用、プライベート・エクイティー投資といったハイリスク・ハイリターンな分野に収益機会を見出さざるをえない。

 こうした事業は高いリターンと引き換えに、金利環境や金融システムが変調を来せばたちまち大きな損失をもたらす。アメリカ商業用不動産向け融資の貸倒引当金や有価証券の損失処理は、その典型例だ。

■リスク管理の強化が喫緊の課題

 増資によって、あおぞら銀行の自己資本比率は3月末時点の9.23%から10%台に回復する。とはいえ、あおぞら銀行のように海外ビジネスを積極的に行う銀行は、本来であれば現地法人ではなく海外支店を構え、より厳格な国際基準を適用すべきだろう。CET1比率(普通株式等Tier1比率)は増資後でも8%強までしか高まらない公算で、10%を超えるメガバンクや大手地銀とは対照的だ。財務体質は依然として盤石ではない。

 「リスク管理をさらに強化しないといけない」。大見社長は前期の赤字決算をこう振り返る。収益機会を深追いするあまり、再び他社からの増資を仰ぐ事態になれば「振り出し」に戻ってしまう。大和証券グループとの提携を奇貨とし、あおぞら銀行がビジネスの持続可能性を高められるかも焦点となる。

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最終更新:5/15(水) 5:21

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