「M-1見てない」芸人の“まさかの告白”に抱く共感 COWCOWの多田「人の活躍が見られなくなった」

5/16 14:02 配信

東洋経済オンライン

「会話が盛り上がらない」「すぐ相手を怒らせる」「落ち込みやすい」……。人間関係において、そんな悩みを抱える人は少なくないだろう。しかし、ちょっとした発想の転換で、物事のとらえ方がまるで変わってくることがある。著述家の真山知幸氏が上梓した『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』を一部抜粋・再構成し、人生の風景が変わる「神回答」を紹介したい。

■名言には2種類のタイプがある

 私はこれまで60冊以上、偉人や名言の本を書いてきた。そのため、インタビューや取材で「名言とは?」という質問を投げかけられることが少なくない。

 そんなとき、名言の定義について、いつも次のように答えている。

 「名言とは、人生の風景が変わる言葉です」

 その言葉に触れる前とあとで、まったく状況は変わっていないのに、気持ちをまるで変えてくれる。それこそが「名言の効用」だといえるだろう。

 そんな名言には、2つのタイプがある。1つは「一人の思考から生み出された言葉」だ。名言集やカレンダーなどで収録される名言の多くは、このタイプだ。

 そして、もう1つが、「会話のやりとりから発せられた言葉」である。後者こそが、いわゆる「神回答」と呼ばれるもので、ときには本人も意図していない言葉さえ生まれることがある。「神回答」の魅力は何といっても「即興性」と「化学反応」だろう。

 このたび上梓した『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』で書いたように、神回答には8つの効果があると、私は考えている。

 今回は、そのなかから「人間関係を円滑にする」という効果を持つ神回答を3つご紹介したい。第一線で活躍する著名人による言葉だが、自分ならばどんなふうに活用できそうか。言葉のエッセンスを考えながら、読んでいただけるとなおよいだろう。

 「無理してでも友達の輪に入るべき?」へのイチローの「神回答」

 元メジャーリーガーのイチローは、日米通算4367本と世界一の安打数を誇る、野球界のレジェンド。周囲に流されることなく、自らの感覚と信念に基づいた打撃フォーム「振り子打法」を貫いた。

 また、マスコミにも多くを語ることはなかったため、「孤高の天才」と呼ばれることも多い。そんなイチローが、小学生からこんな悩みを相談された。

 「最近、学校のクラスメートとなじめないのですが、無理をしてでもその友達の輪に入るべきなのでしょうか」

 イチローの足跡を思えば「無理に合わせる必要はない」と答えそうなものだ。おそらく質問した小学生も、そう言ってほしかったのではないだろうか。

 しかし、イチローは質問を噛み締めてから「これむずかしいね」と語りかけた。そして「僕はあんまり無理をする必要はないんじゃないかと思うね。疲れちゃうから」と回答。さらに「普段の生活の中でストレス抱えていることって、みんなにも結構あるでしょう。今の時代は特にそうだと思う」と、質問者に寄り添った。

 そのうえで、イチローは「自分がやりたいことだけ好きなようにやっていればいいかというと、それはまた違う話だと思う」として、次のように呼びかけた。

 「無理に輪に入っていくこと。それで学ぶこともあるとは思うから。一度入ってみて見極めてみるというのもいいかもしれない」*1

 さらに「完全に閉ざすこと」について「そういうこともある」と理解しながらも、「最初にそれをしてはダメだ」と丁寧に説明。無理のない範囲で輪に入ってみては、と提案している。これほど誠実に質問に向き合う回答者は稀有だろう。

【神回答ポイント】
相談された内容にどう答えればよいのか。迷いがあるならば、思考プロセスごと丁寧に伝える。そうすれば、相手が期待する答えではなくても、耳を傾けてくれることだろう。

■人の活躍がまぶしいときにお笑い芸人がとった行動

 漫才賞レースの最高峰とされている「M-1グランプリ」。

 大会前のファイナリストが発表された時点から「今年は誰が優勝するのか」という話題で盛り上がり、終わってからもグランプリの結果や審査員のコメントについて、あちこちで解説が行われる。「普段はお笑いを見ないが、M-1だけは見る」という人も珍しくない。

