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No.185
日差し〜「柔らかな日差し」
2012/11/23 22:20
>>No. 181
最低の春だった。
卒業試験は楽々と通ったのに肝心の国家試験がダメだった。資格がないから通うはずの職場も失った。
仕送りはもう頼れない、明日からの暮らしを立てるすべすら思いつかないこのまま負け犬として郷里に帰るわけにもいかない。
いったいこれからどうすれば・・・どん底の気分だった。
冷え冷えとした俺に声をかけてくれたのがアパートの1階に住む彼女だった。染めた髪、派手な化粧、どこから見てもお水のお姉さん。
「たった一回の失敗じゃないの、また頑張ればいいじゃない」
彼女は訳知り顔で俺の肩にそっと手を触れた。驚いて見上げた先に真っ青に塗られたまぶたの下の柔らかい瞳の中にほのぼのとした暖かさを感じた。
お水のお姉さんはキャバクラのマスターにどう話をつけたのか、雑用係として俺を雇ってくれた。
夜8時からほんの5時間、内容は酔っぱらいの後始末と言う最初は食べ物がのどを通らない最悪さだが、なんだって慣れてしまえばなんとかなる。なによりもたった5時間の仕事なのに時給はとてつもなく良い。昼夜逆転の生活だが勉強する時間はたっぷりと取れる。
彼女店の残り物を持ってきてくれる、苦しんでいた俺を見返りなしで支えてくれる。
自分だけが置いてけぼりにされたと苦しむ春から初夏に向けて、ひたすら勉強に集中できたのはすべて彼女のおかげだったと思う。
俺たちが「成さぬ仲」になったのも当然の帰結だろう。彼女はより足しげくに俺に滋養のつく食べ物を運んでくれ、掃除洗濯までしてくれる。俺は年上の女性との恋に酔った。未来はまだ不確かなのに幸せすら感じた。
夏はゆっくりとやってきたけれどその日差しは強烈でしかも長かった。彼女がクーラーを持ちこんだ時はありがたいと思いつつも、自分がヒモになったような気分に落ち込んだ。彼女の献身が暑苦しいと思うようになっていた。
夏の日差しの中で見る彼女は目じりに小じわが寄っていて改めて彼女が自分より年上なのだと認識させられる。
高給のバイトのおかげで通えた国家試験予備校での成績も悪くはなかった。多分来年こそは大丈夫だろう。俺は次の春、医師として働きだす自分を心の中に描いていた。夢の中には水商売の彼女の姿は明らかに異物だった。
何くれとなく世話を焼く彼女に感謝はするけれど、二人の間に秋風が吹き始めるのを同時に感じていたのだ。
寒くなることは国家試験と言う正念場まで秒読みなのだと言うことだ。勉強は決して怠っていはいなかったけれど俺は時々不安にさいなまれた。
夜に暗い空を見上げていると分けもなくたまらなくなって俺は時々階下の彼女の部屋をノックする。彼女は手のかかる弟のように俺を迎い入れ、母のように懐に抱いてくれる。暗く寒い冬、彼女の暖かさで俺は何とか不安に耐えた。
そして2月。まだまだ厳しい寒さが続く時期、彼女にもらった合格祈願をかばんに忍ばせて試験に挑んだ。
結果を待つ間、やるだけやったんだ、いや去年のあの絶望感がまた再現されるかもしれないと言う両極端の間で揺れ動いた。
3月。春の日差しは間違いなく俺に降り注いだ。田舎に電話をして親のほっとする声に思わず涙ぐむ。予備校の教師の輝く未来が君を待っているという激励に初めて本当の春が来た、と思った。
その夜、彼女はごちそうを作って俺を待っていた。いや、作ったんじゃない、買ってきた惣菜をただ品よく並べただけだ。そういうシビアな目をもう既に俺は持ち始めていた。シャンパンのポンッとはじける音を聞きながら、俺はどううまく彼女と切れるかをひっそりと考えた。
「これ退職金ね、サービスしといたから」
ほろ酔いで2階の自室へと上がる時、彼女は俺に厚みを感じさせる封筒を押しつける。俺は驚いて彼女を見下ろす。
「これから頑張るのよ」
彼女の瞳の中にお別れの合図を見た。彼女は自分の素性をわきまえて身を引いてくれたのだ。輝かしいエリート道を歩き出す俺はこれで完全に自由だ。安ど感にどっぷりと浸った。
去年入るはずの病院は俺を待っていてくれた。条件は相当にいいからこのぼろアパートに甘んじる必要はもうない。
3月の終わり、まだまだ厳しい寒さが続く中俺はせっせと荷造りをしていた。新しいマンション、新しい職場、そこには新しい出会いがあるだろう、もしかしたら新しい恋も?
