「きくらげで日本一になる!」妖精に扮する女社長が売る「国産きくらげ」の価値とは?

4/6 10:32 配信

東洋経済オンライン

 わりと頻繁に食べているにもかかわらず、これまで意識したことがなかった食材がある。それがきくらげだ。そう、中華飯に入っている黒いアレだ。きくらげそのものに味や香りはほとんどなく、あるのは食感だけ。ゆえに好きでもなければ嫌いでもないという人も多いだろう。

■箸を持つ手が止まらない「きくらげラー油」

 ところが、きくらげに対する概念が筆者の中でガラリと変わった出来事があった。それは昨年11月、取材で訪れた愛知県東三河エリアのアンテナショップ「豊穣屋」で「きくらげラー油」なる瓶詰めを購入したのがきっかけだった。

 愛知県豊川市で栽培されているきくらげを使ったラー油仕立ての佃煮だ。炊きたてのご飯はいうまでもなく、ラーメン、とくに担々麺にのせると箸が止まらなくなるほどうまかった。特筆すべきはプルンとした食感。筆者がこれまで食べていたきくらげとはまったくの別物だったのだ。

 それにしても、なぜ、きくらげに着目したのだろうか。「豊穣屋」で取材に対応してくれた「木耳のお店」のスタッフできくらげの妖精、あっぴーさんによると、「社長の喚田が国産のきくらげの美味しさに感動して、その魅力を伝えたいと思ったのがはじまりです」とのこと。

 どうしても喚田社長と会って話が聞きたくなり、豊川市へと車を走らせた。「お店」というだけに直売店があると思いきや、カーナビを頼りに到着したのは、ビニールハウスが建ち並ぶ一角にある工場のような建物。

 看板には「就労継続支援B型事業所 グリーンフィールド」とある。就労継続支援B型事業所とは、障害や難病で一般企業に就職するのが難しい人に対して就労や生産活動等の機会の提供や訓練、支援を行う事業所である。

■「きくらげで日本一になる!」と宣言

 本当にここが「木耳のお店」なのかと思い、中に入ると、大勢のスタッフがきくらげの選別やパック詰めの作業をしていた。その中で親しげにスタッフへ声を掛けていたのが「木耳のお店」の社長、喚田恵子さんだった。

 「もともと夫が経営するグリーンフィールドで乾燥きくらげの販売をしていて、私もそれを手伝っていました」と、喚田さん。

 筆者と同様に、当初はきくらげについて何も知らなかったが、興味を持って調べているうちに、国内で消費されているきくらげの99%は中国から輸入していることを知った。また、食物繊維やビタミンD、コラーゲンなど栄養価も高く、何よりも国産きくらげの美味しさにハマった。

 「きくらげのことを知れば知るほど魅力を感じました。そして、障害のある方の工賃を少しでも上げたいという思いもあって、4年前にハウスを作ってきくらげを栽培したのがはじまりです。当時小学生の長男と長女に『きくらげで日本一になる!』と宣言したことを今でも覚えています」(喚田さん)

 喚田さんがもっともこだわったのは、きくらげの品質。広葉樹のおがくずやふすま粉、米ぬかや大豆の胚芽など国産の原料を自ら仕入れてオリジナル配合の菌床を仕込んでいる。温度や湿度、二酸化炭素の濃度などを徹底管理されたハウスで60日間かけて菌を培養し、さらに30日後にきくらげの芽が出てきて、成長したきくらげを少しずつ丁寧に収穫している。安心・安全を考えて、農薬はいっさい使っていないため、ハウス内に虫が発生してすべての菌床を処分したこともあったという。

 「障害のある方が作っているというストーリーではなく、クオリティの高いきくらげを作っていることを前面に打ち出していきたいと思って、2021年に『木耳のお店』を設立しました」

■きくらげの妖精“けっぴー”誕生秘話

 ところが、地元で開催されているマルシェなどのイベントに出店しても、思うように売り上げが伸びない日々が続いた。きくらげの栄養価の高さをいくら語っても、立ち止まって話を聞いてくれる客はいなかったのだ。かつての筆者と同様に、日常生活の中できくらげを意識している人はほとんどおらず、喚田さんは自身との温度差を目の当たりにした。

