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投稿コメント一覧 (444コメント)

  • 川 愛 時 06

    カタカタカタ・・・
    掘っ立て小屋の中でミシンの音を響かせる。
    縫っているのは外套。外套を作るための素材は粗悪な毛布だ。

    ミシンを隠しておいてよかった、と心から思う。
    兵器を作るための金属供出、家の中のありとあらゆる金物を供出させられた。
    あの時、義母は「これは隠しておけ」と布団に来るんで床下の一番奥にミシンをしまいこんだ。
    なんてわがままな女だろう、お国のことを考えない自分勝手な人だと私は憤慨した。

    でも今、
    ミシンは我が家をつなぐ命の糧。
    義母がどこからか持ち込んだ日本軍の放出毛布を外套に仕立て上げる、
    子どもたちは進駐軍が時たま気まぐれにくれる食糧を期待して長い行列に朝から立ちっぱなしだ。

    にっくき鬼畜米英は今や仏の差し伸べる手のようにすらみえる。
    だがなんだっていい、生き延びる、それだけが私たちの合言葉。

    義母の顔は、息子を思う愛情があふれ出して溺れそうにすら見える。
    あの子は広い中国で、いくつでの川を、いくつの山を越えただろう。
    私は義母を横目でチラと見る。崩れそうになるのを必死でこらえる老女の姿にしっかりしなきゃ、と改めて思う。

    待っているから。
    私は心の中で夫に呼びかける。私達は何をしてでも生き延びる、だからあなたも、家族と義母のために・・・

    **

    歌舞伎にイヤホンガイド、なるほど。歌舞伎、みたことないです。見る機会、これからあるかなぁ・・・

  • 久しぶりです、書けるかな、とこわごわ書いてみました。
    2273:ムショクさん、単独登山女子、いや山ガールですか。すばらしい。
    2274:ドラゴンらーじゃ? 全くついていけません、なんのこっちゃ。
    2275:そんだけ元気ならまあ心配ないですか(笑) こうなったら絵本は「寝ない子誰だ」でも(^^;
    2276:なるほど、そうですね。平穏には希望が薄い…考えさせられます。
    2277:ポエムですね。一瞬想像してしまいましたがww
    2278:うむむむ。。。愛は「妥協」なのか・・・
    2279:大きな地震が3回、激しい台風、猛暑、豪雨・・・コンビニの募金箱にいれた回数は今年が一番多いかも。

  • 川 愛 時 03

    川の中を転がる石のように生きたい、と思ってた。

    苔がむすまで?
    冗談じゃない、そんなにじっとしていられるかっての。

    ライクアローリングストーン、根無し草の落ちぶれ者の歌だって?
    他人はかってにそう思ってりゃいい、

    俺は転がる石なんだ、束縛する愛なんかいらない、
    必要とするものも、失って困るものもいらない。
    ただ転がり続けていたい。

    寂しくないかって? 孤独にさいなまれないかって?
    そんなもん、とっくに慣れたさ。

    ずっとずっと時という名前の川を俺は転がり続けてきたんだ。
    今までも、そしてこれから先も、多分。

    で、ふと気づいたんだ。

    ごつごつした川底に何度もこすられ、激しい流れに押し流され、
    果てしもなく長い川を転がり続けて・・・

    俺は真ん丸な石になっていた。
    あんまりにもつるつる、ツヤツヤしてるもんだから、みんなが俺に触れたがる。

    ふ~ん、そういうオチかよ。
    ……だが、悪くないかも。

  • 「ふすまを一升、米ぬかを少し入れておくれよ」
    店先で耕太の声が聞こえて、秀子は靴を履く手をるピタッと止める。足元の真新しい赤い靴はおばあさまからに買ってもらったもの。

    耕太は腕っぷしの強い子だった。
    それでいていじめられっ子には優しい。尋常小学校では耕太の周りにいつも友達が群がっていた。
    引き換え、秀子はおとなしい少女。6年間ずっと一緒だったのにほとんど口もきいたこともない。
    普通に耕太とおしゃべりができる同級生がひたすらうらやましいだけだった。
    そんな尋常小学校も残り2か月。