カーテンを外したガラス越しに柔らかな春の日差しを感じた。
俺は目を閉じる。去年の今頃、俺は絶望の中もだえ苦しんでいた、あの時俺はこんな日差しを感じたのを覚えている。なぜ今それを思い出すのだろう?
俺は顔を上げる。そうだ、あの柔らかな日差しは俺にとってかけがえのないものなんだ。多分これから先も。
まだ冷たい空気の中に柔らかな早春の日差しを浴びながら、俺はアパートの階段をゆっくりと降りはじめた。 -
No.2193
「くじ」「土」「歌(唄)」
2012/11/24 19:25
>>No. 2192
今日が13日の金曜日だったから行動した。場所は夕暮れのさびしい境内。
ターゲットはへらへら笑ってばかりいるあの小太りの女。
全身からお気楽、幸せ、平和、そういうオーラが立ち上ってるのが俺の癇に障ったからだ。
彼女はのんびりとした顔で賽銭箱に小銭をほおり投げる。俺はほくそ笑んだ。
たったの5円かよ。「ご縁」に引っかけたつもりだろうが、じゃあ俺がそれの後押しをしてやるぜ――不吉のご縁ね。
タイミング良く彼女はおみくじを引こうとしている。
よしよし。 さっそく俺は彼女に素晴らしいものをプレゼントしてやることにする。
「わぁお、大凶だわ。なんてめずらしいんでしょ」
境内の屋根から転げ落ちそうになった。あの女、不運の札をひいてうれしそうにしてる、どういう思考回路だ? じゃあこうしてやる。
「きゃあ」
スニーカーのひもがブチっと切れて彼女は石段をふみはずしそうになる。
「あ〜あ。もうこの靴買い替え時かぁ。お気に入りだったのにぃ」
思うのはそれだけかよっ。しかも丸っこい指で無理やり切れたひもをつなごうと四苦八苦してる。
「やっとできたぁ」
無様に結んで立ちあがって彼女は空を仰ぐ。
ここはもうセッティングは済んでいる。暗くなり始めた空には真っ赤な月。どうだ、気味悪いだろう?
だが彼女の感覚はちょっと違っているらしい。 音痴な鼻歌を歌いながらぼそっと呟く。
「きれいな満月ね」
・・・こ、こいつ! 無防備な顔して意外と強敵かも。
不細工なツラを覗こうと手提げバッグから取りだした手鏡に目の前で思いっきりヒビ入れてやる。これで何か感じてくれるだろう?
「やだー」
そうそう、そういう声が聞きたかった。
「これ高かったのに!」
なぜそうくるっ。こうなったら俺様が直々におでましになってやるか。
人気(ひとけ)のない神社からの下り坂、残光が残るばかりの逢魔が時。
シチュエーションとしてはこれ以上のものはないだろう。
「ニャーゴ」
俺は真っ黒なネコの姿で彼女の前をゆっくりと横切ってやる。
「かわいいぃぃぃ♪」
彼女はどたどたと大根足を前後させて駆け寄ってくる。踏みつぶされるかと思わず土に這いつくばってすくんでしまう俺。
あっという間に彼女の腕の中だ。
「いい子ねぇ、よしよし」
いい子だってぇ? 俺の一番嫌いな言葉だ。爪をギラリととがらせて引っ掻いてやろうとした時だ。
「こんなところで一人ぼっちなの? 寂しいでしょ」
馬鹿女はさらに俺をぎゅっと抱きしめ頬ずりをする。
本来ならばここで正体を明かして彼女の魂を食っちまえばいい。
だが彼女の言葉に真っ黒の心臓がキュンとなる、俺の一番痛いところを突きやがった。
「ミャーオ」
気づかぬうちに俺は甘ったれな声を上げていた。
なぜか毛色が黒から少しずつ白へと変わっていくのもどうでもよかった。柔らかさと暖かさに陶然となりながら思うだけ。
・・・たまにはこんな時があってもいいとするかい。
______________
>「人外のものを模した黄土色の何か」
思わず笑い声を上げてしまいました。実はC級映画ファンです。実際にこういうのがゴロゴロしています。見て癒されます。
