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めまぐるしく新商品を入れ替え棚を彩り、消費者を飽きさせまいとするコンビニエンスストア。改廃は毎週100種類、気づけば店頭から姿を消した商品は数知れない。だが、その中にロングセラーに化ける原石が隠れており、実はドラッグストアで人気を集めていることも。出だしから飛ぶようには売れない有望商品の発掘が、実店舗の小売業に競争力を与えるかもしれない。

■ドラッグストアで売れ続ける「アサイー」

「最初に手に取ったのはコンビニだったけど、すぐに無くなった」

東京都文京区に住む会社員の女性(32)は週2度、最寄り駅近くのドラッグストア「どらっぐぱぱす」に必ず立ち寄る。飲料メーカー、スジャータめいらく(名古屋市)の「アサイー本格濃厚ブレンド330ミリリットル」をまとめ買いするためだ。

栄養価の高いアサイーが「スーパーフルーツ」と呼ばれ、ブームになったのは6年ほど前。関連商品の多くは既にコンビニの棚から消え、大手メーカーやプライベートブランド(PB)の数品を残すのみ。「周辺のコンビニになく、ぱぱすで。納豆やインスタント食品もついで買いする」

めいらくが同商品を発売したのはブームのピークの2014年。当初はコンビニで扱われたが、現在の販路はドラッグストアやスーパー。「ブームが去った後も売れ行きは堅調だ」(同社)





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ぱぱすは価格もネット通販より1本当たり20円ほど安いという。飲料や食品、日用品などでは特に、配送料が上乗せされるネット通販を割高に感じる消費者も多い。コンビニを去った商品が集客の呼び水となっている。

「多くても3千~4千点しか置くスペースがないコンビニは目先の売れ筋に目が行きがち。日々変わる売り上げの上位2割の品目で、売り上げ全体の8割を狙う『2対8の法則』の発想がいまだ残る」。調査会社トゥルーデータ(東京・港)の烏谷正彦氏は指摘する。

ネット通販は販売頻度が少ない商品も豊富にそろえる「ロングテール」で売り上げの総量を確保する。米アマゾン・ドット・コムは年に1度しか売れない商品でもネット上に大量に並べる。

だが、実店舗は当然、際限がある。何を切り、残すかが競争力に直結する。業態の垣根が消えつつある中、各分野の看板商品ばかり置いても、差異化は一層難しくなる。

では将来のロングセラー商品をどう発掘したらよいか。マーケティングコンセプトハウス(東京・千代田)創業者、梅澤伸嘉氏の「C/Pバランス理論」の分類で、発売後すぐ売れ筋にならなくても、買った後に良かったと思わせる満足度が高い「スロースターター」商品は、ロングセラーとなる可能性を秘める。それが実はビッグデータの活用によって発見しやすくなっているようだ。



1万点以上が並ぶドラッグストアの店内に、次世代のロングセラーが眠っているかもしれない(東京都中央区の「B.B.ON日本橋店」)

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1万点以上が並ぶドラッグストアの店内に、次世代のロングセラーが眠っているかもしれない(東京都中央区の「B.B.ON日本橋店」)


ある商品がいつ、どこで、いくらで、どれだけ売れたか管理するPOS(販売時点情報管理)。さらに同じ人が買った頻度とひもづけるID-POSを使いトゥルーデータは新たな分析指標「リピート率」を打ち出した。

■大切なのは「リピート率」

5千万人の購買データから商品ごとに同じ人が年2回以上購入する割合を出す。「特定の商品を頼りに店に通う人は、店が『売れ筋じゃない』と外すと来店自体が無くなってしまう。消費者のロイヤルティーの度合いとして多面的に商品構成に生かせる」と鳥谷氏。

