「記憶力は才能」と思っている人に欠けた視点…東大卒の記憶力日本チャンピオンが教える実態
勉強に苦戦しているとき、数字やアルファベットに拒否反応が出るとき、名前や顔を思い出せないときに、「頭が悪いから」「もう年だから」と思ったことはありませんか? 記憶力は、年齢や才能に関係なく誰でも高められるスキルです。「記憶力が良かったらなぁ」と諦める前に、これから紹介する方法を一度試してみてください。
記憶に関する最新の研究論文や勉強・仕事・日常生活に効果的な記憶法などを100Tipsに厳選して紹介した、東大卒記憶力日本チャンピオン・青木健さんの著書『東大式 記憶力超大全』より一部抜粋・再構成してお届けします。
■記憶力と才能はほとんど関係ない?
「記憶力って才能とはほとんど関係ないんだよ」と言われても、「それは記憶力で成功を収めた人のポジショントークだ」「努力で記憶力が良くなるんだったら、誰も苦労しないよ!」と思う人も多いのではないでしょうか? なかなか実感が湧きにくいと思うので、科学的な側面からアプローチしていきます。
記憶力がどのくらい「才能」によるものなのかを調べた研究があります。 慶應義塾大学の安藤寿康氏は、双子による遺伝と教育環境の相関性に関する研究を長年されています。安藤氏の著書『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SBクリエイティブ)では、記憶力に限らず、身長や性格、スポーツ、IQ、科目別の学業成績、反社会性など多くの項目での研究成果を述べています。
こちらのグラフを見てください。身長や指紋などは遺伝しやすいというのは、多くの方がイメージする通り、9割以上が遺伝の要素が絡んでいるようです。また、歌や音感、体育をイメージしたらわかりやすいと思いますが、身長や指紋ほどではないにしても、音楽や運動能力は才能によるものが大きいようです。
それでは記憶力はどうでしょうか? 記憶力の遺伝要素は6割程度。割合で見ると、外国語や勤勉性などと近いですね。アメリカやオーストラリアなどに行けば、ネイティブは当然英語を話せます。日本人で日本に住んでいれば、ほとんどの人が日本語を問題なく使いこなせるでしょう。語学は普段過ごしている環境や努力要素が大きいように思えます。
勤勉性も、日常の中で「僕は才能がないから真面目ではないんだ」という話はあまり聞いたことがありません。家庭や学校、交友関係などの生活環境によるものが大きいと考えられます。
つまり、記憶力もこれらと同程度しか遺伝要素はないのです。遺伝要素や才能要素が全く関係ないとはいいませんが、このように考えると少しはやってみようと思えませんか?
■忘れることは悪いことではない
記憶力を上げる第一歩として最も重要かつ理解しておいてほしいことが、この見出しでもある「忘れることは悪いことではない」ということです。 忘れることは、人間を含む多くの動物に備わる「仕組み」なのです。
想像してみてください。もしすべてのことを忘れることができなかったら、どうなるでしょうか? 友達とけんかしてとても腹が立ったこと、大切な人が亡くなって悲しかったことなど、生きていれば大きいものから小さいものまでたくさんの感情が溢れています。
もしその出来事やその瞬間に感じた気持ちが、毎日蓄積されるとしたら? 間違いなく、自分の体があらゆる感情に支配されて、今この瞬間に生きることが苦しくなってしまいます。実際に人間の脳は、あらゆる出来事や経験を無意識に「必要なもの」と「不必要なもの」に選別しています。
自分の生死にかかわるような衝撃的な体験などは、たった一度の経験で、トラウマとして長期間「記憶」に残ったり、何かをきっかけに鮮明によみがえったりします。
しかし、学校の小テストで出題される英単語は衝撃的な体験ではないため、なかなか記憶に定着しないのです。つまり、人間が1回で覚えるということは、ほぼ不可能だということです。
だから脳が記憶できるよう、「反復」や「復習」を行うのです。何度も繰り返して、脳に「これは大切なことだ」と無意識的に判断させると、だんだん忘れにくくなり、長期的に覚えていられるようになります。
メモリースポーツの世界大会で優勝するような「世界一記憶力が良い人」でも、大会で記憶した内容を意識的に復習しなければ、1週間後には大半を忘れてしまいます。1カ月後には思い出すことすらできません。
メモリースポーツのチャンピオンですら、復習をせずに記憶を長い間維持することは不可能なので、世の中のほとんどの人ができるわけがないのです。忘れるということは、「人間の防衛本能として『忘れる』ことで、自分を守ってくれているんだ」と思って、自分の記憶力に対して持っているネガティブな感情を一つ捨てることができたと思ってください。
■脳トレは筋トレに似ている!?