これも観たかったです(笑) -
No.3053
Re: スーパーサイズ・ミー(2004年)
2012/11/29 17:44
>>No. 3050
だいぶ前ですが見ました。
学んだこと→そうか、マクドナルドはポテトを避ければいいんだ!(笑)
マクドナルドはある意味安心の味なのだと思います。
以前8時間ずっと眠らない状態でロンドンに行きこれから夕食と思った時、マクドナルドは天の助けでした。チップとか、そういうのを気にせずにパッと買ってホテルでのんびり食べられる、味も親しんだもの、あの店の存在は助かりました。
アメリカ人が日本に来てマックでマクドナルドを数個立て続けに食べてほっとする、ああいう気持ちが少しわかるような。
ただし狂牛病騒ぎのおかげで帰国してからマクドナルドの牛肉ハンバーグが理由で献血できなくなったのがちょっとねw
マクドナルド食べ続けの問題は、コンパクトでも脂肪分・カロリーがえらい高い、ちょっとしか食べてない感じでもカロリーだけは日本食タップリを上回る・・・その辺なのかもしれないです。
マクドナルド? たまに食べたくなりますね。
ハンバーガーよりもポテトとホットコーヒーをw -
No.189
Re: 自分で出してて変ですが
2012/12/05 07:27
>>No. 188
はははh・・・日差しってテーマは結構難しいとは思いました。
だけど少し待ってください。
もう一つ頭の中でひねっています。
とりあえずあと7分で出勤しますので、帰ってからまとめたいと思いますが。 -
No.191
日差し〜「日差しの中に何かが」
2012/12/05 22:45
>>No. 190
日差しの中に何かがいる。その何かが俺の耳元でささやく。
「おまえはここにいてはいけないのだ」と。
奴らはしつこい、俺が日差しの中にいる限りいつまでもまとわりつく。
「なぜここにいる」
「明るい場所に出てくるな!」
「おまえの存在自体が邪魔なんだよ」
「ここから出て行け!」
「いったい何様のつもりでうろうろしているんだ?」
日差しがさんさんと降り注ぐ間中、飽くことなくどこまでも執拗にささやき続ける。
なぜなんだ?
なぜ俺だけがここにいてはダメなのか。
日差しの差し込む方向の天空に輝く真っ白な丸、太陽を見上げる。
奴らはあの辺からやってくる。
俺は奴らの存在を何とも思っていなかったしまして排斥しようとは金輪際考えたことがなかったのに。
だのに奴らは俺を目の敵にする。それも飽くことなく執拗に。
俺は耐えられなくなって叫ぶ。
「もうやめてくれ!」
だが彼らは決してやめてはくれない。
「翼をもつものは我々だけでいい、おまえは邪魔なんだよ」
日差しの中の奴らはケタケタと嘲笑いながらそのしつこさを倍増させる。
奴らは待っているのだ―――俺が光に世界に背を向けるのを、闇の世界へ逃げ込むのを。
ついに俺はひざまづいて涙を流しながらやつらにこい願う。
「言うことを聞くからお願いだ、俺にまとわりつかないでくれ!」
奴らは俺を見下ろして厳かに命令する。
「闇の世界から決して出ないと誓うならばやめてやる」
「何でも言うことを聞くから、だから」
――翼を持つ異形の者は我々だけで充分だ、おまえは闇の世界へ行け、忌み嫌われる存在に墜ちろ。
なぜ? 俺は奴らに向かって叫ぶ。
お前たちと同じく永遠の命を持っているからか?
俺はお前たちと違って人の中にまぎれても違和感を持たれないことを妬いているせいなのか?
うるさい!
さあ、これが契約書だ。
情けは掛けてやる。お前は闇の世界で人の血を吸うことで永遠の命を保証されるのだ。
もしも破ったらお前は光に焼かれて灰となる。
早くサインをしろ!
