「肉も野菜も安い」ドラッグストアが節約志向で絶好調、スーパーと真っ向勝負

5/9 8:02 配信

東洋経済オンライン

 「ディスカウントを強化した食品と雑貨が大きく伸長し、その集客効果で医薬品や化粧品も売れている」――。ドラッグストア業界4位・コスモス薬品の横山英昭社長は足元の好調な業績をこう分析する。

 「食品強化型ドラッグストア」の業績が絶好調だ。消費財の値上げが相次ぐ中、スーパーよりも安く食品を販売するドラッグストアが支持を集めている。ドラッグストアは粗利率の高い医薬品や化粧品で利益を確保できるため、食品の価格を下げて集客できるのだ。

 その代表格が業界大手のコスモス。食品の売り上げ構成比率は約6割と高い。郊外で大型店を展開し、価格攻勢で周辺スーパーの客を奪いながら成長している。

■節約志向をがっちりつかむ

 コスモスは食品の安売りを強化し客数を伸ばしている。2024年5月期第3四半期(2023年6月~2024年2月)の売上高は前期比18%増の7153億円と勢いがある。食品の売り上げは前期比22.3%増と好調で、業績を牽引している。

 コスモスはこれまで、M&Aではなく自社出店で成長してきた。地元九州から破竹の勢いで北上し、現在は関東や中部の出店を強化中だ。東京や神奈川などの郊外でも店舗網を広げ始めている。

 4月下旬に都内のコスモスの店舗を訪れると、値札に「毎日安い」と書かれた味の素の「ギョーザ」12個が税込み208円、東海漬物の「こくうま熟うま辛キムチ」300gが税込み228円で売られていた。スーパーなどと比較しても、かなり安い価格設定だ。

 店内はチルド品やインスタントラーメンのほか、冷凍食品が壁一面のケースにずらりと並ぶ。同じドラッグストアでも、医薬品や化粧品を中心とするウエルシアHDなどとはまったく異なる品ぞろえだ。

 「ポイントカードやキャッシュレス決済がない分、価格を安くしています」。店内に掲示されている通り、コスモスは基本、現金払いだ。「毎日安売り」を強固なものにするためにローコスト経営を徹底している。

 特売もポイントカードもないが、いつ来ても安い価格で買い物ができる店作りだ。セール時に値札を切り替える手間もなく、人件費も抑制できる。

■クスリのアオキは生鮮食品で勝負

 「野菜も毎日安い!!」――。精肉や野菜を強調するチラシが置かれていたのは、北陸地盤のクスリのアオキHDの店舗。店頭にはスーパーさながら、多くの生鮮食品が並んでいる。

 ドラッグストアへの生鮮食品の導入は難しいとされてきた。鮮度管理等のノウハウに乏しく、廃棄が大量に発生するリスクがあるからだ。実際、多くのドラッグストアは、まだ生鮮食品が充実しているとは言えない。

 クスリのアオキは、この課題を買収で解決しようとしている。2021年5月期以降、地場スーパーを軸に12回のM&Aを実行。買収先の生鮮食品のノウハウを社内で共有し、各店舗で鮮度管理のレベルを向上させた。

 さらに地元の市場に精通した人材も確保するなど、高品質な生鮮食品の流通網も整えた。精力的に既存店の改装を進め、2023年11月時点で総店舗数の85%で精肉と青果が販売されている。

 クスリのアオキが買収をしてまで生鮮食品を強化する背景には、業界の競争激化がある。主戦場の郊外で人口減少が進み、1店舗あたりの商圏人口は縮小傾向。その中でも出店は続き、店舗の採算性低下に悩まされている。

 クスリのアオキも、以前はコスモス薬品など競合に客を奪われ、厳しい状況に追い込まれていた。打開策として選んだのが集客力の高い生鮮食品の導入だったわけだ。

 その戦略が奏功し、2024年5月期第3四半期(2023年6月~2024年2月)の売上高は前期比15.8%増の3267億円と好調だった。

 営業利益も一時的な株式報酬費用(64億円)を除くと、実質的には同56.2%増の198億円と高い伸びだった。生鮮食品の取り扱いによる粗利率の低下が懸念されたが、収益性も守られた。

 「3年前の業績悪化から立て直すため、思い切って生鮮食品を導入した。競争力は戻りつつあり、この方向で間違っていなかった」。好調な決算を受けて、青木宏憲社長も自信を見せた。

■生鮮食品での差別化には課題も

 北陸では福井地盤のGenky DrugStores(ゲンキー)も生鮮食品を強化中だ。業界では珍しく、精肉や総菜を加工する自前のセンターを持つ。低価格な食品のプライベートブランド(独自規格)商品が充実しており、サンドイッチやすしも販売している。中堅ドラッグストアの生き残り策が問われる中、着実に独自の店舗づくりを進めている。

 ほかにも、神奈川地盤のクリエイトSDHDや岩手地盤の薬王堂HDなど、食品軸の「毎日安売り」を掲げるドラッグストアが軒並み業績を伸ばしている。

 物価高の中でドラッグストアの存在感は一層高まっている。生鮮食品を扱うための人件費や廃棄などのコスト増を吸収しながら、成長を続けられるかが今後のポイントになりそうだ。

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最終更新:5/9(木) 8:02

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