幼児でも大統領選について考える…NY在住・久保純子さんが驚いた「アメリカの子どもたちの意識高めの行動」
ニューヨークで2人の娘を育てる久保純子さんは「アメリカでは子どもたちが早い段階から政治や社会について自分の考えを持つように促される。しかし、大統領選の時期に子どもたちが当然のように取っている行動には驚いた」という。『プレジデントファミリー2025春号』「あの人の子育て拝見」のロングバージョンをお届けする――。
■ニューヨーク生活9年目、家族4人でコロナ禍を乗り越えた
フリーアナウンサーとして独立し21年、ニューヨーク(NY)で暮らすようになって9年目。その間にはコロナ禍で、夫、2人の娘と4人で自宅にこもるようにして暮らした日々もありました。
ニューヨークはコロナの感染者数が多く、ロックダウンの時期は、まるで映画の世界のように街中から人がいなくなって、ちょっと怖くなるような静けさでした。娘たちも家から一歩も出ない日が3カ月ぐらい続きました。その間は、娘たちとオセロをして遊んだり韓流ドラマを見たり、一緒にクッキーやクレープを作ったりして、なるべく家の中で楽しく過ごせるように工夫しました。
あのときはもちろん日本も、世界中がたいへんでしたよね。娘たちは学校や部活動に行けなくなり、長女は高校の卒業式が中止になってかわいそうでしたが、現在は無事に大学を卒業し、23歳になりました。16歳の次女は今まさに大学受験の勉強を頑張っているところです。
二人とも、コロナ禍を通して「何かを乗り越える力」は身についたかもしれません。それまでとは世の中が変わってしまって、人生には一筋縄ではいかない、自分の力ではどうにもならないことがあるという事実を目の当たりにしました。でも、そこを乗り越えて今があるという自信はついたと思います。
物事に取り組むとき、「もし、これがダメなら、次はこっちへ行ってみよう」という方向転換ができるようになったようです。たとえ一回上手くいかなくても「もうダメだ」と落ち込んでしまうこともなく、他の選択肢を探す“回避力”。例えば、やりたいことができなかったり、人間関係で悩んでいたりするときに、自分を鼓舞するやり方はわかったのではないでしょうか。
■アメリカでは幼児でも小学生でも大統領選について考える
アメリカでは幼い頃から、自分で物事を判断するように促されます。わが家は2016年の大統領選でトランプ候補とヒラリー・クリントン候補が争ったとき、ニューヨークに引っ越しました。そのときびっくりしたのは、学校の授業で子どもたちが両候補の政策を議論するんです。小学生と高校生だった娘たちも、トランプVSヒラリーのテレビ討論会を食い入るように見るようになりました。「政治は決して自分から遠いものではなく、自分たちひとりひとりが国を作り、変えて行くんだ」という意識を、選挙権がない子どもの頃から持たせるんですね。
それは幼い頃から徹底していて、選挙の仕組みや大統領候補を説明する絵本まであります。今回の大統領選でも同じで、トランプ候補とハリス候補のことを子どもにもわかるように紹介した絵本が出ていました。
■2人の娘には日本とアメリカの良さ、両方を学んでほしい
娘たちは日本で生まれました。日本の良さはたくさんあって、義理人情やマナーの良さ、思いやりの心など、本当にすばらしい文化がありますよね。みんながいつも周囲に目を配ってお互いが過ごしやすい距離感を保ち、ハッピーになる空間づくりをする。そんな日本の良いところは大切にしつつ、一方で、自分が何を思っていて何をしたいのか、いろんな状況になったとき、どうしていくのかという、「考える力」をしっかり培ってほしい。そう考えてアメリカの学校に行かせることを選びました。
そういった思考力、決定力というものは、アメリカの教育でかなり重要視されていると思います。私自身、高校時代にアメリカ留学をした経験があり、当時からアメリカの子どもたちを見ていると、早い段階から自分の個性を活かしつつ社会で役に立つために何ができるのかを考えている。そういう力を身につけられるのはうらやましいなと思っていました。
■自分は英語によって世界が広がった、外国語で会話する楽しさ
もちろん英語を習得することも重視しました。私自身、自分の母が英語教室を運営していましたし、高校生のときに本格的なアメリカ留学もしました。そうして話せるようになった英語という言語を通して、さまざまな人々と出会い、新しい価値観や考え方を知った。その経験が私を形作ってくれたと思っているんです。