多勢に無勢とはこのことだろう。俺は泣きながらサインをする。
手を地べたについたままぼうぜんとする俺から契約書を奪い取る。
奴らは白い翼をはためかせ、無邪気な子供のまま唇を醜くひん曲げて俺を蹴り落とす。
俺は闇の世界に落ちながら顔はどんどんと青ざめそして歯は鋭くとがり・・・ -
No.196
Re: 新テーマ 「CD」
2012/12/09 19:34
>>No. 195
すみません、さらさん。
今も仕事でまだ帰宅出来ていません。1月になれば少しはゆとりが出てくるのですが。
とはいえ(笑、日差しでもう一つ思いついたのでまた載せようかと思ってます。
仕事中にね、木漏れ日を見てふと浮かんだもので。とりあえず帰宅してからなんとかしますが。 -
No.204
Re: 日差し〜聖夜のピアノ弾き
2012/12/19 19:24
>>No. 197
ウ〜〜ン、場面を想像するのがかなり難しかったです
ヒロインはずいぶんと射程範囲が広い。プロとしては一流ですね。
しかし一晩にずいぶんとむちゃくちゃな選択曲。
イマジンは一人で弾いているとつい自分に酔ってしまいそうな曲ですね(歌詞ではなく曲想が)
バルトークってどうなのかなぁ、行動してる時に聞くとピタリとくる、そういうイメージを持ってますが。
ストーリーは荒唐無稽ですが、サラさんの趣味を垣間見ることができて良かったです。 -
No.205
Re: 日差し〜アセチレンランプ
2012/12/19 19:31
>>No. 198
アセチレンランプですか・・・とちょっと突っ込む、。
この似顔絵と言うのは確かに本人に似ているけれどまあ別人ですねw
しかしこの話は。。。。
なんつーか『美』じゃないもう一人の方に思わず同情の気持ちが。
美型は手相まで見てもらって将来は成功する、片や不細工は取ってつけたような地味な人生を歩む、特にそこには成功という名前もなく。。。。
なんつーか不細工君の肩を持ちたくなった話です -
No.3327
年の暮れ
2012/12/21 21:56
>>No. 3326
ハマってるミシンですが、実は仕事先の消耗品を作っています。生地は基本不要着物で。日本のデザインは大胆で素晴らしいと改めて思います。
ただ、ウールや絹は洗濯で縮むんですね、化学繊維のない時代、みんなどういう工夫をしていたのかなとふと思いました。
そう言えば今日は2012年12月21日でした。確かマヤなんたらで世界が終わる日でした。
さて、次のこの世の終わりはいつだろう? これはこれで面白いのでまた誰かが言いだしてくれるだろうけれど。
来年はどんな年になるか、自然現象だけは穏やかでいてほしいです。
来年もまた目一杯働く年にはなると思います。忙しいとは思うけれど自分のしたいことも続けたい、いろいろと欲張りです。 -
No.209
日差し〜シルエット(上)
2012/12/26 19:00
>>No. 205
日差しが塀(へい)に写っている。
ただそれだけだった。
道沿いの場所で青々とした街路樹がまっすぐに続く閑静な住宅街、単に夕陽がイチョウの木の影を塀にくっきりと伸ばしてるだけにすぎないのだが。
木漏れ日がきれいだなと思う人は多いかもしれない、だがそれ以上のことを気付いたのはたった一人だけだった。
都会で一人暮らしをしている孤独な青年。
真面目ではあるがおとなしい性格ゆえに恋人と呼べる人もいない、仕事を終えればまっすぐ誰もいない部屋へ帰るだけの日々の繰り返し。
暖かな日差しを待ち焦がれる冬の終わりのある夕方、彼は寒さに肩をすぼめながらアパートまでの家路を急ぎ足で歩いていた。
塀に何げなく目を向け彼は少し歩みを緩める。
塀には葉を落としたイチョウの木の影が映っている。パッと見には空に向かって伸びるイチョウの幹や枝が白い塀に映っている、それだけだった。
曲がりくねった枝で作られた影絵がどんな偶然か、人の形を形作っているように見える。
(まるで隠し絵みたいだな)
彼はちょっとにこっと笑った。枝の間に若い女性の横顔のようなものを見つけたからだ。白い壁に映るイチョウの枝に形作られたそれはちょっとうつむいた女性のシルエット、首から上だけで後頭部はポニーテールに見える。
どういう偶然か、面白いと思ってケータイに撮って見た。だが手のひらの中の画像はただの葉を落とした木のシルエットにすぎなかった。
彼はま、仕方ないという顔つきで通り過ぎた、それだけだったのだが。
次に彼が木陰に気づいたのは4月の頃だった。柔らかな暖かさの中、彼はイチョウの木を何気なく見あげる。そして考えることもなしに白い塀に目を移して目を見開いた。
イチョウの木漏れ日が壁にまたシルエットを作っている。
以前のようにイチョウの枝で作られた線ではない、白い壁には若葉をつけた枝が賑やかに映っている。その中に女性のシルエットをまた見つけたのだ。
(ものすごい偶然だな)
彼はずんずんと近寄ってみた。不思議なことに近づいてゆくと女性のシルエットはどこだかわからなくなる。影そのものは動かないはずなのに変だな?
