10月は年金の支給月。家計を見直すきっかけとして、年金額や医療保険料など「毎月の固定費」に目を向ける方も多いのではないでしょうか。2025年度の公的年金額は、前年度比で1.9%の引き上げとなりました。物価の上昇率には届かないものの、年金収入が増えたことは確かです。
一方で、医療保険料の負担は年々増加傾向にあります。とくに高齢世帯にとっては、見過ごせない支出のひとつです。
本記事では、75歳以上の方が原則加入する「後期高齢者医療制度」について、その保険料の仕組みをわかりやすく解説します。たとえば、年金収入が195万円の方と82万円の方では、保険料にどのような違いがあるのでしょうか。
また、保険料は都道府県ごとに異なるのが特徴です。地域ごとの保険料例を比較しながら、負担の実態を見ていきましょう。年金支給月の今だからこそ、医療費とのバランスを考えた家計管理が求められています。
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75歳以上の人が原則加入する「後期高齢者医療制度」とは?
日本では「国民皆保険制度」が導入されており、すべての人がいずれかの公的医療保険に加入し、安心して医療を受けられる仕組みになっています。
加入する保険の種類は主に働き方によって異なり、会社員は「協会けんぽ」や「健康保険組合」、公務員や教職員は「共済組合」、自営業者や無職の人は「国民健康保険」に加入するのが一般的です。
また、75歳以上になると、従来の加入先に関わらず「後期高齢者医療制度」へ自動的に移行します。
さらに、65歳以上で一定の障害があると認定された人は、希望すればこの制度に加入することも可能です。
具体的な要件は、以下のとおりです。
【障害認定される要件】
・障害年金1級または2級
・身体障害者手帳1級、2級、3級または「4級の一部」
・精神障害者保健福祉手帳1級または2級
・東京都愛の手帳(療育手帳)1度または2度
※身体障害者手帳における「4級の一部」とは、「下肢障害4級1号(両下肢のすべての指を欠くもの)」「下肢障害4級3号(一下肢を下腿の2分の1以上で欠くもの)」「下肢障害4級4号(一下肢の機能に著しい障害があるもの)」「音声・言語機能障害」が該当します。
後期高齢者医療制度は、各都道府県ごとに設置された「後期高齢者医療広域連合」が主体となって運営しており、すべての市町村がこの広域連合に加入しています。
医療費の自己負担割合は原則1割ですが、所得状況によっては2割や3割となる場合もあるため、負担率が変動する点には注意が必要です。
・一般所得者等:1割負担
・一定以上所得者:2割負担
・現役並み所得者:3割負担
それぞれの所得要件は、以下のとおりです。
・一般所得者:課税所得28万円未満
・一定以上所得者:課税所得28万円以上145万円未満
・現役並み所得者:課税所得145万円以上
では、後期高齢者医療保険料はどれくらいなのでしょうか。
【後期高齢者医療制度】2025年度の「保険料」はいくらになった?
後期高齢者医療保険料は原則2年ごとに見直されており、直近では2024年度に改定が行われました。
そのため、2025年度の保険料率に変更はありません。
この制度は、高齢者本人が納める保険料に加え、現役世代が負担する「後期高齢者支援金」によって成り立っていますが、少子高齢化の影響で制度開始時と比べると、現役世代の負担は1.7倍にまで増加しました。
こうした状況を受け、2024年度からは「高齢者の保険料の伸び」と「現役世代が負担する支援金の伸び」が一致するように制度が見直されています。
全国平均での被保険者一人あたりの年間保険料は、次のようになっています。
・被保険者均等割額の年額:5万389円
・被保険者均等割額の月額:4199円
・所得割率:10.21%
・平均保険料額の年額:8万6306円
・平均保険料額の月額:7192円
2022年度から2023年度にかけての平均保険料(月額)は6575円であり、そこから7.7%上昇しています。
もっとも、ここで示したのは全国平均の数値にすぎません。
実際に後期高齢者医療制度の保険料を算定する際には、次の2種類の保険料を組み合わせて計算する仕組みになっています。
・均等割額:被保険者が均等に負担する保険料
・所得割額:被保険者の前年の所得に応じて負担する保険料
具体的な金額を確認することで、よりイメージがつかみやすくなるでしょう。
次章では、厚生労働省の資料を参考にしつつ、年金収入が195万円の場合に後期高齢者医療保険料が都道府県ごとにどの程度差があるのかを見ていきます。
2025年度「保険料」が高い都道府県はどこ?(年金収入195万円のケース)
都道府県ごとの違いを把握するために、まずは年金収入195万円の場合の月額保険料を例に確認してみましょう。
2025年度の都道府県別保険料は、次のとおりです。
・全国:5673円
・北海道:6325円
・青森県:5415円
・岩手県:4808円
・宮城県:5216円
・秋田県:5042円
・山形県:5283円
・福島県:5056円
・茨城県:5358円
・栃木県:4991円
・群馬県:5567円
・埼玉県:5067円
・千葉県:5008円
・東京都:5355円
