各銘柄の業績や動向を当サービスが募集したユーザーが分析した記事を表示しています。詳細はこちら NTTグループが挑む新たな収益源の創出~IOWN、AI、グローバル戦略が拓く未来 1 1 2025/06/23 10:05 rss ★ ツイート 1 さくら 6月23日 10:05 ■現在の事業基盤と変革の方向性 NTTグループの根幹を成すのは、NTT東日本・西日本、NTTドコモが運営する国内通信事業である。この事業は、国民の生活に不可欠なインフラとして巨大かつ安定したキャッシュフローを生み出している。しかし、その役割は単なる通信インフラの提供に留まらない。 近年、NTTは自らが持つ信頼性や全国の技術者網を活かし、「地域のDXパートナー」への進化を明確にしている。 具体的な取り組みとして、教育現場のDX支援「BizDrive 校務DX」や、ウェルネス分野の新サービス「Wellness Lounge™」の開設などが挙げられる。 この動きは、日本経済の屋台骨である中堅・中小企業にも向けられている。2025年6月16日には、NTT東日本が専門知識がなくても容易に扱える生成AIサービス「Stella AI for Biz」の提供を開始した。これは、人手不足に悩む中小企業の業務効率化や新規事業開発を後押しするものである。 こうしたDX、AI、サイバーセキュリティといったソリューション提供は、成熟した固定電話事業に代わる新たな収益源の創出を目的としている。しかしながら、現在は地域通信事業のセグメントにおける収益性は伸び悩んでおり、今後、いかに収益性を向上させることが出来るかが課題として挙げられる。 ■未来を創る三本柱の成長戦略 NTTは、持続的な成長のために三つの柱からなる長期戦略を描いている。 第1の柱は、NTTの未来戦略で最も重要な要素とも言える次世代の通信情報処理基盤「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」構想である。IOWN(アイオン)とは、NTTが開発を進める次世代のコミュニケーション基盤であり、その核心は、これまで電気信号で行っていた通信や計算処理を、すべて「光」に置き換える「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」という革新的な技術にある。 現在のインターネットが抱える消費電力の増大や通信遅延といった限界を根本から解決するため、NTTは「電力効率を100倍」「伝送容量を125倍」「通信の遅れ(遅延)を200分の1」という極めて野心的な目標を掲げている。 IOWNの真価は、単に通信が「速い」ことだけではなく、その「揺るぎない安定性」にある。太平洋と大西洋をまたぐ片道約23,000キロに及ぶ欧州と日本間で初となる遠隔手術支援の実証実験で、手術支援ロボット「hinotori™ サージカルロボットシステム」を用いた実証実験を成功に導いたのが、通信が不安定に途切れたり遅れたりすることがないIOWNによる接続だ。 本実験の成功は遠隔手術が国内のみでなく国外との医療連携にも役立つことを示した。専門医が不足している地域の医療格差を解消し、地理的な障壁を打ち破り、世界中で専門的な外科治療を受けることが可能となる未来への大きな前進である。 また、現在開催中の大阪・関西万博では、NTTパビリオンがIOWN技術を体験できる場として大きな注目を集めている。特に、IOWNの超低遅延・大容量通信を活用したアーティストPerfumeの3Dライブ体験は、高く評価されており、IOWNのポテンシャルを社会に広く示すことに成功している。 第2の柱は、AI事業の全面刷新である。NTTは2025年にAI事業を大幅にリニューアルし、市場のニーズに合わせた多角的なサービスを開始した。その戦略の中核を担うのが、独自開発した大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi(つづみ)」である。 国産LLM「tsuzumi」は、軽量で経済的という特徴を持つ。海外の巨大AIと違い、パラメータサイズを70億程度に抑え、少ない計算資源(GPU1枚)でも動作する。これにより、導入コストと消費電力を大幅に削減できる。 そして、国産LLM「tsuzumi」は、日本語に強く世界トップレベルの日本語処理性能を誇り、企業の持つ専門知識などを効率的に追加学習させることが可能だ。 この「tsuzumi」を軸に、手軽に生成AIを導入できる「Stella AI for Biz」の提供を開始することで中堅・中小企業のDX化に貢献する狙いがある。 