■2026年度後半に予定されるデジタルバンクの開業
2026年度後半には本格的なデジタルバンクの開業も予定されている。
新デジタルバンクは、勘定系を含むシステム全体をフルクラウド(Google Cloud)で構築し、ネット専業銀行「みんなの銀行」のBaaSという仕組みを採用する。Banking as a Service(サービスとしてのバンキング)の略で、銀行が提供する金融サービスをAPI経由で外部の企業に提供する仕組みのことだ。具体的には、決済、送金、融資などの銀行機能を、非金融事業者も自社のサービスに組み込み利用できるようになる。
デジタルバンクの強みは、システムコスト抑制による安価な手数料や魅力的な金利、MUFGの店舗網との連携、専門家のアドバイス、三菱ブランドの信頼感、高度なセキュリティである 。
■変革期に挑む三菱UFJフィナンシャルグループ(以下、MUFG)の新戦略
MUFGの新リテール戦略は、金利環境の変化やデジタル化の進展と言う変革期における重要な柱として、「ライフステージ総合金融サービス」を目指す。
■新ブランド「エムット」の誕生
MUFGは「金利ある世界」への移行、資産運用への関心の高まり、デジタル化の急速な進展を背景に、個人向けリテールビジネスの柱として新サービスブランド「エムット」を立ち上げた。「お金のあれこれ、まるっと。」をスローガンに、顧客のライフステージに寄り添う「やさしい金融サービス」を目指す。
エムットの利用拡大に向け、新規口座開設だけでなく、既存ユーザー向けにもキャンペーンを実施する。新規向けには最大5万円+5万円(最大10万円)を提供する誕生記念を、既存向けには今夏に、年利1%の特別金利を設定した円定期預金を先着順で提供する。1人あたり預け入れ額の上限は100万円まで、総枠1兆円の大型キャンペーンとなる。
こうしたキャンペーンなどを実施していくことで、MUFGでは2026年度に年間100万口座の獲得を目指し、今後もさらなる機能拡充を続けていく。
■資産総合管理アプリの導入とポイント還元プログラム
エムットの第1弾として、2025年6月2日にMUFG の各種サービスに簡単に申込・取引内容を一覧化できる「資産総合管理アプリ」をリニューアルし、日常の買い物や食事で貯まりやすいおトクなポイントアッププログラムをスタートした。
新アプリは、銀行口座の残高だけでなく、三菱UFJカードの利用状況、投資信託や三菱UFJ eスマート証券の資産も確認することができる。
高金利低手数料のデジタルバンクや最大ポイント還元率を20%にしたクレジットカード、使いやすい証券サービスなど、グループ全体での統合的な金融サービスを提供することで、先行しているSMBCの総合金融サービス「Olive」に対抗する。
■QRコード決済「COIN+」との連携
今夏には決済機能として、リクルートと協業して提供される「COIN+(コインプラス)」をアプリに組み込み、アプリで残高を確認し、そのまま三菱UFJ銀行の口座からチャージしてQRコード決済で支払いをするといったシームレスな動線を実装する。
COIN+は個人間送金が無料のQRコード決済で、COIN+の残高を対応する銀行口座に何回でも無料で出金可能としたことで、利便性を向上させた。
■2026年度後半に予定されるデジタルバンクの開業
2026年度後半には本格的なデジタルバンクの開業も予定されている。
新デジタルバンクは、勘定系を含むシステム全体をフルクラウド(Google Cloud)で構築し、ネット専業銀行「みんなの銀行」のBaaSという仕組みを採用する。Banking as a Service(サービスとしてのバンキング)の略で、銀行が提供する金融サービスをAPI経由で外部の企業に提供する仕組みのことだ。具体的には、決済、送金、融資などの銀行機能を、非金融事業者も自社のサービスに組み込み利用できるようになる。
デジタルバンクの強みは、システムコスト抑制による安価な手数料や魅力的な金利、MUFGの店舗網との連携、専門家のアドバイス、三菱ブランドの信頼感、高度なセキュリティである 。
■データ駆動型アプローチとAI活用
