「15年分のホコリが人生の痕跡」膵臓がんで1カ月でこの世を去った義父…離婚後、誰にも見せなかった“あまりにも孤独すぎる”ゴミ屋敷
末期の膵臓がんが見つかった60代の男性は、そのわずか1カ月後にこの世を去った。あまりにも急な「死」に、遺族は焦る。その状況に追い打ちをかけるようにやってきたのが「遺品整理」だった。男性が15年間1人で住んでいたのは、ゴミ屋敷だったのだ。
本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。
ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直氏と、亡くなった男性の遺族が、ゴミ屋敷清掃の顛末を語る。
動画:お世話になった義理の父が突然死「初めて見た孤独な部屋」
■15年分のホコリが積もった義父の部屋
イーブイに片付けの依頼を申し込んだのは、義理の息子だった。亡くなった男性の娘の夫にあたる。病院で義父を看取り、賃貸だった家を片付けるために訪れると、想像もしていなかった光景が広がった。
とくにゴミの量が多かったのは、主な生活スペースとなっていたリビングとキッチンだ。窓際に置かれたソファの上には乱雑に服が山のように積み上がっている。キッチンには空のペットボトルやスプレー、食べきれなかった食品がダンボールに投げ込まれている。
【写真】「こんなのまだ残してたんや…」義父の生活の痕跡が残るゴミまみれの部屋(45枚)
かろうじて生ゴミは捨てられていたようだが、それ以外のゴミ出しがどうしてもできなかったようだ。掃除をしていた様子もなく、とにかく家具、家電、床に積もったホコリの量がすごい。
机の上に重ねられた新聞紙を持ち上げると、その形にくっきりとホコリが残った。すぐ横にある油汚れで真っ黒になったガスコンロには丸焦げになった網が置かれたままだ。
鍋やフライパンを使うのではなく、網の上で何かを焼いて食べていたのだろう。新聞紙をゴミ袋に入れようとすると、間に何枚か使用済みの網が挟まっていて、新聞紙が張り付いていた。
今回、片付けの依頼に至った経緯を、義理の息子が話す。
「義父の膵臓にがんが見つかって、そこから1カ月弱で亡くなったんです。義父は離婚をしていたので、この部屋に15年間ずっと1人で住んでいました。亡くなった後、片付けをしようと部屋に入ったらこの状態だったので、“これは何とかせなあかんな”と」
■ホコリから生前の生活が見えてくる
離婚した義父の元妻を含め、亡くなる直前まで義父とは交流があったという。
義理の息子にとっては義父というより、“年の離れたイケてる先輩”のような存在だった。義父との付き合いは3年になる。初めて会った日に和歌山県へ釣りに出掛け、すぐに仲良くなり、そのまま縁側のある旅館に泊まることになった。それから何度も一緒に釣りに行き、還暦祝いのパーティーも開いた。
しかし、生前、義父の家には誰も入ったことがなかったのだ。
「みんな(ゴミ屋敷になっていたことは)知らなかったです。まさかこんな状態とは思っていなかったのでびっくりです。たぶん1人では片付けるのが苦手な人だったと思うんですよ。でも、自分はもう離婚した身やからっていうのもあって、相談せえへんかったんやろと思います。でも、頼ってほしかったです」(義理の息子)
現場に入ったスタッフは6人。住んでいた家だけではなく、男性が近くに借りていたトランクルームも片付ける。すでに遺品はあらかた取り出しているので、どんどんゴミを袋に詰めていく。
「ここで、一人でご飯食べていたんやな」
ガスコンロが置いてあった机を見て義理の息子が感慨深そうにつぶやく。誰も入ったことのない部屋だが、片付けていくうちに生前見ることのなかった義父の姿が頭の中をよぎる。それは釣り竿やルアーといった義父の趣味のモノだけではなく、“ホコリ”からも見えてくる。
15年間のホコリが積もり積もった部屋だが、所々にそのホコリがきれいにない場所があるのだ。きっと、義父はこの場所を気に入ってよく使っていたのだろう。一度も見ることがなかった義父の私生活が今になって浮かんできた。
「これ一緒に買ったやつや。一緒に使ったやつや。置いとったんやな、こんなの」
トランクルームからは一緒に使ったキャンプ用品が出てきた。還暦祝いのパーティーで義理の息子が送った品も保管されている。通夜、葬式とバタバタした日が続き、悲しむ時間もなかったのだろう。
■ゴミ屋敷になるのは仕方のないこと
「寂しいというか、なんでもうちょっと早く相談してくれへんかったんやろう。かなり近い位置でお世話になっていた方なので、最後まで面倒見たいという気持ちがあった」と、義理の息子が後悔を打ち明けた。
今回は亡くなった後のことだったが、もし義父が生きていれば同じ言葉を本人に投げかけたことだろう。
しかし、「ゴミ屋敷の住人は、大丈夫じゃなくても周りに心配かけたくないからつい“大丈夫”と言ってしまうんです」と、二見氏が話す。
「“大丈夫”という言葉自体が、ある種のSOSなんじゃないかと思うときもあります。実際、人にゴミ屋敷の相談をするってなかなか難しい。
今回のようなケースを取り上げると、よく視聴者さんからまるで親を見放していたかのような指摘が入ることがあります。
でも、毎月のように顔を合わせていても、外で会っていた場合、実は実家がゴミ屋敷になっていたなんてことはよくある。いつも家に上がっていたのに急に入れてくれなくなったとしたら気付くかもしれないですが、そうでもない限りゴミ屋敷であることを見抜くことは難しいと思います」
そこで二見氏が訴えるのは、「どう察知するか」ではなく「そうなったときにどうするか」。ゴミ屋敷が発覚したときに、「なんでこんなことになったの?」「なんで言ってくれなかったの?」と責めてしまえば、またゴミがたまり出したときに萎縮して相談ができなくなる。そして、またゴミ屋敷になってしまう。
「1回目は仕方ないと思っています。なら、2回目をどう防ぐかに重点を置いたほうがいい。“これから頑張っていこう”と、前を向いた言葉をかけてあげることが大切です。ただ、これは人によって正解が違うので本当に難しいんです」(二見氏)
■そして、ゴミ屋敷まっしぐら
「次はこうなる前に相談してね」
一見すると配慮した優しい言葉のように思えるが、仮にまた部屋が荒れてしまったとしたらどうだろうか。
すでに事後なのでもう相談ができない。というより、もともと相談ができない性格だから1回目も相談ができなかったのだ。そして、ゴミ屋敷まっしぐらである。
では、事前策として「部屋の掃除はできてる?」と定期的に声をかけたらどうだろうか。つねに気にかけてくれている存在であると思う一方、「信用されていない」「監視されているみたいだ」と不信感やプレッシャーを感じ、パンクしてしまうかもしれない。
そうなってくると、何をどうしたらいいのかわからなくなってくるが、二見氏の言うとおり、これには本当に正解がないのだ。しかし、だからこそ、イーブイのような業者が誰にも相談できない人がすがることのできる場所として存在しているのである。
【写真】「こんなのまだ残してたんや…」義父の生活の痕跡が残るゴミまみれの部屋(45枚)
東洋経済オンライン
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最終更新:11/3(日) 10:02