老いるマンション対策、「標準管理規約」改正で宅配ボックス設置進む?《楽待新聞》

4/13 11:00 配信

不動産投資の楽待

国土交通省は現在、新築・既存を問わず、マンションの管理適正化に向けた取り組みを進めている。

方向性が明確になっている施策は大きく2つ。1つ目は電気自動車(EV)用の充電設備の設置推進、2つ目は宅配の再配達の削減を意図して、宅配ボックス設置や置き配の取り組みを加速させることだ。

国交省は、両施策を進めるための検討会を、2023年3月末までに全6回開催。管理規約の標準モデルである「マンション標準管理規約」の見直しなどについて検討し、とりまとめ案を公表した。

今回は改めて、現在のマンション管理における課題と、国交省がどのような方針で改善を図ろうとしているのかを考えていく。

■「老いるマンション」への対策

マンション管理においては、さまざまな課題が山積している。建物の高経年化や居住者の高齢化という「2つの老い」が進行しているためだ。

こうした状況を受け、国交省は2022年10月より「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」といった諮問機関を通じて、解決策を検討してきた。

マンションの管理・修繕における課題の1つに、建替えが困難であることが挙げられる。複合的な理由で、管理組合で建替えの決議が通りにくいのだ。

円滑な建替え事業等に向けた環境整備や、建替えの決議をしやすくするための法改正、マンション長寿命化のための修繕積立金額の基準など、多岐にわたる検討を行ってきた。

こうした施策の1つとして持ち上がっているのが、マンション標準管理規約の見直しだ。

国交省は「標準管理規約の見直し及び管理計画認定制度のあり方に関するワーキンググループ」(以下、WG)を設置し、各種課題に対応していくための方針を議論してきた。

第1回WGでは、主な検討項目としてEV用充電設備や宅配ボックスの設置推進のほか、デジタル技術の活用、管理費等の費用の整理など、10個の項目を挙げた。

■EV用充電設備の設置を推進

本記事では、WGが掲げる検討項目の中でも方向性が明らかになっている「EV用充電設備の設置推進」と「宅配ボックス、置き配」について取り上げよう。

EV用充電設備については、2023年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」で触れられた。国はそもそも、EVの普及のために「2030年までに充電インフラ15万基」の目標を掲げている。

新築集合住宅への設置要請文書の発出を検討するほか、既設集合住宅への設置を容易にする規制改革も盛り込まれている。

管理組合で設置の合意形成が円滑になるよう、標準管理規約コメントでEV用充電設備に係る記載を充実させる計画が立てられた。

戸建居住者は補助金を活用し、自宅に充電設備を設置できる。しかし、マンションのような集合住宅では事情が違う。複数の区分所有者がおり、合意形成が取りづらいからだ。

経済産業省が2023年10月に打ち出した「充電インフラ整備促進に向けた指針」には、充電器が備わった集合住宅を増やすことの必要性が明記されている。ここでも管理組合の合意形成が課題となると指摘。

「より低コストでの設置が可能な新築の集合住宅における充電器の整備を促すことが重要」とも明記された。

こうした事情を踏まえた上で、同指針では2030年に集合住宅に住むEVユーザーのうち、充電を住宅内で可能なユーザーの割合を10%以上にするという目標が立てられている。

■居住者間の費用負担、どうする?

既存マンションにEV用充電器を設置する場合、その場所は共用部分になることが通例だ。

すなわち管理組合が管理する設備となるため、設置費用やランニングコスト、充電に要する電気代の費用負担を明確にしなければならない。故障や事故が発生した場合の管理責任の所在も同様だ。

設置後にはトラブルが生じないよう、対策を講じる必要もある。

マンションの共用部分に変更を加えるには、総会決議が求められる。総会決議には過半数の同意で足りる普通決議と、4分の3以上の同意が必要となる特別決議の2種類があり、共用部分になされる変更の内容によってどちらが採用されるかが変わる。

EV用充電設備の設置工事の決議要件については、これまでのマンションの標準管理規約では規定されていなかった。そこでWGでは、設置工事の決議要件について「普通決議」で決定できることとした。

だが仮に充電設備を設置したとしても、費用負担の問題が残る。マンション内に利用する者と利用しない者が生まれるためだ。

また、電力量単位での従量課金か、駐車料金に定額を上乗せしての課金か、など細かい部分まで検討が必要になる。費用負担の方法それぞれにメリット・デメリットがあり、どれを選択すべきかがわかりづらい。

また、設置費用についても、普通充電器か急速充電器か、配線を露出させるか埋設させるか、などによって50万~数千万円と差が生じる。

WGでは、費用負担の問題については標準管理規約の中に具体的な方法を盛り込まず、「充電設備の使用上のルールや使用料は、駐車場使用細則等に定める」「設置時には充電設備の設置に掛かる費用や、充電設備の運用及び維持費を誰がどの程度負担するかについてあらかじめ総会で決議をしておく」ことを提案した。

■置き配には詳細ルール制定を推奨

次に、宅配ボックスの設置や置き配の推進について紹介しよう。

2023年6月に閣議決定された「物流革新に向けた政策パッケージ」では、再配達率「半減」を含む再配達削減策として、マンションにおける宅配ボックスの設置、置き配が進むよう促すことが盛り込まれた。

ただ、これまで既存マンション共用部に宅配ボックスを設置する場合、EV用充電器設備の設置と同様に、標準管理規約に決議についての規定がなかった。

そこでWGでは、決議要件について「普通決議」で決定できることとした。

EV用充電設備の設置と異なり、宅配ボックスは多くの居住者の利便性向上に寄与する。そのため、共用部分に設置場所を確保できる場合には、居住者間の不公平感を引き起こす可能性は低い。

一方で、宅配ボックスを設置できず、置き配を導入する場合にはさまざまな課題が残る。

最たるものが、玄関ドア前をはじめとした共用部分に置き配をする場合だ。消防法では、廊下、階段、避難口など、避難上の支障となるような状態での宅配物及び宅配物を収納・保管するものの放置を禁止している。

このため、WGでは標準管理規約に、下記のように詳細なルールを定めることを勧めた。

(1)宅配物を置くことが可能な場所等について具体的に定める
(2)宅配物を所定の場所に放置できる期間等を具体的に定める
(3)置き配ができない宅配物を具体的に定める

同時に、違反した場合の対応や、置き配の管理の関する責任の所在などについても、標準管理規約の中で定めることを求めている。



マンション標準管理規約の改正が実現すれば、マンションの共用部分にEV用の充電設備や宅配ボックスを設置しやすくなるほか、置き配の導入が促進されるだろう。

ただ、宅配ボックスの設置や置き配の導入とは違い、EV用充電設備の設置は居住者の利害関係に大きく影響する。

標準管理規約の普通決議で設置の決定がしやすくなったとしても、設置の実現には居住者間で解決しなければ課題が多いのが実情だ。

WGでの検討も終わり、標準管理規約の見直しについて、今後正式なとりまとめが公表される。現時点では具体的な改正時期などは示されていないが、近い将来の施行を目指して動いていることに変わりはないだろう。

マンション管理の適正化については、標準管理規約のみならず、区分所有法や管理計画認定制度の改正などのアプローチによっても実現されようとしている。

今後、マンション管理に関するさまざまなルールが変わるかもしれない。その時に「投資計画の中に考慮できていなかった」とならぬよう、制度改正の動きには敏感になっていたいところだ。

鷲尾香一/楽待新聞編集部

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最終更新:4/13(土) 11:00

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