みなさんも、一度は「筋力トレーニング」(筋トレ)をやったことがあるのではないでしょうか? 筋トレをやると翌日は全身が痛みに襲われて、ひどい倦怠感に悩まされると思います。それでも筋トレを継続していると食事にも気をつけるようになり、しばらくすると体に大きな変化が出てきます。もちろん運動時のパワーやスピードも上がるでしょう。サッカーや野球などの球技や、水泳、短距離走などにも効果があることは言うまでもありませんね。
「脳トレ」も同様です。脳トレをすると、記憶力や計算力などが高まります。脳トレはたくさんの種類がありますが、記憶力を高めたい人は、しりとりなどの自分の知っている知識を思い出す系の問題や、その場で何かを記憶してすぐに思い出すような単語記憶の問題をやるとよいでしょう。
間違い探しやストループなどは認知力向上に効果がありますし、数独やテンパズルのような計算を必要とする脳トレは計算力向上に大きな効果があります。普段から記憶力に関するトレーニングを行っている人は、脳が強くなっています。脳の〝基礎体力〟が上がっていくと、たくさんの英単語を覚えても疲れにくくなりますし、長い時間集中して勉強できるようになったりします。このような点も運動と全く同じですね。
筋トレをするとストレス発散になったり、自分に自信を持てるようになったりして精神面にも効果があります。脳トレも、やってみると頭がスッキリしたり、ひらめいたときに爽快感を感じたりします。反対に、体が慣れていないのにたくさん脳トレをやると、筋肉痛のように頭が重くなったり、人によっては熱が出てしまったりすることがあります。そのようなときは無理をせず、休むことが重要です。
■脳トレをする人が勉強もビジネスも制す?
昔は、筋トレはスポーツ選手が競技で良い結果を出すためやケガを防ぐために行うものでした。あるいは、ボディビルダーなど筋肉自体で競うような人くらいしか筋トレをしていませんでした。しかし最近では、筋トレのメリットが浸透し、ビジネスパーソンから主婦や学生まで幅広い層の人が行うようになりました。街中にもさまざまな層の人をターゲットにしたジムが増えています。
東京のオフィス街を歩いていると、ワイシャツの上から見ても明らかに引き締まっているのがわかるかっこいいスーツ姿のビジネスマンも多く見かけます。
脳トレをすると(体形は変わりませんが)、能力が上がるだけでなく、自分の「頭」に自信が持てるようになるので、勉強やビジネスなどの知的活動に対する姿勢が変わってくることは間違いありません。私たちの社会生活はテクノロジーの進化により知的活動で溢れています。
筋トレは世の中に浸透しているのに、なぜ多くの人が脳トレをしていないのかが不思議です。これからは脳トレをする人が勉強でもビジネスでも有利になることは間違いないと思っています。多くの人が気づく前に、脳トレを始めて勉強やビジネスでライバルに差をつけちゃいましょう。
現在、「脳トレ」は本だけでなく、スマートフォン(スマホ)向けのアプリやNintendo Switchなどのゲーム機などでやるゲームになってたくさん販売されています。「脳トレ」といっても、計算をやったり、ランダムに並んだ単語を記憶したり、謎解きのような問題があったりと種類は多種多様です。
■研究でわかった脳トレの効果を効率よく高める方法
脳トレに関する研究は世界中でたくさん行われていて、さまざまな説が述べられています。中でも、現在の主流の考え方の一つは、スタンフォード大学やアバディーン大学の研究チームなどが発表している「脳トレの内容と同じものや近いものであれば、そのトレーニング効果は大きいが、全く関係のないものに対してはあまり効果がない」というものです。
いまいちイメージがしづらいので、具体的な例を挙げます。百マス計算や数独のような「計算系の脳トレ」を行えば、生活の中でよく遭遇する会計などでのちょっとした四則演算では大きな効果があります。ただし、物忘れがなくなったり、人の顔と名前が覚えられるようになったりすることはほとんどないということです。
反対に、「人の顔と名前を覚える脳トレ」を行えば、日常生活の中で人の顔と名前を覚えるのはものすごく得意になりますが、認知力が高まることで反射神経が上がるなどということはほとんどないのです。このような説が強いことに対して意外に感じた人は多いかもしれません。
もちろん、脳トレゲームを楽しむことで頭がすっきりしたり、記憶力や認知力に対して「自信」がついたりするのはとても良いことです。記憶力にメンタルは非常に重要だからです。しかし、脳トレの効果を感じたければ、自分の生活にあった脳トレや自分の伸ばしたい能力に効果のある脳トレを行うことが大切です。
これは人間の筋肉で考えればとてもわかりやすいです。サッカー選手が強いシュートを打てるようになりたいのにもかかわらず、下半身のトレーニングではなく、腕や手首の筋トレをしてもあまり効果がないことに似ています。
あなたがもし営業担当で、毎日たくさんのプロフィールを覚える必要があるのであれば、「顔と名前を覚える脳トレ」を行うことがとても効果的です。なんのためにトレーニングをするのか、自分の生活やなりたい姿に合った脳トレをするように心がけてください。
東洋経済オンライン
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最終更新:1/5(日) 6:32