今やスマートフォンが翻訳、通訳をしてくれる便利な時代ですが、やはり誰かの顔を見てその人のジェスチャーを含めて“直接話す”情報量にはかないません。私のように50年以上生きてきても、まだまだ世界には知らないことがいっぱいある。知らないことを知る喜びは、人生に欠かせないと思うので、子どもたちに対しても、一つでも多くの言葉がしゃべれるようになれば、もっともっと世界中にいろんな発見ができて、いろんな出会いがあって、それが心や体や意欲、考え方も豊かにしてくれるよと、積極的に勧めています。
■進路は本人の望むままに、自分の「好き」を追求してほしい
私は娘の成績表を細かく確認したり、勉強しなさいと言ったりしないようにしています。成績が落ちていたとしても、それは子ども自身が一番わかっていること。アメリカでは早くから精神的に自立することが求められますし、横一列の並びではない多様な選択肢が示されるので、子どもは「好き」を見つけることにたけているように感じます。
高校生ともなれば進路についても自分で考えて決めていきます。長女はアートが好き、次女は文学が好き。自分の「好き」を活かすべくあれこれチャレンジしています。
私がアドバイスするのは、彼女たちが迷っているとき。何か新しいことをするのには勇気がいるけれど、失敗してもいいから、「当たって砕けろ」の精神で、どんどんいろんなことを見て、聞いて、感じて一歩踏み出せるようにと、背中を押しています。
■高校のときに3年間アメリカに留学、ストレスで10kg増
というのは、私自身、高校時代に「心臓に毛が生えた」という体験をしたんです。アメリカに留学し、ニューヨーク州の高校を卒業しました。その3年間、学校生活は刺激的で楽しかったけれど、文化や価値観の違いもあってうまくホストファミリーとコミュニケーションが取れなかったり、食環境の違いもあったり、ストレスで体重が10kg増えてしまいました。若白髪にもなって……。当時はインターネットもメールもなく、家族に連絡しにくかったので、すごく孤独でした。でも、それを乗り越えたことで、ちょっとやそっとのことではくじけない力がついたと思います。
アナウンサーだった私の母は日本で英語教室を立ち上げ、私が子どもの頃からパワフルに仕事をしていました。自然と私も教育に携わる仕事をしたいと思うように。アナウンサーとしてNHKに入ったのも、日本版の「セサミストリート」のような番組を作りたかったからでした。
それで40歳のときに決心し、一から学んでアメリカでモンテッソーリメソッドの幼稚園教諭の国際資格を取りました。当時、次女はまだ4歳で、夫も仕事のため日本に帰国したので、まさにワンオペ状態で子育てをしながらの受験勉強でしたね。
■NYで幼稚園教諭になったのは、教育の仕事をしたかったから
今、NYで勤務しているモンテッソーリ幼稚園では、2歳から5歳の子がミックスのクラスで交流しつつも、それぞれ自分の好きな教具に没頭しています。私たち、教師は干渉せずにそばで見守ります。何度も教具に取り組むことで、少しずつできないことができるようになる。子どもが自分の力で自分を成長させる。できたときの目の輝きといったら! それを間近で見られるのが、教師としての喜びです。
もしかしたら、アナウンサーとして毎日テレビに出ていた私のイメージからすると、幼稚園の先生になったことは、意外に思われるかもしれません。でも、私の中では、ずっと子どもの教育に関わりたいという思いで仕事を続けてきたので、アナウンサーと教師、そして絵本などの翻訳をしていることも全て、つながっているんです。
私が母のチャレンジする姿を見ていたように、長女と次女も「ママは何をしていても、いつも楽しそうだね。頑張ってね」と声をかけてくれます。
きっと私が仕事をしてハッピーでいることで、心に余裕もできる。「今日、幼稚園でこんなことがあったよ。子どもたちがとってもかわいかったよ」と笑顔で語りながら娘たちに接することができているので、結果的に家族みんながハッピーになっていると思います。
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久保 純子(くぼ・じゅんこ)
アナウンサー
1972年、東京都生まれ。NHKに10年間勤め、「ニュース11」「紅白歌合戦」などの司会に。2004年からはフリーで活動し、テレビやラジオに出演する傍ら、執筆や絵本の翻訳なども手がける。2014年にアメリカでモンテッソーリメソッドの国際教師資格を取得するなど、「子ども」「言葉」「教育」をキーワードに国内外で活動の場を広げている。現在は、家族とともにニューヨーク在住。
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プレジデントオンライン
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最終更新:4/5(土) 16:17