市場は「壊れている」とアインホーン氏-データはそれを裏付けず

5/8 12:54 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 著名ヘッジファンド運用者のデービッド・アインホーン氏は、パッシブ投資のブームが何年にもわたりウォール街の伝統的な割安株探しを無効にし、市場は「根本的に壊れている」と言う。

指数に連動する資金が爆発的に増えたことで、多くのアクティブ投資家が廃業に追い込まれ、ウォーレン・バフェット氏やベンジャミン・グレアム氏のような投資家が割安企業に価値を見いだした時代は終わったという。

そしてそれは、価格発見やコーポレートガバナンス(企業統治)など、あらゆるものをむしばんでいる。「パッシブ投資家は、価値について何の意見も持っていない」と、アインホーン氏は2月にバリー・リットホルツ氏のポッドキャスト、「マスターズ・イン・ビジネス」で語った。

ヘッジファンド運営会社グリーンライト・キャピタルの創業者であるアインホーン氏は、パッシブ資産がアクティブ資産を追い越し、割安株がハイテクを中心とした成長株にかつてないほど後れをとっている時代にこのような見解を示している。自身のファンドが2年にわたり好調な成績を上げた同氏は、ディープバリュー投資を成功させる方法はまだあると強気な見方を示している。

アインホーン氏は、かつて「マルクス主義より悪い」とまで言われた大規模なパッシブ投資による市場の混乱に関する広範な議論を再燃させている。しかし、批判は行き過ぎかもしれない。インデックス投資ブームは市場を壊してなどおらず、株式選定の背景にまだささやかな影響を及ぼしていると、多くのプロの投資家がバリュエーションとリターンに関する通常のデータを引用して主張する。

消えゆくバリュー

まず、アインホーン氏の主張の中心、つまり昔ながらの投資スタイルの信奉者にとっては厳しい時代だということは真実だ。かつての投資家は、割安銘柄を物色して大勝利を収めることができた。しかし、この10年以上、この戦略では圧倒的多数のマネジャーが何度も失敗してきた。

バリュー株、つまり株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)などの指標が低い銘柄の指数は2012年以降、2年を除くすべての年でベンチマークのラッセル1000種指数に後れをとっている。バリュー株は今年初め、成長株との比較で記録的な落ち込みを示した。

アインホーン氏らに言わせれば、この背景にはパッシブ投資資金の隠れた力がある。新たな資金が指数連動の投資信託に流れているため、資金は自動的に勝ち組銘柄を狙う。その結果、往々にして割安となる出遅れ銘柄は敬遠される。そうなると、バリュー投資家は成果を出せず、資金が引き揚げられ、その銘柄がさらに下がるという悪循環が生まれる。

実際、バリュー投資に特化したアクティブ運用ファンドは減少している。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の投資信託アナリスト、デービッド・コーン氏がまとめたデータによると、このスタイルに特化した投信とETF(上場投資信託)の数は、15年の1082本をピークに15%減少している。

より広範な投資戦略を持つ銘柄選びのプロでさえ、最近のバーゲンハンティングはほとんど無駄な努力だという考えを受け入れている。バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジスト、サビタ・スブラマニアン氏らが3月に行った調査によると、平均的なアクティブ運用ファンドのバリュー株へのエクスポージャーは、モメンタム株のそれを56%下回っており、これは過去15年間見られなかった水準だという。

アクティブ・イン・コントロール

しかしBIのアナリストは、パニックに陥る必要はないことを示唆する証拠を見つけ出した。S&P500種株価指数構成銘柄のパッシブ保有比率を集計し、そのパフォーマンスを比較したところ、期間1年、3年、5年でパッシブ保有比率が最も低い銘柄が他の銘柄を上回っていることをアナリストは発見した。

「パッシブファンドが力強く着実に成長しているにもかかわらず、市場の動きに与える影響は依然として小さい」と、BIのアナリスト、アタナシオス・プサロファギス、ジェームズ・セイファート両氏は最近のリポートに書いている。

