親の接し方ひとつで、子の学力や将来の年収に差が出る? 「子どもがやる気を失う」危険すぎる“3つの行動”
研修の企画・講師を年200回、トータル2000社、累計2万人を超えるビジネスリーダーの組織づくりに関わってきた組織開発コンサルタント・高野俊一氏による連載「上司1年目は“仕組み”を使え!」。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボによりお届けする。
子どもへの接し方で、将来の学力や年収に差が出る
もし、お医者さんから「あなたの子どもは発達が遅れている」「自閉症の恐れがある」と言われたら、あなたはどうしますか?
これは、我が子に対して言われた言葉です。
子どもに惜しみない愛情を注ぎ、子どもが健やかに育つ環境を用意できていると思い込んでいた私たちは、その言葉によって自分たちの子育てを見直すことになったのです。
子どもの発達が遅れてしまう原因については、遺伝するとかしないとか、育て方によるとかよらないとかさまざまな説があり、はっきりとはわかっていないようです。
ですが、子どもへの接し方によってその子の将来の学力や年収に差が出るという研究データはたくさんあります。
未就学児に絵本の読み聞かせやパズルを使って遊ばせるときに、親がどのように声かけをしているかを分類し、その声かけの仕方による子どもの学力の変化を調査した実験があります。
親の声かけの仕方を大きく分けると、2つのアプローチ方法に分かれるそうです。強制型と共有型です。
強制型の親は、子どもに対して「指示」「命令」「禁止」をします。具体的には「これはこうしなさい」「これをやってみて」「これはやっちゃだめ」という声かけです。子どもに考える余地を与えず、たとえば「ママはそう言ったかな? 違うでしょ」というふうにして、子どもをコントロールするのです。
一方、共感型の親は、子どもに対して、「褒める」「励ます」「広げる」をします。「すごいね」「できるよ」「どうしてそうしたのかな? 面白いね」「こうしてみたらどう?」といったような声かけです。子どもに考える余地を与え、自分で選ばせるというアプローチ方法です。
この2つの声かけによって、子どもの将来の学力にどういう影響があったのか。
なんと、共感型で育てられた子どもにはその後の学力に飛躍的な上昇が見られ、強制型の子どもよりも成績がよく、司法試験などの難解な試験の合格率も高かったそうです。
ついついやってしまう、「指示」「命令」「禁止」
この実験結果を踏まえて、日ごろの自分の子どもに対してのコミュニケーションが、強制型なのか共感型なのか、改めて考えてみましょう。
自分は共感型として接していると思いたくなるのですが、日常のやりとりは、つい強制型に陥りがちです。
たとえば、我が家の保育園に行くまでの準備。
うちの子は本当にのんびり屋で、起きて、トイレに行き、ご飯を食べ、歯を磨き、着替えて靴下を履いて靴を履き、家を出る、という朝のルーティンを、毎日毎日ちんたらちんたらやるのです。
私は出張も多く、時間が不規則なので、我が家で息子を起こすのはもっぱら妻の役割になっていました。普段冷静で、優しく対応する妻も、毎朝やられると、たまったものではないようで、最初のうちは「時間だよ、起きな〜」「朝ですよ〜」とマイルドに始まるのですが、時間も迫ってくると、だんだんと語気が荒くなり、
「起きなさい! 遅刻するよ!」
「早くご飯食べて!」
「歯磨きして、間に合わないよ!」
「着替え!! 違う!! 前後ろ逆!!」
「靴下!!」
「はい、靴履いて。あと5秒!! 5、4、3、2、1、時間切れ!!」
「遅れてもいいの? 知らないよ?」
「いいかげん自分でやって」
……これを、毎朝やっているのです。これらは共感型でしょうか? それとも強制型でしょうか?
言うまでもありません。「指示」「命令」「禁止」の強制型です。
ちなみに共感型の親は、「靴下履いたほうがいいと思わない?」と考える余地を持たせるのだとか。そうすべきなのはわかっていても、日々の生活のなかでついつい強制型になってしまうのです。
子どもの非認知能力を育てていますか?
共感型のアプローチが、なぜ子どもの学力に影響するのか。それには深いワケがあるそうです。
また別の実験ですが、マシュマロテストというのを聞いたことはありませんか? 非常に有名なテストで、次のようなものです。
マシュマロが好きな子供の目の前にマシュマロを1つ置き、「このマシュマロを食べずに我慢できたら、あとでマシュマロを2つあげるから我慢できる?」と質問します。「我慢できる」と約束した子どもが本当に我慢できるか、我慢できずに目の前のマシュマロを食べてしまうかで、その後の発達に影響があるか調べたテストです。
なお、マシュマロを食べずに我慢ができるかどうかといった能力を、非認知能力といいます。国語とか算数とか学力で測れるものを認知能力、それ以外の、意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーション能力といった、学力では測定できない個人の特性による能力のことを非認知能力というのです。
なんと、この非認知能力の高さが、学歴、雇用、収入に影響することが明らかになっているそうです。
非認知能力の要素として先ほど紹介した、意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーション能力、これって社会に出たら必要なものばかりですよね。
想像してみてください。
意欲があって、協調性があって、粘り強くて、忍耐力があって、計画性があって、自制心があって、創造性があって、コミュニケーション能力が高い人。自分の部下だったら相当に優秀だと感じるでしょうし、それさえあればほかにはいらないというくらい素晴らしい人材ですよね。
そんなわけで、子育てにおいて認知能力以上に非認知能力を育むことが大事、というのは確かにそうだろうと思うのですが、非認知能力を育てることはなかなか意識されていないようです。
小学校受験にしても、認知能力だけの学力試験になっています。いわゆる「お勉強」をどう学ばせるかを気にしてしまいますが、非認知能力をどう伸ばすかということは、私たち親はあまり考えていません。
大事なのは、自制心と自己効力感
さまざまな要素がある非認知能力ですが、学歴、雇用、収入にもっとも影響を与えるものが特に2つあることがわかりました。
1つめは、自制心。
さっきのマシュマロテストがまさにそれを測るテストだったのですが、この自制心を鍛えることがその後の人生に大きく影響すると言われています。
ちなみに、自制心の育て方としては「姿勢を良くする」ことが方法の1つだそうです。背筋を伸ばす習慣をつけると学力が伸びるのだとか。
学歴、雇用、収入に影響を与えるもう1つは、自己効力感。
少し難しい用語ですが、自己効力感とは「自分はできる!」と思える力で、やり抜く力とも言えます。
うちの話をしますが、我が子を見る限り、子どもというのは飽き性で、何かに取りかかってもすぐに飽きてしまいます。自制心とかやり抜く力とは対極にある印象です。そのため、きちんと自制でき、最後までやり抜く能力を身につけることで、子どもの人生が成功しやすくなるのだと知り、私は大きな衝撃を受けました。
どちらかといえば、子どもには制限させず、のびのびしていたほうが良さそうに感じませんか?
