京葉線の幕張豊砂以外も「イオン前駅」増殖の背景 「ショッピングモールは車で行くところ」の常識を覆す

3/7 4:32 配信

東洋経済オンライン

 地方の鉄道利用者が減少を続けている理由の1つに、郊外型ショッピングセンターの相次ぐ出店と、その影響を受けた駅前商店街の衰退があろう。

 ショッピングセンターが郊外を目指した理由は理解できる。広大な土地が安価に手に入るからだ。しかもマイカーの普及で、鉄道やバスが走っていなくても、多くの人が行けるようになった。

■ショッピングセンター前に新駅

 国が対策をしてこなかったわけではなく、1970年代には大店法(大規模小売店舗法)が施行されたが、1990年代に入るとアメリカから規制緩和を要請されたこともあって規制が弱められた。

 その後この法律は2000年に、大規模小売店舗立地法に移行したが、規制はむしろ弱められており、郊外への出店がさらに加速した。ただしまもなく改正都市計画法が施行され、郊外への大規模集客施設の出店規制が強化された。

 これが関係しているのか、最近は都市部の駅の近くのショッピングセンターが増えており、新たに駅を設けるという動きもある。とりわけ業界トップのイオングループで、こうした動きが目立つ。

 たとえば首都圏のJR東日本の駅で最も新しい千葉市の京葉線幕張豊砂駅(2023年3月18日開業)は、この地に以前からイオンモール幕張新都心を展開していたイオンモールと千葉県、千葉市が協議会を作り、JR東日本に新駅の設置を要請した。

 建設費用の半分をイオンモールが負担し、残りを千葉県と千葉市、JR東日本が3分の1ずつ負担したという請願駅である。

 イオンモールはマイカーでの来店を基本としてきたが、近年は各地で渋滞による苦情が出されてきており、選挙や議会の争点になることさえ出てきた。

 しかもイオンモールは、イオングループ内ではデベロッパー企業に位置づけられており、自治体や住民との連携・協力を重視し、必要に応じて道路整備や環境保全対応などを計画に盛り込むとしている。

■これまでは駅から遠かった

 幕張新都心はたしかに京葉線が走っているものの、従来は海浜幕張駅しかなく、イオンモールまで歩くと20分もかかる。これではマイカーで行きたくなるだろう。よって費用の半分を出しての新駅設置となったようだ。

 駅名は一般公募された。幕張豊砂は13番目だったが、エリア全体を表す「幕張」と駅の南側の地名である「豊砂」を組み合わせており、イオンモール幕張新都心の所在地も千葉市美浜区豊砂であることから選ばれたようだ。

 この駅は蘇我方面に向かう下りホームが地平、東京方面に向かう上りホームが2階になっていることも特徴だ。地下鉄ではよく見かけるが、地上駅では少ない。

 この構造は、駅の陸側にある車両基地(京葉車両センター)と関係がある。京葉線はもともと貨物線として計画され、車両基地がある場所は貨物駅になる予定だった。貨物駅への出入り線を通すために、上り線を高架としたもので、現在も車両基地の出入り線が通っている。

 駅舎は海側のみで、路線バスが発着する駅前広場に隣接してイオンモールの建屋があり、入口まで屋根付きの通路を用意している。

 とはいえ駐車場は7300台分もあり、平日は6時間、土日祝日は4時間まで無料ということに加え、周辺にはコストコホールセールなどもあるので、現在も渋滞が発生しがちとのことだ。

■駅の存在感アピール

 開業1周年を迎える2024年3月16日、17日には、駅前広場、イオンモール、コストコなどで、記念イベントを開催するという。地域全体で駅を盛り上げていこうという姿勢が伝わってくるし、ここでもう一度、駅の存在をアピールしたいという気持ちが伝わってくる。

 ところで幕張豊砂駅が開業した2023年3月18日には、同じJR東日本でもうひとつ新駅が生まれている。田沢湖線の盛岡―大釜間に設けられた前潟駅だ。

 こちらもイオンモール盛岡に隣接した場所に駅があり、設置費用は盛岡市が負担したものの、イオンが盛岡市に企業版ふるさと納税をする形で寄付をしている。

 逆に既存の駅の近くにイオンモールが開業した例もある。京都市のイオンモール京都桂川は、JR西日本東海道本線(京都線)桂川駅から連絡通路が延びており、アップダウンがなく雨にも濡れずアクセスできる。

 さらに桂川駅のやや西には、阪急電鉄京都線の洛西口駅があり、徒歩5分ほどでイオンモール京都桂川に着く。複数の駅が徒歩圏内にあるイオンモールは珍しい。

■ビール工場跡地の再開発

 2つの駅の間には、かつてキリンビール京都工場があった。しかしビール工場の移転が決まり、跡地には商業施設や集合住宅などが建設されることになった。

 この時点で駅の開設が決まり、2003年に洛西口駅、5年後に桂川駅が生まれた。洛西口駅はニュータウンもある洛西エリアへの入り口、桂川駅は近くを流れる川から命名された。

 工場跡地にイオンモールの進出が決まったのは両駅が開業したあとで、2014年にオープンしている。これに合わせて桂川駅との間に歩道橋が設置され、洛西口駅付近の阪急京都線は渋滞対策として高架化された。

 イオンモールに面した桂川駅西口の駅前広場は、バスやタクシーの乗り場、駐輪場が広めにとってあり、バスは京都市交通局、京阪京都交通、ヤサカバスの3事業者が乗り入れている。

 新快速や快速が停車せず、自治体の代表駅でもないことを考えれば恵まれており、イオンモールのターミナルを兼ねていることがわかる。

 駐車場は3100台分と、こちらもイオンモールらしく多いが、無料なのは最初の1時間だけと、幕張新都心より厳しい。このあたりは自治体との協議の結果、決められたのかもしれない。

■ほかにもあるイオン直結駅

 これ以外にもイオンモールと連絡通路で直結している駅は、JR東海東海道本線の南大高駅、南海電気鉄道南海本線の和歌山大学前駅など、増えつつある。

 最初に書いた法律の影響に加えて、多くの地方では人口減少と高齢化が進んでおり、集客が高望みできず、マイカー中心の店舗では渋滞の問題が出ることを考えると、イオンモールが都会に進出する流れはしばらく続くだろう。

 かつては対立軸に挙げられることもあったショッピングセンターと鉄道駅だが、今後はむしろ結びつきを強めていくのではないかと考えている。

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最終更新:3/7(木) 16:54

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