    卒業後は秀子は女学校に進む。
    耕太とはお別れになってしまう。
    そんな思いが秀子の足を前に出させた。

    「よしよし、今日はよく頑張ったなぁ」
    荷車につながれた馬に箱の中のふすまを食べさせながら目を細めている耕太は、ふとこっちを振り返る。
    「ああ」
    汗とほこりにまみれた日に焼けた耕太の顔に浮かぶ真っ白な歯。
    まっすぐに見つめる瞳に吸い寄せられるように秀子は店へと進み出た。

    耕太は真新しいピカピカ光る赤い靴に目を見張り、次に緑褐色の馬糞に汚れた自分のわらじを見下ろした。
    まぶしい笑顔が一転、陰に覆われる。
    凍り付いたようにたたずむ秀子から無理やり視線を逸らすと、耕太は背中を向けた。

    以来、耕太とは目も合わせることもなく、80年近くが過ぎてしまった。
    長い人生のさまざまなことが忘却の彼方になる中、この心の痛みだけは今もまだ悲しいほど鮮やかに――。

    *****

    久しぶりに書きました。
    現在の3語も考えます。、そして感想も。少々お待ちください。

  • 箱 緑 靴
    その4ラスト

    浦島太郎は箱を開けて人生が変わったが(ジジイ化による強制終了?)俺の場合もそこらへんは同じ。
    ただし俺の場合は人生はいい方に変わったんだ。

    初めはパスポートを手に取って唖然とするだけだった。
    どういう手品を使ってこれを手に入れたんだ? 偽造じゃないだろうなぁ、だが彼女は神だし。
    旅券は3日後になっている。場所は外国のしかも聞いたことない国・・どこだ? 

    なるようになれ、どうせ俺はプー太郎のヒマ人なんだ。
    例の緑の靴を履いて飛行機に乗り、ついた空港ではなぜかお迎えのジープまでいた。

    緑の靴の意味が分かったのはこの場所に来てからだ。
    ぎらつく太陽、荒涼とした荒れ地、井戸の底にわずかにたまる水、そしてやせ細った人々。
    直視するのもつらいようなそんな場所。ここは日本となんて違うんだ・・・。
    乾いた大地に足を降ろした途端、不思議な感覚が全身を駆け巡る。
    そう、靴なんだ。

    靴が地底深くの水を呼び寄せる、てことなんだろう。
    枯れかけていた井戸が水位をぐんぐんと上げている。人々が歓声を上げて井戸へと群がっている。
    そうか、そういうことか。

    俺は水神の使い、雨乞いの使徒、砂漠緑化の天使という役回りなんだ。
    ただ歩き回り、あるいは少しの間滞在する、それだけで枯れた土地は潤い、緑をよみがえらせる。
    金はなぜか歩く先々に落ちているから暮らすには困らない、落とした金でも回してくれてるのか、これも悩殺・地母神のなせる業だろう。
    不器用で仕事が続かず腐ってる俺でも歩くことはできる。

    貧弱な宿に戻るとまた旅券があった。俺は手にとってニヤリとする。
    次はどこに派遣されるのやら、まあそれでもいいさ。

    浦島太郎よぉ、心の中でおとぎ話の主に呼びかける。
    お互いふしぎな出会いがあったよな、俺はあんたほどいい思いは出来なかったけれど
    いい世界つくりの手助けができるのなら、これはこれでまあいいんじゃないか、とね。

    ****
    すみません、久しぶりで長くなってしまいました。
    >登山
    連続していかれるようですね、いいですね。山々がムショクさんを待ってます。

  • 箱 緑 靴
    その3

    箱を手渡されて思わず血が引いた。これ、これってジジイになってしまうあの、例の・・・。
    絶世の美女の女神は首を振り、俺の目をじっとのぞき込む。
    「絶対使ってくださいね、私たちのために」
    ありゃ、浦島太郎の話とセリフが違う!