ですが、のびのびさせようという親心が、子どもの自制心や自己効力感が育つチャンスを奪っているのです。
我が家ではこう伝えたら上手くいった
では、具体的にどうすればいいのか。我が家では、まず、非認知能力に関するデータを夫婦で共有することから始めました。「どうやら、強制型と共感型のアプローチがあるらしいよ。うちはどっちだろうね?」、そう切り出したときの妻の反応は強烈でした。
「そう言われたら、強制型になっているかもね。でもさ、どうすればいいの? 毎朝毎朝だよ? 考える余地を与えるとかムリじゃない? 私のアプローチが悪いってこと?」
そんな強めの反発を受け、ケンカになりそうなムードになったのでいったんなだめ、私自身も同じように思ったことを伝え、この理屈を我が家にどう導入するか、二人で頭を悩ませました。
そして、無理かもしれないけどやってみようと決意し、子どもと対話することにしました。家族で夕食を取っている最中、私はこう切り出しました。
「〇〇くん、話があるんだけど、ちょっといいかな?」
「うん、いいよ。なに?」
「あのさ、〇〇くんさ、毎朝ママから起きなさいとか、早く着替えなさいとか言われてるでしょ。それについてどう思ってる?」
「えー。だって眠いんだもん」
「そうだよね、眠いよね。でもさ、それで毎朝、起きなさいとか怒られてたらさ、ママも大変だし、よくないと思わない? もしも〇〇くんがぱっと起きて、ごはんも食べて、歯も磨いて、着替えもして、靴も履いて、時間通りに家を出たらさ、すごくいいと思わない?」
「そうだけどさ、眠いしさ、できないよ」
「そうかな。何時に起きればやれると思う?」
「7:30に起きれば間に合うんじゃない?」
「8:00には家を出ないと間に合わないでしょ? 7:30で間に合うかな?」
「ごはんをばーっって食べれば間に合うよ」
「〇〇くん、ごはんいつもばーっと食べないじゃん。ゆーっくり食べてるでしょ?」
「じゃあ、7:20に起きれば間に合うかな」
「そうだね。じゃあ、スケジュールを書いてみよう。7:20に起きて、トイレしたら何時になる?」
「7:25」
「そこからごはんを何分で食べる?」
「20分くらいかな」
「そうしたら何時になる?」
「7:45」
「そのとおり。すごいね。そのあとは何するの?」
「着替える」
「歯磨きは?」
「磨く」
「何分かかる?」
「10分くらい」
「そうしたら何時になる?」
「7:55」
「そうだね。そのあとは何する?」
「着替える」
「家を出るの、8:00に間に合うかな」
「間に合うと思う」
「じゃあ、7:20に起きれば間に合うね。できそう?」
「でもなあ、眠いと思うんだよね」
「じゃあどうする? もう少し早く起きる?」
「うーん……7:10に起きる」
「ほんとに!? すごいね。7:10に起きれたら、どんなことが起こると思う?」
「ママが褒めてくれる」
「それはそうだね。ママもいっぱい褒めちゃうし、疲れないし、大喜びするかもね。やれそう?」
「うん。わかった」
そんなやりとりを終えて翌朝、我が息子はどうなったかというと、目覚ましが鳴り、「〇〇くん、7:10だよ。起きて」と声をかけると、なんと一発でむくっと起きたのです。そしてトイレに行き、時間を気にしながらごはんを食べ、歯を磨き、着替え、7:50には時間の余裕ができ、ゆっくりと会話をしてから靴を履き、時間通りに家を出ました。
■子どもを子ども扱いしてはいけない
以来、我が家では早朝から怒声を上げないといけない習慣はキレイになくなりました。妻からはものすごく感謝され、父として、夫としての株が上がったのでした。
子どもは言わないとわからない、「指示」「命令」「禁止」をしないと動かない、と思っていたのですが、子どもを子ども扱いしてはいけないのだと心から反省しました。
そうです。
共感型アプローチとは、子どもを1人の大人として扱うことと同意なのです。子どもに愛情があればあるほど、「やってあげないといけない」「かまってあげないといけない」と考えてしまいがちです。しかし、じつはその愛情の表現は、子ども扱いしてしまうことになりかねません。
私たち親は、子どもは不完全な存在だという認識を捨てることから始めたほうがいいのです。
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最終更新:2/5(水) 17:02