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投稿コメント一覧 (4コメント)

  • ●経済原理(「青べか物語」[新潮社]所収)
    周五郎氏が昭和3年頃から浦安(浦粕)で暮らした1年間の
    生活譚。短編小説。
    私が最初に読んだ山本周五郎の作品。高校1年か2年生だった。
    とても感銘を受けて氏の他の作品を読むきっかけとなった。
    とても好きなのであらすじを紹介させてください。
    これから作品を読まれる方は、ネタバレしてますのでご注意を。
    ※山本周五郎=先生(蒸気河岸の先生と呼ばれていた)
     作品は一人称の私、で書かれています。
    *****************************
    先生が散歩をしていると、地元の少年たちが魚をしゃくっていた。
    中には顔見知りの少年もいる。近寄ってバケツを覘くと鮒が12
    ~13尾ほどいる。先生は味噌煮にでもしたらうまかろうと少年
    たちに魚を売ってもらえないかという意味のことを繰り返した。
    そのとき少年たちの顔にサッとなにかが走り緊張にとらえられる
    のがわかった。
    先生はなにかしら「しまった」と思ったが、なにが「しまった」
    のかわからないまま、少年たちと値段を交渉し鮒を買った。
    少年たちの眼は狡猾な光を放ち、その表情には闘争的な貪欲さが
    あらわれていた。
    それから3日後、少年たちはそれぞれが鮒の入ったバケツを手に
    先生の家までやってきた。
    「鮒とってきただよ」「買ってくれせえな、先生」
    少年たちは先生が買ってくれることを微塵も疑わない期待に満ち
    た目でそう言った。
    先生は自分に拒否する勇気がないことを悟り、少年たちから鮒を
    買った。
    2,3日してまた少年たちはやってきて、先生は鮒を買った。
    この頃の先生は金銭的に生活が苦しかった。窮乏状態だった。
    がために、少年たちが4回目にやってきたときに先生はきっぱり
    と鮒の買取を断った。
    予想外の拒絶に少年たちは驚き、それが売買の駆け引きではない
    ことがわかると失望してバケツの鮒をながめて途方に暮れた。
    すると先生をおどろかせる事がおこった。
    「みんな」少年の一人が急に言った。
    「それじゃあこれ先生にくんか」
    くんかとは、あげようか、贈呈しようかという程の意味である。
    少年たちの顔に突然、生気がよみがえった。憑きものが落ちたよ
    うなすがすがしい顔に返ったのだ。
    「うん、くんべ」「くんべ、くんべ」
    先生は自分の大きな過誤を恥じた。
    最初のときに、分けてくれないかと言えばよかったのだ。売って
    くれと云ったために、かれらは狡猾と貪欲にとりつかれてしまっ
    た。そんな気持ちにさせたのは自分の責任だと、先生は深く自分
    を恥じた。
    *****************************
    私はこの作品を高校の教科書で読みました。
    まだ山本周五郎という作家も知らなかったし経済原理だなんて、
    無機質な表題で経済学の解説的な文章か何かだと思いました。
    ところが、表題から予測していた感覚をまったく裏切るような
    内容にびっくりし、感動したのを覚えています。
    その後すぐに本屋へ駆け込み周五郎の本を4、5冊づつまとめ買
    いし読み漁りました。読み終わってからも何度も再読しています。
    高校生のときでしたから、周五郎の作品が私の人格形成に大きく
    影響したものと思っています。大袈裟でなくて。

    山本周五郎氏は明治36年、現在の山梨県大月市に生まれました。
    本名を清水三十六(しみずさとむ)といい、さとむ、は明治36
    年生まれに因んでつけられたようです。
    明治40年に東京へ転居、大正5年に現在の銀座2丁目にあった
    質店、山本周五郎商店に徒弟として住み込みます。
    筆名の山本周五郎はこのときの主人に因んでつけたようです。
    昭和18年に「日本婦道記」で直木賞を、昭和34年に「樅の木
    は残った」で毎日出版文化賞を、昭和36年に「青べか物語」で
    文芸春秋読者賞に選ばれましたが辞退。文学賞はことごとく辞退
    しています。読者の評価以上の賞はない、という意味の辞退の弁
    もあるようです。

    山本周五郎の戦前・戦中の作品を戦争と同調・賛美している、
    婦人(女性)の隠忍、滅私の姿勢を美化している、と批評される
    ことがあります。
    氏が生きた時代から、そういった気持ちが氏のなかにあったかど
    うかわかりませんが、私はいま書店で手に入る周五郎の作品をす
    べて(と言ってもいいと思いますが)読み、感じたのは作品の根
    底には金も社会的地位、名誉も無い人間から自然と湧き出るやさ
    しさや憤りといった感情に真の人間の姿を見出し尊んでいる気持
    ちが流れているのではと思っています。
    損得なしの無償の奉仕が根本的なテーマだという批評もあります。

    周五郎の作品は時代物が多いです。それが読みづらいという方も
    いらっしゃいます。
    ただ、背景は江戸時代以前を設定していても、剣豪がバッタバッ
    タと悪を斬ったり、歴史上の英傑の武勇伝を語るようなものは無
    く、市井に生きる人々、下級武士が主人公の、現代に生きる私た
    ちにも突き刺さるようなテーマを描いています。
    騙されたと思って、もちろん騙すつもりはありませんが、山本周
    五郎の一冊をお手にとってみられたら。
    いかがでしょうか。

  • >>No. 4

    ありがとうございます。
    そうですね。
    周五郎ゆかりのワインなら質実な味わいでしょうね。
    購入してみます🍷

  • >>No. 2

    周五郎がお酒を、特にワインを愛飲されていたことはなんとなく知っていました。
    でも「周五郎のヴァン」というワインがあることは知りませんでした。
    良くご存知ですね。
    さっそく調べてみましたが、赤の甘口だそうです。
    私はあまりワインを飲まないのですが、甘口は苦手なので個人的には・・・、
    どうなんでしょう?

  • 山本周五郎 「さぶ」「ながい坂」「樅の木は残った」(新潮文庫)が好きです。

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