青年は首をかしげて後ずさってみた。
シルエットはたぶん若い女性、今回は上半身までがわかる。身体にぴったり合ったセーターみたいなのを着ているようだし、ヘアスタイルはポニーテールだ。
少し離れたところに立ち止まって白い塀を凝視していた青年はふと我に返った。
(こんなことに大真面目になってるなんて、なんかバカみたいだ)
どのように見えようがこれは日差しが作ったただの偶然に過ぎない。白い塀のシルエットを振り切るように青年は首を振って歩き始めた。
それでも次の夕暮れ時に通った時、青年はまっすぐに塀を見つめる。
彼の期待通りそこにはイチョウの木漏れ日が作りだした女性のシルエットがあった。
今度はほぼ全身。ポニーテールの髪型、横向きの顔、ブックリと広がったスカートをはいている。若い女性なのだろうけれど何となく古臭さを感じる。
彼はイチョウの木を振り仰ぐ。
どう言う偶然がこういうシルエットを作りだすのだろう?
一瞬友達に話そうかと思った。
友達に話そうかと思いかけ、すぐにそれを否定した。下手をすると変な騒ぎになる、やめとこう。
女性のシルエットに何か犯しがたい神聖さのようなものを感じ取っていた。
多分もう彼はこのシルエットに恋をしはじめていたのかもしれない -
No.2196
蛇 光 かす
2012/12/27 07:33
>>No. 2194
部屋の隅でカスのようなものがきらりと光った。夫は屈んでつまみあげ顔を曇らせる。
手の中のそれは半透明の涙の粒のような形をしている、これはウロコなのだろう。
きれい好きな妻、掃除機をしょっちゅうかける妻を思う。
やはり彼女は――。
夫は拾ったものをトイレへ持ってゆく。心の中のうっ屈も一緒に流してしまうかのように『大』のレバーを使った。
夫の顔には強い決意が浮かんでいた。
――俺は過去の奴らとは違うんだ!
妻と出会ったのは8年ほど前。
出会ってすぐに恋に落ち、3日後には一緒に暮らし始め、その翌月には夫婦となった。まるでおとぎ話のようなスピード結婚。
二人のかわいい子供にも恵まれた。長男は小学校1年生、長女は保育園の年中組、どこにでもある平凡な家庭と言えるだろう。
妻は2児の母となった後も、結婚当時とまるで変わらず初々しい。仕事も順調で妻は美しく優しく子供たちもすくすく育っている、憂いなどどこにもあるはずはないのだが。
妻は蛇の化身なのだと言うことを無視すれば。
なぜ蛇が夫のもとにやってきたのか、それはよくわからない。夫はもともと人にも動物にもやさしい好青年だった。独身時代は山歩きが趣味で方々に行った。多分その時に何か恩を感じるようなことを自分はしたのだろうと想像するのが精いっぱいだ。
だが蛇だろうがなんだろうが関係ない。夫は妻を心の底から愛していた
夫は鶴の恩返しや雪女、さまざまな物語を思う。あれらはどれもこれも正体が露見して悲しい別れとなってしまった。
――自分が気づいていることを悟られてはならない。
夫は妻をさりげなく、だけど万感の思いを込めて盗み見る。どうかこの幸せがずっと続いてほしい、望むことはそれだけなのだから。
_______________
>子守唄
しくじったことに気づかない『私』のこれまでに何か問題があったのだろう、と厳しく思う。
おおらかな知人が多かった福島、あまりにも理不尽な・・原発被災者を思います。彼らの気持ちをくじく政策は絶対に・・ -
No.212
日差し〜シルエット(中)
2012/12/28 17:49
>>No. 209
初めのうちは夕暮れ時に帰宅出来る時に視線を白い塀に向かわせる、それだけだった。
だがそのうちに仕事中にもふっと女性のシルエットが思い出されるようになる。
青年はいつの間にかシルエットに過ぎない女性を見るのをひそかな楽しみにしていた。
曇りや雨の日は日差しがないから女性は現れない。いつしか青年は翌日の天気予報を祈るようになっていた。
いつも白い塀から少し離れたところに立ち止まって女性を眺める。夏の初めにはもうこれは木漏れ日と日差しが作りだす偶然だとは思わなかった。
たかがシルエットとはいえ、通りは駅に通じているためそこそこに通勤や通学の人々が通る。
こんなにもはっきりと見える彼女のシルエットに気づかないはずはないのに気づいたものは誰もいない。
この意味するものはなんだろう。
(自分のためにここにいてくれるのじゃないか?)
