一時は“反安倍”投稿の女性を擁立する動きも… 自民党「参院東京選挙区の候補者選び」がこんなにも混迷を極めるウラ事情
自民党の不調が夏の参議院選挙まで及んでいるのだろうか。参院東京都選挙区での同党の候補者擁立が迷走している。
【写真5枚】東大卒タレントから果てはライバル政党の元政治家まで… 浮かんでは消える参院東京都選挙区の自民党候補者“候補”たち
始まりは、4月11日に「FACTA ONLINE」で配信された「タレントの菊川怜氏が自民党の公認候補として出馬する」という一報だった。しばらくして報道各社が「自民党都連が難民支援のNPO法人代表の渡部カンコロンゴ清花氏を公認調整」と次々と打ち始めた。こうした報道の場合、公認はほぼ確定しており、後は記者会見など公式発表を待つばかりとなるのが通例だ。
ところが、自民党による渡部カンコロンゴ氏の擁立はネットで大炎上した。自民党に批判的なことで知られるTBSのテレビ番組「サンデーモーニング」に出演したり、過去(2015年)に「『バカに権力を与えるとどうなるか』という見本が安倍政権」と、故・安倍晋三元首相を馬鹿にしたコメントをTwitter(現在のX)に投稿していたことが問題視されたのだ。
永田町でも渡部カンコロンゴ氏の評判は良くなく、「あのような“極左”を自民党東京都連はなぜ公認したのか」との声が上がった。なお、同じような声は昨年10月の衆議院選挙で、自民党が東京15区にNPO法人「あなたのいばしょ」の代表理事を務めていた大空幸星氏を擁立したときにも聞かれた。
■当初候補にあがっていた「2人目の候補」
次期参院選の東京都選挙区では定数の6議席に加え、昨年の東京都知事選挙に出馬した蓮舫氏の補欠選挙も兼ねて、計7議席を争うことになる。7位の当選者の任期は、2022年に当選した蓮舫氏の残り任期である3年となる。
参院東京都選挙区は2016年に定数5から6に増やされた。以来、最下位当選者は小川敏夫氏(2016年・民進党<当時>)が50万8131票、武見敬三氏の52万5302票(2019年・自民党)、山本太郎氏の56万5925票(2022年・れいわ新選組)で、勝敗ラインは50万票台と推計される。
1つの政党が複数人を擁立する場合、票田が重ならない工夫が必要だ。例えば旧民進党では、蓮舫氏が23区内で、小川氏が多摩区域というふうに、地域を分け合った。
自民党が擁立する1人目は武見敬三元厚労相。そして、昨年10月の衆院選で東京7区に転出した丸川珠代元オリンピック担当相に代わって、石原伸晃氏らが公募に応じた。
1990年の衆院選で初当選した石原氏は、芥川賞作家で東京都知事などを務めた故・石原慎太郎氏を父に持ち、圧倒的知名度で10期当選し続けたが、2021年の衆院選で立憲民主党の吉田晴美氏に惨敗。東京8区から身を引いた。
こうした経緯から石原氏には「すでに過去の人」というイメージがあるうえ、同じ慶應義塾大学出身の武見氏と票田が重なる。「武見・石原では共倒れだ」との声が上がり、石原氏の名前は候補から消えたようだ。
■宙に浮いた「3つ目の枠」が焦点に
そもそも2人目の候補には、新規の票の開拓が求められる。2022年の参院選で生稲晃子氏が擁立されたのは、現職の朝日健太郎氏と異なり、まずは女性である点、そして元タレントという知名度が期待されたためだった。
とはいえ、生稲氏は当初から自民党都連の本命だったわけではなく、国際政治学者の三浦瑠麗氏やNHKアナウンサーの牛田茉友氏などの名前が上位にのぼっていた。三浦氏には当時の夫の太陽光発電事業に絡む金銭事件がささやかれていたため、擁立話は流れている。
生稲氏は若いころは「おニャン子クラブ」に所属してアイドルとして活動していたが、後に心理カウンセラーとして活躍し、認知行動療法士の資格も取得。「働き方改革実現会議」の委員にも任命された。