    いきなり俺は公園の砂場にいた。
    瞬間移動?(そういや浦島の奴はどうやって戻ったのかな?)
    「女神さまの願い、どうかよろしくお願いします」
    足元でモグラの小さな声。不思議なことだが
    どこかすがるような、必死に哀願するような、そんな感じがした。

    そして箱。
    靴箱程度の木の箱で特になんてことはない。だが中身は?
    ちょっと揺すってみる。ゴトゴトとまさに靴が入ってるような感じ。
    う〜む。
    きっかり30分は箱を見つめていたと思う。
    ふたを開けた途端、とてつもなく悪いことが起こるんじゃないかという悪い予感を振り払えない。

    「私たちのために」
    半裸美女の切なそうな瞳が脳裏を駆け巡る。
    神様だから嘘つかないよな? と目をつぶってエイッとふたを開けた。

    中には緑色のモカシン靴。思わず目を見開く。なんだ、この悪趣味な色は?
    箱をひっくり返した時、靴と一緒に落ちてきたものを見てさらに絶句する。

    それは俺名義のパスポートと旅券、そして汚れた紙幣の束だった。

  • 箱 緑 靴
    その2

    竜宮城に連れていかれる時、浦島太郎は疑問を持たなかったのだろうか?

    奴の場合、海の中だぞ。息ができないとか奴は考えなかったのか?
    毛むくじゃらの怪物(モグラだが)に抱きしめられて地中に引きずり込まれた時、俺が連想したのは(酸素!)という言葉だった。
    コロサレル、という恐怖感でコテッと気を失ってしまったらしい。

    次に気が付いた時、絶世の美女が俺の手を握っていた。
    豊満な肉体が薄物の向こうに透けて見える、しかも俺はベッドの上となれば普通ならばわっしと腕をつかんで・・・
    となるのだが。
    あまりにも神々しくて手が出ん。
    「この前はモグラを助けてくださってありがとうございます。私は地母神です。どうぞゆっくりしていってくださいね」

    刺激的な格好をしているが神? しかしこの展開は浦島太郎そのまんまだ。
    それにしてもこの絶世の美女、ものすごく色白だ。太陽に全然当たらないせいなのだろうか。
    地底だというのに壁全体が輝いていて明るいし、温かい。
    地熱? マグマに近いのだろうかと考えていると腕を引っ張られて湯気の立つテーブルへと案内される。
    並べられた御馳走は何だかよくわからないが、すこぶる美味だった。
    しかも美女にもてなしてもらってるとあっては天にも昇る心地(地底だが)

    タイやヒラメの舞い踊りはどうするのか、ミミズやモグラの踊りを見せられるのかとあれこれ想像をめぐらしたが
    単にごちそうだけのようだ。
    内心、女神様がナニカしてくれるんでは? という期待もあったがそれもなし。
    しゃあないか、単に俺はバケツひっくり返しただけだし。

    「本当にありがとうございました」
    おいおい、もうおしまい?
    確か浦島太郎は、引き留められていつの間にやら300年だったよなぁ。。。
    こっちはわずか数十分か。はぁ〜。
    「これをお持ちください」
    美女が俺に手渡したのは「箱」だった・・・

  • 箱 緑 靴
    その1
    意味ありげな微笑で差し出された箱を見て「浦島太郎」を連想した。

    事の起こりは昼下がりに散歩をしていた時だ。
    学生でもないのに平日になんでぶらぶらしてるのかって?
    うるせえな、カンケ−ねーだろっ。

    ちっぽけな公園の砂場に置き忘れられていた小さなプラスチックバケツが勝手に揺れている。
    ヒマ持て余してたからのぞき込んでみる黒っぽいネズミのようなものがプラスチックのバケツの中をぐるぐると回っている。・・・なんだこれ?
    ネズミに似てるが尻尾も耳もない。頭の中の動物図鑑を総動員してわかった。モグラ!