近寄ってざらざらとした壁を触ってみる。日差しを吸ってほんのり暖かなその壁の彼女の部分はさらに柔らかな暖かさを感じさせる。この意味するところはなんだろう?
異形の世界の女性が自分を恋してくれている。それだったらどんなにいいだろうとふと思う。
しかしこれはあまりにも根拠がなさすぎる。青年は彼女がいつも横顔を見せていることに気付いた。
(彼女は何を見ているんだろう?)
改めて疑問が沸き起こる。
駅へと続くまっすぐな街路樹はそれほど古い通りではない。
青年が就職を決めてこの街に越してきた4年前は街路樹のイチョウはどれも細くて頼りない若木だった。
となると。
青年の注意は白い塀そのものに向く。彼女はこの白い塀の中を見ているのだろうか?
彼は初めて見るような気分でその塀を辿ってゆく。塀の長さだけで周囲の家々の広さの3倍はある。。
青年は白い塀の先の門がまえの前に立つ。瓦の屋根の付いた格子の引き戸のついた堂々たる門だ。格子をすかして覗くと広い庭と古びてはいるが堂々たる家屋が見える。
(金持ちの家か)
青年はちょっと圧倒された。このシルエットの女性はこの中を覗いているのだろうか?
「この家の人を見ているのかい?」
周囲に誰もいなかったから青年はシルエットに向かって呼びかけてみた。
イチョウの葉が風でゆれたせいかもしれない。
けれども彼にはシルエットの女性がかすかに頷いたように見えたのだ。 -
No.214
Re: 困りました
2012/12/29 07:26
>>No. 213
普段パソコンからの入力なので余り困ってません(^^
ケータイからの入力が出来なくなったということなのですね。つまりはIフォン時代に入ったということでしょう。ビデオテープがDVD、ブルーレイにとってかわられたような変化。
IT革命(と呼んでいいと思う)が始まってもう20年ほど、情報の早さが文明の進化を倍増させるとずっと思ってました。
こういう変化がまさにそれなのでしょう。私達は慣れて行かないと。
トピはこのまま行くと思います。ただアドレスが変わってゆくだけ、実際面ではあまり変わらないのでは?
掲示板と言う名前も変わっちゃうみたいですね。テキストリームだってww
ま〜た、変な和製英語を。 -
No.216
日差し〜シルエット(下)
2012/12/30 16:27
>>No. 212
世帯主は老人だった。やはりこの辺では名の知れた金持ちだった。
近くの店で買い物をしながらさりげなく聞くと甥夫婦と一緒に住んでいるとのこと。
子供はいないのかと聞いたら「なんだかね、ずっと一人だったみたいよ」と店のおばさんはいかにも意味深な風にひそひそと答えた。
あのシルエットが見つめている対象は誰だろう? 甥夫婦は数年前老人を介護するために一緒に住み始めたらしい。いい人そうではあるが地味な感じの甥夫婦を見ているのだろうか。
青年は屋敷の前を通るたびに視線を広い庭に這わすようになる。
セミの声が賑やかな時期、青年は周囲を見回してから、塀の内側を見ようとジャンプする。涼しそうな木陰のロッキングチェアに座る老人が一人だけ。
青年はシルエットを振り返る。影だけの彼女は老人をひたすらに見つめているのだ。
ポニーテールにふわりとしたスカート、それは昭和30年代あたりの流行だったようだ。
50年以上前の格好をしたシルエット。そして独身をつづけたらしい老人。
二人を結び付けて想像するのは容易だった。
青年にもシルエットの気持ちがわかったのだ。彼女は彼を待ち続けているのだ。
一瞬夏の暑さもずっと鳴き続けているセミの声も遠のいた。
