唯一の「電車が走らない県」徳島ご当地鉄道事情 ただし鉄道ネットワークは意外に充実している

5/15 4:32 配信

東洋経済オンライン

 都会に暮らしている人は、なんだって鉄道のことを「電車」と呼ぶクセがついてしまっている。別にそれは何ら間違いではなくて、実際に走っているのは電車ばかりなのだからムリもない。

 一度、電車も気動車もあるような地域の人に、「つい何でも電車って言っちゃうんですよ」などと話したことがある。返ってきたのは、「この地域の人もみんな電車ですよ。気動車も関係なく」。鉄道のことをどう呼ぶか。地域ごとに結構個性がありそうな気がして、興味深いところである。

■電車はないが「汽車」がある

 そして、今回やってきたのは日本で唯一“電車”の存在しない県、徳島県だ。沖縄県で唯一の鉄軌道であるゆいレールを“電車”に数えるとするならば、徳島県だけが電車の走らない県ということになる。だから、徳島の人たちは、もちろん鉄道のことを電車などとは呼ばない。

 聞くところによると、汽車と呼ぶことが多いのだとか。汽車といったら蒸気機関車のことをイメージする人が多いかもしれないが、徳島では気動車もひっくるめて汽車と呼ぶ、というわけだ。

【写真】どんな「汽車」が走っているのか? 高松と徳島を1時間に1本ペースで走る特急「うずしお」など(6枚)

 電車が走らない徳島県。そう聞くと、そもそも鉄道路線そのものが少ないのではないか、と思ってしまう。しかし、これが意外とそういうわけでもない。県都・徳島市のターミナルである徳島駅を中心にして、四方にしっかりと鉄道ネットワークが構築されている。

 隣接県から徳島県に入る路線は、事実上一択といっていい。それは、高松―徳島間を結ぶ高徳線だ。香川県内ではおおむね瀬戸内海沿いを走り、讃岐相生―阿波大宮間で県境。讃岐山脈を越えて徳島平野に出れば、吉野川を渡ってターミナル・徳島へ。普通列車の本数は少なめで、一方では特急「うずしお」が1時間に1本のペースで走るという、特急主体のダイヤが特徴だ。1日2往復だけだが、岡山―徳島間の「うずしお」も走っている。

■県都の玄関口徳島駅

 このいかにも地方の都市間輸送路線といった趣の高徳線から、支線のように分かれているのが鳴門線だ。鳴門線が結んでいるのは、鳴門―池谷間。ほとんどの列車は池谷駅からそのまま高徳線に乗り入れて、徳島駅まで走っている。

 つまり、実質的には鳴門―徳島間の路線といっていい。鳴門は古くから阿波の玄関口で、いまでも鳴門大橋が通って淡路島、そして本州へと通じる交通の要衝だ。

 鳴門線はおおよそ1時間に1本の各駅停車。これが池谷―徳島間で高徳線に流れ込むことで、高徳線も1時間に2本の普通列車の運転本数が確保されている。

 いずれにしても徳島駅にたどり着けばあとは進路は2方向。西に向かって吉野川沿いをさかのぼっていくのが徳島線、太平洋沿いを南に行くのが牟岐線だ。

 徳島線は、愛称の「よしの川ブルーライン」のとおりに吉野川を見ながら(といっても、実際に車窓から望める区間はごくわずか。車窓という点では南側の剣山地も見どころだ)の徳島線。こちらは本数こそ「うずしお」には負けるものの、1日に下り6本・上り5本の特急「剣山」が走っている。

 さらに、2020年からは観光列車「藍よしのがわトロッコ」も運行されるなど、観光色も兼ね備えた路線の1つだ。

 そんな徳島線の終点は、土讃線と合流する佃駅。全列車が土讃線阿波池田駅まで乗り入れている。池田といったら、1980年代前半の高校野球界を賑わした“やまびこ打線”でおなじみの池田高校がある町だ。

 実際に阿波池田駅にやってくると、これが本当にやまびこが返ってきそうな静かな山あいの町であることに驚かされる。ここで徳島線から土讃線に乗り継げば、北は高松、南は高知。阿波池田の南側には大歩危小歩危の景勝地があるが、ここも徳島県だ。徳島県の西の端をかすめる土讃線。四国山地のど真ん中を貫いている。

■海沿いを走る路線も

 山に向かう路線が徳島線だとするならば、海を見るのが牟岐線だ。徳島駅から南下して、青色発光ダイオードでおなじみの阿南、はたまた朝ドラ『ウェルかめ』の舞台になった日和佐などを通り、高知県との県境を目指してゆく。

 終点の阿波海南駅からは、レールの上も道路もどちらも走れる阿佐海岸鉄道のDMV(デュアル・モード・ビークル)が続いている。

 かつては高松から直通する特急「うずしお」などが走っていたこともあったが、いまの牟岐線の特急列車は1日1往復で実態としては通勤ライナー化している「むろと」だけ。それでも、四国第23番霊場の薬王寺が駅裏に鎮座する日和佐駅に向けて、毎年お正月には臨時特急「やくおうじ」が運転されるのが習わしになっている。

■鉄道連絡船全盛期の面影も

 また、いまでは廃線になってしまって久しいが、徳島の南の中田駅からは小松島線という支線が分かれていた。

 徳島の要港として期待された小松島港への路線であり、1913年という徳島県内では早期に開業した路線の1つだ。実際に、往時は和歌山・大阪・神戸方面との航路と接続し、航路連絡路線の役割を担っていた。いまも、廃止された小松島駅の周辺にはターミナル時代の面影がほんのりと残っている。

 いま、徳島の航路と言ったら和歌山港までを結ぶ南海フェリーだ。徳島側では徳島駅からバスで20分ほどの徳島港が拠点だが、相手方の和歌山港では南海和歌山港線の和歌山港駅と連絡。和歌山港線のダイヤも南海フェリーに合わせているし、フェリーのりばと駅舎までは連絡橋で直結している。少なくとも和歌山側では鉄道連絡船という存在にほかならない。

 だから、徳島県にやってくる方法には、高松駅から「うずしお」に乗るのもよいけれど、和歌山から船に乗ってくるのも悪くない。

 ターミナルの徳島駅は、すぐ裏側に徳島藩25万石の拠点・徳島城跡が広がり、駅前通りをまっすぐ行って新町川を渡った先には阿波おどり会館、そして徳島のシンボル・眉山がそびえている。

 徳島県には、電車が走っていない。どこに行っても汽車だらけ。徳島市内に路面電車が走っていたという過去もないから、歴史的にも汽車一本槍でやってきた。

■「汽車の旅」を堪能できる

 ただ、それでも意外なほどに鉄道ネットワークは充実しているといっていい。高松からの「うずしお」、はたまた静謐な山あいを目指す「剣山」。海沿いをゆけば最後にはDMVに乗ることもできる。

 ちなみに、四国のJR線で単一県内完結の路線は4路線。そのうち、3路線までが徳島県に集まっている。じっくりと、徳島の汽車の旅を堪能してみるのも、なかなか楽しい旅になるに違いない。

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最終更新:5/15(水) 13:32

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