    どこの世界にもドジな奴っているんだな、ふっと自嘲的な気分になってバケツをひっくり返す。
    モグラは砂を小さな手で掘り始めると瞬時に地中にと消えていった。すげえ早業だ。
    たったこれだけのことだったから普通ならきれいさっぱり忘れちまうんだが。

    数日後の夜中のことだった。その時も散歩だったわけだが。
    「おにいさん、おにいさん」ささやく声。
    声は例の砂場あたりから聞こえる。絶対怪しいやつに違いない。俺が動かずにいると
    「この間はありがとうございました」とまた小さな声。
    この間? 俺は眉をひそめつつもその無邪気な声につられて近づいてみる。

    いきなり足をガシッとつかまれた。
    本当に恐怖を感じた時、人は悲鳴すら上げられないらしい。
    暗がりの中砂から毛むくじゃらのでかい顔が現れた。
    「お礼をしたいので、あなたをお連れ致します」

  • 久しぶりです、このところ、ヤフーテクストリームから離れておりました。みなさん元気そうで何よりです。

  • 久しぶりに来てちょっと見たら、これ、私の知ってるドリームさんですか?
    お久しぶりです。。。と言って大丈夫かなぁ。。。

  • >お姉ちゃんの家
    娘さん夫婦、すっかり北の人ですね。息子さん、感化されるか??

    >「文」
    文、がまさに手紙とは、素晴らしいです。
    こういうキャラの奴は今も昔もモテる(^^

    >恩田睦氏
    読んでみようかなという気にさせられます。私はカズオイシグロファンです。

    ・・・久しぶりです。二つに分けて載せました。1000字制限はさすがにきつい・・・
    夢は今朝本当に見ました。実際には孫悟空(中国版)とゴジラでした。なんでこういうのを今頃見るかなぁ・・・

    箱 緑 靴

  • 10の2

    目覚めた時、一瞬まだ終末世界が続いているような気がした。それほどに強烈な夢だった。
    どんな強烈な夢でも普通は2日もすると忘れてしまう。
    日常というのは悪夢を癒す一番の薬のはずだった。
    悪夢が時折フラッシュバックする。
    トイレの窓からふと空を見上げると、何かが現れるようでドキドキする。
    デスクのクラフトナイフが、人々を切り裂く大刀を連想する。
    「逃げなくては」と焦りまくっている自分を心の片隅で意識している。
    ・・・どうも嫌な感じだ。

    数日前の夢が俺にまとわりつく、振り払いたくて必死で仕事をする、家まで全速力で走ってみたりもする。
    半面、夢を必死で思い出そうとする自分もいる。夢の世界はどこか春のようだったな。
    なぜそう思うんだろう? 俺は一度だけ見た映画を思い出すように記憶の中を探し回る。
    そうだ、ピンクの花びらが舞っていたな。
    さすが夢だぜ、今は真冬だ、桜の木なんかどれも枯れ木にしか見えんぞ。

    その夜、ベッドの中で俺は強烈なイメージに襲われる。
    『明日、この世は終わる』
    またか! 冗談じゃない。疲れすぎてるんだ、こういう時はさっさと寝るに限る。
    俺は頭から布団をひっかぶった。

    こんな状態でもぐっすりと眠ったらしい。半開きのカーテンの向こうに桜の木が見える。
    今は2月、裸の桜の枝先がつぼみのように膨らんで春が近いことを知らせてくれる。
    やれやれ、何が桜の花びらだ。おっと、急がないと電車に送れるぞ。

    大慌て外に飛び出した時、枝先のつぼみが大きくなっていることには気づかなかった。
    だが、駅までダッシュする間、今日はやけに暖かいなとふと思う。
    駅前に来た時、女子高校生たちが立ち止まって歓声を上げていた。
    なんだ? タレントでもいるのか?
    女子高校生たちの視線を追いかけて血が引いた。
    駅前広場の大きな桜の木のつぼみが見る見るうちに大きくなり桜の花がほころびかけていた・・・。

