1位は185億円!「生物多様性保全」への支出額が多い企業トップ100

4/30 9:17 配信

東洋経済オンライン

 2008年6月に生物多様性基本法が施行されてから今年で17年になる。同法の第6条で、「事業者は、(中略)生物の多様性に及ぼす影響の低減及び持続可能な利用に努めるものとする」と事業者(企業)の責務を規定している。生物多様性保全に関連する企業の取り組みにはさまざまな形態があるが、『CSR企業総覧(ESG編)』2025年版ではその規模を知る1つの指標として、「生物多様性保全プロジェクトへの支出額」を掲載している。

 今回は、同誌掲載データ(原則、2022・2023年度)を基に、生物多様性保全活動への支出額が多い上位100社のランキングを紹介する。対象は同誌掲載企業1715社のうち、2023年度の同支出額を回答している525社。生物多様性保全プロジェクトの定義・基準は企業によって異なる場合がある。なお、『CSR企業総覧(ランキング&集計編)』2025年版には、同ランキング上位300社を掲載するのでそちらも参考にしてほしい。

■1位は富士フイルムホールディングス

 1位は富士フイルムホールディングス(生物多様性保全プロジェクト支出額18,503百万円、以下同)。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同しており、2024年にはTNFDレポートを発行し、基本方針(環境・生物多様性・調達)のほか、生物多様性の保全に関する取り組みについて開示を行っている。

 具体的には、1983年に設立した公益信託富士フイルム・グリーンファンドを通じた、自然環境の保全・育成に関する活動や研究への助成および支援や、熊本県南阿蘇村との協力による水源涵養林の植林・整備を実施する。植物由来材料については、環境・人権に配慮・管理された森林資源由来の原料であるかを確認している。

 2位は信越化学工業(17,575百万円)。化学会社として、PRTR関連物質等の排出量削減、省エネによるCO2排出量削減、COD、BOD、SS等の排水汚染物質やばいじん、NOx、SOx、VOC等の大気汚染物質の排出抑制に取り組んでいる。また、自社製品で使用するパルプのサプライヤーには森林認証取得と植林を要請している。

 3位は王子ホールディングス(16,300百万円)。国内社有林19万haの森林保全を推進し、さらに1.1万haを、生物多様性を含めた環境保全林に指定し、管理している。北海道猿払村の社有林では、絶滅危惧種であるイトウを保全するためにイトウ保全協議会を立ち上げ、遡上を妨げる障害物の除去、河畔林の保全、シンポジウムによる啓蒙活動を実施している。そのほか、高知県の木屋ヶ内の社有林は自然共生サイトに認定され、絶滅危惧種のヤイロチョウの保護活動にも取り組んでいる。

 4位は中外製薬(11,938百万円)。生物多様性保全の観点から、環境生物への影響を確認するために、国内すべての工場・研究所の排水を対象とするWET(全排水毒性)試験を年1回実施。排水に含まれている化学物質の影響を総合的に把握・評価している。また、NPOの協力の下、生産拠点の水源となる地域での森林保全ボランティア活動も実施している。

 5位は東レ(8,775百万円)だ。同社は鎮守の森方式で、各地の生態系に配慮した自然樹林の形成・維持活動を全社で50年以上も継続しており、各事業所内の自然樹林による緑化は合計で約20万㎡に上る。とくに東海工場では、地域の学生や企業、行政、専門家と連携したビオトープの整備など、自然共生・生物多様性保全活動を推進している。

 以下、6位日本電信電話(NTT)(5,339百万円)、7位三井住友フィナンシャルグループ、(4,525百万円)、8位出光興産(4,274百万円)、9位日本製紙(3,265百万円)、10位NTTドコモ(2,727百万円)と続く。

■生物多様性保全活動への支出額の平均値は2025年版でも増加

 次に前回と同じく、生物多様性保全に関連する全体的な傾向を見てみる。『CSR企業総覧(ESG編)』2024年版から2025年版にかけて、生物多様性保全活動への支出額の平均値は237.3百万円(対象社数は530社、以下同)から247.3百万円(525社)へと増加した。

 国際的な評価にもつながるTNFD開示への対応も見てみると、2025年版では「行っている」が16.9%、「検討中」が33.3%、「行っていない」が47.1%、「その他」が2.8%だった(1163社)。前回に比べて「行っている」の割合は増えたものの、大きく前進したという印象は受けない。

 日本企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)には積極的だったというが、その反動なのか、開示負担を懸念してか二の足を踏んでいるようにも思われる。

 今回のランキングは企業による生物多様性保全の取り組みを支出額という側面で捉えて、トップ企業の支出額の規模など希少な情報の提供という意味合いが大きいだろう。ただ、支出額となると売上高など企業規模の影響は避けられない。今後は企業規模を考慮したランキングや変化率によるランキングなども検討し、企業の生物多様性保全の取り組みの動向に注目していきたい。

なお、今回紹介した内容は『CSR企業総覧(ESG編)』2025年版に掲載しているごく一部だ。最新の集計値等は、『CSR企業総覧(ランキング&集計編)』2025年版にも収録されているほか、「東洋経済CSRデータ」でもさまざまなデータを提供している。

掲載企業一覧
富士フイルムホールディングス/信越化学工業/王子ホールディングス/中外製薬/東レ/日本電信電話/三井住友フィナンシャルグループ/出光興産/日本製紙/NTTドコモ/大和証券グループ本社/豊田通商/中国電力/日本製鉄/川崎汽船/レオパレス21/NTTデータグループ/キヤノン/NTT東日本/住友化学/資生堂/大和ハウス工業/日本郵政/島津製作所/キッコーマン/サントリーホールディングス/ニチリン/NTT西日本/三井物産/デンソー/北海道電力/東洋紡/関西電力/野村ホールディングス/DMG森精機/住友生命保険/三菱マテリアル/いすゞ自動車/九州電力/プロテリアル/岡谷鋼機/鹿島/東北電力/INPEX/オカムラ/NTTコミュニケーションズ/MS&ADインシュアランスグループホールディングス/ミライト・ワン/三菱商事/古河電気工業/東芝/セブン&アイ・ホールディングス/東京電力ホールディングス/明治ホールディングス/花王/クレディセゾン/東日本旅客鉄道/不動テトラ/伊藤忠商事/中部電力/住友商事/日本郵船/アサヒグループホールディングス/セイコーエプソン/日立製作所/ファナック/SOMPOホールディングス/日本生命保険/三井不動産/東京海上ホールディングス/大林組/三菱UFJフィナンシャル・グループ/ファミリーマート/三菱ガス化学/井関農機/明治安田生命保険/商船三井/野村不動産ホールディングス/ローム/荏原/ベネッセホールディングス/不二製油/アマダ/三菱電機/りそなホールディングス/JT/小野薬品工業/KIMOTO/住友重機械工業/インフロニア・ホールディングス/第一生命ホールディングス/クボタ/戸田建設/積水ハウス/コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス/ダイキン工業/北越コーポレーション/日産化学/ヒューリック/日本触媒

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最終更新:4/30(水) 9:17

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