さらに、指数連動投資が混乱をもたらすことを否定するもう一つの主張がある。これらのファンドは通常、アクティブ運用ファンドが設定した価格トレンドに従う。例えば、電気自動車(EV)メーカー、テスラが20年にS&P500種に採用されたのは、デイトレーダーと成長志向の機関投資家による株価の急騰によるものだった。

また、21年の学術調査によると、米国株式市場は20年前と同様にアクティブであり、多くの一任投資家がパッシブETFを武器にポートフォリオを構築している。

新しい話ではない

アメリカン・センチュリー・インベストメント・マネジメントのマルチアセット戦略最高投資責任者(CIO)、リッチ・ワイス氏によれば、バリュー株のパフォーマンス低下を指数連動投資のせいだけにするのは誤りだという。

「パッシブ投資の成長は、私がこの業界に入ったときから続いている。新しいものではない。それなのになぜ突然、バリュー投資が機能しないレベルに達したのだろうか」と同氏は問いかける。

アインホーン氏は多くのバリュー投資ファンドの苦戦の背景に何があるかにかかわらず、強気を維持している。同氏のファンドは22年に約37%、昨年は22%のプラスリターンを上げた。

ETFからアルゴリズム取引に至るまで、価格に鈍感な投資家が市場を支配しているため、存続可能な企業がとんでもなく低いバリュエーションで取引される「ディープバリュー」と呼ばれるような状況になっている。つまり、配当や自社株買いといった控えめな企業からの還元でさえも、最後に残ったバリューに傾倒した株主にリターンをもたらす可能性があるということだ。

アインホーン氏は先月の投資家向け書簡で、パッシブ投資の普及による歴史的な資本移動は「素晴らしい機会の組み合わせ」を生み出すと書いている。

「私たちのリターンは、他の投資家からではなく、会社そのものから得られる」という。

割安株

割安株の定義はさまざまで主観的であることが多いが、ここでは説明のために株価売上高倍率を使って判断してみよう。ラッセル3000種指数の中で最も割安な銘柄群のパフォーマンスを追跡してみると、過去3年間は多くの人が描いてきたようなバリュー投資の砂漠ではなかった。

BIがまとめたデータによると、このグループではベンチマークを上回る銘柄の割合が21年に5年ぶりの高水準となる54%まで上昇し、翌年もその水準を維持した。

いわゆる「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる大手テクノロジー銘柄が上昇を独占した昨年は、その比率は40%に低下した。とはいえ、この比率はまだ過去20年のトレンドの範囲内であり、新たな投資の形を示唆するものではない。

「もしアインホーン氏の言う通り、バリューは崩壊し、基本的にファンダメンタルズ(バリュエーション)はもはや重要ではないのであれば、指数を上回るバリュー銘柄の数は持続的に減少するはずだ」とBIの株式ストラテジスト、クリス・ケーン氏は言う。「しかし、実際にはそうはなっていない。確固たるパターンはなく、行ったり来たりしている」と語った。

(ただ、アインホーン氏は最新の投資家向け書簡で、バリューの定義に従来の指標を使うことに反発している。)

恐らく、バリュー投資の苦境はパッシブ投資というよりも、技術革新の勝者総取りの時代と関係があるのだろう。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のように経済の先行きが不透明であればあるほど、ソフトウエアやインターネット企業のような安定した収益を上げる大型成長株は魅力的な投資先となる。

ビレールのポートフォリオマネジャー、ラマー・ビレール氏によれば、成長株の絶え間ない上昇は指数連動投資によって増幅されたかもしれないが、割安とみられる株にも最終的には光が当たる。

「その時に流行遅れのものを所有している人は、市場が壊れていると主張するだろう」が、「私は市場が壊れているとは思わない」と述べ、バリュー投資家が報われるスピードが以前ほど速くないだけかもしれないと指摘した。

原題:Einhorn Says Markets Are ‘Broken.’ Here’s What Data Shows (1)(抜粋)

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最終更新:5/8(水) 12:54

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