また、マーケティング部門を対象とした、高度なAIエージェントサービスとして「LITRON Marketing」を提供する。これは、市場分析から戦略立案、クリエイティブ制作、効果測定に至るまで、マーケティングの全工程を自動化・最適化することを目指すサービスであり、2027年度末までに累計100億円の売上を目標とする、高付加価値型のソリューションである。 これらのサービス展開と並行して、業界の垣根を越えてAIを連携させ、サプライチェーンの最適化などを目指す新会社「NTT AI-CIX」を設立した。 この戦略により、NTTは高頻度・低単価の市場と、低頻度・高単価のコンサルティング市場の両方を同時に攻略することが可能となる。これは、単一の巨大AIモデルに全てを賭けるよりも、資本効率が高く、事業リスクの分散が図られた、より強靭な戦略と言えるだろう。 第3の柱は、1.5兆円のデータセンター投資とNTTデータ完全子会社化によるグローバル市場での飛躍である。AIの普及で爆発的に需要が伸びているのが、データを処理・保管する「データセンター」である。NTTグループはすでに世界第3位のデータセンター事業者であり、この成長分野に2027年度末までに1.5兆円以上を投資する計画がある。 NTTのデータセンター戦略が他社と一線を画すのは、AIが必要とする高電力に対応するだけでなく、「サステナビリティ(持続可能性)」を徹底している点である。2030年までにデータセンターで使う電力を100%再生可能エネルギーで賄うという目標を掲げている。 そして2025年5月、NTTグループはこの変革を加速させるための最も重要な一手として、上場子会社であったNTTデータを、2.3兆円超を投じて完全子会社化すると発表した。この目的は、意思決定を迅速化し、グループの力を一つに結集することにある。これまで「技術開発」を担ってきたNTT本体と、「グローバルな営業網とシステム構築力」を持つNTTデータが完全に一体化することにより、NTTが生み出すIOWNやtsuzumiといった最先端技術を、NTTデータの世界中の顧客へ、最適なソリューションとして迅速に展開する体制を構築する。 この成長戦略を成功に導くために、ITサービスプロバイダーとして「Global Top 5」入りを目標に掲げ、海外に分散していたグループ事業を「NTT DATA, Inc.」へと統合した。 ■業績動向と競合他社との方向性の比較 2025年3月期の売上高にあたる売上収益は、前期比2.5%増の13兆7,047億2,700万円、営業利益は同14.2%減の1兆6,495億7,100万円、経常利益は同21%減の1兆5,646億9,600万円、純利益は前期比21.8%減の1兆1,600万円であった。 そして、2026年3月期の売上高にあたる売上収益は、前期比3.5%増の14兆1,900億円(QUICKコンセンサスは13兆9,885億2,600万円)、営業利益は同7.3%増の1兆7,700億円(同1兆8,402億8,600万円)、経常利益は同6.1%増の1兆6,600億円(同1兆7,550億9,600万円)、純利益は同4%増の1兆400億円(同1兆1,189億9,800万円)となる見通しである。 この成長計画は、グローバル・ソリューション事業や統合ICT事業が牽引しており、事業ポートフォリオの転換が進んでいることを示している。 ※QUICKコンセンサスとは、証券会社や調査会社の証券アナリストが予想した企業の業績予想や株価レーティングを、金融情報ベンダーのQUICK社が独自に集計したもので、市場のコンセンサス(共通認識)を示す指標として、投資判断や企業分析に活用される。 同業他社と比較した戦略としては、国内の大手通信キャリアの中で、NTTの戦略は独自性が際立つ。KDDIが通信を核に非通信領域を拡大する「サテライトグロース戦略」、ソフトバンクが生成AIや金融に経営資源を集中投下する戦略をとるのに対し、NTTはIOWNによって技術基盤そのものを再構築し、インテリジェンス(AI)、そしてグローバルなサービス提供能力(NTTデータ)を子会社化することで、他社が「1兆1,600万円容易に追随できない競争優位性を構築し、新たな形態のグローバル・テクノロジー企業を創造し、次世代のデジタル社会における中心的役割を担うことを目指している。これはより時間とリスクを要するが、成功した場合のインパクトは計り知れず、ハイリスク・ハイリターンとも言える戦略である。 返信する 投資の参考になりましたか? はい48 開く お気に入りユーザーに登録する この記事にコメントする 読み込みエラーが発生しました 再読み込み お客様の環境ではJavascriptが有効になっていないため、次ページを読み込むことができません。 次ページ以降のコメントを参照したい場合は、Javascriptを有効にしてください。
