コンサル1年目が学ぶ「雲雨傘」の論理とは何か 「雲があって、雨が降りそう、だから傘を」

3/27 13:02 配信

東洋経済オンライン

コンサルタントは入社1年目から徹底的にビジネスの基礎を叩き込まれる。しかもその基礎は他業界に移っても、15年、20年たっても普遍的なスキルとなる。春から新社会人になる人も、ベテランの人も、改めて確認しておきたいビジネススキルについて、ビジネスコンサルタント・大石哲之氏の著書『コンサル一年目が学ぶこと』から抜粋してお届けする。本稿のテーマは「雲雨傘提案の基本」。

 コンサルタント1年目で学んだことのなかで、とりわけわかりやすく、すっと頭に入ってきたことのひとつに、雲雨傘の論理があります。

 「黒っぽい雲が出てきたので、雨が降り出しそうだから、傘をもっていったほうがいい」

 これは、事実と、解釈と、アクションの区別をつけることのたとえです。いったいどういう意味でしょうか? 

■事実、解釈、アクションを区別する

 雲というのは、「事実」をさします。実際に目で見て観測したこと。雲が出ているということは、誰が見てもわかる客観的な事実です。

 雨が降りそうだというのは、その事実から推測される「解釈」です。雲が黒いという事実から、雨になるだろう、という解釈を引き出しているのです。

 最後は、傘です。雨が降り出しそうだ、という解釈から、傘をもっていくという「アクション」を起こしています。

 もう一度整理すると、次のようになります。

(事実) 「空を見てみると、雲が出ている」
(解釈) 「曇っているから、雨が降りそうだ」
(アクション)「雨が降りそうだから、傘をもっていく」

 ここで大切なのは、①事実②解釈③アクションの3つをきちんと区別することです。

 これを混同したり、一部を省略して結論づけたりしてしまうと、筋が通らない話になってしまいます。よくある失敗例をご紹介しましょう。

■「だから何なのか?」という解釈

失敗①「雲」だけで提出してしまう
 入社1年目で必ずやってしまう失敗は、上司に調べものを依頼されたときに、データのグラフや事例の記事だけを上司のところにもっていって、「できました!」と報告してしまうことです。依賴されたテーマに関連しそうなデータや、記事をコピペしてきて、それをレポートと称して上司に出してしまうのです。

 新聞や雑誌の記事からたくさん情報を集めて、報告に行く。褒められるかと思っていたら、死ぬほど怒鳴られます。

 「なんだこれは! これをどうしろというんだ。俺がこの記事を全部読めというのか?」

 上司の言うことはもっともです。

 ここで新人が怒られた理由、それは自分なりの解釈がなかったことです。雲雨傘の例でいうと、雲(データや観察事項に相当するもの)を単に提示しただけ。実に不親切です。

 単にデータや記事を渡すだけではなく、そこから何が言えるのかをセットでもっていかなくては、意味のある報告にはなりません。

 たとえば、あなたが医者にかかり、血液検査をしたとします。そして1週間後、検査の結果が告げられました。

 アラニントランスアミナーゼ、ヘマトクリット値、GGT……、わけのわからない項目と数字を見ながら、医者はあなたにこう言います。

 「はい、血液検査結果です。これを見て、どうぞ考えてください」

 あなたは憤慨して、きっとこう言うに違いありません。

 「え? わたしには解釈なんてできません。この数字を解釈するのが医師の仕事では?  そして、悪いところがあるのなら、薬をください!」

 まさに事実だけのレポートを提出する新人は、この医師と同じです。

 病気なのか、健康なのか。何に注意したらいいのか。問題があったとして、それは重大なことなのか、些細なことなのか。

 ほしいのは、「だから何なのか?」という解釈です。

 そして、必要に応じて、薬を処方するといったアクションをとってもらいたい。

 それを抜きにして、検査結果だけ渡されても患者は困惑するだけです。

 ビジネスも同様です。解釈のないグラフをいくらたくさんつくっても、関係ありそうな記事をいくらたくさん集めても、だから何なのか? という解釈がないと、問題を解決するための役には立ちません。