  • 文 絹 刀 10の1

    不思議な、だがとてつもなく嫌な夢を見た。

    夢なんざすぐに忘れ去るものだが、これは茶渋のようにいつまでも頭の中にこびりついている、こういう夢も珍しい。

    夢の中でお告げのようなものを感じた。
    明日、この世は終わる、と。

    まるでB級映画の世界だと夢の中でも思った。
    夢の中の俺はなぜかそれを真実だと受け入れていて、俺以外はどうなんだろうと周囲を伺っていたりする。
    ツイッターでもなくFacebookでも、ましてSNSでもなく、なぜか俺は今はない「掲示板」に飛んでいた。
    文章を書き込もうとしてぎょっとする。
    「このサイトは本日をもって終了します」
    おおーー。
    やはり終末はホントなのか。夢の中の俺はアタフタする。

    茫然とする俺にまた強烈なイメージが降ってきた。
    上空に突然浮かび上がるようにふたつのイメージ。とてつもなくでかいゴジラと凶悪な顔のこれまた巨大な孫悟空!
    そいつらがいきなり降臨してきた。ゴジラが触れたビルディングは瞬時にドロドロになって溶け、孫悟空の繰り出す如意棒は逃げ惑う人々の頭をものすごいスピードで打ち砕く。
    なぜか絹を引き裂く叫び声とか熱風とかそういうものは感じられない。
    夢という特殊性のおかげだろうか。
    それでも、大隕石でもなく、ブラックホールでもなく、こんな死に方はイヤだ!

  • 「絹 刀 文」7

    ふざけんじゃねぇ!
    夏休みもあと何日かという時、教頭がしゃしゃり出て親を呼び出してしまった。

    「お宅のお子さんがこんなものを隠し持って」
    呼び出された相談室の上には、小遣い必死でためてやっとゲットしたジャックナイフ。
    別にいいじゃん? ただ小刀にあこがれただけなんだ。
    誰かを刺そうなんて考えてこともない。センコーめ、マスコミの毒に侵されてるのはそっちだろっ。
    謝罪の文章書かされ、散々怒られた挙句に没収。
    くそっ、こんなんで負けてたまるかーー。

    手作りしようと思った。
    いろいろ調べて五寸釘からナイフ。これなら家で調達できる。
    「焼きを入れる」 ここでしくじる。ガスレンジで焼くと家の中に異様なにおいが立ち込める。
    トンカチでたたこうとすると頭にキーンと響く爆音。母ちゃんがすっ飛んできてあっという間に取り上げられた。

    次にコーラの空き缶からナイフ。アルミ缶を両手で捻じ曲げ捻じ切って出来たことは出来たが、なんだかなぁ。ゆがんでるしちょっと触るとすぐ曲がっちまうし。小刀が持つあの独特な美が抜けている。
    おまけに作る途中アルミ缶の切り口で親指をざっくり。「もういい加減にしなさい」病院帰りに母ちゃんにまたガミガミと。

    だが俺の情熱はつぶれない。今は夏休み、なにがなんでもやり遂げてやる。

    「素晴らしいものを作ったんだねぇ」
    夏休みが終わり、新学期が始まって少しした頃、教頭がうれしそうに俺の肩をたたく。
    「手触りが絹のように滑らかだ、だいぶ苦労したのだろう?」
    学期前の鬼の顔が今は福の神然としている。奴の手には夏休み作品県大会優秀賞と書かれた賞状が。
    そうなんだ、俺は夏休みのすべてを石器ナイフ作りに捧げたんだ。
    炎天下の河原でちょうどいいチャートを探し回り、数えきれないそれらを割り、やすりで磨き上げた。
    これは俺だけのナイフ、それもセンコー公認のナイフとくらぁ。

    にしてもさ、大人なんて現金なもんだぜ、てめえの腹をこれで掻っ捌いてやろうか、なんて、ヘヘヘッ 冗談冗談ww
    ___________ 
    久しぶりに書きました。なつかしーー
    >酪農 娘さん、すっかり北海道のウーマンですね、すばらしい。

