『呪術廻戦』主人公・虎杖悠仁の「強い動機はないキャラ」が示唆する大事なこと

4/18 9:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 マスメディアでよく耳にするようになった、「Z世代」というキーワードとその特徴。何となくわかるようでわからない、という上の世代は多いのではないだろうか。現在、世の中を動かす「推し活」という文化を紐解いていくと、Z世代への理解が深まるという。本稿は、保手濱彰人『武器としての漫画思考』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。

● 『呪術廻戦』の主人公から 「Z世代」の若者を解析する

 マスメディアでよく耳にするようになった、「Z世代」というキーワードとその特徴。何となくわかるようでわからない、という上の世代は多いのではないでしょうか。

 この世代がどのような感覚や価値観を持って生きているのか、今や世の中を動かす「推し活」という文化を中心に、Z世代への理解が深まるように解説していきます。

 超ヒット漫画『呪術廻戦』の主人公、虎杖悠仁は、ごく普通の高校生(といっても身体能力が異常に高いなどの特徴はある)。何か強いモチベーションがあるわけでもなく、でも自分が放っておいたらたくさんの人が死ぬという状況に陥ったことから、「生き様を貫きたい」という理由で、ごく自然と、人助けをしていきます。

 ここに、強い動機は存在しません。というか、必要がないのです。

 人として当然。

 おじいちゃんに言われたからそうする。

 そうしなければ自分が後悔する。

 そのような自然なモチベーションに導かれて、自分の行動を決定していきます。これがZ世代の「一つ目の特徴」で、たとえば「スキ」と思えるものができたら、彼らは純粋にそれと向き合っていく。そして、いったん好きになったら、彼らはとことんそれを追求します。

 「沼」という単語もまさにそれですね「沼る」という言い方もします。

 普段は自然体でこだわりがない分、好きなことや応援したいものには、とことん時間とお金を費やす。まさに、現代の若者の「特徴その2」と言えますね。

 これをビジネスシーンに置き換えてみましょう。

 彼、彼女たちに「この組織では、それが当たり前だから」と言っても、そこに意味を見出せなければ、Z世代は絶対に従いません。

 けれども、自分が「スキ」と感じるような人のためには、自己犠牲を厭わないのです。好きなアイドルのために何十枚とCDを買ってしまうのは、まさにその典型です。

 したがって、Z世代をマネジメントするリーダーの方々は、「若者の価値観を理解し、自然と導いていく」という姿勢が重要となります。

 自然と頑張ってくれるようなシチュエーションを設計すること。まさに『呪術廻戦』の環境と同じですね。

 無理にやらせようとしても逃げていきますが、彼らが自然と働きたくなるような「環境」を提供し、最大限パフォーマンスを発揮してもらいましょう。

 そうすれば、献身的な働きが必要になるシーンでは、彼らは躊躇なく飛び込んできてくれるでしょう。

 歴史を顧みると、まさに現代型の特攻隊、赤穂浪士と言えるのではないでしょうか。『鬼滅の刃』の感動的なエピソードの中には、まさにそのような自己犠牲の精神が描かれています。

 科学的なエビデンスも紹介しておきましょう。

 マズローの五段階説によれば、人との繋がりは「社会的欲求」として、衣食住のような生きるための「一次報酬」よりも高次なものでした。

 しかし、近年の研究によると、むしろ人間は「人の間」と書くように、人との繋がりやそこで扱われる公平性こそ、生存と等しい一次報酬であると捉える傾向にあることが明らかになっています。

● 他の世代よりもはるかに 「スキ」を大事にする若者たち

 筆者もよく知る敏腕漫画編集者たちが口を揃えて言うことなのですが、漫画において最も重要なのは「キャラ立ち」。もちろんストーリーも重要なのですが、キャラクターを好きになってもらえれば、その後はそのキャラがどう動くか、何を話すか、どうなっていくかを見るだけで楽しくて仕方がなくなる。したがって、とにかく主要人物たちをいかに好きなってもらうかを第一に考える、と言います。

