投資で成功したければ基本は嘘を見抜くこと、そして「はずれ屋」が「買うな」という時こそ買うべき時だ

5/14 5:02 配信

マネー現代

師匠の教え

(文 大原 浩) ウォーレン・バフェットが20歳の時出会った、ベンジャミン・グレアムの著書「賢明なる投資家」は、彼に雷に打たれるような大きな衝撃を与えた。

 「証券分析」の方は、デビッド・L・ドッドとの共著だが、これらの2冊の本をまるで「師匠から与えられたバイブル」のように大事にしているのがバフェットである。

 バフェットが、「賢明なる投資家」から学んだこととして重要な二つのポイントをあげている。

 1. ミスター・マーケット(に負けるな)
2. 安全余裕率(を確保せよ)

 である。

 1の「ミスター・マーケット」は市場を擬人化したものであり、日本語で言えば「マーケット君」である。

 この「マーケット君」は、株価が上昇し始めるとすぐに有頂天になり、やみくもに株式を買い集める。逆に株価が下がり始めると、まるでこの世の終わりが来るかのようにふさぎ込み、せっかく高値で買い集めた株式を安値で売り払ってしまう。まるで躁うつ病であるかのような存在だ。

 バフェットの有名な「人々が熱狂している時には冷静に、恐怖におののいている時には大胆にふるまえ」という金言は、バフェット流の「マーケット君」への対処方法であるとも言える。

安全余裕率

 2の「安全余裕率」は、2018年11月14日公開「投資の神様バフェットが最も重視した『企業を見抜く4つの視点』」4ページ目「仕入れ力は無駄を排除する力」、5ページ目「バフェット流に付け足すとしたら」で述べた要素などによって、まず「本質的価値」を算定する。

 この本質的価値は、例えば企業買収(M&A)を行うときに会計士などの専門家が算定するように、財務内容や企業のブランド力などの「企業の(本当の)資産価値」から導き出される。市場の株価とは何ら関係が無いものである。

 そして、この「本質的価値」を市場の株価が下回った時に投資のチャンスが訪れるのだ。しかし、バフェットは市場の株価が「本質的価値」を下回っただけでは購入に踏み切らない。

 師匠のグレアムから教わった2の「安全余裕率」をさらに差し引いた価格まで株価が下落したときに、初めて投資に踏み切るのである。

 例えば、トヨタ自動車の「本質的価値」が(1株当たり)3500円であったとしよう(あくまで仮定であるからご注意いただきたい)。市場価格が3500円以下になっただけでは、投資に踏み切らない。安全余裕率が30%の場合、3500円の30%(=1050円)を差し引いた2450円まで株価が下がってから行動を起こすのだ。

 そして、さらに株価が下がれば、喜んで買い増しを行う。

 もし、安全余裕率を見込んだ2450円まで株価が下がらなくても、バフェットは決して妥協しない。彼に言わせれば「投資は見逃し三振が無い野球」であるから、ボール気味の球にわざわざ手を出さなくても、次のチャンスを気長に待てばよいだけのことである。

 「次のチャンスがやってこなかったことは、これまでなかった」というのもバフェットの言葉である。

企業の嘘を見抜くことが大事

 それではもう1冊の「バイブル」である「証券分析」からバフェットは何を学んだのであろうか? 
 この本は、タイトル通りの「証券分析」に関する本である。証券(企業)分析の技術的ノウハウをバフェットがこの本から学んだことは間違いが無い。

 しかし、本人は明言していないが、「証券(企業)の嘘を見抜く方法」も、同時に学んだものと考える。

 なぜかといえば、グレアムは「証券分析」の多くのページを割いて、「企業決算・報告の嘘」を見抜く方法を詳細に語っているからである。

 グレアムの時代は、証券市場がまだ未整備で、企業の決算書の信頼性が薄かったのは事実である。だが、現在でもベンチャー企業の(例えば上場するための)「循環取引による売り上げ水増し」などの不正行為がしばしばみられる。

 もちろん、プライム(一部)上場の大企業も例外ではない。2019年12月15日公開「“サザエさんを失った”東芝はどこまで大迷走するのか」2021年6月30日公開「東芝だけか? バフェットが見抜いていた、先が見えない企業に共通する『兆候』」で触れた東芝は、日本経済新聞 3月24日「不正会計、東芝に賠償命令 個人株主へ4800万円」などで報道される不正会計問題を引き起こした。

 つまり、「どのような大企業の決算書でも、頭から信じるようなことはすべきではない」というのが、バフェットが「証券分析」から学んだことだといえよう。

「合法的」操作

 また、「明らかな不正」だけではない。マネジメントの権威、ピーター・ドラッカーは「新入社員を1年も教育すれば、『合法的に』どのような決算書でも意のままにつくれる」と皮肉を込めて述べている。

 不正をしなくても、決算書を作成する上では、減価償却費などを筆頭に「(自社に都合の良い)恣意的な数値」を挿入する余地がいくらでもあるのだ。グレアムも、具体的な事例をたくさん掲げて、この「決算書の恣意性」について論じている。