その生稲氏に白羽の矢を立てたのは、当時の都連会長だった萩生田光一氏で、政界を引退する中川雅治氏の後継とした。最盛期ほど露出が多くなくなった生稲氏のために、八王子市内にある旧統一教会の教団施設にも連れていった。生稲氏は61万9792票を獲得して当選。安倍派に入会した。
2007年の参議院選では、丸川氏が「知名度枠」だった。東京都連の関係者は「われわれの本命は保坂三蔵さんで、丸川さんは党本部の一本釣りだった」と明かす。丸川氏は期日前投票に行ったところ、居住要件を満たさずに投票できなかったなどハプニングも多かったが、69万1367票を獲得して当選。65万1484票の保坂氏は次点に泣いた。
このように自民党が参院東京都選挙区に擁立した候補は、基本的に「本命枠」と「知名度枠」があるが、これとは別に「安倍派枠」も存在する。3年前の参院選で当選した生稲氏は、中川氏の後釜として安倍派に入会したが、丸川氏が昨年10月に衆院に転出したことにより、次期参院東京都選挙区の「安倍派枠」は空いたままだ。
故・安倍元首相の最側近の1人として都連で権勢を振るった萩生田氏は、昨年の都議補選で大敗(9の選挙区で補選が行われたが、自民党は板橋区選挙区と府中市選挙区のみで当選)した責任をとって都連会長を辞任し、そのポストを井上信治氏に譲った。しかし、派閥のパーティー券をめぐる問題による1年間の党員資格停止処分も解け、虎視眈々と都連会長への復帰を画策しているという。
そうはさせまいという勢力が、渡部カンコロンゴ氏の擁立に動いたとみられている。都連関係者は「木原誠二自民党選対委員長が『俺が保証する』と押し込んだようだ」と話す。自民党と渡部カンコロンゴ氏との接点は「G1サミット」で、静岡県出身の岸田派の自民党議員と知己になり、その伝手で木原氏とつながったという。
しかし「擁立調整」の報道が出た途端、自民党党内はざわめいた。山田宏参院議員は「なぜこの方が自民党公認なのか」とXにポスト。有村治子参院議員に至っては「私たちの多くが今もなお、誇りに想い、敬意を抱く安倍元総理を公然と侮辱する人を公認候補にするほど、自民党は落ちぶれていませんし、保守の矜持を捨ててはいないはずです」とXで激しく批判した。
自民党の松山政司参院幹事長も15日の会見で、「こういう方が上がってきているのを疑問に感じている」と述べた。松山氏は木原氏と同じく旧岸田派の重鎮だが、夏の参院選への影響を考えれば認められないということだろう。何よりも松山氏自身が、次期参院選で改選を迎える。
■まだ確定しない「2人目の候補者」
もっとも、自民党東京都連にとって渡部カンコロンゴ氏が「第1志望の候補」だったわけではない。前述した菊川氏などのほか、菅野志桜里(旧姓山尾)氏にも声をかけたが、「菅野氏は『自民党と政治信条が違う』と即断ってきた」(自民党都連関係者)と選考は難航した。
そして、渡部カンコロンゴ氏の擁立がなくなった今、自民党東京都連が恐々としているのが「補償問題」だという。出馬に向けて渡部カンコロンゴ氏は、仕事を整理していたようだ。
一方で、3年前の参院選で自民党が東京都選挙区からの出馬を打診したが、それを断ったNHKの牛田氏が国民民主党から出るとの噂もある。同局の討論番組「日曜討論」でキャスターを務める牛田氏は今回は乗り気だが、看板番組のキャスターの政界転身に面目を潰されたNHKは困惑しているという。
石破政権という少数与党で、迷走と疾走を重ねる自民党。国民民主党は飛ぶ鳥を落とす勢いだが、その勢いが続く保証はない。次期参院選で政界は大きく塗り替えられるのか、それとも……。
東洋経済オンライン
関連ニュース
- 自民党への直近3年の献金が多い企業ランキング
- 党内騒然!自民党大会に現れた「問題人物」の正体
- 小泉進次郎が訴える「企業・団体献金禁止」の末路
- 国民人気は第1党、「国民民主」縛る"足かせ"の正体
- 永田町に渦巻く思惑、現実味増す「玉木首相爆誕」
最終更新:4/18(金) 6:32