  • >>No. 1157

    住所の場所は高利貸しの類かと思っていた。だがまるで違っていたんだ。

    それは40年は軽く超えていそうな昔ながらの借家だった。
    俺は忍び足で近づいて手入れを忘れ去られたような植え込みの間からのぞき込む。
    年配の女が相当な高齢の老婆の口に食べ物を運んでいる。老婆は視点定まらぬうつろな瞳で無表情に咀嚼している。
    しわだらけ口から半分ほど食べ物が垂れ出て、年配のほうが口元を拭いてやっている。
    それ以上見るに耐えられなかった。俺はそそくさとその場を後にした。

    察しはついた。
    あれは親父の女で年配のほうはその娘なのだろう。荒れ果てた家、絶望しか見えない雰囲気にげっそりした。
    ボケた老婆はどうだっていい。年配の女は親父によく似ている。赤の他人には違いないが、同時に俺と血のつながった人間なのだ。
    わかったよ、親父。500万もあれば彼らはなんとかやっていけるだろうよ。

    金というのは誰をも納得させるらしい。
    これだけ時間が空いた後で夢に出てきたあいつらに金を返しに行った。
    故人達の家族たちはきょとんとした表情はしつつもたいして詮索もせずに素直に金を受け取ってくれた。
    異母妹らしき女だけは涙を見せて何度もお礼を言ってくれた。なんだか俺もほのぼのとした気持ちになれた。
    これで少しはましな余生を送れるだろう、そう、俺と同じようにな。

    こうして転がり込んだ大金の半分が消え去ったというわけだ。
    口うるさいけれど世話好きだった伯父さんの息子も親に似ているらしい、初老の俺を心配して倉庫番の仕事をあてがってくれた。大した給料じゃないが、残った金も十分にある、残りの人生なんとかやっていけるだろう。

    トランプを改めてじっと見る。
    みんな満足して去っていったんだろう。今はもうそれはただの古びたトランプだった。
    俺の残り時間もあとどの位あるかわからんが、これからはいい気分で過ごせそうだ。

                                    (了)

  • トランプマジック その6

    夢の中に出てきた落ち着きのない男。
    そいつはおふくろの苦労の元凶、俺のおやじだ。
    奴は俺が社会人になった頃、女と姿をくらましてそれっきり。

    「てめえに言われたかぁねえ」
    夢の中でもけんか腰になってしまう。俺のどうしようもない人生はこの甲斐性のない男のせいでもあるんだ。
    「んだから」
    親父は女たらしの顔を哀れっぽくゆがませる。
    「だから十分すぎるほどに儲けさせてやったじゃないか」
    ああっと叫びそうになった。宝くじに万馬券・・・親父の仕業だったのか!

    罪滅ぼしの意味に納得する。だとしてもこの500万は何だ?
    「500万を持っていってほしいところがある」
    なるほど、そう来たか。おふくろを泣かせた上、どんだけ借金放蕩生活をしてきたんだ、てめえは。
    「そうじゃない、そうじゃないんだ」
    親父の情けない声はだんだんと小さくなってゆく
    「頼む・・・これだけはよろしく・・・頼む、お前だけが頼り・・」
    か細い声はついに途切れて聞こえなくなった。

    枕もとにまたトランプのカードがあった。今までと違ってカードが裏返しに伏せてある。
    借金大王はダイヤのキングかと思ったらそれはジョーカーだった。
    「ふむ、ジョーカーならこういう奇跡もアリっちゅーわけかい。ん?」
    ーーーージョーカーのおどけた足元に一つの住所が書き記されてあった。

  • トランプマジック その5

    ハートのクイーンをじっと見る。憂い顔のその顔は微動だにしない。
    だがふと脳裏におふくろの顔が浮かんだ。ハートのクイーンはおふくろなのか?
    おふくろならば息子をあの世には引っ張ったりしないだろう。
    じゃあこの数字は? 俺は少ない頭髪をかきむしる。
    わからない!