 もはや国民的行事といっても、過言ではないだろう。

 ところが、2024年2月18日にABEMAで放送された「チャンスの時間」では、お笑いコンビ「COWCOW」の多田健二が、司会を務めるお笑いコンビ「千鳥」の大悟から「M-1、見ました?」と尋ねられると、態度が何やらおかしい。言いづらそうにしながら「M-1、ちょっと、見てない……」と発言。

 スタジオが「そんな芸人いるんですか?」と騒然となるなか、大悟が「なんか理由があって?」と聞いたところ、多田が答えたのが、この言葉である。

 「何年か前から人の活躍が見られなくなりまして……」*2

 思わぬ理由に、「これが人間!」とスタジオは爆笑に包まれながらも、どこかみなホッとしたような表情にも見える。視聴者も肩の力がふっと抜けたことだろう。

 自分以外の誰かががんばる姿は大いに刺激になるが、「それに比べて自分は……」と落ち込むことだってある。思えばSNS全盛期の今、これほど人の活躍を目の当たりにする時代は、これまでなかった。

 見たくないときは、情報をシャットアウトすればよい。そう気づかせてくれる「神回答」である。

【神回答ポイント】
自分の弱さを隠さないぶっちゃけ話は、聞く人の心をほぐす力がある。ちなみに私も、売れっ子によるSNSでの度重なる増刷報告は、目にしないように工夫している。

■コンプレックスは開示すると気が楽になる

 スラヴォイ・ジジェクは、スロベニア生まれの哲学者。ラカン派精神分析とヘーゲル哲学を軸にしながら、政治経済だけではなく、文学や映画をも縦横無尽に論じている。

 歯に衣着せぬ物言いで時事を斬り、「現代思想界の鬼才」ともいわれるジジェク。インタビュー中に、自身がマシンガントークをする理由について説明して、話題を呼んだ。

 ジジェクは「私には劣等感(コンプレックス)がある」と切り出し、自分が話し続けることについて、こんな意外な心情を明かしている。

 「私が1秒でも喋るのを止めると、あなたに私が喋ってる内容を理解する余裕を与えることになり、内容がクソだってあなたにバレてしまう。あなたの気を散らすために喋り続けるしかないんだ」

 さらに「自分のことが全く信じられないんだ」とも言って、次の言葉を続けた。

 「私が喋り続けるのは傲慢だからじゃないんだ。恐いからなんだよ」*3

 思わぬ展開にインタビュアーは「アウグスティヌスの『告白』のようでしたね」と笑顔で応じている。

 ジジェクの問わず語りの告白を聞いて、新たにファンになった人もいることだろう。

 作家・太宰治が『乞食学生』という作品で書いた、こんな名言を思い出させる。

 「僕は、心の弱さを隠さない人を信頼する」*4

【神回答ポイント】
自身のコンプレックスを相手に開示してしまうことで、思わぬ誤解を避けることができ、親近感を与えることができる。

■さまざまな効果を持つ「神回答」を日々に取り入れよう

 この記事では、「人間関係を円滑にする神回答」をご紹介したが、『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』では、そのほかに「心がスッと楽になる」「相手に寄り添う」「心が奮い立つ」「視野が広がる」「雰囲気を解きほぐす」「切り返しで相手を圧倒する」「相手のイメージを膨らませる」といった効果別に分類して『神回答』を取り上げた。

 考え方一つで日々の過ごし方は、まるで違ったものになる。本書を活用して、発想の転換を促す言葉の数々に、ぜひ触れてみてほしい。

 コメント引用出典
*1:「無理をしてでも、友達の輪に入るべきですか? 【おしえて! イチロー先生】」(SMBC日興証券公式チャンネル、2020年6月23日)
*2:「チャンスの時間」(ABEMA、2024年2月18日放送)
*3:「なぜこんな話し方になったのか理由を明かすジジェク(日本語字幕)」(ユーチューブチャンネル ジョージのチャンネル、2021年3月20日)
*4:「乞食学生」(『太宰治全集3』太宰治著、ちくま文庫、1988年)

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最終更新:5/16(木) 14:02

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