新戦略の核心の一つが、MUFGが抱える約6,000万人の顧客基盤と、提携するマネーツリー社が有する約650万人分の家計データをAIによって分析・活用し、一人ひとりの顧客に最適化された提案を行う基盤を構築することにある。この膨大なデータはMUFGにとって最大の武器であり、これを活用することで資産運用、決済・カード、ローンといった各領域のサービスを強化し、グループ全体の総合力を一段階引き上げることを目指す。
この戦略の土台として必要不可欠とされるのが顧客による信頼である。この信頼度の高さこそがMUFGの最大の強みであり他社の追随を許さない武器である。過去5年間の個人預金額増加がメガバンク・ネット銀行中でトップクラスであり、個人の口座数、預金量は「断トツ」の93兆円で、2位に1.5倍差の30兆円ほどの差があるという実績がそれを物語っている。
■SMBCとの競争と求められる差別化戦略
国内金融機関は競ってDXを加速し、AI活用によるパーソナライズサービスが一般化している 。手数料の安さと高金利を背景に急成長したインターネットバンキングの利用率は高く、若年層ではスマホ経由が主流となっている。
そういった時代背景を反映し、他社に先駆けてSMBCグループがモバイル総合金融サービスOliveを2023年3月1日にスタートした。Oliveは店舗やPCではなく、スマホアプリでの取引を前提としており、大きな特徴としては、自分のお金に関わる情報がアプリで一元管理できる点にある。
また、SMBCグループとソフトバンク(PayPay)の提携は、PayPayアプリでの三井住友カード優遇、OliveとPayPay機能連携、ポイント相互交換を実現し、強力な経済圏を形成している 。QRコード決済市場はPayPayが首位を独走しており 、MUFGがこれに対抗する決済戦略をどう構築するかが大きな鍵となる。
両社の一番大きな特徴は、MUFGが「銀行機能中心型」のアプローチを志向している一方、SMBCは「非金融連携型=経済圏統合」に舵を切っている点でスタンスが分かれる。
MUFGの新サービスの一つに、ウェルスナビ社と共同開発する金融アドバイザリーサービス「Money Advisory Platform(MAP)」があり、これによりAIを活用しパーソナルな資産運用アドバイスを提供する 。
これは、単なる取引の利便性を超えた付加価値であり、特に資産形成層にとって強力な訴求力を持つ。この質の高いアドバイザリー機能は、他のデジタルバンクサービスとの明確な差別化要因となり、顧客獲得と長期的な関係構築に貢献するため、将来性が非常に期待される。
■MUFGの成功への道筋
成功には、約6,000万人の顧客基盤と膨大な預金量 、ブランド信頼と高度なセキュリティ、全国の店舗網と専門知識を持つ行員の存在、そして好調な財務基盤の活用が不可欠である。
「エムット」による質の高い顧客体験、AI・データ活用による真のパーソナライズ、デジタルバンクの安定的かつ魅力的なサービス提供、リアルとデジタルのシームレスな連携、グループ連携強化、強力な決済戦略が成功への大きな鍵となる。
潜在的課題は、伝統的企業文化からの脱却、先行企業との競争、全顧客層への新サービス浸透、システム開発・移行リスク、サイバーセキュリティ、金利変動リスク管理と収益機会最大化の両立があげられる。「顧客中心主義」の徹底と「やさしい金融サービス」の具現化が試されることとなる。
■MUFGのリテール変革の展望
MUFGの新リテール戦略とデジタルバンク構想は、大きな成功の可能性を秘めた野心的取り組みである。巨大な顧客基盤、ブランド力、最新技術への投資が大きな強みである。
しかし、強力な競合の存在や組織文化変革といった課題も多く、特にSMBC・PayPay連合のような決済アライアンスへの対抗策と、「エムット」が掲げる「やさしい金融サービス」の具現化が勝算を左右する。この変革は、伝統的メガバンクが持つ「規模と信頼」をデジタルの力で「個別化と利便性」へと転換する試みであり、その成否は顧客本位のサービス実行と組織全体の変革にかかっており、今後のMUFGから目が離せない。
投資の参考になりましたか?