事実(=雲)だけでは報告とはいえない。
「だから何なのか」という解釈もセットでもっていく。

■Why So? が欠けている

失敗② 根拠を提示していない
 次にやりがちなのは、アクションだけをもっていくことです。雲雨傘の例でいえば、「傘をもっていったほうがいい」というのがアクションに相当します。

 単にアクションだけを提示されても、なぜそうなのか? ということがわかりません。

 コンサルタント用語では、Why So? が欠けているといいます。

 「なぜそうなるのか?」ということです。

 何かを提案するときはアクションだけを提案してもダメです。必ず、元になる事実と解釈もセットで伝えなければいけません。

雲があって雨が降りそうだから(事実・解釈)
傘をもっていったほうがいい(アクション)
血糖値が基準値以上で、糖尿病の危険があるから(事実・解釈)
この薬を飲んだほうがいい(アクション)
 なお、アクションにはいくつかの選択肢があります。

 雨が降りそうだという解釈に対するアクションは、実はひとつではありません。

 レインコートをもっていくというアクションもありますし、用事をリスケジュールしてそもそも出かけないというアクションもあります。

 糖尿病の治療にも、いろいろな選択肢があるはずです。それなのに、決め打ちでひとつのアクションだけを提示されても、「本当にそうなの?」「ほかにもあるんじゃないの?」と疑いをかけられてしまうのは避けられないでしょう。

提案をするときは、
「複数あるアクションからなぜそれを選んだのか」

もセットで伝える。

■事実と意見をちゃんと区別

失敗③ 事実と、意見や解釈との混同
 最後は、いったい何が事実で、何が解釈で、何がアクションなのか、混沌としたまま報告してしまうケースです。

 たとえば、新聞記事で事例を見つけて、それを報告したとします。その際に突っ込まれるであろうことは、「これはあなたの意見なのか、それとも新聞社の意見なのか?」ということです。

 特に、事実と意見をちゃんと区別して提示することは大事です。

 たとえば「お客さんは低価格なものを求めていると思います」という意見。

 これは、客観的な消費データに基づくものなのか、たぶんそうじゃないかというあなたの推測なのか、それとも最近の一般的なトレンドについて言っているのか等々、さっぱりわかりません。これでは、厳密な議論はできません。

事実と意見をきちんと区別して提示する。

■見出しをつける

「事実」「わたしの解釈」「推奨アクション」
の3つの見出しをつける
 事実、解釈、アクションをきちんと区別し、

「だから何?」「どうしてそうなるの?」への答えを明確にする。

 これは、いわゆるロジカルシンキングの基本です。

 そして、これは、コンサルティング会社だけで求められるスキルではありません。社会人なら、どんな仕事に就いていてもクリアすべき、基礎中の基礎のスキルです。

 では、どうしたら、このスキルをすみやかに身につけることができるのか?  いちばん簡単な方法は、見出しをつけることです。

 何か文章を書くときに、

(事実)
(わたしの解釈)
(推奨アクション)
 といった具合で見出しをつけることによって、頭の中がスッキリ構造化されます。

 それをそのまま仕事相手に見せてもよいでしょう。相手にとっても、事実、解釈、アクションが区別できて、とてもわかりやすいはずです。

 さらに、この見出しはチェックリストとしても機能します。

 この3つが揃っていない提案には、説得力がありません。すぐに、「だから何?」「どうしてそうなるの?」と言われてしまうでしょう。

 すべての文書は、3つの見出しについて、適切に中身が埋められていて筋が通っているかどうかをチェックしてから提出すべきです。

その提案の
・事実(雲)
・解釈(雨)
・アクション(傘)
は明確か? 

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:3/27(水) 13:02

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング