「第3子以降に1000万円」で子どもは増えるか…政策通たちが動きはじめた「超・少子化対策」驚愕の中身

4/29 9:02 配信

マネー現代

東京・港区区議の困惑

(文 藤岡 雅) 日本トップクラスの財政力のある港区では近年、再開発によるタワマン建設ラッシュでファミリー層が急増し、23区で二番目に子どもが多い自治体となっている。

 ここで「第3子、第4子が生まれれば、その子たちに1000万円を支給をしたい」と考える政治家がいる。斎木陽平氏――32歳の最若手の港区区議だ。子どもが生まれないこの国で、財政に余裕のある港区から、第2子から第3子を生むきっかけを作ろうと奮闘している。

 しかし、議会で区役所の担当者に「第3子以降に1000万円の支給が可能かどうか」と質問すると返ってきた答弁は、次のようなものだった。

 「子どもを持てない理由は経済的な理由だけではない」
「総合的な理由によって要因が複雑に絡み合っている」
「だから、予定はしていない」

 斎木区議はこの答弁に納得しない。

 なぜなら、国立社会保障・人口問題研究所のデータには、理想の数の子どもを持たない理由は、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」がダントツのトップだからだ。しかも、この回答は、出産適齢期の30歳未満で約76%、30~34歳では約81%に上っている。

 それなのに、いったいなぜ…。斎木区議は疑問を募らせるのだった。

 「もちろん、子どもを持たない理由は経済的な理由だけではないでしょう。欲しいけれども子どもができないという問題や健康上の理由だってある。それは誰でも知っています。でも、経済的な理由が最も大きいのも事実。少子化対策の議論は、エビデンスが置き去りになり、感覚的な思い込みに終始しているような気がしてならないのです」

ヤバすぎる「少子化」と「その対策」

 岸田文雄首相の肝いりである「異次元の少子化対策」は、今国会でも紛糾した。

 政府が児童手当の拡充のために国会に提出した「子育て支援金」の財源が、公的医療保険料に上乗せして徴収されるとあって、「目的外利用」との批判を受けている。

 このように少子化対策の議論は、多くの場合、財源論や性差の人権論の隘路にはまりこむ。そのうえで出てくる対策は、いずれも力不足、意味不明の妥協の産物だった。

 2月に韓国の2023年の合計特殊生率が0.72となり、過去最低を記録したことが日本でも話題となった。10年前から半減し、約5000万人の人口が、50年後には3000万人まで4割も減少する計算だ。「国家消滅の危機」として重く受け止められている。

 日本の2023年度の出生数もヤバかった。速報値で75万8631人と8年連続で減少した。

 日本の出生率は2005年度に最低の1.26を記録して以降、2013年度に1.43まで回復したものの、その後は再び下降トレンドを描き、この6月に発表予定の2023年度の出生率は、過去最低を下回ると予想されている。

 実は、少し前の政府の統計では出生数が80万人割れするのは2033年度だと見られていた。ところが、ふたを開けてみる80万人を割りこんだのは2022年度(77万人)で、予想よりも11年も早かった。

 さらに最新の推計でも、出生数が70万人割れするのは2043年度と見られているが、昨年度の出生数はすでに75万人(速報値)だ。仮に、今年度あるいは来年度に70万人割れしてしまえば、20年近くも前倒しとなる。

 政府の甘すぎる見通し、甘すぎる対策に、もはやつき合っていられない…。そんな空気を映し出すように、最近、若手政治家や政策関係者たちから注目を集め始めているのが、「第3子以降に1000万円を支給する」という政策案だった。

婚姻カップルがあと1人生むと…

 第3子以降に1000万円を支給するという政策案は、けっこう前からあったが、検証が進み、いまその効果や実現可能性がにわかに政策議論の俎上に上がり始めている。

 社会保障の問題に詳しい財政学者で、法政大学の小黒一正教授が言う。

 「生涯未婚率が増えていることから、少子化対策は婚姻を増やすという対策が注目されがちですが、いま結婚していてすでに子どもを持っているカップルにあと1人子どもを生んでもらう政策の方が効果がありそうだということが分かってきました。

 すでに子どもを持っているカップルが、1人から2人あるいは2人から3人に子どもを増やしてもらったほうが、効果的に出生率が伸びる可能性があるのです」

 夫婦から生まれる子どもの数を「有配偶者出生数」という。これがたとえば1人ないしは2人増えるだけで、実は少子化対策の目的はほぼ達成できるのだという。

 小黒教授によれば、次のような計算が成り立つという。

 「有配偶者出生数」は、現在は約2人、生涯未婚率は約35%であり、現在の合計特殊出生率は約1.3である。

 図にあるように、生涯未婚率の数字を約10%まで減らしてみると、合計特殊出生率は1.8となる。確かに効果はあるのだが、生涯未婚率が約35%のままでも有配偶者出生数を3人とすれば、出生率は1.95までのびる。4人であれば、なんと2.6まで増えてしまう。

 つまり、いま結婚している人があと1人、あるいは2人、子どもを増やした場合、計算上の少子化対策は完了してしまうというのである。

 そこで注目されているのが、「第3子以降に1000万円」を支給するという政策案だ。

 たしかに1000万円が給付されるとなればかなりのインパクトがあるが、財源はあるのだろうか。

 簡易的に計算してみれば、仮に第3子に1000万円を支給し、かつ第3子の出生数が30万人増えた場合の予算は約3兆円となる。いま政府が行おうとする異次元の少子化対策の予算規模と変わらない。また、現在第3子の出生数は15万人程度だから、予算規模は1兆5000億円程度からスタートできる。

 なるほど、たしかに荒唐無稽な政策ではなさそうだ。

港区で社会実験をやってみたい!

 ただし、結論を急ぐのは良くない。ここまで見てきたのはあくまで仮説なので、実際に効果があるかどうかは実証実験が必要だ。

 そこで、この政策に関心をもったのが、港区の斎木区議だった。

 「実は、港区は財政の収支が優秀で、毎年約100億円の黒字が積みあがっています。これで積みあがった基金は2000億円ほどあり、財政調整基金も約800億円もある。

 たとえば、2021年の出生数は2461人で、そのうち第3子以降は214人でした。この子たちに1000万円を支給するとなれば、その予算は約21億4000万円です。決して無理な話ではありません」

 港区では2023年の年末に、所得制限なく子ども1人あたりに5万円分の「子育て応援商品券」を配っているが、その予算は約25億円だった。第3子以降に1000万円の支給は、それよりも安い値段でできてしまうということだ。

 斎木区議は言う。

 「日本のなかでも財政的に余裕のある港区でまずは実証実験を行い、効果が見込まれれば全国の自治体に広がる可能性がある。そうなれば、国に全国で実施するよう働きかける有効な提案になるでしょう」

国政でも可能

 子育て政策に詳しい国民民主党の玉木雄一郎代表はこう語る。

 「第3子に1000万円を18歳まで分割支給するのであれば、月々約4万6000円です。たとえば、いまの異次元の少子化対策では、国でも第3子以降に月々3万円を支給する案が議論されています。

 つまり、第3子以降に1000万円を支給しようとするならば、国の3万円に加えて、各自治体は1万6000円を上乗せすればそれでいい。都道府県や自治体でその負担を分け合うことができれば、全国で実施することを想定しても、財政的に難しい話ではありません」

 とはいえ、これまでの経済的な子育て支援が必ずしも、出生率の増加に効果があったというデータは、いまのところ得られていないという。

 しかし、玉木氏はその原因をこう語るのだ。

 「確かに経済的な子育て支援が出生率の上昇に寄与したといえるデータは見当たりません。その通りなのですが、政策立案の現場に身をおいている立場から言えば、これまでの対策にインパクトがなかったことも事実。

 日本の少子化や人口減少はかなり危機的な状況にあるのですから、インパクトのある政策をいまやるか、やらないかの分水嶺といえます。

 経済的にインパクトがあれば、必ず行動は変わってくる。欲しかったけどあきらめていたもう一人の子どもを持てるかもしれないと思っていただける政策をやるべきだろうと思います」

 少子化対策については、依然として「家族観」や「子どもの人権」の観点から、経済的支援への批判や反発は多い。

 「第3子以降に1000万円」――。あなたはこの政策をいかに考えるだろうか。

 後編「「第3子以降に1000万円」は実現可能…! 岸田より自治体が考える「超・少子化対策」のほうが「異次元」に思えるワケ」では、その現実味について、さらに深掘りします。

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最終更新:4/29(月) 9:02

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