 そこで喚田さんはきくらげを使った写真とレシピをインスタグラムなどSNSで発信し続けた。さらに、目立たないきくらげの存在を目立たせるため、自身が広告塔となってきくらげをPRしようと考えた。きくらげの妖精、けっぴーの誕生である。

 「2021年3月の満月の夜、母・恵子が月を見ながら両手を空高く挙げて突然叫び出し、そのときに口の中からプルンプルルンっと生まれたのが、きくらげの妖精。けっぴーです。母の厳しい英才教育でけっぴーはスクスクと育ち、きくらげのことを多くの人々に知ってもらおうと東三河を中心に全国を飛び回っています」(喚田さん)

 きくらげをイメージしたアフロヘアとインパクト十分な丸メガネ、そして目がチカチカするショッキングピンクの衣装がけっぴーのトレードマーク。全身ピンクは林家ペー・パー子夫妻だけではなかったのだ(笑)。

 イベント会場にけっぴーが現れると、これまで素通りされていたのが嘘だったかのように多くの人が集まり、スマホのカメラを向ける。きくらげを購入して、一緒に写真を撮った客がインスタグラムに載せたのを機に、けっぴーの知名度はどんどん高まっていった。

 また、けっぴーの誕生とほぼ同時進行で福島県の老舗漬物佃煮製造会社「小田原屋」に製造を依頼していたのが、前出の「きくらげラー油」だ。2021年2月に発売され、半年で7000個を売り上げるヒット商品となった。その後、「きくらげしそ高菜」や「きくらげ高菜ラー油」も加わり、全3種類がラインナップ。今では「木耳のお店」の主力商品となっている。

 「『きくらげラー油』などの佃煮を販売したことで、きくらげを日々の食生活の中に採り入れるきっかけを作ることはできたと思っています。しかし、日常的に食べる習慣があるかといえばそうではありません。そもそも1日3食しかないので、そこに入り込むのはとても難しいのです」(喚田さん)

■きくらげ粉末入りのスイーツ店を開店

 喚田さんの次の一手は昨年12月、豊川市の豊川稲荷の門前の一角にオープンさせた「甘味処 よび田屋」だった。甘味ときくらげは結びつかないどころか、むしろ対極にあるような気もするが、実は本わらび粉を使ったわらび餅のほか、白玉だんごからレモネード、ハーブティーなどのドリンクに至るまですべて粉末状にしたきくらげが入っているという。

 「スイーツであれば、食事以外のいろんな時間帯に食べることができると思ったんです。それと、きくらげはどうしても中華料理のイメージを抱きがちですが、スイーツにも使うことができるというきくらげの可能性を広げたいと思いました」(喚田さん)

 スイーツやドリンクに用いられるのは、1万枚に1枚ほどの確率で発生する色素のない白いきくらげ。それを乾燥させて粉末状にしたものをわらび餅や白玉だんごに加えると、よりもっちりとした食感になるという。一方、ドリンクにはあえて粒感を残したきくらげが入っていて、タピオカやナタデココのようなアクセントになっている。

 現在、「甘味処 よび田屋」はプレ・オープン中で、正式なオープンは4月初旬。豊川稲荷は商売繁盛のご利益があるといわれ、それにちなんだ「繁盛餅」なるきくらげ入りの看板メニューが発売される。

 「実は、繁盛餅は最終的な味の調整をしていて、まだ完成していないんです。でも、伊勢の赤福餅のような唯一無二の名物にしたいと思っています。豊川を含めた東三河エリアは農業がとても盛んな地域ですが、豊川といえばきくらげといわれるような特産品にするのが私の夢です」(喚田さん)

 喚田さんのバイタリティーと行動力、そして、けっぴーのアシストがあれば、子どもたちと約束した「きくらげで日本一になる!」という夢も決して雲をつかむような話ではない。筆者も同じ愛知県民として今後も応援していこうと思う。

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最終更新:4/6(土) 10:32

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