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【USD】ケース・シラー米住宅価格指数の掲示板

米国では米国債金利と物価の両安定で、日本マネーによる米国債投資が重みを増している。

米バイデン政権による相次ぐ大型経済対策と米国債の増発、財源としての増税の議会審議遅延リスク、米中の新冷戦を受けた中国による米国債保有の影響度軽減、米新政権による対日本政策での「負担の共有」方針などで、同盟国・日本による米国債購入は政治的・政策的な意味合いが大きくなってきた。米国では短期的ながらもインフレが上昇しており、米政権が重視する低所得者配慮で、適度なドル高と物価抑制は重要になってきた。

「米国では米国債の大量増発と短期的なインフレ上昇圧力により、米国債の安定消化(金利上昇抑制)と物価安定に向けて、近くイエレン米財務長官がドル高政策を一段と明確にさせる可能性がある」。
米金融当局とネットワークを有する米国系金融機関の幹部は、このような指摘を行う。

すでにイエレン氏は1月の指名承認公聴会で、「通貨の価値は市場が決定すべきだ」と述べ、競争上の優位性を得るためドル安を求めることはしないと明言した。その後はイエレン氏のみならず、パウエルFRB議長などFRB幹部も、米国債金利の上昇に関して「景気回復期待の表れ」と静観している。米金利上昇という市場原理を通じた2月以降のドル高については、「米財務省とFRBともに現状は容認」という見立てが成り立つ。

その中で米国での金利と物価の両安定に向けて、同幹部は「米国の同盟国である日本の投資家による米国債の購入持続と拡大は、米国の政治的・政策的に意味合いが大きくなっている」という見方を示す。

背景としては、1)米国では今後の経済雇用対策に関し、財源を米国債から増税にシフトしていくが、増税は野党・共和党の抵抗が大きく、議会審議の遅延が想定される(米国債発行への依存持続)、2)米国は「同盟国との共闘による中国封じ」に着手しているが、中国による米国債保有の影響度軽減に向けて、同盟国・日本による米国債保有の肩代わり増加は重要さを増す、3)米バイデン政権の対日本政策では、安保面などで「負担の共有」方針を打ち出している、といった要因がある。

このうち「負担の共有」については、米国での財政赤字拡大と米国債増発は米国の駐日米軍維持や、中国や北朝鮮の脅威と台湾有事などに対する米国の対アジア安保負担も含まれている。米国内での景気対策は、米国内での現地ビジネスや米国向け輸出を展開している日本企業、ひいては日本経済にもプラスの恩恵をもたらす。
ちょうど日米同盟に関しては、菅義偉首相が15−18日に米国を訪問し、16日にバイデン米大統領と初の首脳会談を行う。直接的に米国債や為替の問題は協議されないが、「日本にとっては、間接的に円高・デフレの阻止などを一段と固める信頼関係構築の好機」(同幹部)となってきた。

米国では金利上昇が経済や株価動向の大きな脅威となるなか、その金利を左右する存在として日本マネーの注目度が高まっている。米ウォールストリート・ジャーナル紙は4月1日、「米国債利回り急上昇、背後に日本勢の大口売り」と報じたばかりだ。

「足元の米国債利回りの急上昇は、米経済が回復した後でもFRBが低金利を維持できるかどうかを試しているように見える。だが、アナリストや投資家によれば、水面下で他の要因も米国債売りを加速している。その一つが、年度末の投資リターン確定を急ぐ日本の投資家が巨額の米国債を売却していることだ。日本の銀行や保険会社は、2月の世界的な売りに拍車をかけたとみられる。3月31日の年度末に向けて、投資リターンを確定させる動きが活発化したからだ」(同紙)。

もっとも米国にとって日本マネーの安定確保が重要性を増しているとはいえ、現在の米政権はイエレン財務長官が「市場重視の為替政策」を掲げている。間接的にせよ、ドル/円の安定化やドル高・円安につながるような日米間の明確な政策協調は見込み難い。

一方で日本の菅首相(自民党総裁)は現在、9月の自民党総裁選や10月任期までの衆院総選挙に向けて、コロナ打撃からの景気回復やデフレ阻止を希求している。あくまで市場主導の結果として、日本の投資家による米国債投資の増加とドル/円の安定化、一定のドル高・円安につながる方向性は、現在の日米間で政治的・政策的に一定の利害は一致している。

日本の菅首相は2012年に安倍前政権で官房長官に就任して以降、デフレ完全脱却と過度な円高の阻止には強いこだわりを堅持させてきた。今年2月15日には衆院予算委員会で「特に気にしている経済指標」を問われ、「米国の株価や日本の株価も見るが、基本的に為替については注視している」と明言している。

加えて現在の米国では、短期的ながらインフレ圧力が上昇している。それでもFRBは、雇用の完全回復まで超金融緩和策を長期化せざるを得ない。その中で輸入物価などの押し下げにつながる適度なドル高は、政治的・政策的に重要度が高まってきた。
しかも現在のバイデン政権は最優先課題として、格差配慮を掲げている。物価上昇は低所得者層への打撃が大きく、政治的に目配りが求められてくる。

ブルームバーグによると、米国の週間ランガー消費者信頼感指数・所得階層別では、最新3月28日週に所得が低めの年間2.5万−3.99万ドルの層が37.3となった。前週の38.7から低下し、2月28日週の43.4を最高として物価上昇打撃などを受けた切り下がりが見られている。
反対に高所得者の7.5万−9.9万ドルは60.5(前週59.5)、5万−7.4万ドルは61.9(59.6)と高水準が維持された。物価上昇による格差への悪影響が示唆されている。

市場原理による日本からの米国債投資については、金利面で一定の魅力が付与されつつある。米国での相次ぐ経済対策とコロナワクチンの接種拡大、それに伴う米国経済の成長拡大余地は、現状段階から米長期債などのドル資産とドルの押し目買い要因となり得る。米国では一部ヘッジファンドの損失などを受けてバブル過熱が警戒されるなか、先行きバブル調整リスクに備えたヘッジ対応として、「安全資産」である米国の長期国債には一定の需要余地がある。

もちろん、FRBによる短期ゼロ金利政策は長期化が見込まれるため、日本勢による外債投資は引き続きヘッジコストが安い為替ヘッジ付きが中心だ。それでも5月の大型連休明けにかけて本格化していく新年度明けの外債投資では、米国債の価格面とドルの再下落局面で、押し目買いによる「為替ヘッジなし」米国債投資も部分的に注視される(為替ヘッジは一定のドル高進展後に対応など)。