・神奈川県:5440円
・新潟県:4850円
・富山県:5033円
・石川県:5573円
・福井県:5458円
・山梨県:6003円
・長野県:5156円
・岐阜県:5400円
・静岡県:5275円
・愛知県:6117円
・三重県:5475円
・滋賀県:5371円
・京都府:6180円
・大阪府:6495円
・兵庫県:6134円
・奈良県:5833円
・和歌山県:6125円
・鳥取県:5892円
・島根県:5618円
・岡山県:5758円
・広島県:5438円
・山口県:6408円
・徳島県:6033円
・香川県:5892円
・愛媛県:5719円
・高知県:6100円
・福岡県:6641円
・佐賀県:6250円
・長崎県:5792円
・熊本県:6259円
・大分県:6509円
・宮崎県:5675円
・鹿児島県:6592円
・沖縄県:6410円
最も高額なのは福岡県で6641円、最も低いのは岩手県の4808円であり、その差は1833円となっています。
2025年度「保険料」が高い都道府県はどこ?(年金収入82万円のケース)
次に、国民年金のみを受給しているケースを想定し、年金収入が82万円の場合の月額保険料を都道府県別に見ていきましょう。
2025年度の各都道府県における保険料は、以下のとおりです。
・全国:1260円
・北海道:1316円
・青森県:1170円
・岩手県:1092円
・宮城県:1183円
・秋田県:1125円
・山形県:1190円
・福島県:1148円
・茨城県:1183円
・栃木県:1133円
・群馬県:1225円
・埼玉県:1142円
・千葉県:1092円
・東京都:1183円
・神奈川県:1148円
・新潟県:1100円
・富山県:1167円
・石川県:1269円
・福井県:1242円
・山梨県:1269円
・長野県:1109円
・岐阜県:1233円
・静岡県:1175円
・愛知県:1333円
・三重県:1223円
・滋賀県:1215円
・京都府:1409円
・大阪府:1429円
・兵庫県:1320円
・奈良県:1283円
・和歌山県:1358円
・鳥取県:1300円
・島根県:1254円
・岡山県:1250円
・広島県:1241円
・山口県:1425円
・徳島県:1400円
・香川県:1350円
・愛媛県:1298円
・高知県:1400円
・福岡県:1500円
・佐賀県:1425円
・長崎県:1308円
・熊本県:1450円
・大分県:1480円
・宮崎県:1292円
・鹿児島県:1492円
・沖縄県:1410円
最も高いのは福岡県の1500円、最も低いのは岩手県と千葉県の1092円で、その差は408円となっています。
今後も「国民の負担」は増え続ける見通し
本記事では、75歳以上が原則加入する後期高齢者医療保険料について取り上げました。
高齢者世帯にとって、限られた収入のなかで負担が増していくのは、望ましい状況とは言えません。
しかし、深刻な少子化の進行を踏まえると、保険料をはじめとする国民負担の増加は今後も避けられないとうかがえます。
●「社会保障給付費」は年々増加傾向に
日本の社会保障給付費の推移を示すグラフを見ると、年々増加していることがわかります。
内訳では、年金が全体の44.4%を占め、次いで医療が30.8%、福祉その他が24.8%となっています(2025年予算ベース)。
※福祉その他には、社会福祉サービスや介護対策、生活保護の医療扶助以外の各種扶助、児童手当などの手当、医療保険の傷病手当金、労災保険の休業補償給付、雇用保険の失業給付などが含まれます。
少子高齢化の進行により、特に年金や医療関連の給付費は今後も増加が見込まれ、それに伴い国民が負担する割合もさらに大きくなっていくと考えられます。
●国民負担率は「約30年間で6.7%増」に
グラフに示されているように、国民負担率は1990年の38.4%から2024年には45.1%へと上昇しています。
すでに国民の負担は軽いとは言えない状況にありますが、今後もさらに増加していくことが予想されます。
内容のまとめ
日本の「後期高齢者医療制度」は、75歳以上のすべての人(および一定の障害がある65歳以上の人)が対象となる公的医療保険制度で、国民皆保険を支える重要な仕組みです。医療費の自己負担は原則1割ですが、所得に応じて2割または3割となる場合もあります。
保険料は、都道府県ごとに異なるため、地域によって負担額に差がある点にも注意が必要です。
2025年度の全国平均保険料は月額7192円で、前回改定から約7.7%の上昇となりました。背景には、少子高齢化に伴う医療費や社会保障給付費の増加があり、現役世代の負担も制度開始時の約1.7倍に膨らんでいます。
今後も国民負担率の上昇が見込まれる中、年金や医療費などの支出増加は避けられません。こうした状況を踏まえると、現役世代・シニア世代ともに、将来の負担増を見据えたマネープランの準備がますます重要になっています。
参考資料
・厚生労働省「後期高齢者医療制度の令和6・7年度の保険料率について」
・日本年金機構「Q.年金から所得税および復興特別所得税が源泉徴収される対象となる人は、どのような人でしょうか。」
筒井 亮鳳
最終更新:10/12(日) 14:01