 また、「会計上の操作」以外にも、「経営(方針)による決算書の操作」もよく行われる。

 例えば、研究開発、従業員教育、設備投資など将来の企業の発展にとって必要不可欠なコストを圧縮するのだ。1年あるいは数年の間、極端に支出を減らすことは難しくない。売り上げも急激には落ちない。すると、目先の決算書の利益が大きく増える。

 バフェットがストック・オプションに極めて批判的なのは、2020年7月20日公開「『プロ経営者』たちが、日本企業を次々に破壊しているというヤバい現実」など多数の記事で述べたプロ経営者を始めとする目先の利益しか考えない人々が、ストック・オプション(の行使)を目当てに「将来の企業の成長を犠牲にして目先の利益のかさ上げに奔走する」可能性が高いからである。

 ここにハゲタカファンドが絡んでくると最悪である。彼らも目先の企業業績を嵩上げして、多額の配当や、短期的な株価の上昇によって利益を得る。しかし、それはタコが自分の足を食べるようなものであり、企業を疲弊させる。

 このような、「経営上の嵩上げによる目先だけの良好な決算」も、広い意味での粉飾決算と言えるかもしれない。この「粉飾決算」による企業経営者・幹部に対する(ストックオプションを含む)高い報酬や、高額な配当は「正当なものとは言えない」であろう。

メディアも「はずれ屋」?

 バフェットは、「メディアが賢ければ賢いほど投資家が繁栄する」と述べる。ブラックジョークや皮肉が好きなバフェットのことだから、この言葉も裏読みする必要があるだろう。

 つまり、「(現実には)メディアが賢くないから投資家が繁栄しない」ということだ。

 バブル期を経験した多くの読者の記憶に残っているであろうが、テレビなどのメディアに頻繁に登場していたある高名な評論家が「株を買わない奴は馬鹿だ」と煽っていた。

 しかし「誰が馬鹿であったのか」は、バブルが崩壊して多くの人々が知ることとなった。

 このような評論家の人々の中には、常に予想をはずす「はずれ屋」が存在する。詳しくは、2019年9月19日公開「投資予測に『当たり屋』はいないのになぜ『外れ屋』は存在するのか」を参照いただきたい。

 例えば、私は雑誌や新聞などのメディアの「株特集」に注目する。特にその特集が「株を買うべきだと大声を上げているとき」を重視する。そのときこそ、「暴落」に備える時であるということだ。

 逆に、りそなショックが起こった2003年から東日本大震災で日本中が打ちひしがれていた2011年あたりは、絶好の投資チャンスであった。世界経済のネタ帳「日経平均株価の推移」(年次)を見れば明らかだ。例えば、2009年3月10日に、東京株式市場で日経平均株価がバブル崩壊後の最安値となる7054円98銭を付けてから、現在はおおよそ4万円に上昇した。つまり、日経平均は15年ほどで5~6倍にもなっているのだ。

 これは、現在の約4万円を基準に考えれば、20万~25万円程度になったということである。

 この絶好のチャンスにメディアがどのように報道していたのか思い出してほしい。

大衆は常に間違っている

 実際、2018年10月6日に「今後4半世紀の間に日経平均株価は10万円に達することができる」が公開された時でさえ、多くのメディアは懐疑的であった。

 そして現在も、メディアの多くが株価や日本の将来に悲観的である。むしろ、現在の株価はバブルだから、まもなく崩壊するという論調が多い。

 しかし、そのことが、「大原浩の逆説チャンネル<第61回>日本のすごさを知らないのは日本人だけ? 30年間で日経平均が50万円に到達する可能性もある中で、これから日本を牽引するのは『老舗企業』」、4月9日公開「日経平均が30年で50万円になってもおかしくない、これからの『日本の黄金時代』は老舗企業が繫栄する」などの内容の信憑性を高める。

 バフェットが述べるように「市場が熱狂しているときは慎重に、悲嘆にくれているときは大胆に」が「投資成功の秘訣」である。

 実際、日本の相場格言にも「大衆は常に間違っている」というものがある。投資の世界では「みんなで赤信号を渡る」と大事故に遭遇する。メディアが「はすれ屋」であるのも、その報道内容が「大衆の標準的意見を集約したもの」だからであると言える。

 これは「集団主義」=「同調圧力」によって「全体の中の標準的意見」で取引を行うことが多い日本の金融機関が欧米のトレーダーのカモにされる理由でもある。

 別の相場格言では、「人の行く裏に道あり花の山」ともいう。世の中の大勢とは違った、独自の道を進むことが投資成功のカギである。バフェットも「投資のアイディア」という言葉をよく使うが、「他人と違った独自の考え」を持たなければ投資での成功は望めないということだ。

 なお、実際の投資は、「大原浩の逆説チャンネル<第15回>バフェット流の真髄は『安く買って高く売る』これがわから無い人がほとんどだ。(バフェット流の真髄その1)」などを参照の上、自己責任で行っていただきたい。

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最終更新:5/14(火) 5:02

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