■現在の事業基盤と変革の方向性
NTTグループの根幹を成すのは、NTT東日本・西日本、NTTドコモが運営する国内通信事業である。この事業は、国民の生活に不可欠なインフラとして巨大かつ安定したキャッシュフローを生み出している。しかし、その役割は単なる通信インフラの提供に留まらない。
近年、NTTは自らが持つ信頼性や全国の技術者網を活かし、「地域のDXパートナー」への進化を明確にしている。
具体的な取り組みとして、教育現場のDX支援「BizDrive 校務DX」や、ウェルネス分野の新サービス「Wellness Lounge™」の開設などが挙げられる。
この動きは、日本経済の屋台骨である中堅・中小企業にも向けられている。2025年6月16日には、NTT東日本が専門知識がなくても容易に扱える生成AIサービス「Stella AI for Biz」の提供を開始した。これは、人手不足に悩む中小企業の業務効率化や新規事業開発を後押しするものである。
こうしたDX、AI、サイバーセキュリティといったソリューション提供は、成熟した固定電話事業に代わる新たな収益源の創出を目的としている。しかしながら、現在は地域通信事業のセグメントにおける収益性は伸び悩んでおり、今後、いかに収益性を向上させることが出来るかが課題として挙げられる。
■未来を創る三本柱の成長戦略
NTTは、持続的な成長のために三つの柱からなる長期戦略を描いている。
第1の柱は、NTTの未来戦略で最も重要な要素とも言える次世代の通信情報処理基盤「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」構想である。IOWN(アイオン)とは、NTTが開発を進める次世代のコミュニケーション基盤であり、その核心は、これまで電気信号で行っていた通信や計算処理を、すべて「光」に置き換える「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」という革新的な技術にある。
現在のインターネットが抱える消費電力の増大や通信遅延といった限界を根本から解決するため、NTTは「電力効率を100倍」「伝送容量を125倍」「通信の遅れ(遅延)を200分の1」という極めて野心的な目標を掲げている。
IOWNの真価は、単に通信が「速い」ことだけではなく、その「揺るぎない安定性」にある。太平洋と大西洋をまたぐ片道約23,000キロに及ぶ欧州と日本間で初となる遠隔手術支援の実証実験で、手術支援ロボット「hinotori™ サージカルロボットシステム」を用いた実証実験を成功に導いたのが、通信が不安定に途切れたり遅れたりすることがないIOWNによる接続だ。
本実験の成功は遠隔手術が国内のみでなく国外との医療連携にも役立つことを示した。専門医が不足している地域の医療格差を解消し、地理的な障壁を打ち破り、世界中で専門的な外科治療を受けることが可能となる未来への大きな前進である。
また、現在開催中の大阪・関西万博では、NTTパビリオンがIOWN技術を体験できる場として大きな注目を集めている。特に、IOWNの超低遅延・大容量通信を活用したアーティストPerfumeの3Dライブ体験は、高く評価されており、IOWNのポテンシャルを社会に広く示すことに成功している。
第2の柱は、AI事業の全面刷新である。NTTは2025年にAI事業を大幅にリニューアルし、市場のニーズに合わせた多角的なサービスを開始した。その戦略の中核を担うのが、独自開発した大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi(つづみ)」である。
国産LLM「tsuzumi」は、軽量で経済的という特徴を持つ。海外の巨大AIと違い、パラメータサイズを70億程度に抑え、少ない計算資源(GPU1枚)でも動作する。これにより、導入コストと消費電力を大幅に削減できる。
そして、国産LLM「tsuzumi」は、日本語に強く世界トップレベルの日本語処理性能を誇り、企業の持つ専門知識などを効率的に追加学習させることが可能だ。
この「tsuzumi」を軸に、手軽に生成AIを導入できる「Stella AI for Biz」の提供を開始することで中堅・中小企業のDX化に貢献する狙いがある。
