いかさま師か天才か、エヌビディアで成績上げた新興国市場株ピッカー

3/29 8:06 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): ルイス・カウフマン氏の評価は極端に分かれる。いかさま師か天才だ。

まずは天才の部分だ。カウフマン氏(48)は新興国市場株投資で2桁の年間リターンを生み出す手法を考え出した。これは新興国市場株のここ数年の低迷を考慮すると極めてまれなことだ。

一方、いかさま師だと批判する人たちは、カウフマン氏がアーティザン・パートナーズで運用する「アーティザン・デベロッピング・ワールド・ファンド」に人気の米テクノロジー銘柄を組み込んでいることを問題視し、こうした銘柄がリターンを押し上げていると指摘する。

批判者らはエヌビディアやスノーフレイク、クラウドストライク・ホールディングスが新興国市場とどう関係しているか疑問を呈し、リターンを上げて新興国市場ファンドで1位になるために組み込んだだけだと主張する。

アルマナック・インベストメント・パートナーズのケビン・ハーパー最高投資責任者(CIO)は「誠実とは言い難い」と述べた。

カウフマン氏とその支持者にとってこうした意見は、同氏の成功をねたむライバルや、同氏の戦略の理解に十分な時間を費やしていない業界関係者のたわごとに過ぎない。

収益の大部分を途上国で得ている企業まで定義を広げれば、エヌビディアやスノーフレイク、クラウドストライクは新興国市場銘柄だというのがカウフマン氏の見方だ。

思慮深く創造的

カウフマン氏によれば、MSCI新興市場指数は実質的に過去17年間ほぼ横ばいで、古典的で狭い定義の新興国銘柄のみに投資しても極めて低いリターンにとどまることから、より幅広いアプローチが必要だ。

「われわれは新興国市場を避けようとはしていない。思慮深く創造的なやり方で新興国市場と向き合おうとしている」と同氏は語る。

実際、直近の届け出によると同氏のファンドは運用資産30億ドル(約4540億円)の40%余りを米国の企業に配分しており、テクノロジー銘柄のほかコカ・コーラやビザ、エスティローダーも含まれる。

欧州企業も合わせれば、先進国企業への配分比率は50%を超える。モーニングスター・ダイレクトによれば、競合ファンドの同比率(中央値)は5%だ。

しかし、好調な運用成績にもかかわらず、投資家はカウフマン氏のアプローチに冷ややかだ。ブルームバーグ集計データによると、同氏のファンドはここ5年間、他の大型新興国市場株ファンド全てより運用成績が良かったが、その間に新規資金は正味でほとんど流入しなかった。

モーニングスターのシニア調査アナリスト、ビル・ロッコ氏はこのファンドの特異な性質が資金流入の少ない一因と分析。ロッコ氏はストックピッカーとしてカウフマン氏を気に入っており「良い投資家」だと思うと評価する一方で、このファンドの新興国市場ファンドというカテゴリーに「若干そぐわない」と指摘。

「これはあなたのおばあさんの時代の新興国市場ファンドではない。優秀な運用担当者に少し多くの融通性を与えるのは良いこと」だが、行き過ぎればファンドの定義に当てはまらなくなると述べた。

カウフマン氏のウォール街でのキャリアは1990年代に始まった。シティグループとモルガン・スタンレーに勤務した後、ニューメキシコ州サンタフェのソーンバーグ・インベストメント・マネジメントに移り、そこで最初の新興国市場ファンドを2009年に始めた。

すぐに途上国以外に拠点を置く銘柄を組み入れ始め、ブルームバーグ集計データによれば、その比率は時に20%を超えた。

これは2000年代に新興国市場に広がった好景気が下火になった時に功を奏した。「ソーンバーグ・デベロッピング・ワールド・ファンド」は設定してから5年後にリターンがプラス56%と、ベンチマークの新興市場指数のプラス9%を大きく上回り、カウフマン氏は多くの人から注目を集めた。

「ユニークさ」

ウィスコンシン州ミルウォーキーを本拠とするブティック(専門分野特化)型投資会社アーティザン・パートナーズの最高経営責任者(CEO)、エリック・コルソン氏もその一人で、カウフマン氏を15年に採用した。

コルソン氏は、カウフマン氏のポートフォリオの 「ユニークさ」が当時、大きな魅力だったとし、現在もその正しさを信じていると説明。「カウフマン氏は、創造的な視点と自由度がいかに投資結果に好影響を及ぼすかを示している」と資料でコメントした。

カウフマン氏はポートフォリオ内の非新興国市場企業を「パスポート企業」と呼ぶのを好んでいる。これはこうした企業が途上国で事業をスタートさせ、高まる需要を取り込めることにちなんでいる。

「われわれは新興国市場と経済的に結び付いている企業に投資しているだけであり、新興国市場に拠点を置く企業もあれば、そうでない企業もある」と同氏は説明する。

ゴールドマン・サックス・グループの元パートナーで、現在は「ミューチュアル・ファンド・オブザーバー」に寄稿するデベシュ・シャー氏はカウフマン氏のアプローチを高く評価している。

投資家はリターンを犠牲にして新興国市場株の定義に「純粋であろう」とするか、それとも「ファンドマネジャーを信頼する」か、どちらかを選ばなくてはならないとシャー氏は言う。

シャー氏はカウフマン氏を信じることを選び、昨年から同氏が運用するアーティザンのファンドへの投資を始めたと明かした。

カウフマン氏の基準からしても、同氏のポートフォリオにおけるパスポート企業への傾斜は顕著だ。

19年の時点で、持ち分に占めるパスポート企業の割合は25%未満だったが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期にカウフマン氏が上昇するテクノロジー株を買い入れたことから、その割合は大きく伸びた。

同氏のファンドのリターンは20年にプラス82%を記録。その後2年間低迷した後、ここ1年3カ月は急反発している。

カウフマン氏のファンドの不安定なリターンは、新興国市場のベンチマークよりもMSCIの世界グロース株指数との相関性が高い。ただ、グロース株ファンドと比較すると、同氏のファンドのリターンは見劣りがする。

カウフマン氏は桁外れのリターンを求めるなら、ボラティリティーはつきものだとの考えだ。ハイテク株の保有ばかりに目が向いているが、同氏がハイテク株のポジションを減らしている事実は無視されているとも語る。

カウフマン氏は昨年、保有していたエヌビディア株の約80%近くと、ネットフリックス株およびエアビーアンドビー株の40%余りを売却。売却益の一部を比較的変動性の低い米国株やインド株に投じた。同氏のファンドが株式を購入している途上国はインドのほか、アルゼンチン、ブラジル、中国、シンガポールと計5カ国にとどまる。

同ファンドのインド株保有比率は今年2月の段階で12%と、22年末の3%から大きく伸びたが、ベンチマークとしているMSC新興市場指数におけるインド株のウエート(18%)をなお大きく下回っている。

「数字を追えば事実が明らかになるとは限らない」とした上で、「私は新興国市場ファンドを運用している。厄介な状況に備え、バリューを蓄えたい」とカウフマン氏は話している。

原題:Nvidia Catapults EM Stock Picker to Top Ranking and Irks Rivals(抜粋)

--取材協力:Lydia Beyoud.

(c)2024 Bloomberg L.P.

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最終更新:3/29(金) 8:06

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