    答えはその夜の夢の中にあった。
    懐かしいチーママが金歯だらけの歯をむき出して笑う。
    「なじみのよしみで20万でいいわよ」
    達ちゃんは相変わらずゴールデンバットを咥えながらもごもごと話す。
    「まあ、10万ってとこか」
    大家さんのばあさんはそろばんを片手に現れた。
    「合わせて11か月だからね、55万になってたよ」
    伯父さんは几帳面な字で書かれた出納長をひらひらさせて明確に伝えてきた。
    「150万円にもなっとるぞ、利息は身内のよしみだ、無しにしてやるからな」

    なんで死んだ後まで借金気にするんだ? それにしても合計235万円とは。
    積もり積もるとなかなか恐ろしい数字だ。
    だが今の俺は万馬券で儲けた大金と宝くじの賞金がある、痛いが十分におつりがくる。
    そこでハッとする。枕もとの数字は「735」だった。俺の借金は235万円。
    差額の500万円はなんなんだ!

    必死で思い出そうとする。確かにこの何十年とロクな生き方はしてこなかった。
    だがずっと独り身、バクチはしても身を滅ぼすほどの掛け金は縁がない。もちろん悪事はもっての外だ。
    真面目人間ではないが、借金大王になるほどの大胆さは持ち合わせてはいない。
    もちろんオレオレ詐欺にハマるほどボケてはいないはずだ・・・多分。

    そしてまたまた夢の中。
    「あとから来た母ちゃんに言われたんだよ、罪滅ぼしだからってさぁ」
    夢の中でそいつは下を向いたり上を向いたり落ち着かない。
    50そこそこ、俺より若い。それでも誰かすぐにわかった。
    俺に似ている男、いや俺が似ているのか。

  • >>No. 1154

    トランプマジック その4

    思わず洗面台に走り寄る。
    薄汚れた鏡の中にはまばらになった胡麻塩頭と二日酔いと恐怖のせいでむくんだ顔があった。
    俺、あいつらに引っ張られてるのか?
    少ない髪がそそけ立つ。

    還暦は過ぎたが、今は男も80歳を当たり前に超える時代だよ。
    しかも長い人生の終わり近くになってやっと金持ちになれたんだ。
    今死んじまったらこの世に未練なんてもんじゃすまねぇぞ。
    どうすればいい、どうすればいい。

    どうしていいかわからず、それでも目の前のドンペリを流しにさかさまにし、残した寿司をゴミ箱に叩き込む。
    死んでたまるか!
    とりあえず神社の階段を駆け上る。普段運動不足のせいか心臓がバクバクする。
    線香臭かった大家のばあさんを思い出して近所のボロ寺にも走る。500円を投入、こんな高額初めてだぞ。
    伯父さんはハイカラだったからもしかしたらキリスト教徒かもしれん、とりあえず賽銭箱の前で十字も切っておく。
    とにかく俺をほっといてくれ、みんなあの世で平和にやってくれ。

    この後はもう何をしていいのか見当がつかん。
    今日は酒抜きだ、定食屋で健康野菜炒めでも食べてさっさと寝よう。
    アパートに帰るまで車が自分に突っ込んでくるんじゃないかとびくびくし、部屋でもガスの元栓や火の元をしっかりと確かめる。よもや隕石が降ってくるじゃないだろうなぁ。
    とにかく眠るのが怖かった。
    明日の朝、俺は生きて目を覚ますんだろうか、あるいはまた死んだ誰かがトランプとなって現れるのか。

    寝苦しい夜を悶々と過ごした後、やっと夜明け近くにまどろんだらしい。
    目覚めた時、もう昼に近かった。
    恐る恐る布団の横を見る。
    そこには数枚のカードが並んでいた。

    ハートのクイーンが一枚、間を開けてダイヤの7と3と5がぴったり並んでいる。
    俺は恐怖も忘れ布団の上に座りなおす。
    なんだこれは。どういうナゾナゾなんだ?