また、マーケティング部門を対象とした、高度なAIエージェントサービスとして「LITRON Marketing」を提供する。これは、市場分析から戦略立案、クリエイティブ制作、効果測定に至るまで、マーケティングの全工程を自動化・最適化することを目指すサービスであり、2027年度末までに累計100億円の売上を目標とする、高付加価値型のソリューションである。
これらのサービス展開と並行して、業界の垣根を越えてAIを連携させ、サプライチェーンの最適化などを目指す新会社「NTT AI-CIX」を設立した。
この戦略により、NTTは高頻度・低単価の市場と、低頻度・高単価のコンサルティング市場の両方を同時に攻略することが可能となる。これは、単一の巨大AIモデルに全てを賭けるよりも、資本効率が高く、事業リスクの分散が図られた、より強靭な戦略と言えるだろう。
第3の柱は、1.5兆円のデータセンター投資とNTTデータ完全子会社化によるグローバル市場での飛躍である。AIの普及で爆発的に需要が伸びているのが、データを処理・保管する「データセンター」である。NTTグループはすでに世界第3位のデータセンター事業者であり、この成長分野に2027年度末までに1.5兆円以上を投資する計画がある。
NTTのデータセンター戦略が他社と一線を画すのは、AIが必要とする高電力に対応するだけでなく、「サステナビリティ(持続可能性)」を徹底している点である。2030年までにデータセンターで使う電力を100%再生可能エネルギーで賄うという目標を掲げている。
そして2025年5月、NTTグループはこの変革を加速させるための最も重要な一手として、上場子会社であったNTTデータを、2.3兆円超を投じて完全子会社化すると発表した。この目的は、意思決定を迅速化し、グループの力を一つに結集することにある。これまで「技術開発」を担ってきたNTT本体と、「グローバルな営業網とシステム構築力」を持つNTTデータが完全に一体化することにより、NTTが生み出すIOWNやtsuzumiといった最先端技術を、NTTデータの世界中の顧客へ、最適なソリューションとして迅速に展開する体制を構築する。
この成長戦略を成功に導くために、ITサービスプロバイダーとして「Global Top 5」入りを目標に掲げ、海外に分散していたグループ事業を「NTT DATA, Inc.」へと統合した。
■業績動向と競合他社との方向性の比較
2025年3月期の売上高にあたる売上収益は、前期比2.5%増の13兆7,047億2,700万円、営業利益は同14.2%減の1兆6,495億7,100万円、経常利益は同21%減の1兆5,646億9,600万円、純利益は前期比21.8%減の1兆1,600万円であった。
そして、2026年3月期の売上高にあたる売上収益は、前期比3.5%増の14兆1,900億円(QUICKコンセンサスは13兆9,885億2,600万円)、営業利益は同7.3%増の1兆7,700億円(同1兆8,402億8,600万円)、経常利益は同6.1%増の1兆6,600億円(同1兆7,550億9,600万円)、純利益は同4%増の1兆400億円(同1兆1,189億9,800万円)となる見通しである。
この成長計画は、グローバル・ソリューション事業や統合ICT事業が牽引しており、事業ポートフォリオの転換が進んでいることを示している。
※QUICKコンセンサスとは、証券会社や調査会社の証券アナリストが予想した企業の業績予想や株価レーティングを、金融情報ベンダーのQUICK社が独自に集計したもので、市場のコンセンサス(共通認識)を示す指標として、投資判断や企業分析に活用される。
同業他社と比較した戦略としては、国内の大手通信キャリアの中で、NTTの戦略は独自性が際立つ。KDDIが通信を核に非通信領域を拡大する「サテライトグロース戦略」、ソフトバンクが生成AIや金融に経営資源を集中投下する戦略をとるのに対し、NTTはIOWNによって技術基盤そのものを再構築し、インテリジェンス(AI)、そしてグローバルなサービス提供能力(NTTデータ)を子会社化することで、他社が「1兆1,600万円容易に追随できない競争優位性を構築し、新たな形態のグローバル・テクノロジー企業を創造し、次世代のデジタル社会における中心的役割を担うことを目指している。これはより時間とリスクを要するが、成功した場合のインパクトは計り知れず、ハイリスク・ハイリターンとも言える戦略である。
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