「君はここにずっと?」
白い塀に向かってささやくように話すとシルエットは向きを変えたらしい、小ぶりな鼻も薄く盛り上がった胸も見えなくなる。
シルエットの彼女は今自分を真摯に見つめているのだ、とひしひしと感じた。
シルエットの見えない視線に気圧されるように青年は後ずさりをする。邪魔をするなと言うのだろうか、彼は逃げるようにその場を立ち去った。
多分実ることの叶わなかった恋なのだろう。
女は早く亡くなってしまったせいなのか、それとも50年前の時代背景が二人の恋を阻んだのか。
老人はシルエットの彼女を思って一人身を通し切ったのか。
それ以上詮索しようとは思わなかった。ただひたすら圧倒された。
シルエットの思いつめたような横顔は青年は忘れることができなかった。
だから夕暮れ時に現われるシルエットの彼女を見つめる、それが彼の日課のようになる。自分は余計者なのだ、ほおっておけばいいと頭でわかりつつも心が彼を塀へと引き寄せる。
イチョウの葉が目にも鮮やかな黄色に変わる頃、青年は1週間ほど出張をする。仕事先でもシルエットは今日もあそこにいるのだろうかと思い続けた。
出張から戻ってきた夕暮れ、黄色いイチョウの落ち葉で敷き詰められた歩道まで来て立ち止まる。
堂々たる門にひっそりと灯される提灯、出入りする黒服の人々。
青年は一瞥するやいなや、白い塀へと走る。
(彼女は?・・・・彼女は?)
確かここだったはず。青年はシルエットを探し求めてその場をうろうろし、離れてみたり近づいてみたりした。
そこには葉をわずかにつけたイチョウの木のシルエットがあるだけだった。
(もう待たなくていいんだね)
最初からかなうはずのない恋だとは分かってた。今は待たなくていい彼女を祝福してやればいいのかもしれない。
震える手で白い塀を触る。日中の日差しを吸い込んでいたのだろう、塀はほんのり暖かかった。
青年は今はただの壁となった塀に頭をつけてほんの少し泣いた。 -
No.221
Re: 新テーマ
2013/01/09 07:59
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No.223
CD〜『教訓』
2013/01/09 20:48
>>No. 222
ボーナストラックというのがある。売れっ子ミュージシャンなんかのCDの最後に収められている、タイトル抜きの謎めいた音楽、別名隠しトラックとも呼ぶ。
それはそのミュージシャンの有名曲の実験的バージョンだったり、ユーモアたっぷりの短い歌だったり、とにかく肩から力が抜けたようなヒミツのお楽しみ音楽。
そのCDの価値に気づいたのは全くの偶然だった。
というか、このCDはフリマで売り手がおまけとして俺に押し付けたやつだ。ジャケットを見てもよくわからない抽象模様があるだけであとは何もない、ミュージシャンの名前も制作会社も制作年月日すらも。
自費制作って類はこういうものなのかも、俺はたいして気にも留めなかったのだが。
数日後だった。
その時俺は予定外の事故渋滞に巻き込まれてあせっていた。
イライラするあまり、意味もなくクラクションを鳴らしてハンドルをたたく。
あきらめるっきゃないか、だが得意先で嫌味を言われるのは間違いなし。
気を落ち着けるためにCDケースを漁って例のCDに気がついた。
ラジオのへたくそなしゃべりにも飽き飽きしてたから、気分転換になるかとそのCDを突っ込んでみたのだが。
「これはボーナストラックです」
性別不明の淡々とした声が流れて思わず噴き出した。おいおい、いきなりそれをしゃべるのかよ?