  • >>No. 1153

    トランプマジック その3

    朝枕元に落ちているトランプのカード、そして一瞬見える知人の顔。
    この謎に振り回されてしまったせいだろう。パチンコに行っても気がそぞろ、大負けしてしまった。
    こういう時は酒をかっくらって寝てしまうのが一番だ。金はあるんだ、けちけちする必要はないんだ。
    いつもの安ものの焼酎には見向きもせず、ドンペリに手を伸ばす。
    食い物は・・・よしっスーパーの値引き品はやめだ、デパ地下なるものに行ってやるぞ。

    心穏やかでないとどんな高い酒も豪華な食事も意味はない、ということを自分で証明してしまった。
    極上のローストビーフやら寿司、それにドンペリなんて慣れないものを摂取したせいか、翌日目覚めた時はひどい二日酔いだった。
    それでも目線は枕元へと走る。

    「ひっ」
    思わず小さく叫び声をあげてしまった。
    落ちていたのはスペードのキング、そして仄見えたのは俺の伯父さんだったから。
    少し長めの銀髪に豊かなあごひげと鼻下のひげ、元々伯父さんはスペードのキングによく似ていた。

    伯父さんなる人はおふくろの兄貴だった。生きていたら90を軽く超えているだろう。
    スペードのキングよろしく威厳があってしかも世話好きな人でもあった。
    妹であるおふくろが可愛くて仕方がなかったらしい。
    ろくでもない親父と結婚したせいで苦労ばかりのおふくろをよく手助けしてくれていた。
    だが俺にとってはちょいと苦手なタイプだ。

    学校時代は成績の悪いのをつつかれ、成人してからは仕事が続かないことを説教された。
    それでも困った時には伯父さんは俺にまとまった金を工面してくれた。
    全く頭の上がらない人だった。悪いとは思ったが死んだと知らせが入った時は内心ほっとした。
    その伯父さんがなぜ? 改めてスペードのキングを見直す。

    「うわぁぁっ」
    またもや叫ぶ。火傷したようにカードを放り出す。
    スペードのキングがニヤリと笑ったように見えたんだ。

    チーママ、達ちゃん、大家のばあさん、そして伯父さん、彼らに共通するもの。
    全員故人じゃないか!

  • >>No. 1152

    トランプマジック その2

    昨日はダイヤのクイーンだった。今朝はダイヤのナイト。
    ちょっと首をかしげる、昨日はあちこち歩き回ってから家でスーパーの寿司と缶ビールをちょいとやってそのまま寝てしまったはずだ。記憶が消し飛ぶほど酔っぱらった覚えはないんだが。
    ナイトを拾い上げて目を見開く。
    達ちゃん? 

    再度見直した時、カードの顔は元に戻っていた。
    思わず額に手を当てる。大丈夫か、俺。タイマイ入って、脳みそがひっくり返ったのか?
    達ちゃんかぁ。すっかり忘れていたよ。
    あいつは豪快な奴だった。
    酒を浴びるように飲み、たばこを煙突みたいにふかしてた。
    宵越しの金を持たないと豪語して俺も何度か恩恵に授かった。
    たいして年は違わなかったのに不摂生がたたっのか、50の坂を過ぎた途端に逝っちまった。
    俺も気を付けないとな。これからやっと優雅に暮らせるんだ。
    ここで死んでたまるかいっての。
    俺はナイトのカードをトランプをケースに入れるとたんすの引き出しの中にしまいこんだ。

    だが翌日、また枕元にトランプのカードが落ちていた。
    俺はがばっとせんべい布団の上に起き直る。
    今度はクラブのクイーン。カードの種類よりもその顔に視線を走らせる。
    ちらっと見えたのは大家(おおや)のばあさんだった。
    思わず首をかしげる。
    別にこのばあさんには特別な思い入れなんかないぞ?

    ばあさんはこの辺の地主でいくつものアパート経営で食っていた。
    気のいいばあさんで、俺も好きなトランプ手品を披露して喜んでもらったりしたな。
    日雇いの仕事にあぶれて金欠の時、家賃払いに目を瞑ってもらった事もあった。

    今は息子世代が大家だ。
    ばあさんの頃と違って間に不動産業者が入って家賃も自動引き落としにされている。
    まったくよぉ、ドライになっちまったぜ。ばあさんが生きていた頃がなつかしい。

    それにしてもこのトランプのカードはいったいなんなんだ?

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