 自分の子供であれば、一挙一投足を見ているだけで幸せになりますよね。そんなふうに愛されるキャラに育ってほしいと願っているようです。

 さて、そんな「スキ」という概念は、現代の若者のモチベーションを読み解くのに非常に重要です。

 Z世代は生まれた時から自由を享受しており、既存の価値観に縛られず、純粋に好きなものを楽しんでいるわけです。

 だからこそ、昔で言えばオタク的な趣味をSNSで発信する人も増えましたし、「スキ」を追求する熱量が、他の世代よりもはるかに高いように思います。

● 「推し活」の隆盛と背景から マーケティングプランを考える

 昨今、「推し活」という文化が隆盛しています。「推し」と言われる、自らの好む特定のキャラクターを熱心に応援することを指しており、アイドルからアニメのキャラ、俳優、芸人、スポーツ選手まで、その対象は今後ますます広がっていくでしょう。

 2030年には、推し活を楽しむ人々が人口の3分の1まで広がるといわれており、推し活の隆盛とその背景を理解することは、現代の若者=Z世代だけではなく、全世代へのマーケティングプランを考えるうえで必須です。

 「推し活」と、従来の「オタク」「萌え」との違いの一つに、女性がブームの主体になっていることが挙げられます。

 たとえば、『推しが武道館行ってくれたら死ぬ』というマンガがあります。アニメ化、映画化された人気作品であり、そのタイトルはまさに、ファンが推しにかける思いの強さを表していますが、同作の主人公も女性です。

 マイナーな地下アイドルグループの舞菜を応援する主人公の「えりぴよ」は、自分の推しを応援することに人生を捧げています。推しを応援するお金を稼ぐために日々働き、常に自分のことよりも推しの成功や幸せについて考える。それが生活の中心であり、生きる糧となっているのです。

 推し活をしている人のなかには、推しが成功したら死んでもいいと思えるくらいの熱量を、それぞれの推しに注いでいる人もいます。そのリアルな感情を描いているのが、今作が話題となった理由です。

 では、なぜそこまで熱心に応援するのでしょうか。

 理由の一つは、役割からの解放を望む、社会への小さな反抗心。もう一つは、自由なコミュニケーションと社会への参画意欲の表れだと考えられます。それぞれ解説しましょう

● 自分の意志で「推す」ことが 社会への小さな反抗心

 えりぴよは、推しのグッズを購入するため、前日から徹夜で会場に並んだり、推しとチェキを撮るためにCDを大量に購入したりしています。これは実際の推し活の現場でも、日常的に行われていますが、推し活をしていない人からすると奇妙で、かつ無駄な行為だと感じられるでしょう。

 しかし、そこにポイントがあります。一般的には無駄だと思われることに、全身全霊の熱量を注ぐこと。逆説的かもしれませんが、これは一種の、誰もが気軽に実行できる「社会への小さな反抗」なんですね。

 女性の社会進出が叫ばれる一方で、女性たちはいまだ社会に根強く残る「女性のあるべき姿」、役割の圧力に苦しめられることがあります。

 たとえば、恋愛や結婚をするべき、そのために美しくあるべき、等々、他にも多々あるでしょう。しかし、推しを応援するという行為は、誰かから求められてすることではなく、完全に自分の意志でやることです。

 歴史的に、周りから期待される役割に縛り付けられることが多かった女性たちは、「社会に期待されていないこと」を完全なる自分の意志で行う推し活に魅力を感じ、全身全霊を捧げるわけです。

● 「推し活」を通して求める 自由なコミュニケーション

 『推しが武道館行ってくれたら死ぬ』のストーリーは、えりぴよとそのオタク仲間たちの会話をメインに進みます。いつも一緒に現場(ライブ会場などを指す)に入る「くまさ」は、小太りの中年男性であり、オタク仲間たちは性別も年齢もバラバラです。

 「推し」という共通言語を持つことで、推し活をしなければ出会うことがなかった人たちと熱い絆で結ばれます。これも人々が推し活にハマるもう一つの理由です。

 家庭、学校、職場などの決まりきった「社会」から飛び出して、自由にコミュニケーションを取ること。これも人々が推し活を通して求めていることなのです。

 SNSを通して推しのすばらしさを語り、同じ趣味の仲間とつながり、語り合うこと。これは「自分が自由に意見を言える場所」を手に入れるということであり、「社会に参画しているという実感」を生み出すわけです。

 人々が推し活を通して手に入れたいと願っている、これら2つの願望について考えると、推し活という文化の隆盛は必然であったと言えますし、また今後もさらに拡大、定着していくと断言しても過言ではないでしょう。

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最終更新:4/18(木) 9:02

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