大学入試は「年内合格続々」、東洋大の新入試が広げた波紋 大学「全入時代」、選抜方法の在り方が問われる
前回記事では、大学入試がなにを求めているのかといった観点で、大学入試を俯瞰(ふかん)した。さらに「総合型選抜」を理解していただくために、一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜の、大学入試における主な入試方式について整理したものを見ていただいた。
かつて大学進学率が15%だったころ、大学はエリートのためのものであったが、大学進学率は大きく上昇して大衆的なものになった。さらにいまは「全入化」である。大学志願者数が大学の全定員を下回るようになり、大学を選ばなければ大学に入学できる時代だ。
そのことを踏まえれば、さまざまな大学が存在し、大学教育といっても一律に語れないのが現状で、「大学教育にふさわしい能力」にも大きな幅がある。そして少子化の影響は大きく、都市圏であっても「定員割れ」を起こし、選抜機能がほぼなくなっている大学が散見されるようになった。
■もはや2月が大学入試本番とは言いがたい
そうした状況の下、大学入試には大きな変化が起きている。
変化は2022年1月、文部科学省から公表された「令和3年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」で明らかになった。2021年度大学入試(2020-2021年に実施)では入学者61万5181人に対して、一般選抜による入学者は30万4395人。割合にして全体の49.5%と、「一般選抜」による入学者が半分を切ったのだ。
つまり、これまで2月になると「入試シーズンを迎えた」「大学入試本番」と言っていたが、そうとは言いがたくなった。2月に一般選抜が始まるまでに半数の受験生は入学先を確保しており、入試本番は既に終わっていたのである。
なお、一般選抜の比率は年々減り続けており、2024年度の一般選抜による入学者は29万1590人(47.5%)である。
この状況の要因は、総合型選抜(旧:AO入試)が増加傾向にあることだ。大学入学者における総合型選抜での入学者の比率は、2020年度では10.4%であったが、2024年度では16.1%と年々増加している。
背景には、2021年度より大学入試センター試験から大学入学共通テストに切り替わったことがあり、大学入試改革による大きな変化を受験生が嫌ったのが要因と考えられる。
2021年度はコロナ禍での受験であったことも影響している。集合型の共通テストや一般選抜の学力試験では大人数が密室に詰め込まれ、感染リスクがあった。試験の実施すら危うかったのだ。
実は、その前年度(2020年度)の受験生も、共通テストがどのような内容になるのかわからない、大学入試改革で“入試地図”が変わるかもしれないなどの不安から浪人を避け、確実に進学先を確保したいと安全志向が強まった。そのため指定校推薦やAO入試(当時)で、できる限り早く受験をする動きも目立った。
この傾向が翌2021年度の受験ではさらに強くなったのだ。
■選抜方式にこだわらなくなってきている
大学入試改革とコロナ禍で、これまで「一般入試(当時)を受けて大学へ」とAO入試や指定校推薦に抵抗していた高校も、生徒の「進路実現」を目指して、できる限り早く確実に入学先を確保するために、早期に実施されるAO入試、指定校推薦の受験を容認するようになった。
こうした経緯から受験生の中に「どんな選抜方式であっても大学に入ればいいんだ」といった認識が広まり、一般選抜(旧一般入試)にこだわらなくなってきている。
さらに総合型選抜では、受験生が大学で学びたいことや興味のあることを基盤とした「学ぶ意欲」を評価するため、「探究活動」と相性がいい。
大学で学びたいことを「探究」によって深く学ぼうとする受験生が「総合型選抜」の実施の趣旨からすれば評価されるのは当然であろう。
中には「課題解決」についてプレゼンテーションさせる大学もあり、審査の内容は大学によってさまざまであるが、その内容の充実度はいかがだろうか。「学ぶ意欲」を評価できているだろうか。
■「年内入試」がもたらした波紋
前回、大学入試の選抜方式は「学力の三要素」のバランスだと書いた。2021年度に、選抜試験の実施方法は改めて整理されており、一般選抜では「基礎学力」を重視、総合型選抜では「学ぶ意欲」の重視、そして学校推薦型は学校長の推薦によって「基礎学力」「学ぶ意欲」を担保する、としている。
そのような中、いま東洋大学が12月1日に実施した「学校推薦入試 基礎学力テスト型」が話題になっている。学校推薦型(公募推薦)の選抜であるが、学校長が推薦した事由を求めず、学校長と受験生の名前を書くだけでよいものだった。
名前を書くだけでは推薦書の要件を満たしていないのではないか。学校長の推薦の重みをどう捉えるか。新聞報道によると、こうした選抜試験に文部科学省が「ルール違反」と指摘したようだ。
学校長の推薦事由を求めないのだから、合否判定は「基礎学力試験」に委ねられる。東洋大学の場合、面接や小論文を課さず、合否は「英語・数学」か「英語・国語」のいずれか(英語は民間試験の成績も利用可能)の試験結果で決まる。
合否の判定を基礎学力試験に委ねるとなると「一般選抜」と変わらない。一般選抜であれば、共通テスト以降に実施しなければ、高校の履修との関係で不適切だ。
そもそも一般選抜の実施は「2月1日以降」と「大学入学者選抜実施要項」に定められている。そうした側面から文科省は「ルール違反」としたのではないかと推測する。
こうした選抜試験に、高校からは学校長の推薦を毀損(きそん)する行為だとの反発もある。高校では推薦の要件を校内で審査・選考して学校長が推薦する。高校においてはそれなりに重みがあるからだ。
一方、大学側は「受験者数」にしか興味がないのだろう。実際、東洋大学は各地に受験会場を用意し、2万人の受験生を集めたようだ。文科省は「学校推薦型」においては調査書の記載内容を重視して審査するよう求めているが、果たして2万人分の調査書をしっかり読めたのだろうか。その評価基準をどのように定めていたのだろうか。
これでは高校側から「一般選抜の前倒し」「青田買い」「滑り止め受験生の入学金目当て」と批判されても仕方がないだろう。文科省の「ルール違反」との指摘は全うである。
2021年度以前において「公募推薦」は「自己推薦」が可能なものもあり、特に学校長の推薦を求めない選抜試験が成立していた。だが2021年度に大学入試改革の一環で、選抜方法が整理されたのだから、2021年度以降の選抜試験は新しいルールにのっとって試験を実施しなければならない。
実際には関西の私立大学などでも同様の試験が行われているという現実もある。東洋大学が文科省の指摘に不満があるのであれば、堂々と議論を起こしてルールを変えるようにすべきである。
いまの高校生の中には「ルールメイキング」を学んでいる人たちもいる。「ルールは破るものではもちろんない。不満があるのであれば対話しながらルールを変えるべきだ」というものだ。
こうした状況下で、教育機関としての大学の見識が問われるところである。
■「学ぶ意欲」をどう測るか
さて、総合型選抜に話を戻すが、この「学ぶ意欲」を果たしてどのように測るのか。課題は大きい。
さらに言えば高校で「探究学習」が思うように進んでいない状況で、果たしてうまく審査できるものだろうか。中にはコンテスト入賞目当てに探究学習をともなわない「探究活動」に邁進する高校もある。これでは誰かが敷いたレールを、ひたすら走るような活動なのではないか。
実際、総合型選抜で大学はなにを審査しているのだろうか。このあたりが伝わっていないから、SNSなどで個人の「合格体験談」が都市伝説のように定着して「これが合格の決め手」と騒がれるようになっている。
次回はこうしたことを踏まえて、総合型選抜への対応はいかにあるべきかを具体的に説いていきたい。
東洋経済オンライン
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最終更新:12/19(木) 20:11