リピート率はブランドや商品別に抽出する。例えば、商品別で「アサイー本格濃厚ブレンド330ミリリットル」は22%。果汁飲料では変わり種だが、定番商品に並ぶ水準だ。

化粧水のブランド別では「アベンヌ」(ピエールファーブルジャポン)の22%に対し、より低価格の「ドルックス」(資生堂)は35%、コンビニで並べにくい高価格帯の「コスメデコルテ」(コーセー)は2人に1人が継続購入する。販売シェアは5%で上位のアベンヌに比べ1%以下と、全来店客の購入率は低くても固定ファンを抱える。

ただし、リピート率が高くても、売り上げに結びつかなくては棚を割きにくい。そこで登場するのが「貢献度」。ある商品の購入者が同じ店で年間に使う総額を示す。

結果はアベンヌが7万4千円、ドルックスは4万7千円。平均年5万~10万円に対し、コスメデコルテは31万4千円と断トツで、ロイヤルカスタマー獲得に一役買う。

棚の目立たない位置にひっそりと置かれながらも、数十年来のファンがいる商品もある。3月中旬、「ココカラファイン茶沢通り店」(東京・世田谷)。歯磨き粉コーナー最下段に「薬用メディカつぶつぶ塩」(サンスター)が並んでいた。





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1988年の発売当時は塩で歯を磨く「塩歯磨き」が認知されていたそう。販売は10年でピークをつけ減少したが、昨今は前年並みを維持する。

「50~70歳代が購買の中心。『塩歯磨き独特の香りが癖になる』『30年間使い続けている』との声もある」(同社)。リピート率は35%で、シェア上位の「クリアクリーン エクストラクール」(花王)の約1.5倍。貴重な集客材料だ。

リピート率と貢献度を見れば顧客を長くひき付ける商品が見いだせる。





■上客を招くキャットフード

爆発的でなくても、息長く売れ続けることに意義がある――。代表例がペットフード。ツルハホールディングス傘下の杏林堂薬局(浜松市)はキャットフードや猫のおやつに棚を多く割く。

猫の好みは多様で、好きなものしか食べない猫もいるという。所得水準が高い飼い主も多く、特定のキャットフードを目的に来店していた顧客が年間10万円以上を購入していたこともあった。



ペットフードは来店客を持続的に呼び込む可能性が高いとされる

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ペットフードは来店客を持続的に呼び込む可能性が高いとされる


小河路直孝専務は「販売個数が少ないからといって、直ちに取り扱いをやめたりはしない。持続的に利用客を呼び込む可能性を秘めている」と話す。ドラッグストア成長の理由は安さに加え、顧客が付くロングセラーの品ぞろえに対する懐の深さにもありそうだ。

ホームセンター大手カインズは次世代のロングセラーを自ら育てる。洗剤・柔軟剤の主要メーカーに依頼し、容量1.9キログラムの「ウルトラジャンボサイズ」を展開する。家族連れ客が多く、買い替えが少しでも減る特大品で需要を開拓した。

日用雑貨事業部の中村敦氏は「販売個数は減ったが単価は10~15%上がり、全体売り上げが伸びた。周辺の店になく、ファンが増えている」と話す。2018年は2.4キログラムも投入。一見地味な工夫だが、棚の制約が大きいコンビニとは異なる広い店舗を生かし、集客効果を上げている。

毎年のように商品が変わる家電の世界でも変化が起きている。バルミューダ(東京都武蔵野市)がトースターを発売した15年の販売台数は約5万台。2万円台の価格がすぐに浸透しなかったが、17年は同じ商品が約22万台売れた。「他社と比べ価格がずばぬけて高かったが、徐々に火が付き、もはやロングセラーだ」(家電量販店大手)

トゥルーデータが集計するようなビッグデータの活用で、従来の売れ筋に縛られぬ商品戦略をとりやすくなった。店をひいきにしてくれるロイヤルカスタマーを獲得すべく、あえて万人受けはしない商品を模索する動きが広がるかもしれない。

(池下祐磨、矢尾隆行)


[日経MJ 2019年3月22日掲載]