5秒ほどの間の後に流れ出したのは管弦楽とピアノの合奏だった。あまりの意外さに眉を吊り上げる。
聞いたことがないが多分クラシックてやつなんだろう。ロック以外に興味のない俺はストップさせようとして手を止めた。
なんだか心地よい。心の中に広くて美しい草原が広がるような感じ。
ボーナストラックは普通1分から3分とものすごく短い。だがこれは違っていた。
うっとりと聞き惚れていたが20分以上はあっただろう。いつの間にか俺のイライラは吹き飛んでいた。
多分顔も仏のように穏やかになっていたに違いない。そのおかげか仕事先でもすべてが穏やかに進んだのだった。
次に聞いた時は度肝を抜かれた。
その日はケアレスミスで失敗をして上司に散々説教食らったあとだった。
流れてきたのはオルゴール曲、心の痛みをそっと癒してくれるような天使の調べだったのだ。
曲が前と違っているという不思議さに、そしてこのCDボーナストラック一曲のみだという事実に気付かないほど俺はその曲に慰められていたんだ。
それからも俺はたびたびこの不思議なCDのお世話になった。
なぜこのCDは? と突っ込んで不審がるのはやめた、下手に探ると効力が消えてしまうかもという思いもあったんだ。
好きな子にさりげなく「no」と言われた時、朝寝坊をしてしまって慌てて会社に向かう時、CDは俺に元気をくれたんだ。
こうして不思議なCDは最高の拠り所となったのだ。
その日、俺は何となくテンションが上がらなかった。
ネトゲで夜更かししたせいもあるし、今日の仕事先は遠くてかったるいというのも理由の一つだった。
こういう時こそ―――俺はCDをいつものように[on]にしたのだが。
なぜかCDは沈黙している。
あれ? と眉をひそめてCDを入れ直そうとしたときだった。
「これが最後のボーナストラックです」
ウソだろ! と叫ぶ間もなく音楽は始まった。それは歌だった。
・・・?
懐メロ番組で聞いたことあるぞ。エーと、誰だっけ、この一本調子の歌い方は。
それが何か思い出して俺はガクッとなる。そうか、わかったよ、仕方ねえな。
そう、最後のボーナストラックは・・・
近藤雅彦「ケジメなさい」♪ -
No.226
職業紹介所〜『交代せよ』
2013/01/10 00:09
>>No. 225
ここはとある職業紹介所。
居並ぶ客たちに、彼はていねいにアドバイスをしているのだが。
――あ〜君ね、白くなるといいよ、そうすれば嫌われるどころか子供たちの人気者になるから
――あなたはいろいろな選択肢がある。たとえば大勢が見守る中、華々しく闘って散ると言う生き方もできますよ
――あんたはなぁ、やはり世の魅力的な女性のために存在すると言っていいでしょう。檻の中をウロウロするのとどっちがいい?
――場所によっていろいろだけど、うまく選べば子供たちに可愛がってもらえますよ
――あんたは今年の注目株ですな。普段はデパート売り場で存在価値を認めてもらってるだけですがね
――あなたはやはり足でしょう。みんな必死の形相であなたたちを見つめて興奮する、その四つの足がモノ言うからね
――そのふかふかの体毛が決め手ですな。昨今寒い冬だしひっぱりだこになりますよ
――あんたはね、マネてりゃいいんですよ、それだけで受けますから
――君はこれからも全身で貢献してくださいよ、実はわしも大好きで・・・じゅるっ
――見張り役ってのは昨今需要が少ないけどね。その代り家でゴロゴロ出来ますよ。去勢? まあそのくらい仕方ないんじゃないの
――そうなんですよねぇ・・あんたらの改良種は人気安定してるのだけどね、鍋くらいしか私も思いつきませんで
「けしから―――ん!! チュウチュウ、わんわんっ、ブヒヒ―ン!」
職業紹介所に来た彼らは憤慨する。
「神様が人間の姿をしてるってのがまず大きな間違いなんだよ」
「そーだそーだ、だから人間に貢献するような職種しか紹介してくれないんだ、メェェェッ、ウキキキッ」
「やつを引きずり下ろして我々の中から神を選ぼうじゃないか、モォモォ」
「・・・となるとやはりあなたに決定ですな グワォ〜」
11匹の動物たちの視線は、ダーウィンが認めなかった彼に集中する。
「神竜よ!」
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すんません、意地になって必死で考えて絞り出したのがコレ(滝汗)

Re: ヒューゴの不思議な発明(2011年)
2012/11/23 10:16
>つまらなくはないけど面白しろくもない。良い映画だけれども感動的でもない。わかったようでいて、よくわからない(笑)
同感です。どこに視点を置いてるのか明確じゃないためだろうとはおもいますが。
原題は「ヒューゴ」それだけなんですね、日本のタイトルのつけ方が鑑賞後に無駄な疑問を起こさせている(笑)それにテレビCMもまるでSFアクションのような勘違いをさせる、この辺は日本のプロモーター側に問題ありですね。
ストーリーは地味ながらもいい味はあるんですけどね、だけど同じ感想を持っています。何かが薄い。
メリエス本人の人生を知ることが出来たのは面白かったし、当時の映画製作過程が見れたのものよかったです。
映画の作り手は相当楽しんだのでは? とは思いますがそれが観客に素直に感動として伝わってこない、もったいないなと思っています。